日本政府はCO2を2030年までに46%減らし、2050年までにゼロにするとしている。これに追随して多くの地方自治体も2050年までにCO2ゼロを宣言している。けれども、これは地方経済を破壊することをご存知だろうか。CO2削減策がもたらす影響をしっかりと理解し、政治家、企業、労働者は、菅政権の下で進められる無謀なCO2削減策に対して異議を唱えるべきだ。
太平洋ベルトが消滅してしまう―
下記の図1は、県別の産業活動によるCO2排出量を環境省がまとめたものだ。図中で「特定事業所」とあるのは一定規模以上の事業所ということである。
見てわかる通り、CO2排出量は、日本の工業地帯である「太平洋ベルト」の都道府県で多い。濃い色で塗ってある千葉、愛知、兵庫、岡山、広島、山口、大分などだ。これらの地域では鉄鋼、石油、化学を初めとして、製造業が盛んだ。
これらの工場には加熱炉やボイラーがあり、石油、石炭、天然ガスを利用して、精巧なシステムが組み上げられている。一方で、既存の工場でCO2を安価かつ極端に減らす魔法のような技術はほとんど存在しない。
製造業は常に国際競争に晒されていることからすれば、CO2を半減したりゼロにするために莫大な出費をすれば会社が潰れてしまう。
これらの工場には加熱炉やボイラーがあり、石油、石炭、天然ガスを利用して、精巧なシステムが組み上げられている。一方で、既存の工場でCO2を安価かつ極端に減らす魔法のような技術はほとんど存在しない。
製造業は常に国際競争に晒されていることからすれば、CO2を半減したりゼロにするために莫大な出費をすれば会社が潰れてしまう。
その結果として、太平洋ベルトは消滅の危険にさらされるのだ。
すでに多くの産業は海外に出ており、自動車も鉄鋼も生産の重心は海外に移ってしまっている。
いまこの瞬間にも、日本政府の極端なCO2削減策を見た企業経営者の多くは、日本での生産を止めることを考えているのではなかろうか。
これらの地域で製造業が支える雇用は莫大なものだ。その雇用が失われてしまえば、地域経済が崩壊する。
すでに多くの産業は海外に出ており、自動車も鉄鋼も生産の重心は海外に移ってしまっている。
いまこの瞬間にも、日本政府の極端なCO2削減策を見た企業経営者の多くは、日本での生産を止めることを考えているのではなかろうか。
これらの地域で製造業が支える雇用は莫大なものだ。その雇用が失われてしまえば、地域経済が崩壊する。
大分、岡山、山口… CO2ゼロによる産業崩壊リスクランキング
では、特にどの県の経済が危機に瀕しているのか。
図2は、
縦軸: 県民総生産当たりのCO2排出量
横軸: 県民総生産当たりのCO2排出量
である。
県民総生産とは、その県のGNPであり、県の経済規模を表す指標である。つまり国民総生産GNPの県民バージョンだ。
※編集部:画質が良くないため、恐縮ですが詳細を知りたい方は上記「図2」より元データにアクセス願います。
図2は、
縦軸: 県民総生産当たりのCO2排出量
横軸: 県民総生産当たりのCO2排出量
である。
県民総生産とは、その県のGNPであり、県の経済規模を表す指標である。つまり国民総生産GNPの県民バージョンだ。
※編集部:画質が良くないため、恐縮ですが詳細を知りたい方は上記「図2」より元データにアクセス願います。
まず第1に分かることは、ほぼ一直線上にデータが並んでいること。すなわち、CO2排出量とは、エネルギー消費量とほぼ同義であることを意味している。
つまりCO2を減らすとなると、エネルギー消費を減らさねばならない。既存の工場ではその技術的手段は限られるから、大幅にCO2を減らしたければ、最後は生産活動を止めるしかない。
つまりCO2を減らすとなると、エネルギー消費を減らさねばならない。既存の工場ではその技術的手段は限られるから、大幅にCO2を減らしたければ、最後は生産活動を止めるしかない。
そして第2に分かることは、県によって、大きな違いがあることだ。
縦軸の「県民総生産あたりのCO2排出量」は、図を読むと以下のようになっている(単位はトンCO2/百万円):
1位 大分 6.7
2位 岡山 6.0
3位 山口 6.0
・・・
最下位 東京 0.7
縦軸の「県民総生産あたりのCO2排出量」は、図を読むと以下のようになっている(単位はトンCO2/百万円):
1位 大分 6.7
2位 岡山 6.0
3位 山口 6.0
・・・
最下位 東京 0.7
トップの大分が6.7であるのに対して、最下位の東京は0.7なので、10倍も開きがある。
大分、岡山、山口で「県民総生産あたりのCO2排出量」が大きい理由は、製造業が発展しており、しかもそれに頼った経済になっているからだ。
