奈良林直:小泉大臣!この再エネ施策では到底「メダル」は...

奈良林直:小泉大臣!この再エネ施策では到底「メダル」は無理です(前編)

現状のエネルギー基本計画では「金」はおろか銀メダルも無理

 米国は4月18日、米中高官級協議を経て、米中両国が国際的な地球温暖化対策に加わり、気候変動パリ協定の目標達成に取り組む共同声明を発表した。中国を温暖化対策の仲間に引き入れ、世界最大の温室効果ガス排出国である中国の太陽光・風力発電設備、石炭火力発電所輸出などによる「独り勝ち」を防ぐ戦略である。

 10月26日、菅義偉首相は所信表明演説で、「2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする脱炭素社会の実現を目指す」と宣言したが、そのあとで、トンデモないことが起きた。米バイデン大統領主催の4月22日の気候変動サミットのオンライン出席を前に、2030年の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減する方針を表明したのだ。小泉環境大臣は、「46%という数字が浮かんだ」と表明しているが、十分な検討なしに、梶山経済産業大臣の管轄にある、エネルギー基本計画の根幹の数値を発言してしまったのだ。この件は、さすがにメディアでもで酷評されている。

 政府が見直しを進めているエネルギー基本計画の原案とはどのようなものか。その骨子は2030年度の総発電量に占める太陽光や風力など再生可能エネルギーの比率を、現在の計画の22~24%から36~38%に高める、という点にある。原子力については「安全性の確保を大前提に、20~22%を維持し、重要なベースロード(基幹)電源」と位置づけているが、新増設や建て替えは明記していない。8月20日と21日付の毎日新聞「再考エネルギー(上)、(下)」の記事では、小泉・河野の2閣僚が、菅総理に直訴して、自民党の多くの議員(安倍元総理、甘利氏など)や基本政策分科会の多くの委員、経済界などの原発活用の現実論をことごとく潰し、「再エネ最優先」の文字を入れてしまった経緯をかなり克明に、実名で報じている。

 政府はこの原案を元に、第6次エネルギー基本計画案を公表し、意見公募を経て今年秋をめどに新計画を閣議決定する予定とのことであるが、この経緯を見る限り、第6次エネルギー基本計画は積み上げた数値の根拠もなく、強引に「再エネ最優先」にされた「画餅計画」になってしまうと予想される。11月には英国でCOP26が開催されるので、それを意識した日程で、9月の総裁選前には閣議決定される可能性があり、筆者を含む大勢の識者・経済界が大きな危機感を持っている。

 この第6次エネルギー基本計画は、小泉環境大臣が世界に向けてPRしたように「再エネ金メダル」を取るために策定された計画になっていることを「売り」にしているようだが、原子力のリプレースも新増設も最新型炉の建設にも触れていない、およそ現実離れした亡国のエネルギー基本計画になっている。国際公約にしてしまって、達成できなかったら我が国の世界の恥だ。なぜなら、この基本計画では、どう考えても、金メダルも銀メダルも無理だからだ。

再生可能エネルギーの幻想

 現在、国際的に再生可能エネルギー(再エネ)が礼賛され、世界中が再エネで電力の全てをまかなえるかのような錯覚に陥っている。これは大きな間違いである。まず、太陽光で発電できるのは、1日のうち約6時間、24時間のうちの25%しかない。我が国の晴天確率は、地域差はあるものの約50%である。つまり太陽光発電の稼働率(正確には設備利用率)は、25%の半分の高々13%しかない(図1)。
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 残りの時間帯は、水力発電所と火力発電所が電気を供給している。だから、太陽光の比率が13%を超えると、巨大バッテリなどの蓄電・蓄エネが必要となり、太い送電線を設置しなければならなくなるのだ(図2)。
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 送電線を柏崎から東京に引くと1.2兆円ものコストがかかる。北海道から九州まで、再エネのだめに送電線を敷設し直したら、それこそ何十兆円のコストが必要となる。太陽光のコストは、これらの設備を設置しなければならなので、当然ながらコストが急上昇を始める。現在、全国各地のメガソーラでは、発電のピークの11時から13時あたりの発電をカットして設備利用率を最大16%くらいに上げているが、すでにピーク部分で損失が発生しているのだ。
 我が国の太陽光パネルは2020年度に原発67基相当の巨大発電設備となったが、年間の発電シェアは8.5%しかない。また、電気の消費者が毎月の電気代に加えて払っている再エネ発電促進賦課金から、事業用の太陽光発電の契約期間である20年間で総額60兆円が太陽光発電会社に支払われる見込みである。その上で仮に水力とバイオマス(木材、パーム油など)で20%、変動再エネで80%の電力を供給すると仮定すると、今の10倍の600兆円が必要となる。更に余剰な昼間の電力を蓄える設備が必要で、これにも別に400兆円かかる。つまり、計千兆円規模の投資が必要で、日本の国家予算の10年分に相当する。このような高額投資はかなり困難だから、「安全性最優先で原子力を使う」という政策にならざるを得ない。

