なんともおぞましい図式

 2024年12月18日、大阪高裁の飯島健太郎裁判長は滋賀医科大生の性的暴行について、無罪を言い渡しました。一審では被告を懲役2年6月としていたのですが、被害者女性との間に「同意があった疑いを払拭(ふっしょく)できない」として、それを破棄した形です。
 これは男子学生が集団で女子学生に暴行を加えたという疑惑についての裁判だったのですが、犯行に及んだとされる3人のうち、1人はそもそも被害者と一切の性的交渉を持っておらず、それが有罪判決を受けたことの方が、異常としか言いようがないのです。

 ところが、この逆転無罪に腹の虫が治まらない女性たちがXで「#飯島健太郎裁判長に抗議します」というタグで抗議を始めました。
 無罪を言い渡した飯島裁判長や無罪となった男子学生の顔写真と個人情報はSNSで拡散され、さらにchange.orgでなされた「大阪高裁の“医大生による性的暴行”逆転無罪に対する反対意思を表明します」というオンライン署名には10万を超える賛同が集まっています。

 そもそも法廷で決まったことを署名で覆(くつがえ)せるんかいな、というのが率直な感想ですが、このオンライン署名の表明文を見ると、以下のようにあります。

《その理由が、証拠として提出された現場映像での女性の、

「やめてください」「絶対だめ」「嫌だ」

 といった明確な拒否の言葉があったにも関わらず、加害男性の暴力的な言動を「性的な行為の際に見られることもある卑猥(ひわい)な発言という範疇のもの」とし、(以下略)》


 それは非道い、と思われたでしょうか。
 ところが実のところ、コレ真っ赤な嘘なのです。

 アンチフェミとして有名な小山晃弘氏は被害女性が「やめてください」「いや」「絶対ダメ」などと言っていたという情報は著名な弁護士である岡野タケシ氏のポスト以外には見つからず、そこから拡散されたものだと指摘しています(「元滋賀医大生らの「無罪判決炎上」は、たったひとりの弁護士によるデマツイートからはじまった」)。
 伝聞ゲームが「女性被害」、そして「加害男性」をつくり上げてしまうというおぞましい図式が、ここでは成り立っているわけです(なお、岡野氏には当該のポストについての真偽を尋ねるリプライを送ったのですが、お返事はいただけませんでした)。
change.org (14261)

オンライン署名の表明文

『虎に翼』のフェミ満載に辟易

 ただ、ぼくとしては先の署名に吉田恵里香氏が署名していたことが、印象的でした。

 誰? と思う方もいらっしゃるかも知れませんが、同氏は24年のNHKの連続テレビ小説『虎に翼』の脚本家なのです。
 そう、日本初の女性弁護士、判事、裁判所長となった三淵嘉子(みぶちよしこ)をモデルにした、歴史ドラマです。
 当たり前のことですが、「疑わしきは罰せず」が司法の大原則です。それすらもご存じない方が先のドラマの脚本を書いていたというのは、どうなんでしょう……?

 いえ……実はエラそうにいろいろ書きましたが、この『虎に翼』、ぼくは未見でした。そんなわけで年末に総集編を放送したので、それを観てみたのですが……何と言いますか、まあ、頭のてっぺんから尻尾の先までフェミの宣伝だなあと。

 主人公の(三淵嘉子をモデルにした)佐田寅子は彼氏ができたと発表し、「結婚するの?」と祝われると「結婚が女の幸せだと決めつけるな」、日本初の女性弁護士になった時、記者がおべんちゃらで「日本で一番優秀な女性だ!」と言うと「女と言うだけで弁護士にはなれても裁判官にはなれないんだ」と激昂するなど、とにもかくにも「思想強め」。好感の持てる人物と言うより、ただただうるさい面倒な女です。

 男性は薄っぺらで内面のない「リベラルな女性の理解者」、「保守的な女性差別主義者」に二分され、後者も型どおりに悪役として振る舞った挙げ句、特に伏線もなく寅子の支持者(「実は君のことが好きだったんだ~!」)に。
 話は単に「女性がエラくなって威張っている」に留まりません。寅子は(初婚男性は戦争で死に、その後)、判事の星航一と“永遠を誓わない愛”を育み、“夫婦のようなもの”となります。何が何だかわかりません。総集編ではしょられた部分もあるのでしょうが、また、夫婦別姓問題が絡んでいそうですが、「永遠の愛を誓わない」というのは「結婚とは悪である」とのフェミニズムの影響があるとしか思えず、それに加え、「イケメンに口説かれる」という視聴者ニーズをも盛り込もうとしての結果なのでしょう(おわかりでしょうか。この矛盾が上野千鶴子教授の結婚同様、「フェミニズムが最初から、完璧に間違っていたこと」を雄弁に物語っているのです)。

