【石川和男】菅政権に原発フル稼働を期待する

【石川和男】菅政権に原発フル稼働を期待する

35カ国中、34位

 安全保障の視点は、外交・防衛だけでなくエネルギー政策を語るうえでも欠かせません。エネルギー供給を他国に頼っていては、いざというとき国民生活や経済活動がストップするリスクがある。自国で電源を確保できる割合「エネルギー自給率」を高めることは国家の最重要課題といえるでしょう。

 東日本大震災前の2010年、エネルギー自給率は20.3%でした。ところが多くの原発が止まってしまい、2017年には9.6%と下落。この数字は、OECD(経済協力開発機構)35カ国中、なんと34位。ちなみに、最下位はヨーロッパの小国ルクセンブルグ(5.3%)、33位は韓国(16.9%)です。

 日本が資源に乏しいのは周知の事実ですが、相変わらず石油・石炭・天然ガス(LNG)など化石燃料のほとんどを海外から輸入しています。2017年度は、化石燃料の海外依存度が87.4%をマーク。状況は日々、深刻化しているのです。

 電源構成の変化も見てみましょう。2010年は、太陽光や風力など再生可能エネルギー(以下、再エネ)9%、原子力25%、石炭火力28%。2017年は、再エネ16%、原子力3%、石炭火力33%、天然ガス40%。再エネの割合が増えたものの、燃料を他国に頼る石炭火力が増え、準国産エネルギーの原子力が減っている。これこそ、自給率が大幅に低下した原因といえます。

 新型コロナウイルス感染拡大にともない、マスクの品薄問題が発生しました。需要が増え続けるにもかかわらず、供給が追いつかなくなったのです。一般社団法人日本衛生材料工業連合会によると、マスクの生産は約8割を海外に依存しているとのこと。奇しくも、化石燃料の依存割合とほぼ同じ数字です。

 マスクと同じようなことが、エネルギーにも起こらないとは限りません。中東情勢の悪化や、南シナ海での中国による海洋進出など、シーレーンが絶たれるようなことになれば、国民生活ひいては日本経済そのものが崩壊してしまう。政治リスクに振り回されないためにも、エネルギー自給率を高めていく必要があります。

安定的かつ安価

 我が国は、エネルギー基本計画(以下、エネ基)を策定し、電源構成の数値目標などを設定しています。エネルギー政策基本法により、エネ基は「少なくとも3年ごとに必要があると認めるときには、これを変更しなければならない」とされており、最新の「第5次エネ基」は2018年に策定されました。来年、第6次エネ基の策定作業が始まります。

 安定的なエネルギー供給がエネ基の主要テーマですが、世界各国が地球温暖化対策の一環として力を入れる「脱化石燃料」の観点も重要視されています。日本にとって、これは単にCO2排出量の削減という問題にとどまりません。燃料を海外に依存する石炭火力から、国産エネルギーの再エネと準国産エネルギーの原子力へシフトする根拠になるからです。

 7月、梶山弘志経済産業大臣は、国内の〝低効率〟な石炭火力発電所の休廃止を発表しました。日本の公害対策は世界トップレベルで、厳しい規制をクリアしたうえで稼働しています。世界的にみれば、日本の石炭火力発電は効率的。国内の中で低効率な設備を休廃止するということです。

 エネルギー供給は、安定的かつ安価でなければなりません。2つの条件を満たす電源は、高効率石炭火力、天然ガス、そして原子力だけ。この中でも、準国産エネルギーである原子力を代替電源として活用すれば、エネルギー自給率の向上を図ることができます。

「脱石炭」「脱原発」のウソ

 メディアは、「脱石炭は世界の潮流」と吹聴しますが、決してそんなことはありません。世界各国の石炭消費量をみると、日本は中国・インド・アメリカに次ぐ4位で、全体の3%にも満たない。上位3カ国が脱石炭の方向に進まない限り、世界全体のCO2排出量は減りません。しかし、中国・インド・アメリカが脱炭素を掲げる気配はない。国内に豊富な石炭資源が存在するからです。

 では、日本は何ができるか。超々臨界圧発電(USC)や石炭ガス化複合発電(IGCC)など、世界トップクラスの高効率火力発電技術を輸出して、地球温暖化防止に貢献するべきです。日本と輸入国の双方の国益に適うはずですが、そのような提案をメディアは報じません。

 メディアの姿勢は、原子力に関する報道と共通するものがあります。「世界は脱原発に向かっている」などと言っていますが、中国やロシアは原発の開発・輸出を進めています。フランスは電源の約7割を原子力に頼り、アメリカも新型炉の開発に積極的です。9月、米国原子力規制委員会(NRC)はニュースケール・パワー社が開発した小型モジュール炉(SMR)を承認。極めつきは8月、世界6位の原油埋蔵量を誇るUAE(アラブ首長国連邦)で、原子力発電所の営業運転が開始しました。いったい、どこが脱原発なのでしょうか。