CO2を急激に減らすとなると、工場は閉鎖され、地域の経済はその支柱を失って、大きな打撃を受けることになるだろう。
4位以下もリストにしておこう
4位 和歌山
5位 広島
6位 愛媛
7位 千葉
8位 茨城
・・・
以上の県の人々は、これから自らの地域の経済がどうなってしまうか、真剣に心配してほしい。
大分、岡山、山口で「県民総生産あたりのCO2排出量」が大きい理由は、製造業が発展しており、しかもそれに頼った経済になっているからだ。
CO2を急激に減らすとなると、工場は閉鎖され、地域の経済はその支柱を失って、大きな打撃を受けることになるだろう。
4位以下もリストにしておこう
4位 和歌山
5位 広島
6位 愛媛
7位 千葉
8位 茨城
・・・
以上の県の人々は、これから自らの地域の経済がどうなってしまうか、真剣に心配してほしい。
北海道、東北… 環境税は寒冷地の家計を直撃する
環境税の導入の是非が政府審議会で議論されている。この夏には中間報告が出る予定だ。
もしも導入されるとなると、産業部門は国際競争にさらされているから、家庭部門の負担が大きくならざるを得ないだろう。実際に欧州諸国ではそのようになっている。
では、特に負担が大きくなるのは、どの地方だろうか。
市町村単位での世帯当たりCO2排出量の推計値を下記図3で見ると、以下の特徴が分かる:
・都市より農村で多い。
・寒冷地で多い。
この結果、東京・大阪などの都市部に比べて、北海道・東北などの農村部では、世帯あたりのCO2排出量が倍になっている。暖房に多くのエネルギーを使うためだ。
もしも導入されるとなると、産業部門は国際競争にさらされているから、家庭部門の負担が大きくならざるを得ないだろう。実際に欧州諸国ではそのようになっている。
では、特に負担が大きくなるのは、どの地方だろうか。
市町村単位での世帯当たりCO2排出量の推計値を下記図3で見ると、以下の特徴が分かる:
・都市より農村で多い。
・寒冷地で多い。
この結果、東京・大阪などの都市部に比べて、北海道・東北などの農村部では、世帯あたりのCO2排出量が倍になっている。暖房に多くのエネルギーを使うためだ。
図中赤く塗られているところが世帯あたり5トン以上のCO2を出しているところだ。
5トンのCO2を出している世帯は、仮に1トンCO2あたり5000円の環境税になるとして、負担は年間2万5千円になる。因みにこの程度の税率では、CO2はほとんど減らず、もっぱらコストの負担が生じるだけだ。
とすれば、図からもわかる通り、環境税は、過疎化や高齢化が進む北海道や東北などの地方にとって、特に重い負担になりそうだ。
5トンのCO2を出している世帯は、仮に1トンCO2あたり5000円の環境税になるとして、負担は年間2万5千円になる。因みにこの程度の税率では、CO2はほとんど減らず、もっぱらコストの負担が生じるだけだ。
とすれば、図からもわかる通り、環境税は、過疎化や高齢化が進む北海道や東北などの地方にとって、特に重い負担になりそうだ。
以上の3つの論点から見てきた通り、1つ1つの地域の実態に即して考えたとき、菅政権の下で進む無謀なCO2削減策が、如何に経済にとって有害か分かってくる。
自治体は自らの経済基盤を考えず、安易にCO2ゼロ宣言などして喜んでいる場合ではない。
地域経済を担う政治家、企業、労働者、一般市民は、手遅れにならないよう、声を大にして、ただちに異議申し立てをすべきであろう。
自治体は自らの経済基盤を考えず、安易にCO2ゼロ宣言などして喜んでいる場合ではない。
地域経済を担う政治家、企業、労働者、一般市民は、手遅れにならないよう、声を大にして、ただちに異議申し立てをすべきであろう。
杉山 大志(すぎやま たいし/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。
国連気候変動政府間パネル(IPCC)、産業構造審議会、省エネ基準部会等の委員を歴任。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書「地球温暖化のファクトフルネス」を発売中。電子版99円、書籍版2228円。
温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。
国連気候変動政府間パネル(IPCC)、産業構造審議会、省エネ基準部会等の委員を歴任。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書「地球温暖化のファクトフルネス」を発売中。電子版99円、書籍版2228円。