ロシア主導の治安維持部隊が1月14日、カザフスタンから撤収することが発表された。その治安維持部隊(事実上ロシアの懲罰遠征隊)は、1月2日から始まったカザフスタンの反政府運動を鎮圧するために派遣された。治安部隊との衝突で150人以上が殺害され、約9900人が逮捕されたと、現地のメディアが伝えている。

 実は旧ソ連諸国では大規模な国民運動が突然起こることは珍しいことではない。2003年のジョージア、2004年と2013年のウクライナ、2006年と2020年のベラルーシ等々、様々な前例がある。では、それらの国々の内政はなぜ安定しないのだろうか?また、革命が起こる国と起きない国の違いは何だろうか?
カザフスタン情勢に学ぶ~独裁国家同士が助け合うワケ

カザフスタン情勢に学ぶ~独裁国家同士が助け合うワケ

カザフスタンより撤収を開始した部隊

「恐怖感」と「不安感」が独裁国家を延命させる

 ソ連崩壊後、東側の国々が進んだ道は基本的に二つあった。ポーランドやバルト三国のように、直ちにLustration(=政権浄化政策=元共産党役員の被選挙権剥奪)を行い、スムーズに民主主義に移行できた国もある。それらの国はNATOやEUにも加盟でき、西側の一員となって選挙システムが機能しているため、内政も安全保障も比較的に安定している。他方、ロシアやベラルーシのように、国名が変わっただけで、元共産党党員が政権を握ったままでいる国もある(ロシアもベラルーシも現大統領は元KGB関係者)。このような国では一度も政権交代が起きていない例が多い。

 カザフスタンも後者だった。憲法上、大統領の3選禁止が定められていたにもかかわらず、「最初の大統領だけは例外」という修正が盛り込まれ、ヌルスルタン・ナザルバエフ元大統領の政権が1991年から2019年まで、ほぼ30年にわたってずっと続いてきた(健康問題がなければナザルバエフ氏は今でも大統領の席に居座っていただろう)。そして反政府派は冤罪で投獄されたり、暗殺されたり、国外亡命せざるを得ない状態にされてきた。
カザフスタン情勢に学ぶ~独裁国家同士が助け合うワケ

カザフスタン情勢に学ぶ~独裁国家同士が助け合うワケ

独裁を続けたカザフスタンのナザルバエフ元大統領
 このような独裁政権を支えるのは二つの「恐怖感」だ。一つ目は単純に粛清される恐怖。もう一つは変化に対する恐怖。例えば、「今までは貧しい生活を送っていたが、安定感はあった。政権変わればどうなるか不安」、「自分で責任を取りたくない。政治に参加せずにお上様に全てお任せしたほうが楽」、「自由だけでは腹がいっぱいにならない」などと考えていた人も少なからずいただろう。ところが政府による搾取がある限度を越え、弾圧と貧困化が激化し、「鉄鎖のほかに失う物は何もない」状態が出来てしまうと、怒りの感情が恐怖の感情を上回り、どんな大人しい国民でも立ち上がる。そして民主的な方法で不満を表す手段がないため、必然的にデモ・治安維持部隊との衝突という形になる。まして、暴力(を受けることや見ること)に慣れているから、民主主義社会で育ってきた人よりも激しく戦う。

 カザフスタンの場合も正にそうだった。結局、警察も自国の悲惨な現状をわかっていて、心の底から政権を支持していなかったから、武器を捨てて国民側に立った人も多くいた。このままでは打倒されるに違いないと考え、少しでも国民感情を落ち着かせるためにカザフ政府は内閣を更迭したり、大規模デモの原因となったガス料金の引き上げを撤廃したりしたが、一度自由の空気を吸ったカザフスタン人は、またこれまでの軛(くびき)に戻りたくなくなったのだ。なので、さらに根本的な民主化を求めた。そうなると独裁政権はロシア軍を国内に呼び、ロシア軍に自国民を殺す権利まで与えてしまった。国の指導者が「権力を失うくらいなら、外国の傀儡になったほうがまし」という、売国奴ともいえる判断をしたわけだ。まさに、国のことより自己利益を考えている共産党出身者らしい行為。残念ながら、彼らはこんな卑怯な戦略で実際にデモを鎮圧することができた。

