驚きのワシントンDC:首都の惨状に愕然
1年ぶりに訪れたワシントンDCは、かつて私が暮らし、働いた時とはまるで違う街に変わり果てていた。
通い慣れた大通りも、石づくりの大きな建物が形づくる首都らしい街並みも、地下鉄の排気口から立ち上る湯気も、車窓から見る外見は何も変わってはいない。
しかし、ひとたび自分の足で街を少し歩き回ると、街の纏(まと)う空気が以前と全く変わってしまっている事がすぐにわかった。ホワイトハウスや連邦議会、ワシントンモニュメントなどが醸す、世界で唯一の超大国の首都の、ある意味で「傲慢(ごうまん)な佇まい」や「他所者を寄せ付けない気高さ」のようなものが、すっかり消え失せていたのだ。
代わりに街中を覆っていたのは、何かに怯える小動物のような、姑息な息遣いだった。華やかなポスターやテレビスターの笑顔で道行く人を誘っていたはずの銀行や商店のショーウィンドウの多くが無粋なベニヤ板で覆われ、平日の午後だというのに、入り口は固く閉ざされ、ドアノブに掛けられた「sorry, we are closed」という札が風に揺れていた。
通い慣れた大通りも、石づくりの大きな建物が形づくる首都らしい街並みも、地下鉄の排気口から立ち上る湯気も、車窓から見る外見は何も変わってはいない。
しかし、ひとたび自分の足で街を少し歩き回ると、街の纏(まと)う空気が以前と全く変わってしまっている事がすぐにわかった。ホワイトハウスや連邦議会、ワシントンモニュメントなどが醸す、世界で唯一の超大国の首都の、ある意味で「傲慢(ごうまん)な佇まい」や「他所者を寄せ付けない気高さ」のようなものが、すっかり消え失せていたのだ。
代わりに街中を覆っていたのは、何かに怯える小動物のような、姑息な息遣いだった。華やかなポスターやテレビスターの笑顔で道行く人を誘っていたはずの銀行や商店のショーウィンドウの多くが無粋なベニヤ板で覆われ、平日の午後だというのに、入り口は固く閉ざされ、ドアノブに掛けられた「sorry, we are closed」という札が風に揺れていた。
かつての職場から歩いて5分程の、ホワイトハウス北側の入り口に面した通りを訪れてみたが、大きな金属製のメッシュの塀で塞がれ、車はおろか歩行者も立ち入ることができなくなっていた。
この通りから、小さな公園を挟んで1本北のT字路が、この夏有名になった「Black Lives Matter」プラザだ。公園の北側を東西に走る通りのホワイトハウス側は、やはり金属製のメッシュ板でブロックされている。そこには、トランプ大統領を罵倒する無数の看板が結え付けられ、黒人のグループが大声を挙げては通行人を威嚇していた。
この通りから、小さな公園を挟んで1本北のT字路が、この夏有名になった「Black Lives Matter」プラザだ。公園の北側を東西に走る通りのホワイトハウス側は、やはり金属製のメッシュ板でブロックされている。そこには、トランプ大統領を罵倒する無数の看板が結え付けられ、黒人のグループが大声を挙げては通行人を威嚇していた。
このエリアでは、これまでも様々な政治的な主張を掲げたグループが、演説をしたり音楽を流したりしていた。しかし、拡声器を使って大音量を出したり、車道にはみ出してパフォーマンスをしたりすると、即座に複数のパトロールカーが登場して現場を制圧し、どんなパフォーマーでも瞬時に排除された。こうした「治安維持活動」に遭遇するたびに、アメリカ公権力の圧倒的な「制圧力」を見せつけられた。
ところが、今は全く違う。黒人の集団が巨大なスピーカーでラップミュージックを奏で、車道に走り出てはトランプ大統領を罵倒する奇声を挙げても、車道の反対側にひっそりと停車しているパトカーには、まるで動きがなかった。
パトカーの中で待機している警察官と眼が合ったので、車の通行を妨げている集団を指差してみたが、運転席に座っている白人の中年警察官と、助手席のでっぷりとした黒人警察官は、苦笑いをしながら肩をすくめるばかりだった。
ところが、今は全く違う。黒人の集団が巨大なスピーカーでラップミュージックを奏で、車道に走り出てはトランプ大統領を罵倒する奇声を挙げても、車道の反対側にひっそりと停車しているパトカーには、まるで動きがなかった。
パトカーの中で待機している警察官と眼が合ったので、車の通行を妨げている集団を指差してみたが、運転席に座っている白人の中年警察官と、助手席のでっぷりとした黒人警察官は、苦笑いをしながら肩をすくめるばかりだった。
人々に襲い掛かる「同調圧力」
アメリカの首都の異変は、ホワイトハウス周辺に限ったことではなかった。首都で働く人々が住むバージニア州やメリーランド州のベッドタウンも、静かな、しかし取り返しのつかない変貌を遂げていた。
アメリカの郊外の住宅街では、大抵どの家にも「フロントヤード」と呼ばれる芝生の前庭があって、家屋は通りから数メートル引っ込んだところに建てられている。多くの家庭では大統領選や知事選などの大きな選挙のたびに、支持する政治家の小ぶりな横断幕をその「フロントヤード」に刺して、道行く車や歩行者に支持を訴え、選挙キャンペーンを盛り上げる。
