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【杉山大志】中国CO2排出は増大する―日本のCO2削減目標は危険だ

中国:CO2排出削減のまやかし

 中国の第14次5カ年計画の長期目標概要草案が3月5日に発表された(原文)。

 その中でCO2排出量についての目標があった。それは2025年までの5年間で18%だけGDPあたりのCO2排出量を削減する、というもの。しかし、「GDPあたりの削減」なので、中国の経済成長が年率5%とすると、実際は2025年の排出量は2020年に比べて10%増大する、ということになる。

 そして、現時点で中国は日本の約10倍の排出量があるから、

 「これから5年間で、日本の総排出量に匹敵する量だけ増大する!」

 という訳だ。図示すると以下のようになる。
CO2等の排出量 日中比較

CO2等の排出量 日中比較

※データは世界資源研究所(WRI)による。

 図中で2020年の数値はWRIの最新情報に基づくもの。CO2「等」としているのは、CO2にメタン等を加えた温室効果ガス全体の意味である。

 中国の排出量は2020年に124億トンだったものが2025年には136億トンになる。この増分は12.4億トンで、日本の現在の年間排出量である11.9億トンよりも多い! 

米国「梯子はずし」の恐れ

 さて米国では温暖化対策に熱心なバイデン政権が誕生し、早速4月22日に気候サミットを主催することになった。同サミットに前後してバイデン政権は野心的なCO2削減目標を発表すると憶測されている。オバマ政権がパリ協定合意時に提出した数値目標は2005年を基準として2025年までに26%ないし28%の削減というものだったが、これをさらに深堀りする、というものだ。

 日本でも、これに合わせて数値目標を深堀りしようという意見がある。いつもそうだが、日本は米国と横並びだ。1997年に京都議定書に合意した時は米国より1%だけ少ない6%、2015年にパリ協定に合意した時は米国と全く同じ26%だった

 これからバイデン政権がどのような数字を言うか分からない。だが何れにせよ、安易に追随するのは極めて危険だ。というのは、バイデン政権が野心的な数字を言っても、議会の支持を得られず、空約束になる可能性が高いからだ。

 これには前例がある。京都合意のときも、パリ合意のときも、米国の民主党政権は数値目標に合意したが、離脱した。京都合意の時は議会の支持が得られなかった。パリ協定の時は政権交代で離脱した。民主党政権に歩調を合わせた日本は、2度も梯子を外された。

 以前にも増して今回はさらに注意が必要なのは、米国の対中感情が京都合意やパリ合意の時とは全く変わり、超党派で、共和党も民主党も、すべからく反中になったことだ。

日本は数値目標より国益を追え

gettyimages (5243)

国益を一番に考えてほしい…
 このため、中国が排出量を増やし続けている中で米国だけが一方的に目標を深堀りすると言っても、議会の支持が得られるとは思えない。議会の支持が得られないということは、税や規制などの法律は通らず、温暖化対策は進まない。

 もともと温暖化は米国内では党派問題である。議会の半分を占める共和党は温暖化問題を重要課題と考えておらず、コストのかかる対策には反対する。

 のみならず、米国は化石燃料大国である。世界一の産油国であり、世界一のガス採掘技術を擁しており、世界一の石炭埋蔵量を誇る。

 化石燃料産業は多くの雇用を抱えており、民主党議員であっても自分の州の産業保護のためには造反し、共和党議員と共に温暖化対策に反対票を投じる。このため温暖化対策の法案は過半数の支持を得られない。

 バイデン政権が議会を無視して野心的な数値目標を出した場合、日本は要注意である。歩調を合わせて日本も深堀りすると、またもや梯子を外されることになるだろう。

 そもそも、中国が排出量を莫大に増やすのに、日本が経済を痛めつけて排出量を減らすこと自体、愚かしい。 

 今は浮ついて数値目標の深堀りをする時ではない。冷静に国益を守るべき時だ。
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杉山 大志(すぎやま たいし/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。
国連気候変動政府間パネル(IPCC)、産業構造審議会、省エネ基準部会等の委員を歴任。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書『地球温暖化のファクトフルネスを発売中。電子版99円、書籍版2228円。

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