 そして車も電気自動車か水素を使う燃料電池車とし、製鉄も電炉とコークスの代わりに水素を使う製鉄にして、初めてCO2の排出ゼロが実現する。いかに大変な努力が必要かがわかるであろう。

効果が薄く、危険な「太陽光頼み」

 図3は、2020年の太陽光設備容量の国別の世界ランキングである。
図3 太陽光設備容量の国別世界ランキング(上位5カ国)

図3 太陽光設備容量の国別世界ランキング(上位5カ国)

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 1位は中国の254ギガワット(1ギガワット(GW)=100万kW)で、100万kWの原発254基相当の膨大な容量である。1年間で49GWも増えている。2位が米国の74GWで、1年で11GW増えた。

 3位が日本での67GW。1年で5GW。日本の人口は中国の10分の1なので、1人あたりの増加量でみれば、中国と肩を並べる。一方、国土面積当たりで見ると、我が国は1平方km当たり、177kWでダントツの1位。米国の8倍、中国の実に26倍である。

 後で述べるが平地での設置はすでに限界に近く、山間部の山の斜面の木を伐採して設置されている場所では、土石流の原因にもなりかねない杜撰な設置も多数ある。美しい緑の里山が黒くギラギラした太陽光で覆われ、環境破壊と近隣の住民に太陽光パネルの反射光による公害をもたらしている。土石流だけでなく、近隣では日中の室温が50℃以上になって、住めなくなったという事例もあるという。
 図4は、二酸化炭素排出係数の国別世界ランキングである。1kWh(1キロワット時)の電気を得るのに何gのCO2を排出したかを算出したものである。各国の年間発電量の統計値を、同じく各国のCO2の排出量での統計値で除して得たものだ。
図4 二酸化炭素排出係数の国別世界ランキング

図4 二酸化炭素排出係数の国別世界ランキング

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 このグラフで一目瞭然なのは、図3の太陽光発電大国が、CO2の排出係数では、世界的には劣等国であることだ。ということは、過去10年以上にわたり熾烈な太陽光導入を行ってきたのに、CO2の排出削減には、ほとんど効き目が無いことが分かる。この理由は図1の太陽光発電の設備利用率が余りにも低いためだ。

 一方、ランキングの上位の国は、1位がノルウェーで、水力発電がほぼ100%の国。スイスは、水力と原子力が半々で、火力は2%弱。スウェーデンも原子力と水力、フランスは原子力が74%であとは水力。つまり、CO2を効果的に減らすには水力と原発が最も効果的であることを10年間の巨大な世界的な実証試験として証明されたことになる。イギリスやデンマーク、ドイツは風力発電にも熱心だが、2030年の目標値には程遠い。この現実をしっかり見据えなくてはならない。小泉進次郎大臣のポエムでは、金メダルも銀メダルも無理なのだ。

「ドイツ礼賛」に騙されるな

 図4で示した二酸化炭素が減らない原因を電源構成で分析してみる。気象によって大きく電気出力が変動する太陽光発電と風力発電は、その変動の吸収(バックアップ)を火力発電所で行っているからだ。我が国の電源構成を示す図5を見てほしい。
図5 我が国の電源構成(2020年)  

図5 我が国の電源構成(2020年)  

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 我が国の火力発電の比率(シェア)は74%である。2016年が83.8%であったのが、90兆円注ぎ込んで5%しか減っていない。つまり、太陽光発電が安定して運転しているのは、俊敏に電気出力を増減できる火力発電所のおかげなのである。

 2020年度の原子力のシェアは前年度の6.2%に比べ、約2%も減少してしまった。これは原子力規制委員会の更田委員長が、原子力発電所の特定重大事故対処施設(特重設)の工事遅延を理由に、9基再稼働した原発を順次運転停止に追い込んでしまったからだ。我が国は2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、実質的に「脱原発」政策を実行した。50基あった原発は現在9基しか稼働していない。

