むらかわ ゆたか
1958年生まれ、神奈川県出身。81年、防衛大学校（第25期）卒、海上自衛隊に入隊。2015年、海上幕僚副長、16年、第33代海上幕僚長に就任。19年、退官。NTTデータ特別参与。
1958年生まれ、神奈川県出身。81年、防衛大学校（第25期）卒、海上自衛隊に入隊。2015年、海上幕僚副長、16年、第33代海上幕僚長に就任。19年、退官。NTTデータ特別参与。
ふくえ ひろあき
1958年、長崎県生まれ。防大25期。航空幕僚監部補任課長、航空開発実験集団幕僚長、第2航空団司令、防衛監察本部監察官、空幕装備部長、西部航空方面隊司令官、航空幕僚副長、航空支援集団司令官を歴任、2015年、航空総隊司令官に就任。16年、退官。
1958年、長崎県生まれ。防大25期。航空幕僚監部補任課長、航空開発実験集団幕僚長、第2航空団司令、防衛監察本部監察官、空幕装備部長、西部航空方面隊司令官、航空幕僚副長、航空支援集団司令官を歴任、2015年、航空総隊司令官に就任。16年、退官。
ロシアの誤算
福江 我々全員、防衛大の同期（25期）です。
村川 懐かしい顔ぶれですね。
岡部 我々に求められているのは今回のウクライナ戦争の分析です。
村川 ええ、現時点では、ロシア軍の杜撰（ずさん）さとウクライナ軍の健闘が目立ちます。
岡部 ロシアは3方面の作戦を考えていたと思われます。北部からはキーウ占領とゼレンスキー政権の転覆。2～3日程度とみていました。東部はハルキウを1～2日で落とし、さらにドニエプル川まで一気に押し出す。南部はオデーサとマリウポリを10日程度で陥落させる。そうしたら、2週間くらいでドンバス地区を北と南から包囲して撃破できる。
いわゆる「外線作戦」です。これは強者の作戦で、圧倒的な戦力を要する。ところが、その作戦を実行するにはロシア軍の兵力があまりに少なすぎて戦術的妥当性に欠けます。ロシアはハイブリッド戦（政治的目的を達成するために軍事的脅迫と、それ以外のさまざまな手段、正規軍・非正規軍を組み合わせた戦争の手法）を前提とすれば、「ハイブリッド戦略に妥当性あり」、すなわちウクライナに対し圧倒的に凌駕できる（勝利を獲得できる）と確信していたのではないか。
村川 2014年のクリミア紛争では、ハイブリッド戦が大きな成果をもたらしました。
岡部 その成功体験が忘れられず、ロシア軍自身の過大評価とウクライナ軍・国民に対する過小評価につながったものだと思います。そして短期決戦を前提に侵攻した。
村川 ところが、頼みの綱だったハイブリッド戦が、米国等からの迅速な情報提供もあり思うように機能していません。加えて、ウクライナ側はクリミア紛争を教訓に、対応策を練っていた。たとえば、ウクライナには大手携帯会社が3社ありますが、周波数帯を拡大し、一つの携帯会社の基地局がダメになっても、すぐに別の携帯会社の回線を使って通じるようにしていたのです。しかも世界的なIT企業の協力も大きかった。
イーロン・マスク氏は自身が創業した宇宙開発企業スペースXによる衛星通信「スターリンク」を提供しています。ロシアによる侵攻の2日後、ウクライナのミハイル・フェドロフ副首相兼デジタル担当大臣がツイッターを通じて、マスク氏に「あなたが火星に植民地をつくろうとしている間、ロシアはウクライナを占領しようとしている」と救援を要請。マスク氏は「私はここにて、ウラジーミル・プーチン氏に決闘を挑む。懸けるのはウクライナだ」とツイートし、早速、ウクライナに「スターリンク」の基地局を大量に送り、ロシア軍の攻撃を受けている地域にネット接続環境を整えました。
ほかにもグーグルはウクライナ政府とウクライナ人開発者が協力して作成した空襲警報のアプリを展開。マイクロソフトはロシアからのサイバー攻撃から保護するため、ウクライナ政府やEU、欧州各国、米国政府、NATO、国連と連携し、情報提供など適切な処置がとれるようにしています。
福江 ウクライナは、2014年のクリミア併合におけるハイブリッド戦の教訓を踏まえて、国を挙げて情報戦対処の体制整備を図ったことがこれまで善戦している最大の要因と言えるのではないでしょうか。（続きは本誌にて！）
村川 懐かしい顔ぶれですね。
岡部 我々に求められているのは今回のウクライナ戦争の分析です。
村川 ええ、現時点では、ロシア軍の杜撰（ずさん）さとウクライナ軍の健闘が目立ちます。
