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≪気候モデル≫はゴミを突っ込んでゴミを出す?ノーベル物理学賞受賞者・眞鍋先生のブッチャケ発言!

 ノーベル物理学賞が眞鍋叔郎先生に授与された。

 若き日に米国で眞鍋先生のご指導を受けたことのある中村元隆氏が、じつに面白い話を著書に書かれていて、眞鍋先生の人柄やお考えを窺い知ることが出来る。中村氏の承諾を得て、紹介しよう。

 先に進む前に、準備として「気候モデル」とは何かを説明しておく(図)。気候モデルとは、地球の大気と海洋をさいころ状に切り、その間を流れる大気、水、塵などの動きを計算して、地球の気候を再現し、CO2による温暖化の効果等を計算するものだ。ただし、計算機の能力に限界があるため、さいころの大きさは水平方向で100キロメートル四方ぐらいもあり、結構粗い。これ以上小さい現象はさまざまな仮定をおいてパラメーターで表現してシミュレーションをする。
気候モデル 図解

気候モデル 図解

via 著者提供
 眞鍋先生は、この分野の先駆者で、重要な功績があった。

 けれども、気候モデルは、完璧に現実を再現できている訳ではない。眞鍋先生に続く多くの研究でも、CO2でどの程度気温が上昇するかという予測は誤差が大きいままだ。そもそも、過去の再現すら誤差が大きい(参考)。
 以上について踏まえていただき、中村氏の本にある眞鍋先生の逸話を紹介する。中村氏が米国で出会った人々についての話題の中で、眞鍋先生について書いている部分だ。(なお以下の文中のEmanuel氏、Lindzen氏は、この部分に先だって逸話が紹介された方々である。)
 眞鍋博士のブッチャケ発言

 次は、 気候シミュレーションの開祖とも言える、プリンストン大学教授・GFDL上席研究員、 眞鍋淑郎博士との面白い話を紹介しよ う。

 私が眞鍋氏に初めてお会いしたのは、 確か1992 年に、氏がマサチューセッツ工科大を訪れて講演された時であったと思う。 上述のEmanuel教授に。「眞鍋さんを他の大学院生数名と共にレストランへ連れて行って夕食会を催してくれないか?」と頼まれて、他の大学院生2名を誘って眞鍋氏をボストンのレストランへお連れした。

 眞鍋氏はとても話好きで饒舌で、次から次へと様々な話題を持ち出して私達を楽しませてくださった。その中で、特に印象に残っているのは、氏の「 Garbage in, garbage out.(ゴミを突っ込んでゴミを出す)」 という発言である。 気候シミュレーションモデルを使った学術研究について、4人であれこれ議論していた際に、氏が驚くほど率直に、「気候シミュレーションを使った研究は、ゴミを突っ込んでゴミを出す様なものだ。しかしながら、もしかするとその内の5% くらいは科学的に意義があるのではないか、 と希望的に考えている。」 という旨の発言をされたのだ。

 私達大学院生3名は、それを聞いて「うんうん、同意。何と正直な方だ。」という感じで感嘆した。気候シミュレーションの開祖として、殆どの研究業績を気候シミュレーションモデルで上げてこられた 眞鍋氏の口から、まさかその様な辛口で現実的な言葉を聞くとは私達は思っていなかったので、正直なところ3人とも良い意味で非常に驚いたのだ。

 氏は、自らの研究に信念と情熱を持っておられたが、同時に、冷静に自らの研究成果を客観的に評価しておられたと言える。それこそが科学者のあるべき姿ではなかろうか。ちなみに、氏はその際に、「 I believe (私 は 信じる)と言えば、完全に私が間違っていると証明されない限り、何でも主張できるからいいんだよ!宗教と同じさ!」 と、少々茶目っ気を混ぜて語っておられた。

 私自身は、 自らの研究業績全てが100 年以上後にも正当性を失う事が無い様に、確固たる内容にしようと常に努めていたが、100% 正しい研究成果を出し続けるというのは、実は至難の業なのである。 実際、私は一度 だけ訂正論文を発表した事がある。あの時は、幸い計算修正後も結論は殆ど変わらなかったので良かったが、再計算結果を確認するまで 少々冷汗をかいた。

 上述のLindzen教授の様な超一流科学者でさえ、いくつかポカをやっておられる。酷いのになると、理論を裏付ける為の数式の負号間違いに気付かずに論文を発表 し、それを論敵に学術誌上で指摘された、というのがあるほどだ。ましてや気候シミュレーションモデルを使うと、モデルが内包する 様々な簡略化仮定や便宜上の設定が、研究成果を全く無意味な物にしてしまう場合が多い。

 眞鍋氏は、その厳しい現実を認識 しておられたし、それを若手研究者に明け透けに語ってくださった。なかなかできる事ではない。その2年後に、私は氏の気候シミュレーションモデルの欠陥を強く批判する論文を発表し、プリンストン大学を訪れて氏と1時間以上激しく議論するなどしたが、常に氏を真摯な科学者と評価して好感を失う事はなかっ た。
 眞鍋先生は、気候モデルによるシミュレーションの先駆でありながら、その限界もよく知っておられたし、反対意見を持つ人とも侃々諤々議論した、ということだ。

 今回の先生のノーベル賞受賞を受けて、シミュレーションの結果を「確立した科学」だとして人に押し付けようとする人々に、ぜひ知って欲しい話である。
杉山 大志(すぎやま たいし/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書に『脱炭素は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『地球温暖化のファクトフルネス』『脱炭素のファクトフルネス』(共にアマゾン他)等。

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