独裁国家同士が助けあう理由

 この出来事から学べることも二つある。一つ目は、独裁国家がいかに安定しているように見えても、そこに住んでいる人の忠誠心は粛清されないための見せかけか、ただの「慣れ」に過ぎないため、機会さえあればすぐに押し付けられたイデオロギーを捨てて、個人崇拝していた人にでも立ち向かう。ソ連自体もそうだったし、一枚岩的に見える中国も、実は土台がもろいだろう。国民は「本音」と「建て前」を上手く使い分けているだけ。

 二つ目は、21世紀の今なお、仲間の独裁者を救うために軍事介入さえも辞さない国があること。今回、カザフスタンで起きた事件は、1968年のチェコ事件や1956年のハンガリー事件と何も変わらない。反人民的な政権が国民の支持を完全に失って、警察や自国軍まで味方してくれなくなっても、外国の軍事力に頼って民主運動を鎮圧できるということだ。

 中ロのような独裁国家からしたら、「民主主義は必ず失敗する」や「民主運動を起こすと混乱が起き死者が出る」というイメージを保つことは生存に関わる問題。なぜなら、そのイメージがなければ自国民も政権と闘い始めるおそれがあるためだ。だから隣国が民主化しようとすると、その運動を潰すためにあらゆる努力する。中国本土によって潰された香港の民主運動も同じパターンだったし、民主政権が誕生した途端にロシアの侵略を食らったジョージアとウクライナもそうだった。(そして今、中共が台湾を併合しようとする大きな理由もここにあるかもしれない。かつて同じ国であり、近いルーツを持っている中華民国と中華人民共和国だが、後者はデモクラシーの道を進んで繁栄できたことは、「指導者の強いリーダーシップなしでは発展できない」という中国共産党のスタンスへの最強の反証であるからだ)。
カザフスタン情勢に学ぶ~独裁国家同士が助け合うワケ

カザフスタン情勢に学ぶ~独裁国家同士が助け合うワケ

独裁国家同士で相通じ合うものが??
 なので、それぞれの小国・中堅国家の民主化を直接に支援・応援するだけでは不十分である。むしろ、民主意向がある国なら何もしなくても自然と民主化するはず。それよりも、国際法と基本的人権を無視し、暴力と脅迫で隣国の民主化を防ごうとする独裁大国(中ロ)を制裁で牽制することのほうがずっと大切だ。レーガンの言い方を借りると、その悪の帝国が存在する限り、彼らはずっと他国の支配を目指すし、内政干渉するし、世界中に自分の腐敗した非人道的なイデオロギーをばらまこうとするであろう。

 第二次世界大戦の原因になったのも、中国を経済大国にしてウイグル人等のジェノサイドを可能にしたのもそれら独裁国家への宥和政策であるので、今度は同じ失敗を起こさず、第二次「冷戦」を徹底的にやることこそ世界平和への近道だと考えたほうが自然ではないだろうか。
ナザレンコ・アンドリー
1995年、ウクライナ東部のハリコフ市生まれ。ハリコフ・ラヂオ・エンジニアリング高等専門学校の「コンピューター・システムとネットワーク・メンテナンス学部」で準学士学位取得。2013年11月~14年2月、首都キエフと出身地のハリコフ市で、「新欧米側学生集団による国民運動に参加。2014年3~7月、家族とともにウクライナ軍をサポートするためのボランティア活動に参加。同年8月に来日。日本語学校を経て、大学で経営学を学ぶ。現在は政治評論家、外交評論家として活躍中。ウクライナ語、ロシア語のほか英語と日本語にも堪能。著書に『自由を守る戦い―日本よ、ウクライナの轍を踏むな!』(明成社)がある。

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