2016年には、「Hillary & Tim」(ヒラリー・クリントンとティム・ケイン)と、「Trump & Pence」(ドナルド・トランプとマイク・ペンス」という2種類の横断幕が、ワシントンDCや郊外の住宅地の前庭に競うように立てられた。
こうした横断幕や立て看板は、選挙が終わると、ほどなくそれぞれの住民によって片付けられ、12月に入るとクリスマスの飾りにとって変わられるのが常だった。
ところが、今年の年末の景色は全く違っていた。「Trump & Pence」という看板はすっかり目につかなくなったが、「Biden & Harris」という看板は、今なお大量に残されていた。
アメリカの郊外の住宅街では、大抵どの家にも「フロントヤード」と呼ばれる芝生の前庭があって、家屋は通りから数メートル引っ込んだところに建てられている。多くの家庭では大統領選や知事選などの大きな選挙のたびに、支持する政治家の小ぶりな横断幕をその「フロントヤード」に刺して、道行く車や歩行者に支持を訴え、選挙キャンペーンを盛り上げる。
2016年には、「Hillary & Tim」(ヒラリー・クリントンとティム・ケイン)と、「Trump & Pence」(ドナルド・トランプとマイク・ペンス」という2種類の横断幕が、ワシントンDCや郊外の住宅地の前庭に競うように立てられた。
こうした横断幕や立て看板は、選挙が終わると、ほどなくそれぞれの住民によって片付けられ、12月に入るとクリスマスの飾りにとって変わられるのが常だった。
ところが、今年の年末の景色は全く違っていた。「Trump & Pence」という看板はすっかり目につかなくなったが、「Biden & Harris」という看板は、今なお大量に残されていた。
もちろんワシントンDCの近郊は民主党が強い土地柄だから、バイデンの看板が多い理由のは当然ともいえる。今年の大統領選も、州選管の発表でメリーランドでは64% vs 32%、バージニアでも54% vs 44%と、いずれもバイデンが制したことになっている。
しかし、年の瀬が迫った今、トランプ支持の横断幕は皆無となったのに、バイデン支持の横断幕の方だけが、これ見よがしに大量に残っているのは、いかにも異様だ。中には「トランプ、バイバイ。バイデン、こんにちは」という意味の横断幕もある。民主党候補への支持だけでなく、トランプへの憎悪も表現しているのだ。
しかし、年の瀬が迫った今、トランプ支持の横断幕は皆無となったのに、バイデン支持の横断幕の方だけが、これ見よがしに大量に残っているのは、いかにも異様だ。中には「トランプ、バイバイ。バイデン、こんにちは」という意味の横断幕もある。民主党候補への支持だけでなく、トランプへの憎悪も表現しているのだ。
この現象の謎を解く鍵は、「バイデン&ハリス」の看板の隣に、ほぼ例外なく立てられているもう一つの横断幕にあった。
「Black Lives Matter」(黒人の命を尊重しろ)。黒字に白文字を染め抜いた横断幕は、ちゃんと数えたらバイデン支持の横断幕よりも数が多いかもしれない。「BLM」の看板だけを掲げている家も少なくないのだ。
ワシントンDCから車で30分ほどのバージニア州マクリーンに住む私の知人は、親子代々筋金入りの共和党支持者だ。これまではずっと共和党の大統領候補の横断幕を前庭に刺していた。ところが、今年はついに「バイデン&ハリス」と「BLM」に変えたという。
「妻は前から民主党シンパでしたが、私は今でも共和党支持者ですし、今年もトランプ大統領に投票しました。でも前庭に掲げる横断幕は、今年は今までとは全く違う意味を持つようになってしまったんです」
我々日本人が想像する、典型的な白人のアメリカ人男性である彼は、いつもは快活でジョーク好きの、巨漢で爽やかな人物だ。しかし、今年の大統領選については、極めて口が重かった。
「トランプ支持の横断幕を前庭に刺しておくと、子供が学校で虐(いじ)められるケースが続出しました。ワシントンDCの知人宅は、MAGA(Make America Great Again=トランプのスローガン)の帽子を窓際に置いていただけで、玄関に火をつけられました」
その一方で、バイデン支持とBLMの横断幕を掲げていた家は、暴力的なデモや抗議活動が行われた日にも、軒並み無傷だったという。
要するに、トランプ支持を表明すれば、自分や家族の命や生活が危険に晒される。逆にバイデン支持とBLMの看板は、ホームセキュリティという意味では、最もコストの安い、家族にとって「最善の選択」になってしまったのだ。
この「Daily WiLL Online」の連載第7弾で紹介した通り、今年の過激なBLM運動は、2017年に「華人進歩会」という中国系の資金によって設立された「黒人未来研究所」が主導した。
そして、研究所のリーダーであるアリシア・ガーザとパトリッセ・カラーズは、自ら「訓練されたマルクス主義者」であると認めている。
