肝心の大国が不参加だったCOP26「地球を救う国際宣言」

肝心の大国が不参加だったCOP26「地球を救う国際宣言」

中国のみならず、米印も参加しなかった「石炭の終焉」宣言

 英国は190の国と組織が石炭の使用を廃止することを約束したと発表し、自らのリーダーシップで「石炭の終焉が見えてきた」と宣言した。

 しかしこの発表は、ずいぶん誇張されている。発表は印象的だが、じつは署名した国の数は45カ国に過ぎない。しかも、米国、中国、インド、ロシアが含まれていない。つまり石炭大国はどこも入っていない。ちなみに日本も入っていない。世界の石炭消費量の8割を占める国々が入っていないのだ。
石炭の消費量の比率。中国、米国、インド、日本、およびそ...

石炭の消費量の比率。中国、米国、インド、日本、およびその他世界。

via 著者提供
 また宣言の文言を見ると、先進国では2030年までに、途上国では2040年までに石炭火力発電を廃止すると一応なっているが、どちらも「またはその後可能な限り早く」と但し書きがあって腰砕けになっている。

 ちなみに韓国は「脱石炭」共同声明に署名したが、政府は「脱石炭加速化という方向性に同意したのであって、合意事項にすべて従うというわけではない」などと説明して、混乱を招いている。

 韓国は現在、新規石炭火力発電所を7基も建設中だ。国内からも「新規発電所に関する具体的な代案なしに国際会議で脱石炭時期を大幅に操り上げる宣言に参加したのは一貫性がない」と批判されている。

"自動車排出ゼロ宣言"と"世界メタン誓約"

 英国政府が主導して、2040年までに新車の排出ガスをゼロにするという宣言も発表された。電気自動車の導入を念頭に置いたものだ。

 ダイムラー、フォード、ゼネラルモーターズ、中国のBYDなどのメーカーが署名した。これは世界の自動車の4分の1をカバーしている。またカナダ、チリなどの政府が署名した。

 しかし、世界5大自動車メーカーのうち4社(フォルクスワーゲン、トヨタ、ルノー・日産アライアンス、現代・起亜)は署名していない

 自動車大国である中国、米国、ドイツ、そして日本も参加しなかった。

 米国の参加はカリフォルニア、ニューヨーク、ワシントンなどの州や、ダラス、チャールストン、アトランタ、シアトルなどの都市に留まった。
肝心の大国が不参加だったCOP26「地球を救う国際宣言」

肝心の大国が不参加だったCOP26「地球を救う国際宣言」

大自動車メーカーも軒並み不参加
 メタンはCO2に次いで地球の気温を上げる温室効果が大きい。

 そこで、バイデン大統領とフォン・デル・ライエン欧州委員会委員長は、米国・EU共同で、「世界メタン誓約」を発表した。その内容は、100以上の国が2030年までに世界のメタン排出量を30%削減することを約束したものだ。

 しかし、メタンの排出量が1位の中国、2位インド、3位ロシアはいずれも署名していない。ちなみに日本は排出量37位であり、このメタン誓約には署名している。

 世界全体で見ると、メタンは牛や羊の酪農、廃棄物の埋め立て、化石燃料供給網から多く発生する。日本では牛や羊の酪農は欧米に比べて盛んではないし、廃棄物は埋め立てずに焼却するし、化石燃料はそもそも産出しないので、メタンに関しては優等生になっている。

 だから、この枠組みは積極的に利用して、日本のゴミ行政をアピールすると共に、海外に廃棄物焼却技術を売ってゆくと良いかもしれない。日本で発達しているサーマルリサイクルへの理解促進にもなりそうだ。

グリーン金融と森林保全は誇大広告

 450社以上の金融機関がGlasgow Financial Alliance for Net Zero (GFANZ)に署名し、2050年までに炭素排出量を実質ゼロにすると発表した。これらの金融機関は総額130兆ドルの資産を持つという。前イングランド銀行総裁のマーク・カーニーは、分水嶺となる瞬間だと宣言した。リシ・スナク財務大臣もこれに同意した。

 しかし、フィナンシャル・タイムズ紙は130兆ドルという数字が大きすぎると疑問を呈した。世界の株式市場の時価総額ですら120兆ドルに過ぎない。銀行やファンドの総資産を単純に足したようだが、貸出の連鎖で多重に計上しているとみられる。

 宣言の内容に懐疑的な見方もある。時価総額が巨額だからといって、この資金が世界をグリーンにするために投資されると約束した訳でもない
肝心の大国が不参加だったCOP26「地球を救う国際宣言」

肝心の大国が不参加だったCOP26「地球を救う国際宣言」

成果を強調したいのはわかるが…
 英国ボリス・ジョンソン首相は、110カ国という「かつてないほど多くのリーダーたち」が、2030年までに森林破壊を終わらせるという「画期的な」約束をしたと発表した。

 しかし、これは「画期的」ではない。2014年に採択された「森林に関するニューヨーク宣言」でも、同様の誓約がなされた。

 これはニューヨークで開催された国連気候サミットで、150の政府、企業、その他の組織が参加して採択されたものだ。

 この協定では、2020年までに森林破壊を半減させ、2030年までに森林破壊を終わらせる、と約束した。しかし、2019年に発表された公式報告書では、このニューヨーク宣言は失敗であり、森林破壊は「実際には加速した」となっていた。(解説記事

 今回こそうまく行くにこしたことはないが、ジョンソン首相の宣伝が大げさすぎたのは確かなようだ。
杉山 大志(すぎやま たいし/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書に『脱炭素は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『地球温暖化のファクトフルネス』『脱炭素のファクトフルネス』(共にアマゾン他)等。

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