 アメリカ・ロシア・中国など経済大国と呼ばれる国が原発を積極的に稼働させるなか、日本国内の原子力発電所の再稼働は遅々として進みません。第5次エネ基では、原子力発電の比率目標を20~22%に設定しています。国内にある原子炉54基のうち、20基ほどを再稼働させなければ達成できない数字です。2012年に国内の原発がすべて停止して以来、再稼働したのは9基。現在、運転しているのは4基だけです。

 世界第3位のGDP(国内総生産)を誇る大国にもかかわらず、その経済を支えるエネルギー供給が不安定である現状は、国民の生活のみならず世界経済にも大きな不安要素となっているのです。

日本は再エネ先進国

 一方、メディアで大々的に取り上げられるのは再エネです。「再エネ」と一口に言っても、主要5種類(太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱)にはそれぞれ異なる特色があります。にもかかわらず、十把一絡げに論じている。各々の現状をみてみましょう。

 水力について、大型発電所は国内ですでに開発し尽くしています。中小発電所も技術的に効率を上げない限り、これ以上の新設は見込めません。

 地熱で、日本は世界第3位の資源量のポテンシャルを備えているといわれます。ところが、地熱を掘り当てる技術は開発途上。しかも、火山活動が活発なエリアや温泉施設が集まる観光地、自然公園法で保護された敷地内に発電所は建設できない。実用化まで時間を要します。

 バイオマスの問題点は、燃料の調達方法です。日本はパーム油などバイオマス燃料の大部分を輸入していますが、タンカー輸送は大量のCO2を排出する。国産燃料に切り替えて運搬や加工のコストを抑えることができれば、バイオマスは優位な電源となり得ます。

 風力は稼働率があまり高くなく、立地が容易で風況の良い地域が限定される日本には向いていません。さらに、風力発電施設が近隣の景観を損なう恐れがあり、さらに海外では風力の低周波がもたらす人体への悪影響が指摘されている。日本でも地元の同意を得るのが難しくなる局面が増えるでしょう。

 今のところ、再生可能エネルギーの主力はメガソーラーを中心とした太陽光発電です。我が国の太陽光発電量は中国・アメリカに続いて世界第3位。日本を「再エネ後進国」とみなす向きもありますが、紛れもなく再エネ先進国にほかなりません。その証拠に、メディアが〝お手本〟として例に出すドイツより、発電量で勝っています。

 太陽光発電の導入が加速したきっかけはFIT(固定価格買取制度)の策定です。2012年、菅直人政権の下で策定されたFITは、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスといった再エネ源を用いて発電された電気を、一定期間にわたって国が定める価格で電気事業者が買い取ることを義務付けるものです。問題は、不当に高価な買取価格です。2019年には太陽光発電の価格が14円/kwにまで下がりましたが、当初は最大42円という破格の買取価格が設定されていたのです。

 電気料金の明細には、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」という項目があり、消費税より高い金額が記載されています。太陽光事業者がFITで稼いだ分、国民が負担を強いられているのです。

次期政権への期待

 安倍首相が辞意を表明しましたが、エネルギー政策での最大の功績はFIT法で定めた固定買取価格バブルを鎮静化させ、世界基準に近づけたことです。しかし、それ以外には目立った功績は見当たりません。

 安倍内閣では、経産省出身の官邸官僚が強い発言力を持っています。本来であれば、経産省の〝主業〟ともいえるエネルギー政策を少しでも前に進めてほしかった。原発再稼働についても、メディアの批判を恐れてか、安倍首相は「安全性が確認された原子力発電所は再稼働していく」と発言しただけです。

 原子力はケタ違いの発電効率を誇り、かつCO2を排出しないクリーンな電源といえるでしょう。その設備がすでに日本全国にあるにもかかわらず、政府は再稼働させていません。一方、ベースロード電源である石炭火力は休廃止、コスト負担を有権者に背負わせて、人為的にコントロールできない不安定な再エネの導入を進めています。いわば「その場しのぎの運まかせ」のエネルギー政策で凌いでいる状況です。

 今のエネルギーを巡る報道は、脱〇〇、地球温暖化などの言葉だけが飛び交っています。しかし本来は、数学・工学的な知見から判断すべき事柄です。次期政権には、これまで以上に積極的にエネルギー政策について議論し、安価で安定的、かつ環境にも配慮した原発のフル稼働を目指していただきたいと思います。
石川 和男(いしかわ かずお)
社会保障経済研究所代表。1965年生まれ。1989年、東京大学工学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策、産業保安政策、産業金融、割賦販売・消費者信用、中小企業、行政改革など各般の政策に従事する。2007年退官。2008年、内閣官房企画官。規制改革会議ワーキンググループ委員、専修大学客員教授、政策研究大学院大学客員教授、東京財団上席研究員などを歴任。著書に『原発の正しい「やめさせ方」』(PHP新書))などがある。

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もかたろ 2020/10/21 17:10

核廃棄物の問題はどーするんでしょうか(。。?) 何万年も保管しておく場所はどこにあるんですか?

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