 考えてみればこの寅子、何かと言えば気に入らない発言に対して「取り消せ」、「撤回しろ」と繰り返しており、議論をしようとしない。法廷劇を上演中、男子学生に「女性差別的」なヤジを飛ばされ、その学生を引っ掻き、金的を喰らわせるという場面が痛快な見せ場として用意されてもいます。

 弁護士がほとんど話し合いができない人物として描かれていることが、今回の吉田氏の言動と重なるというか、これはもう、最初っから「武装検事」みたいなものだったのだとしか、ぼくには思えません(マニアックなお話ですみません。「特命武装検事・黒木豹介」というアクション小説シリーズがありまして、この黒木は法務大臣直属で、検事のくせに日本で唯一殺人許可を持っており、拳銃を振り回し武装ヘリを乗り回して国内外は言うに及ばず、宇宙から過去の世界にまで飛んで大活躍……というメチャクチャなキャラクター。要するに昭和の「なろう」であり、『虎に翼』もそれの女性向けだと考え、笑い飛ばしながら観るのが正しいのでしょう)。

責を押しつけ合う泥仕合

 さて、ちょっと話題があちこち飛んで恐縮ですが――以前ぼくは、こと性犯罪については頻繁に冤罪(えんざい)が生じているのではないかとして、アメリカの男性解放論者であるワレン・ファレルの著作『男性権力の神話』における「全てのレイプ疑惑の少なくとも六〇%が虚偽である」との指摘(p331)をご紹介しました(「被災地でレイプ多発?NHKはフェミニストの手先か」)。

 正直、ぼくも60%はホントかなあ……と感じなくはないのですが(ファレルはPh.Dの所持者であり、このデータももちろんいい加減なものではありません)、ここまでをご覧になってきてみなさん、いかが感じられたでしょうか。
 いついかなる場合も女性が被害者でなければならないと考え、未来ある男子学生すらもムリヤリ性犯罪者に仕立て上げないと気が済まない。そういう心性がある程度でも女性にとって普遍性があるとしたら、やはり性犯罪冤罪は極めて多い――そう考えたくなってくるのではないでしょうか。

 これまた、リンク先の記事でお伝えしましたが、新井祥子被告についてご記憶でしょうか。群馬県草津町の元町議会議員ですが、町長から性加害を受けたとして、刑事告訴。ところがそれが虚偽であると判明、一転してあべこべに名誉毀損、虚偽告訴で訴えられたというわけです。
 ところが町長の性加害疑惑がまだ疑惑であった時点で、フェミニストたちは彼女を応援して、草津を「セカンドレイプの町」などと貶(おとし)めるデモを行いました。この「不祥事」は海外にも喧伝(けんでん)され、町の役場や宿泊施設を標的とする爆破予告メールも届いたということです。
 ここで新井被告を担ぎ、騒いだフェミニストたちは(例外を除いて)謝罪をしていません。上野千鶴子名誉教授、大椿裕子社民党副党首、そしてフェミニスト作家の北原みのり氏、#KuToo運動で有名な石川優実氏など。

 いえ、それに留まらず北原氏*1も石川氏*2も「新井氏に騙された私は被害者」と言い出す始末です。ことに北原氏は同記事内で、滋賀医科大生の性的暴行疑惑をクロと決めつけ、無罪判決をひたすら残酷だ、恐ろしいなどと書き立てています。

*1 ここは女の声を聞かない社会のようだけれど、いつか私たちはYES MEANS YES を手に入れよう
*2【悲報】フェミさん、草津町の件を裁判でデマと認定されたのにまだ「私達は被害者」と徹底抗戦


 いやはや、こんな人たちに「支援」を受けていた新井被告こそいいツラの皮――いえいえ彼女も負けていません。新井被告は、「支援者のプレッシャーのせいで虚偽告訴してしまった」などと言い出しているのですから*3。
 これについては初公判を傍聴した元支援者、増田都子氏も切れていました*4。

*3 群馬・草津町の女性元町議、強制わいせつは虚偽告訴と認める…町長への名誉毀損は無罪主張
*4【新井祥子vs元支援者】初公判を傍聴した元支援者がブチギレ投稿しカオスな戦いが勃発!草津町の虚偽告訴事件で、虚偽告訴の原因は支援者と主張しバトル