岡部 ロシアは3方面の作戦を考えていたと思われます。北部からはキーウ占領とゼレンスキー政権の転覆。2～3日程度とみていました。東部はハルキウを1～2日で落とし、さらにドニエプル川まで一気に押し出す。南部はオデーサとマリウポリを10日程度で陥落させる。そうしたら、2週間くらいでドンバス地区を北と南から包囲して撃破できる。
いわゆる「外線作戦」です。これは強者の作戦で、圧倒的な戦力を要する。ところが、その作戦を実行するにはロシア軍の兵力があまりに少なすぎて戦術的妥当性に欠けます。ロシアはハイブリッド戦（政治的目的を達成するために軍事的脅迫と、それ以外のさまざまな手段、正規軍・非正規軍を組み合わせた戦争の手法）を前提とすれば、「ハイブリッド戦略に妥当性あり」、すなわちウクライナに対し圧倒的に凌駕できる（勝利を獲得できる）と確信していたのではないか。
村川 2014年のクリミア紛争では、ハイブリッド戦が大きな成果をもたらしました。
岡部 その成功体験が忘れられず、ロシア軍自身の過大評価とウクライナ軍・国民に対する過小評価につながったものだと思います。そして短期決戦を前提に侵攻した。
村川 ところが、頼みの綱だったハイブリッド戦が、米国等からの迅速な情報提供もあり思うように機能していません。加えて、ウクライナ側はクリミア紛争を教訓に、対応策を練っていた。たとえば、ウクライナには大手携帯会社が3社ありますが、周波数帯を拡大し、一つの携帯会社の基地局がダメになっても、すぐに別の携帯会社の回線を使って通じるようにしていたのです。しかも世界的なIT企業の協力も大きかった。
イーロン・マスク氏は自身が創業した宇宙開発企業スペースXによる衛星通信「スターリンク」を提供しています。ロシアによる侵攻の2日後、ウクライナのミハイル・フェドロフ副首相兼デジタル担当大臣がツイッターを通じて、マスク氏に「あなたが火星に植民地をつくろうとしている間、ロシアはウクライナを占領しようとしている」と救援を要請。マスク氏は「私はここにて、ウラジーミル・プーチン氏に決闘を挑む。懸けるのはウクライナだ」とツイートし、早速、ウクライナに「スターリンク」の基地局を大量に送り、ロシア軍の攻撃を受けている地域にネット接続環境を整えました。
ほかにもグーグルはウクライナ政府とウクライナ人開発者が協力して作成した空襲警報のアプリを展開。マイクロソフトはロシアからのサイバー攻撃から保護するため、ウクライナ政府やEU、欧州各国、米国政府、NATO、国連と連携し、情報提供など適切な処置がとれるようにしています。
福江 ウクライナは、2014年のクリミア併合におけるハイブリッド戦の教訓を踏まえて、国を挙げて情報戦対処の体制整備を図ったことがこれまで善戦している最大の要因と言えるのではないでしょうか。（続きは本誌にて！）
『WiLL』2022年7月特大号（5月26日発売！）
◎『WiLL』2022年7月特大号目次
岩田温：『秋篠宮』が示す慄然（りつぜん）と国難／セルギー・コルスンスキー・有本香・ナザレンコ・アンドリー（通訳）：駐日ウクライナ大使インタビュー ロシア軍は愚連隊／中村逸郎：暗殺狂プーチンの連続〝見せしめ殺人〟／
門田隆将・宮嶋茂樹：惨殺・強姦・略奪 ウクライナ激戦地の凄惨(せいさん) ／岡部俊哉（元陸上幕僚長）・村川豊（元海上幕僚長）・福江広明（元航空総隊司令官）：ロシア軍〝負け戦（いくさ）〟―これだけの理由／グレンコ・アンドリー：戦わなければ殺されるだけ／阿比留瑠比：「ロシア敗北」で動揺する習近平と金正恩／矢板明夫・西岡力：青ざめる独裁者たち 習近平 金正恩／髙山正之・朝香豊：米国頼み―核の傘は〝破れ傘〟
◎『WiLL』2022年7月特大号目次
岩田温：『秋篠宮』が示す慄然（りつぜん）と国難／セルギー・コルスンスキー・有本香・ナザレンコ・アンドリー（通訳）：駐日ウクライナ大使インタビュー ロシア軍は愚連隊／中村逸郎：暗殺狂プーチンの連続〝見せしめ殺人〟／
門田隆将・宮嶋茂樹：惨殺・強姦・略奪 ウクライナ激戦地の凄惨(せいさん) ／岡部俊哉（元陸上幕僚長）・村川豊（元海上幕僚長）・福江広明（元航空総隊司令官）：ロシア軍〝負け戦（いくさ）〟―これだけの理由／グレンコ・アンドリー：戦わなければ殺されるだけ／阿比留瑠比：「ロシア敗北」で動揺する習近平と金正恩／矢板明夫・西岡力：青ざめる独裁者たち 習近平 金正恩／髙山正之・朝香豊：米国頼み―核の傘は〝破れ傘〟
1959年生まれ、福岡県出身。81年、防衛大学校（第25期）卒、陸上自衛隊に入隊。2015年、第35代北部方面総監、16年、第35代陸上幕僚長。17年、退官。18年、国家安全保障局顧問。