 原子力規制委員会の規制は、結果として世界への二酸化炭素排出を増加させてしまった。新規制基準をクリアして、安全性を最優先して再稼働したのだから、特重設による運転停止は、地球環境面では、有害無益であったのだ。このような日本の原子力政策に対し、米国の原子力規制委員会(NRC)は、国民への経済的損失を最小にするように、リスクの高いものから順に安全対策を進める政策をとっている。日米の規制委員会の差は大きい。

 しつこいようだが、国民が電力料金の一部として支払っている再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)などから太陽光発電に90兆円が投資されるが、発電量百万kW(キロワット)の原発67基分に相当する67GW(ギガワット)の太陽光パネルを世界一の密度で日本全土に敷き詰めたのに、我が国のCO2排出量は実質4%しか減っていないのだ。仮に日本中の家の屋根に太陽光パネルの設置を義務付けても、新築以外は設置工事が困難なため、焼け石に水であろう。
 そして、図6はドイツの電源構成である。
図6ドイツの電源構成(多量の石炭使用)(2019年)

図6ドイツの電源構成(多量の石炭使用)(2019年)

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 ドイツは石炭の露天掘りができるほど石炭資源に恵まれていて、石炭の火力発電比率が高い国であった。その後、ロシアから天然ガスを輸入して天然ガスの比率が14.9%まで上昇しているが、CO2の排出は石炭火力から一部天然ガスに変わったところで、CO2を排出する電源であることには変わりない。再エネの合計が40%になったが、45.7%が火力発電だから、CO2排出係数では日本と大差がない。

 多くの国民は、ドイツを再エネ先進国と錯覚して礼賛しているが、実情は日本とさほど変わらないということだ。ドイツでは電気自動車が普及しているが、火力発電の電気を半分使用しているので、電気自動車でもCO2を排出する。おまけに再エネの切り札の1つとされるバイオマスも8%という高い比率を示しているが、このエネルギーはインドネシアやマレーシアなどの熱帯雨林を伐採した木材チップの輸入によって成り立っていることから、別種の問題を抱えているのだ(図7)。
図7 ボルネオ島の熱帯雨林を伐採して進む油椰子の畑

図7 ボルネオ島の熱帯雨林を伐採して進む油椰子の畑

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 すなわち、バイオマスの比率アップと引き換えに、膨大な熱帯雨林を伐採する環境破壊を行っているということだ。その熱帯雨林の伐採によりオラウータンなどの多様な生物の住処が破壊され、伐採後の森林は火が放たれ、灰燼となっている。その後に植えられているのが、油椰子(パーム)の木である。このような事情から、バイオマス発電所への反対運動は日本でも起こっている。

第6次エネルギー基本計画の矛盾

 第6次エネルギー基本計画の原案では、2030年度の総発電量を9340億キロ・ワット時程度と推定している。この数字は工場やオフィスビルなどで省エネが進むという理由から、2018年に公表した現在の計画より約1割減らしたものだが、今後急速に普及するとされる電気自動車や産業界の熱源の電化が考慮されていないと思われる。

 そのような前提にもかかわらず、再生エネは、「主力電源として最大限の導入を促す」と明記し、約3310億(総発電量の35%)~約3500億キロ・ワット時(同37%)の導入目標を掲げている。特に、洋上風力は大量導入が可能で、関連企業の裾野も広いため、再生エネの主力電源化に向けた切り札と位置づけられた。ちなみに、現在我が国では水力が7.7%、バイオマスが2.8%、地熱が0.2%あり、太陽光は8.6%、風力は0.8%しかない。
 そこで、太陽光と風力を除く再エネ比率を11%と仮定すると、太陽光と風力で少なくとも24%の電源を上積みする必要がある。前述の通り、現在太陽光の設備容量は、100万kWの原発67基分の67ギガワットで8.6%の電力を供給しており、これに対して全量買取制度で約90兆円の費用を投じている。政府は更に太陽光を22ギガワット増加するとしているので、太陽光の増加分は約3%、合わせて太陽光のシェアは11.5%となり、膨大なバッテリーや送電線の増強が必要になる13%の上限に近づく。

