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【杉山大志】CO2ゼロで高まる日本の中国依存とサイバー攻撃の脅威

 菅首相の「2050年CO2ゼロ宣言」を受けて、「グリーン投資を進めるべきだ」、「太陽光発電・風力発電・電気自動車の導入を拡大すべきだ」といった意見が勢いづいている。

 だがこれは日本の安全保障を危機に陥れるかもしれない。2回にわたってお届けする。

1 2050年CO2ゼロは亡国の歌

 菅首相が所信表明演説で「2050年までにCO2をゼロにすることを目指す」と述べた。これが実現不可能な目標であり、強引に達成しようとすると経済を破滅させることは以前この欄に書いた

 この「2050年CO2ゼロ」は欧州で流行していたもので、日本はそれに追随したものだ。米国もバイデン政権になれば同様な宣言をすると見られている。中国も2060年と10年遅れでゼロにすると宣言した。

 この「CO2ゼロ」という外交ゲームは中国を利するところが大だ

 まず第1にこれは自由主義陣営の経済力を奪う。第2に自由主義陣営内、特に米国の共和党・民主党間の深刻な意見対立を煽り、分断させることが出来る。第3に嫌われ者になった中国が諸外国に好感される機会となる。

 そして第4に、中国はレアアースをはじめとした鉱物の供給から、最終製品の製造まで、世界最大の再生可能エネルギー産業を有しており、CO2ゼロ外交が商機を生む

 これに対して、日本ではCO2ゼロを強引に目指すことで、高コスト体質になり、経済が衰退して国の安全が脅かされる懸念がある

 のみならず、日本は、サプライチェーンの中国への依存がいっそう深刻になり、サイバー攻撃にも脆弱になる懸念がある。以下に述べよう。

2 「グリーン投資」で深刻化するサプライチェーンの中国依存

 いま太陽光発電、風力発電、電気自動車などの大量導入を進めるとなると、最終製品はもとより、インバータ―やバッテリーなどの半製品の形でも、中国製品が大量に日本に入り込んでくることになるだろう。

 仮に中国製品を排除し、国産化したとしても安心できない。というのは、太陽光発電や風力発電の大量導入には莫大な資源が必要となって、その資源調達の段階で中国依存が高まる懸念があるからだ。米国でも同様な形の資源調達における中国依存に警鐘が鳴らされている

 大変頻繁に誤解されているが、太陽光発電や風力発電は、「脱物質化」などでは決してない。むしろその逆である。

 太陽光発電や風力発電は、確かにウランや石炭・天然ガスなどの燃料投入は必要ない。だが一方で、巨大な設備が数多く必要であるため、鉱物資源を大量に必要とする。セメント、鉄、ガラス、プラスチックはもちろん大量に必要となる。のみならず、希少な鉱物資源であるレアアースも、大量に必要になる。

 だから太陽光発電と風力発電を推進すると莫大な鉱物資源が必要になるのだ

 日本も米国も、すでにあらゆるハイテク製造業において、レアアースの調達を中国に依存している

 今後、太陽光発電、風力発電、電気自動車などの大量導入をすると、仮に国産化するにしても、レアアースを筆頭にサプライチェーンの中国依存が深刻化するリスクが大きい。

3 電力網がサイバー攻撃に晒されるリスク

 さて中国製の太陽光発電や風力発電設備が日本の電力網に多数接続されると、サイバー攻撃のリスクが高まる。

 トランプ米大統領は5月1日、米国の電力網をサイバー攻撃から守るための大統領令に署名した。これは中国やロシアからの電力機器輸入の制限を念頭に置いたものだ。

 電力網がサイバー攻撃対象となっていることは、今や世界の常識である。2016年にはロシアのサイバー攻撃によってウクライナで停電が起きた。

 いまや中国はロシアと並んで、高いサイバー攻撃能力を有し、米国に脅威をもたらしている、と米国家情報長官は、米国とその同盟国に警鐘を鳴らした。

 サイバー攻撃の内容は、ウイルスやバックドアによる情報の窃盗から、通信・制御システムの乗っ取り、遂には電力網の停電や、発電所の破壊にも及びかねない。

 大統領令の対象は幅広く、送配電設備はもとより、太陽光発電設備も、風力発電設備も対象になっている。

 再生可能エネルギーが厄介なのは、その数が極めて多いことである。

 原子力などの集中型の発電設備は、通常、重要な施設として、徹底して安全に保護されているので、容易には攻撃できない。

 だが、それをわざわざ攻撃するよりも、どこにでも配備されている分散型の太陽光発電・風力発電を攻撃する方が難易度は低い。守る側としては、防御線が伸び切った状態になるので、守りにくい。

 日本政府も電力網のサイバーセキュリティの強化に着手している。だが今のところは事業者の善意ある協力を前提としている。日本らしい方法だが、本当にこれで間に合うのか心配である。また中国製品の排除には至っていない。

 米国では、太陽光発電用のインバータ―市場の殆どは、外国製ないしは外国企業に占められているという。中でも中国のシェアは47%に達する。これには世界最大の太陽光発電用インバータ―メーカーであるファーウェイも含まれている

 日本では、一体どの程度、中国製品が入り込んでいるのだろうか。

 インバーターは、発電設備電力を送電網に送る部品である。なので、そこがサイバー攻撃の対象になると、停電を引き起こしたり、他の発電設備を損傷させたりする可能性がある。 

 日本も、太陽光発電等の電力設備から、どのように中国製品を排除してゆくのか、導入がこれ以上進む前に、早急に検討する必要がある。
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杉山 大志(すぎやま たいし/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。
国連気候変動政府間パネル(IPCC)、産業構造審議会、省エネ基準部会等の委員を歴任。著書に『地球温暖化問題の探究:リスクを見極め、イノベーションで解決する(デジタルパブリッシングサービス)等。

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この記事へのコメント

abcd 2020/11/11 11:11

この問題に関する第一球として良い投げかけだと思うが、道徳的問題としてCO2排出量最大国がそれによって経済支配を強めるというのは、世界的に容認されてしまうのだろうか?

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