ナザレンコ・アンドリー:ウクライナ危機の再来――軍事力...

ナザレンコ・アンドリー:ウクライナ危機の再来――軍事力なき「外交努力」では侵略される

ウクライナ紛争はつづいている

 ロシアがウクライナとの国境に兵力を集結し続けており、年初に17.5万人規模の侵攻作戦を実施するのではないかという恐れが広まっている。現時点(2021年12月7日)で、すでにウクライナ国境周辺に集まった戦力は次に通り。

 兵士11.5万人、戦車1200台、装甲車両→2900台、野戦砲1600個、ミサイルシステム28個、戦闘用飛行機330機、軍用ヘリコプタ240機、軍用艦船75隻。その数は人員だけで陸上自衛隊の約8割にも達している規模だ。

 おそらく、このニュースに興味を持っている方々が一番知りたいのは、本当に戦争が起こるのかどうかであろう。しかし、そもそもウクライナ人の視点からすれば、戦争は2014年から一度も終わったことなどないのだ。全面停戦協定は3回も結ばれたものの、1回目は30分以内、その他は24時間以内には破られていた。そのため、この7年の間、ロシア占領軍とロシア政府が支援しているテロ組織にウクライナ人が殺されない月は一月もなかった。あまりにも紛争が日常化してしまったせいで、海外メディアに取り上げられる回数が減っていたにすぎない。
ナザレンコ・アンドリー:ウクライナ危機の再来――軍事力...

ナザレンコ・アンドリー:ウクライナ危機の再来――軍事力なき「外交努力」では侵略される

12月2日に会談した米国のブリンケン国務長官(左)とロシアのラブロフ外相(右)
via YouTube

侵略は「危機感の麻痺」が引き起こす

 これはロシアの戦略でもあった。突然大規模な侵略を開始するとなれば、大きな話題となり注目も集まるが、ずっと中途半端な緊張状態を維持していれば、国際社会の関心はどんどん薄まっていく。ちなみに、中国も尖閣諸島でまったく同じ戦術を取っている。本来ならば領海侵犯は重大な国際問題であるはずだが、その領海侵犯が何百日も連続で続いているため日本人の感覚は麻痺し、危機感を覚えている人はむしろ少数派になっている。侵略国家は、相手の国民がこうした軍事挑発を何とも思わなくなる頃を狙って、いきなり侵略を始める。

 ウクライナの件も同じだ。来年、ロシアが全面戦争を仕掛けてくるかどうかは、欧米の出方次第である。もしNATO(北大西洋条約機構)が強行路線を取り、覇権主義国家に全力で対抗する覚悟を示せば、ロシアも軍を撤退させ「最初から侵攻するつもりなどなかった」と誤魔化すだろう。しかし、オバマ政権時代のように、対策があいまいな遺憾表明にとどまるならば、一瞬で現在進行系の限定戦争を全面戦争に発展させることもできる。
gettyimages (10033)

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力なき外交は無力

 このようにして、一国の運命が他国の判断に左右されることは、あまりにも情けない。もしウクライナが1990年代に核兵器を捨てなければ、兵力100万人の軍隊を5分の1まで軍縮しなければ、このような事態になっていただろうか。

 私はそう思わない。

 平和ボケした国民が「戦争は二度と起こらないだろう」「軍事費を福祉に回せ」「外交努力で十分に安全を保障できる」「相手にとって、わが国を攻撃するメリットがない」という、自称・平和主義者のプロパガンダに騙されたからこそ、今の悲惨がある。

 日本は人口や経済の規模がウクライナと全然違うものの、同じような間違った思想に毒されているため、同じ危機に直面している。同盟国に頼るだけでは絶対に平和を維持することはできないし、自力で自国を守ろうとしない国を同盟国が犠牲を払ってまで守ってくれるはずがないだろう。周辺に敵国が一国だけのウクライナとは違い、周辺が敵国だらけの日本こそ一国も早く現状の危険性に気づかないと、ウクライナ以上に痛い目にあうかもしれない。

 最後に、よく日本の野党は「外交努力」という言葉を口にする。たしかに現代の世界では、多くの問題を外交で解決することができる。しかし、それは外交官の背後に〝無視できないほど強力な軍隊がいる場合に限る〟ということをより多くの人に知っておいてほしい。
ナザレンコ・アンドリー
1995年、ウクライナ東部のハリコフ市生まれ。ハリコフ・ラヂオ・エンジニアリング高等専門学校の「コンピューター・システムとネットワーク・メンテナンス学部」で準学士学位取得。2013年11月~14年2月、首都キエフと出身地のハリコフ市で、「新欧米側学生集団による国民運動に参加。2014年3~7月、家族とともにウクライナ軍をサポートするためのボランティア活動に参加。同年8月に来日。日本語学校を経て、大学で経営学を学ぶ。現在は政治評論家、外交評論家として活躍中。ウクライナ語、ロシア語のほか英語と日本語にも堪能。著書に『自由を守る戦い―日本よ、ウクライナの轍を踏むな!』(明成社)がある。

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