 なお、太陽光は専門的には「非同期電源」と呼ばれ、送電線に接続された蒸気タービンと発電機が一斉に同じ回転数、同じ位相角(一回転する角度までまるで時計の針のように同一)で回転する同期電源ではないため、太陽光発電の比率が高まると、大停電のリスクが非常に高くなる。胆振東部地震に端を発した北海道大停電が典型的な例で、太陽光の出力はゼロ(午前3時だったので)、風力発電の風車は回転していたが、インバータが入っている非同期電源であったため、周波数の低下により、一斉に系統から離脱してしまったのだ。
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景観を損なう上に安易な設置が危険な太陽光発電設備
 11%が太陽光だとすると、のこりは21%を風力発電に頼ることになる。ちなみに、現在我が国の風力発電の現在の総発電量のシェアは0.8%しかない。さらに、福島県の沖合に設置された5000kWの大型風車は、採算が採れないとして、21年度に解体撤去することが決まっている。今後、政府は風力発電に力を入れると言うが、600億円を投じた上記の福島県沖の大型風力発電所は撤去されるのだ。これはメーカーの三菱重工の製品性能が低かったからではなく、強い風が吹かないためで、日本のほとんどの地域でこの事情は変わらない。

 かろうじて北海道の日本海沿岸では風力発電に適した強い風の吹くが、ここも風の強さや強い風の吹く時間は英国やデンマークの半分程度だ。「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクト(案)が2021年6月に資源エネルギー庁から公開されたが、プロジェクトの研究開発の成否も見極めないで、第6次エネルギー基本計画で見切り発車している。国家の基本となるエネルギー政策を実績も無いのに推進するのは、余りにも無謀にすぎると思われてならない。
図8 撤去される福島沖の洋上風力

図8 撤去される福島沖の洋上風力

採算が取れないことを理由に、2021年度に解体撤去が決まっている
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図9 我が国の洋上風力の適地(風況マップ)

図9 我が国の洋上風力の適地(風況マップ)

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 地域性の問題に加えて、我が国で風力発電を多量に導入する場合、技術的にも大きな課題がある。沖合に浮体式の洋上風力を設置した場合に、風車から海底まで(距離約1500m)をつなぐ送電ケーブルの技術的な目処が立っていないことだ。ケーブルに浮力を持たせたダイナミックケーブルなどの案(図10)もあるが、強い海流に晒され、漁船の操業にも影響する。さらに、日本の南北を貫く基幹送電線の増設が必要になる。長距離の送電に直流送電が必要とされる。これらの技術的実績も、必要なコストもはじかれていない。
図10 洋上風力の弱点、ダイナミックケーブルの技術的成立性

図10 洋上風力の弱点、ダイナミックケーブルの技術的成立性

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再エネの主力電源化に伴う膨大な費用を忘れるな

 7月12日にマスコミ各社が2030年時点での発電コストは太陽光が原子力発電よりも安くなるとの試算を公表した。

 7月13日に第二衆議院会館で開催された「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原リプレース推進議員連盟」の役員会に出席したが、「太陽光発電は天候による発電量の変動が大きく、実際にはバックアップのために火力発電を確保する必要があり、その費用は計算に含まれていません―など、最後の2行くらいにしか問題点が記載されていない。このニュースの情報の出し方が問題だ」と議連の最高顧問である細田博之衆議院議員から、資源エネルギー庁に対して厳しい指摘がなされた。

 筆者も、「太陽光や風力の変動を吸収するには、多量の蓄電池や水素製造などが必要となり、変動する再エネのピーク出力に応じた送電網が必要となり、鉱物資源も膨大に必要となる。資源もエネルギーも十分に検討してそれらのコストに反映していないのに、資源エネルギー庁と言えるか」との注文を付けた。

再エネの推進が「中国支配」を招くワケ

 国際エネルギー機関(IEA)は5月、地球温暖化対策のため再生可能エネルギーを推進する場合に、風力発電や電気自動車、蓄電池に必要な鉱物資源の量が膨大に増え、環境破壊なども問題になるとの報告書を発表した。これを基に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが同月11日付で、バイデン米大統領が数兆ドルを注ぎ込もうとしているエネルギー転換政策は「それほどクリーンではない」と批判している。

 「クリーンエネルギーへの移行における重要鉱物資源の役割」と題するIEA報告書には、クリーンエネルギー移行に伴う鉱物資源の必要量のグラフ(図11)が示されている。
 図11 クリーンエネルギー移行に伴う鉱物資源の必要量...

