(11996)

ナザレンコ・アンドリー氏
1995年、ウクライナ東部ハリコフ市生まれ。ハリコフ・ラヂオ・エンジニアリング高等専門学校の「コンピューター・システムとネットワーク・メンテナンス学部」で準学士学位取得。2013年11月~14年2月、首都キエフと出身地のハリコフ市で、親欧米側学生集団による国民運動に参加。14年3~7月、家族とともにウクライナ軍をサポートするためのボランティア活動に参加。同年8月に来日。日本語学校を経て、大学で経営学を学ぶ。ウクライナ語、ロシア語のほか英語と日本語も堪能。現在は政治評論家、外交評論家として活躍中。

民間人虐殺の衝撃

 首都キーウ(キエフ)近郊のブチャ市を含む複数の地域で計410人の遺体が発見され(4月3日)、その残酷な光景を収めた写真が世界中にショックを与えています。路上に横たわる遺体や砂の中に埋まった遺体、井戸の中に投げ込まれた遺体……いずれも撤退するロシア軍が人質にしていた民間人を殺害した証拠に他なりません。

 2月末の侵攻開始から、ロシアはウクライナ全土に無差別攻撃を仕掛けてきた。にもかかわらず、「ウクライナの都会や市街地を空爆しているかのようなビデオが流されているが、実際にわれわれが攻撃しているのは軍事施設だけ」(ミハイル・ガルージン駐日ロシア大使・4月2日)との主張を繰り返してきました。ロシアの国防省はブチャ市での民間人虐殺について、遺体は3月30日にロシア軍が撤退した後、ウクライナ側によって置かれたと主張しています。

 しかし、ブチャ市がロシアの支配下にあった19日に撮影された衛星画像には、すでに遺体とみられる影が映っていることが判明している。こうした証拠から、ロシア側の主張の矛盾も浮き彫りになっています。
 キーウ州や北部のチェルニーヒウ(チェルニゴフ)州から撤退したことで、キーウ近郊では民間人大量虐殺の痕跡が次々に発見されています。前述の無差別虐殺に加え、ボロジャンカ市では倒壊したアパート2棟の下から26人の遺体が見つかり、ロシア軍が民間人居住区を標的にしたことが明らかに。モティジン市では、女性市長のオルガ・スチェンコ氏がロシア側の要求を拒否したため、夫と息子とともに処刑(壁の前に立たせて射殺)されたとの情報もある。
 また、民間人の遺体が大量に見つかったことで、焦り始めたロシア軍は民間人の遺体を回収し、焼却し始めていると、マリウポリ市のボイチェンコ市長が発表しています。同じことが各地で行われているとの情報もある。大量虐殺の証拠を徹底的に隠そうとしているのです。


 日本のメディアは大々的に報じませんが、こうした惨劇は今まさに現実で起こっていることです。これでも、まだロシアと妥協するべきだと言うのでしょうか。虐殺する側とされる側の間にある妥協とは「虐殺の黙認」に他なりません。そうした言説を親露派の言論人を介してロシア側が広めているのも、各国の対応を遅らせることで、より多くの民間人を虐殺し、遺体を焼却して証拠を隠滅する時間を稼ぎたいのでしょう。

 ロシア側の情報戦に惑わされず、一刻も早くロシアによる戦争犯罪を止めるために、世界の人々の協力が必要です。(つづきは本誌にて!)
『WiLL』2022年6月号(4月26日発売!)

『WiLL』2022年6月号(4月26日発売!)

◎『WiLL』2022年6月号目次
百田尚樹:橋下徹の怪しい言説 キミは中露の代弁者か/「ロシア・中国・北朝鮮“魔の三核地帯"に立つ日本」安倍晋三・北村滋:プーチンは力の信奉者/高市早苗:《早苗の国会月報》日本は核兵器の最前線/ナザレンコ・アンドリー:ロシアに降伏したら地獄が待っている/岩田清文(元陸上幕僚長)・門田隆将:これならできる核共有(シェアリング)/中村逸郎(筑波学院大学教授):ロシアを決して信じるな/廣瀬陽子(慶應義塾大学教授):ハイブリッド戦争の内幕/宮嶋茂樹:グラビア 殺戮と破壊 これが戦争じゃ! 目を背けるな!

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く