 そう、まさに責を押しつけ合う泥仕合――と思われたかもしれませんが、どうぞご安心ください(?)。

常に被害者にならなければ気が済まない性

 またまたちょっと話が飛ぶようで恐縮ですが、「TRAフェミニスト」と「TERF」の争いを思い出してください。
 いえ、そもそもこの言葉がおわかりにならないかも知れません。前者はLGBT運動に参加するフェミニスト、後者は批判的なフェミニストです。本来、フェミはLGBTを擁護する立場を取ってきましたが、近年、トランス女性の女子スポーツ参加、女子トイレなどへの侵入が問題となってきました。そこでトランスを批判するようになったのがTERFであり、両者は主張としては敵対的なわけです。

 フェミの過ちのせいで同士討ちをやっている――という意味では草津の件と似ていますよね。
 もちろん、トランスの女子トイレなどへの侵入は看過できませんし、TERFが今までのフェミニズムの理念や思想を反省し、今の立場となったのなら立派なのですが、彼女らは一体全体どういうわけか、「トランスが女子スペースに侵犯してくるのは(トランスではない、普通の)男が悪い!」と言い出しているのです。
 トランスは男性たちに男子トイレから追い出され、泣く泣く女子トイレに来るようになったとのことなのですが……本人たちは女性と認められたくて女子スペースに侵入しているのだから、いくら何でもそんなメチャクチャなリクツはありません。

 ところが、この論法がすでに彼女らの間では「定説」となるつつあるようなのです。
 意味が、おわかりでしょうか。
 TRAフェミニストとTERFは言わば(普通の)男を悪者にすることで何とか諍(いさか)いを回避したわけです。
 となるとフェミニストたちと新井被告もまた、同様の道をたどるのはもう、わかりきったことではないでしょうか。

 ――しかしなぜ、争い合うなら女同士でやってくれればいいのに、いきなり関係ない男へと、彼女らは責を押しつけてくるんだ……?

 これについては以前もお話ししたことがあります。
 料理研究家のリュウジ氏が炎上した時のことですが(「炎上リュウジ氏――「港区女子」にご用心!?」、僕は以下のように述べました。

《一度相手を痴漢認定した以上、それ翻(ひるがえ)してしまっては、まるで自分に性的魅力がないのにあるかのように過信してしまったと認めるも同然であり、そんな自分を衆目に晒(さら)されることは大変な屈辱です。女性にしてみれば引くに引けない状況であるわけです》


 女性とは、「受け身にならざるを得ない、ことに性愛の場面において男性に求められたのだとの物語を、どうしても必要とする性」です。
 しかしそれは同時に、「常に被害者にならなければ気が済まない性」ということでもあります。
 それは男性が、仮に奥さんにやり込められて「逆ギレ」し、DVを働いてしまうような、ジェンダーに紐付いた行動なのです。

 奥さんに非があろうともDVが許されないのは自明ですが、「被害者ぶることによる相手への冤罪」が許されないことも、それと同様に当たり前のことです。
 しかし、男性がある程度自らのジェンダーの「有害さ」について自覚的であるのに対し、女性はいまだそこに自覚するに至っていない人が多いのではないか……と、思えてなりません。

非常に優れたドラマ『虎に翼』

 実在の人物であった三淵嘉子はいざしらず、『虎に翼』の佐田寅子は先にも述べたようにロクに議論もせずに一方的に自説を捲(まく)し立て、「女性差別的」な男子学生とは乱闘騒ぎを起こす、要するに対話を否定し、暴力を肯定する人物として描かれていました。

 しかしこれを、ぼくは「力量に欠けるスタッフによる、いささか不適切な描写」だとは思いません。
「司法の理念も理想も即刻に全て打ち捨て、その全てを女性のエゴのためだけに捧げよ」という確固たるテーマを、本作は描いていました。
 そしてそうした考えは、男女共同参画局に毎年10兆円近い予算が割かれていることを鑑みるに、日本ではまさに「正義」なのです。

 そして、そうした『虎に翼』の尊い正義は、冒頭に上げた事件によって同年、実現しました。
 本作は「史実はともかく、令和の日本において正義とされる思想、行動は何か」を極めて的確に活写した、“非常に優れたドラマ”であったのです。
兵頭 新児(ひょうどう しんじ)
本来はオタク系ライター。
フェミニズム、ジェンダー、非モテ問題について考えるうち、女性ジェンダーが男性にもたらす災いとして「女災」という概念を提唱、2009年に『ぼくたちの女災社会』を上梓。
ブログ『兵頭新児の女災対策的随想』を運営中。

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