 図11 クリーンエネルギー移行に伴う鉱物資源の必要量(2020年を1とした倍率)

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 2020年を1とすると、今後、バッテリーに必要なリチウム資源の年間必要量は42倍、黒鉛は25倍、コバルトは21倍、ニッケルは19倍、そして小型でトルクの大きいモーターや発電機に必要な強力マグネットに必要なレアアース(たとえばネオジウムやサマリウムなど)は7倍となる。レアアースを含む鉱石を製錬して金属にしたものがレアメタルで、蛍光管や電子回路、レーザー発振管、超伝導コイルなどのハイテク部品などにも必須な資源である。
 国家基本問題研究所の「エネルギー問題研究会」でのまとめによると、以下のポイントが抽出された。

 ①風力発電の発電機や電気自動車のモーターには強力な永久磁石が必要で、それにはネオジウムなどのレアース(希土類)が欠かせない。しかし、レアアースの供給量の90%は中国に支配されている。

 ②電気自動車にはリチウムイオン電池などの蓄電池が必要である。また、太陽光・風力発電は出力が気象により不規則に変動するので、蓄電池を使って電力を大量に蓄えて安定化する必要がある。蓄電池材料として、リチウム、コバルト、ニッケルが最重要かつ不可欠。特に今後、世界の需要が42倍に急増するリチウムの生産では中国が80%の圧倒的シェアを持つ。同じく21倍必要となるコバルトは採掘分野で中国の影響力が大きいコンゴ民主共和国がシェアの70%を占め、精錬分野でも中国が70%を占める。ニッケルは採掘分野で中国が投資したインドネシアが第1位で35%程度のシェアを占め、精錬分野では中国が35%のシェアで1位である。このように重要鉱物資源において中国の存在感は圧倒的である。

 ③鉱物資源の採掘・精錬時に発生する環境汚染が増大する。また、世界的に不足している水資源を精錬過程で大量に必要とし、膨大な労働力確保のためコンゴでは児童雇用などの社会的問題を生んでいる。

原発の活用がカギだ

 国基研では、このIEA報告書に関連して、①鉱物資源を従来の世界生産量の数十倍確保できるのか②再エネを推進すると、使用済み製品の廃棄によっても環境が深刻に汚染される懸念があるのではないか③コンゴの児童雇用だけでなく、中国当局によるウイグル人の強制労働が再エネ製品製造に利用されており、これを許して良いのか―といった議論があった。米国は、太陽光パネルの中国からの輸入を禁止した。日本はどうするのか?

 水資源に関して言えば、我が国の湖周辺の土地が中国資本に買いまくられている。中国は精錬に必要な水を持ち出そうとしている可能性もあり、このままでは日本は、太陽光パネル、風力発電、蓄電池、電気自動車、原発の分野で圧倒的シェアを持つ中国製品の輸入国に陥る。これらの製品はかつて日本が世界一の技術力を誇っていたにもかかわらずだ。

 2020年の世界のプラグインハイブリッドを含む電気自動車生産台数で、日本のメーカーは全てベスト10圏外に落ち、中国が急伸している。我が国が競争力を回復するには、安定で低廉な電気が必要である。我が国が鉱物資源の制約と環境汚染を回避するには、何度も言うようだが「原発のリプレース・新増設」が最も効果的だ。
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日本のお家芸である「自動車」で中国の後塵を拝することになるのか―
 日本商工会議所の三村昭夫会頭も、安全性が確認された原発の着実な再稼働や新設・増設を政治家の強いリーダーシップで実現しなければならないと主張しているし、経団連の中西宏明会長(故人)も、同様であった。国基研も4月12日、「脱炭素の答えは原発活用だ」と題する政策提言を発表した。

 現在、1kWh(キロワット時)当たりのCO2排出量が低い国のランキングで上位を占めるのは、ノルウェー、スウェーデン、スイス、フランスなど、水力発電と原発を主要な電力源とする国々だ。日本では、原子力規制委員会が審査中の全ての原発の再稼働することでCO2を20%削減できる。さらに、将来的に電力需要の少なくとも35%を原発が担うとして、それに必要な原発24基の新増設や新型炉へのリプレースに推定34兆円かかるとしても、再エネへの投資に比べて費用対効果ははるかに大きい。

 2050年までのカーボンニュートラルを確実に達成できるのは、原子力発電がカギで、適度な再エネとのベストミックスによって達成できる。我が国の目標は、ドイツではなくて、フランスと考えるべきであろう。

~「後編」に続きます~
奈良林 直 (ならばやし ただし)
1952年、東京都生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科原子核工学修士課程修了。東芝に入社し原子力の安全性に関する研究に携わる。91年、工学博士。同社原子力技術研究所主査、電力・産業システム技術開発センター主幹を経て、2005年、北海道大学大学院工学研究科助教授に就任。16年から名誉教授。2018年4月より東京工業大学特任教授。2018年1月、国際原子力機関(IAEA)、米国原子力規制委員会(NRC)などの専門家が参加する世界職業被曝情報システムの北米シンポジウムで『この1年に世界で最も傑出した教授賞』を受賞。

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