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逆上するプーチン大統領?
 世界第2位の武器輸出国であるロシアは、ウクライナ侵略戦争で自前のミサイルを撃ちまくっても、命中率が悪くて目立った戦果を挙げられない。近頃は、ともに「悪の枢軸」と呼ばれるイランから、密かに入手した短距離ミサイルと自爆型ドローンを使いはじめた。

 そこには、侮辱を受けたと逆上した独裁者が、後先考えずにイラン製兵器を使ってしまったという構図がある。これでは、自前の兵器技術が低劣であることを認めたようなもので、今後、ロシア製兵器を誰が買おうとするものか。今後の消耗戦を考えれば、プーチンは怒りと焦燥で自ら墓穴を掘ってしまった。
「プーチン逆上」の原因は、70歳を迎えた誕生日の翌日、クリミア半島に架かる大橋が何者かに爆破されたとの一報からだ。ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を併合後に、巨額の投資で架けた自慢の「ケルチ海峡橋」である。一部が海に崩落し、低迷していた軍事作戦をさらに弱体化された。

 プーチンが即時、命じたのはウクライナ軍との戦闘ではなく、多数のミサイルと自爆型ドローンによる民間人の虐殺だ。足下のロシア軍部隊は、兵士の士気の低さと戦死者の続出、それに硬直した軍の司令システムと低劣な軍装備品のふがいなさがある。
 地団駄を踏む独裁者は、ウクライナ軍を打倒することができないまま卑劣な手を使った。空から民間住宅、発電所、病院などのソフトターゲットを破壊し、首都キーウを恐怖のどん底に陥れた。ソフトターゲットへの攻撃は、プーチンが夢見る「帝国ロシアの復活」どころか、敗者が見せる「弱さの証明」だろう。
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ロシア軍はミサイルを撃ちまくっているが……
 ロシア軍はこれまでに、自前の地上発射型の短距離弾道ミサイル「イスカンデル」をウクライナに撃ちまくって保有数が急減した。ミサイルとドローンは、プーチンが頼みとする中国、北朝鮮ではなく、イランから高額で入手した。
 中国の習近平国家主席は、プーチンとの友情に「制限なし」と言いながら、手持ちの兵器は米欧の批判を恐れて供与しない。北朝鮮の3代目に弾薬の補給を求めていたが、こちらも数が知れている。
 台頭する中国や急成長しているインドの強国は、大言壮語するばかりの敗者を嫌う。ウクライナ侵略戦争によって、ロシアの弱点を見てしまったからだ。もっとも、習近平もモディ印首相も、ロシアを見捨てようとしているわけではない。両国は西側の制裁下にあるロシア原油の最大の購入者であり、インド、中国、エジプトがロシア製兵器購入の上位3カ国で、なおも多くをロシア製に依存している。

 ロシアは2021年までの四年間で米国に次ぐ世界第2位の武器輸出国であり、世界の兵器市場シェアの約2割を占めていた。そのロシア製兵器の実力が丸見えとなった今となっては、買い手国が見直しを始めるのは避けられない。
 米欧製よりも低価格で管理が簡単だとしても、ロシア製ミサイルの命中率が40~50%にとどまるとの見方が有力だ。いくら安くても、戦時に役立たずではとんだムダ金になる。すでにロシア製の武器輸入国である東南アジア各国は、2014年のロシアによるクリミア併合以降、防衛関連の輸入額が急激に減少しているという。ウクライナ侵略戦争を受けて、これが加速しそうな気配だ。
 米紙によると、トルコはすでにロシア製の最新鋭地対空ミサイルシステム「S400」の追加購入を見送る決定をしたほか、インドとフィリピンがロシアとの攻撃用ヘリの大型契約を撤回した。石油などエネルギー資源や鉱物資源以外に、目立った輸出品がない現状では、軍事製品の失速はロシアの衰退を意味することになる。

 気になるのは、これまでロシアが使った兵器に米欧ばかりか日本企業がつくった部品が多用されている点だ。英国の王立防衛安全保障研究所が、侵略戦争に使われた無人偵察機、巡航ミサイルなど27種類の兵器を調べたところ、この中に外国製部品が450種類以上使われていた。
 このうち地域別では、米国に拠点を置く企業の部品が318個、次いで日本が34個と多く、台湾企業が30個だったという。日本は、大手メーカーのビデオカメラやエンジンなどが搭載されていたようだ。いくら民生用だとしても、香港企業を経由して売却されればいくらでも軍事に転用できる。ロシアを含む枢軸国には、西側の技術が流出しないよう各国が協力して阻止する対策が必須なのだ。
湯浅 博(ゆあさ ひろし)
1948年、東京生まれ。中央大学法学部卒業。プリンストン大学Mid-Career Program修了。産経新聞ワシントン支局長、シンガポール支局長を務める。現在、産経新聞特別記者。著書に『覇権国家の正体』(海竜社)、『吉田茂の軍事顧問 辰巳栄一』(文藝春秋)など。

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