ローマで開かれた今年のG20サミットは31日、首脳宣言を採択して閉幕した。

 議題の1つであった気候変動については
 
 ・NHK=”G20閉幕 首脳宣言「気温上昇1.5度に抑えるため行動求める」
 ・日経新聞=”G20、石炭火力へ金融支援停止で合意 21年末までに実施
 などとなっていて、「世界の潮流は1.5度で、かつ脱石炭」と言いたげである。これは現在の先進国側の主張であるが、実態はどうだったか。

 外務省が発表した声明文を読んで解説しながら、「先進国 vs 新興国」の「勝敗形式」で採点してみたい。
杉山大志:G20「気候変動」議題から読み解くCOP26の行方

杉山大志:G20「気候変動」議題から読み解くCOP26の行方

増えるのは先進国の負担ばかりか

 まず、1.5度目標に関する部分では、こう述べられている。
 
 ≪我々は、2030 年アジェンダの達成を可能にする手段としても、世界の平均気温の上昇を、工業化以前よりも 2℃より十分に下回るものに抑え、工業化以前よりも 1.5℃高い水準までのものに制限するための努力を追求するというパリ協定の目標に引き続きコミットする。≫
 ※外務省ウェブサイト『G20ローマ・サミット』ウェブサイト 参考2「仮訳」より
 
 これは要は、パリ協定の文言である「2℃より十分に下回る・・1.5度・・の努力を追究」から一歩も変えない、ということ。先進国が1.5度へのコミットを主張したが、新興国はパリ協定で合意したゴールポストを動かすことに猛反対し、新興国が全面勝利した、ということだ。ちなみに「2050年まで」にCO2ゼロという先進国側が用意した文言も反対に遭い、「今世紀半ば頃(by or around mid-century)」という表現になった。

 これで1対0で新興国リード。
 次に石炭火力についての部分
 
 ≪我々は、低炭素な電力システムに向けた移行を可能にするため、持続可能なバイオエネルギーを含むゼロ炭素又は低炭素排出及び再生可能な技術の展開及び普及に関して協力する。また、これは、排出削減対策が講じられていない新たな石炭火力発電所への投資をフェーズアウトさせていくことにコミットする国々が、可能な限り早くそれを達成することを可能にする。≫

 
 これを読むと、「石炭火力を止めたい国は、そうしてください、それを可能にするための国際協力をします」、と言っているだけだ。

 つまり、イギリスや欧州の先進国は石炭火力の(強制的な)フェーズアウトを主張してきたが、これは全く通らなかった、ということだ。

 これで2対0と新興国側がリードを広げた。
杉山大志:G20「気候変動」議題から読み解くCOP26の行方

杉山大志:G20「気候変動」議題から読み解くCOP26の行方

火力発電大国の中国
 最後に、石炭火力事業の海外投資について。これは原文も確認しよう。

 ≪我々は、海外の新しい排出削減対策が講じられていない石炭火力発電に対する国際的な公的資金の提供を2021年末までに終了する
 and we will put an end to the provision of international public finance for new unabatated coal power generation abroad by the end of 2021.≫


 国際的な石炭火力発電事業への投資は、いま中国の独占状態になっている。最近になってその中国が海外投資を止めると宣言したことで、このような文言がG20に入った。このような文言が入ったことは、ようやく新規なことが出てきたと言える。
 だが、この文言は、どう解釈されるのか予断できない。

 中国は2019年時点で7000万キロワット(日本の全石炭火力発電所の合計の1.5倍)もの海外での石炭火力事業に着手していたが、これらの着手済みの事業をどうするか言っていない。全て打ち切るとは到底思えない。

 それから、公的資金(public)は用いないとしているが、企業の資金については言及していない。中国の民間金融機関が投資を続けるなら、実質的な変化は無いのではないか。

 先進国の中国配慮に鑑みると、上記の懸念は杞憂とは言えないであろう。

 だとすれば、最後は条件付きとはなるが、新興国の3対0=圧勝となる。

 G20には、欧米主導で進む気候変動対策に懸念を持っている有力な新興国が入っている。インド、中国、ブラジル、サウジアラビア、インドネシア、南アフリカなどだ。今回はこの新興国連合が勝利した訳だ。
杉山大志:G20「気候変動」議題から読み解くCOP26の行方

杉山大志:G20「気候変動」議題から読み解くCOP26の行方

日本の未来を考えた選択を!
 さて、いまG20に引き続いて国連気候変動会議(COP26)がイギリスで開催されている。11月12日に終了する予定だが、このG20の声明から大きく外れた結末になるとは予想しにくい。

 つまり、先進国の一方的・自滅的な脱炭素宣言が、国連の場でコミットされることになるということだ。「脱炭素」を主導する欧州各国でさえ、その急進的な政策に異を唱える勢力が増えている。

 選挙に「快勝」し、初の外訪としてCOP26に臨む岸田首相にも、日本の経済再生と未来を考えた選択をしてほしいと願うばかりだ。
杉山 大志(すぎやま たいし/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書に『脱炭素は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『地球温暖化のファクトフルネス』『脱炭素のファクトフルネス』(共にアマゾン他)等。

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