「Black Lives Matter」(黒人の命を尊重しろ)。黒字に白文字を染め抜いた横断幕は、ちゃんと数えたらバイデン支持の横断幕よりも数が多いかもしれない。「BLM」の看板だけを掲げている家も少なくないのだ。
ワシントンDCから車で30分ほどのバージニア州マクリーンに住む私の知人は、親子代々筋金入りの共和党支持者だ。これまではずっと共和党の大統領候補の横断幕を前庭に刺していた。ところが、今年はついに「バイデン&ハリス」と「BLM」に変えたという。
「妻は前から民主党シンパでしたが、私は今でも共和党支持者ですし、今年もトランプ大統領に投票しました。でも前庭に掲げる横断幕は、今年は今までとは全く違う意味を持つようになってしまったんです」
我々日本人が想像する、典型的な白人のアメリカ人男性である彼は、いつもは快活でジョーク好きの、巨漢で爽やかな人物だ。しかし、今年の大統領選については、極めて口が重かった。
「トランプ支持の横断幕を前庭に刺しておくと、子供が学校で虐(いじ)められるケースが続出しました。ワシントンDCの知人宅は、MAGA(Make America Great Again=トランプのスローガン)の帽子を窓際に置いていただけで、玄関に火をつけられました」
その一方で、バイデン支持とBLMの横断幕を掲げていた家は、暴力的なデモや抗議活動が行われた日にも、軒並み無傷だったという。
要するに、トランプ支持を表明すれば、自分や家族の命や生活が危険に晒される。逆にバイデン支持とBLMの看板は、ホームセキュリティという意味では、最もコストの安い、家族にとって「最善の選択」になってしまったのだ。
この「Daily WiLL Online」の連載第7弾で紹介した通り、今年の過激なBLM運動は、2017年に「華人進歩会」という中国系の資金によって設立された「黒人未来研究所」が主導した。
そして、研究所のリーダーであるアリシア・ガーザとパトリッセ・カラーズは、自ら「訓練されたマルクス主義者」であると認めている。
大統領選の真の勝者は
大統領選挙の年に反トランプを掲げて全米各地で社会騒擾を引き起こした中国共産党シンパの黒人団体の最大の主張が、「アメリカでは黒人は長く抑圧されてきた」という基本認識だった。
アメリカには、いくつかの隠しおおせない「負の歴史」がある。
・建国時の、かつてインディアンと呼ばれたネイティブアメリカンの大量虐殺
・第2次世界大戦中の日系人の強制収用
・広島・長崎への原爆投下
・ベトナム戦争での枯葉剤使用
そして、建国以来の最大の汚点の1つが黒人奴隷の歴史だ。「人権」「平等」「博愛」といった、フランス革命以降の現代的価値観から照らせば、言い訳のしようもないアメリカの歴史の暗部を、共産主義者に抉(えぐ)り出されてしまったのが、今年の大統領選だったのだ。
BLM運動は、中国共産党が仕掛ける歴史戦という意味においては、日本の慰安婦問題や南京事件、あるいは徴用工問題とも通底する。現代人の「良心」に訴えて、資本主義社会を分断しようというわけだ。
私はアメリカに引っ越して間もない頃、選挙期間中に多くの家庭が支持する政治家の横断幕を掲げる様子を見て、日本との政治風土の違いを痛感した。そして、良くも悪くも、これがアメリカなんだと思っていた。
ところが、今年の大統領選はこうした大らかなアメリカの政治の風景を根底から変えてしまった。そして、来年の1月20日に誰がアメリカ大統領になろうと、今年アメリカ社会の内部に刻み付けられた傷の深さは、もはや修復不能にすら見える。今年の大統領選の真の勝者は、中国共産党だったのかもしれない。
アメリカには、いくつかの隠しおおせない「負の歴史」がある。
・建国時の、かつてインディアンと呼ばれたネイティブアメリカンの大量虐殺
・第2次世界大戦中の日系人の強制収用
・広島・長崎への原爆投下
・ベトナム戦争での枯葉剤使用
そして、建国以来の最大の汚点の1つが黒人奴隷の歴史だ。「人権」「平等」「博愛」といった、フランス革命以降の現代的価値観から照らせば、言い訳のしようもないアメリカの歴史の暗部を、共産主義者に抉(えぐ)り出されてしまったのが、今年の大統領選だったのだ。
BLM運動は、中国共産党が仕掛ける歴史戦という意味においては、日本の慰安婦問題や南京事件、あるいは徴用工問題とも通底する。現代人の「良心」に訴えて、資本主義社会を分断しようというわけだ。
私はアメリカに引っ越して間もない頃、選挙期間中に多くの家庭が支持する政治家の横断幕を掲げる様子を見て、日本との政治風土の違いを痛感した。そして、良くも悪くも、これがアメリカなんだと思っていた。
ところが、今年の大統領選はこうした大らかなアメリカの政治の風景を根底から変えてしまった。そして、来年の1月20日に誰がアメリカ大統領になろうと、今年アメリカ社会の内部に刻み付けられた傷の深さは、もはや修復不能にすら見える。今年の大統領選の真の勝者は、中国共産党だったのかもしれない。