「脱原発」という悲願

 日本でもやっと原子力発電所の再稼働の機運が醸成されつつある。世界一の原発大国であるアメリカ、新しい原発建設が進むイギリスをはじめとする各国で、原発の見直しが進んでいるのだ。ウクライナ戦争によるエネルギー危機もあり、電力を安定的に大量に供給でき、CO2を生まない原発に注目が集まっている。戦争状態にあるウクライナやロシアでも、原発は推進されている。原発による電力供給がいかに大事かということを物語っている。

 そんななか、まったく逆の道を歩もうとしているのがドイツである。
 ドイツは4月、残された3基の原発が稼働を停止、送電網から切り離された。これにより「脱原発」を実現したのだ。今後の課題となるのは電力の安定供給、とくに再生可能エネルギー依存の高まりである。
 ドイツでは「緑の党」が長きにわたり政権に食い込んでいる。緑の党は脱原発運動を組織結成の起源としており、環境問題に関心が高い左派政党。日本における立憲民主党のようなポジションといえばわかりやすいだろう。

 ドイツは日本と同じく、自動車産業を中心とする工業国である。電気供給の必要性は経済界を中心に幾度となく提起され、メルケル政権においても原発稼働を一定程度は認めようという空気が醸成されつつあった。そんな最中の2011年3月、不幸にも東日本大震災が発生してしまった。震災にともなう東京電力福島第1原子力発電所の事故を受け、「脱原発」の方針を打ち出したメルケル政権は直後の選挙に圧勝した。それ以来、ドイツは17基あった原発を段階的に停止してきた。

「脱原発」の期限は昨年末だったが、ウクライナに侵攻したロシアがドイツへの天然ガスの供給を大幅に削減。エネルギー危機への懸念が強まった。政府は稼働が続いていた最後の3基の原発を停止させる期限を今年4月15日まで延期していたのだ。
 果たして3基が稼働を終えて送電網から切り離されたことにより、「脱原発」は実現することになった。
gettyimages (13476)

「脱原発」を実現したドイツだが……(画像はイメージ)

代替は石炭火力

 ドイツと日本は国土面積がほぼ同じくらいで、自動車産業を中心とする製造業が経済を支えていることなど共通点が多い。国内総生産(GDP)は日本が世界第3位、ドイツが第4位だ。ドイツで何が起きているかを知れば、日本の電力政策のやるべきことがわかる。

 ドイツ最後の原発3基の設備量は、1日あたり約4.5ギガワット、ドイツの全発電量の約6%を供給していた。少なくとも4月15日以降、全電力供給の6%もの電力を定常的に他から調達する必要が出てきたのだ。そこでドイツは、フランスを中心とする周辺国からの電力輸入を大幅に増加させた。独ニュースDWNによれば、4月15日までドイツの電力輸入は全体の6%だったが、1日にして14%にまで跳ね上がってしまったのだ。1カ月前には1.3ギガワットだった電力輸入が、4月16日には6ギガワットとなっている。差し引き4.7ギガワットになるが、これは3基の原発の供給量(4.5ギガワット)とほぼ同じである。原発停止により失った電力供給をそのまま輸入に頼っているのが現状だ。

 原発3基分の電力を賄(まかな)うために必要なインフラは、CO2を大量に排出する石炭発電所しか用意されていない。シュトゥットガルト大学の最近の研究によると、3基の原発停止により年間1500万トンのCO2がさらに付加されることになったという。今回の原発停止でエネルギーの輸入が急増しているが、その主要輸入元であるフランスは、国内発電量の7割を原子力に頼っている。自分たちは原発を使わないといいながら、原発によって生まれたエネルギーを輸入し、国内ではCO2を大量に排出する石炭火力を活用するのだ。偽善にほかならない。

 緑の党は、電力供給を急場の凌(しの)ぎとして輸入や石炭発電に頼るというが、将来的には太陽光や風力などの再生可能エネルギーにより電力を賄うつもりでいる。
 しかし、メガソーラーを含む太陽光発電は、曇の日、雨の日、雪の日に発電することができず、電力の安定供給という観点から非常に危険である。電気がなければ病院も稼働できない。産業もすべて止まる。

 予備電源として石炭火力などで危機を乗り越えることになるが、そういった予備電源施設は設備投資がされない。発電所は老朽化が進み、CO2を多く排出する有害なものになってしまうだろう。電力供給を太陽光に頼るのは、電気を大量に蓄電できる技術が確立してから論じても遅くはない。現段階では時期尚早といわざるを得ない。日本でも、電力供給が足りなくなる夕食時に、太陽光発電のインセンティブ(買い取り値段)を高く設定すれば供給が増えるなどと虚言(きょげん)を吐く研究者がいたが、太陽にいくらお金を渡しても、夜になれば沈んでしまう。発電量が増えることはない。
gettyimages (13477)

発電の太陽光パネル。発電量には限界がある

ドイツは反面教師

 風力発電はどうだろうか。太陽光と同じく、ヨーロッパでは政策的に強烈な追い風が吹いている。にもかかわらず、赤信号が灯っているのが現状だ。ヨーロッパの政治家たちは風力発電を大々的に推進するだけでなく、石炭、ガス、原子力といった競合他社に大きな圧力をかけている。4月24日、ベルギーのオステンドで「第2回北海サミット」が開催された。そこでは、九カ国の首脳が北海の洋上風力発電容量を現在の25ギガワットから2050年までに少なくとも300ギガワットに引き上げることを約束した。これにより3億世帯にエネルギーを供給できるという。

 しかし、欧米の4大風力発電機メーカー(GEリニューアブル・エナジー、ノルデックス、シーメンス・ガメサ、ヴェスタス)は昨年、50億ユーロ近い純損失を計上した。彼らは「中国以外の市場の約90%を供給している」(ドイツ経済新聞、5月20日)が、他エネルギーや中国メーカーに対抗するために、より大きなタービンを建設しなければならない。莫大な設備投資が損失につながっているという。大きなタービンをつくればつくるほど、建設許可を得ることが困難となり維持費も嵩んでいく。結局、国に援助を頼ることになるが、風の流れは太陽光と同じく、都合よく操ることはできない。実際に2021年、ヨーロッパでは風が吹かずに石炭・天然ガスによる発電に頼ることとなった。

 地球温暖化によって異常気象が各地で頻発するなか、電力供給が太陽や風などの「お天気頼り」というのは心もとない。
 太陽光発電と風力発電の設備や運用システムは、安価な中国製品が世界市場を席巻しつつある。日本でも国内大手企業が巨大風力発電プロジェクトを落札したが、フタを開ければ主要部品が中国製で占められているという事態が発生してしまった。
 日本市場から中国製品すべてを締め出せというのは現実的に難しい。中国が同じことをすれば、日本製品が締め出されて日本企業が困ってしまう。しかし、日本の安全保障に関わる部分については中国製品への依存は危険である。日本の中央官庁が中国に本拠地を置く会社のシステムを採用することには、断固反対する。エネルギー分野においても慎重な判断が必要だろう。有事に中国の嫌がらせを受けて、日本の電力供給がストップしてしまってはいけないのだ。

 ドイツの進んでいる道は、国内の石炭火力に頼り、フランスの原発に頼り、将来がどうなるか覚束ない風力発電に希望を託しているような状況である。これからリニア新幹線も走り、IT分野のイノベーションでは大量の電力が必要となる。日本はドイツになってはいけない。今こそ原発を安全に動かそうではないか。
おぐら けんいち
1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社に入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長に就任(2020年1月)。21年7年に独立。現在に至る。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く