宣伝工作が常に優先

石平 はじめまして。

竹内 こちらこそ。ご活躍は存じています。「武漢ウイルス」はまるで第三次世界大戦の様相を呈していませんか。中国+親中国vs.その他の国と。そんな中で、中国共産党の宣伝戦がすさまじいですよね。

石平 中国は伝統的に宣伝戦を重視します。その証拠と言っては何ですが、武漢でのウイルス拡散を、中央政府が初めて公式に認めたのは1月20日。それから5日後、対策チームが発足します。トップは李克強首相ですが、副リーダーを見ると驚きます。誰かと言えば、最高指導部である中国共産党中央政治局常務委員会のメンバーの一人、王滬寧(おうこねい)。彼の担当は、イデオロギーと宣伝!!

竹内 感染症対策本部なのに……。

石平 中国宣伝部部長も対策チームに入っています。ところが、衛生部部長や国家衛生健康委員会委員長は、なぜか参加していない。

竹内 それだけ宣伝戦に力を入れている証拠ですね(笑)。感染症が広がることはどうでもいいんでしょうか。

石平 中国共産党は「感染症対策=宣伝工作」と見ている。人民の命を守ることよりも、宣伝工作によって人民をいかに騙し、国際社会の目をいかに欺(あざむ)くか──それがすべて。
 前例があります。2008年、北京五輪開催の直前、四川大震災が発生しました。その即日、温家宝首相(当時)が、被災地を訪問。それと同時に北京では中央宣伝会議を開催しています。被災地の救出・救援は後にして、宣伝工作が優先されているわけですね。

竹内 中国共産党のすさまじさが表れています。中国は武漢ウイルスを自国発ではなく、日本、あるいは米国発であるとのキャンペーンを始めています。こんなウソに国際社会が騙されるとは思いませんが、過去の中国を見ると、そうも言っていられません。下手をしたら、「南京大虐殺」のように何十年か後には、それがあたかも〝真実〟であるかのように定着してしまうかもしれない。実際に、日本は中国の執拗な宣伝戦に敗北している面もあります。その証拠が先の教科書検定ではありませんか。南京事件の記述はいつまでも残り続けているのです。

習近平個人独裁体制の弊害

石平 心してかからねばなりません。そのためには武漢ウイルスが、なぜパンデミック化したのか。その最大の原因を多くの人たちが認識する必要があります。パンデミック化した理由は、中国政府が情報を隠蔽し続けたため。12月中旬から武漢市内でウイルスが蔓延、同月下旬、李文亮医師がネット上でその危険性を発信しました。

竹内 その後、李医師はデマを流したとして処罰され、自身もこの疫病に感染し、亡くなっています。でも、中国政府は何ら目立った動きを見せていません。

石平 むしろ、宣伝機関は北京の専門家を使って「今回の病気はヒトからヒトへは伝染しないので安心してください」と喧伝。この情報を鵜呑みにした武漢市民は春節間近もあって、大人数が1カ所に集まり、飲食に興じたのです。そのため、感染が爆発的に拡大。しかも春節前で出稼ぎ労働者や学生たちが、ウイルスを保持したまま帰郷する。そのため、ウイルスが中国全土に広がっていったのです。

竹内 それが今や世界中へと蔓延しています。

石平 中国は空前の海外旅行ブームで、武漢市民が日本や欧米へ大挙して押し寄せた。このように、感染拡大の責任は情報を隠蔽した中国共産党指導部にあったことは間違いないし、本人たちも自覚しています。

竹内 でも、その責任の所在は絶対に認めようとしません。

石平 国際社会だけでなく人民に対してもです。

竹内 感染対策を12月中に実施していれば、世界が変わることはなかった。なぜ隠蔽だけして、対策のほうは講じなかったのでしょうか。

石平 中国共産党一党独裁体制が、そうさせたのです。特に習近平政権以降、習近平個人独裁体制と化しています。あれほどの大国でありながら、政治・経済・外交……と、ありとあらゆることが、習近平の目を通さないと誰も動かないし、何も進まない。
 情報公開に関しても、すべて中央政府の判断に委ねられます。胡錦濤時代の集団的指導体制であれば、おそらく武漢から報告が上がったとき、担当官が自ら判断し、中央政府を動かしていたでしょう。でも、今はすべて〝習近平様〟にお伺いを立てなければなりません。

竹内 北朝鮮と同じですね。金正恩が地方の農場を視察した際、何かつぶやくと、まわりはメモを取って、その通りに動く。ロボットと同じです。

石平 習近平だって人間ですから、1日24時間、処理できる仕事の量も限界があります。しかも、彼は決して判断力の優れたトップではなく、むしろ愚鈍。だから、案件処理も滞ってしまう。

竹内 優先順位もわかっていない。

石平 側近政治なので、まわりは習近平に忖度して、案件の優先順位を決めて進言します。しかもボスが喜ぶような情報ばかり。

竹内 そうすると、面倒な案件は隅に追いやられてしまう。

石平
 だから、習近平政権が武漢ウイルスを公式に認めたのは1月に入ってからのこと。すでに手遅れでした。

見捨てられた武漢市民

竹内 流行の震源地である武漢政府は、さすがに何か独自の対策を施してもよさそうなものですが、そのあたりはどうなんですか。

石平 病院に対して「治療を頑張れ」と言うだけ。マスクや防護服の供給すらしていません。1月20日、中央政府が対策本部を設立すると、初めて武漢以外の地域から医療チームが派遣され、武漢市内を封鎖し、市民の移動を制限したのです。

竹内 今、武漢市内がどういう状況なのかも気になります。聞いた話によると、体調を崩して病院に行くと、もし武漢ウイルスだと診断されたら、隔離されるかして社会的に抹殺されてしまう。そのため、市民の多くは風邪をひいても家にとどまっているとか。

石平 中国政府の発表によれば、武漢市のウイルスによる死者数は3,800人程度。ですが、恐らく90%以上の人々が病院に行かず、自宅で亡くなっています。武漢封鎖の後、市内の公共交通機関はすべてストップしました。自家用車の使用すらダメです。近所に病院がありませんから、車が使えなければ、高齢者や病人は病院に行くこともままならない。

竹内 行けたとしても満杯。

石平 それで体育館など、武漢市内の大型施設を10カ所以上、改造して1万人以上収容できる臨時病院として使用したのです。でも、何も治療を施していないことが判明しました。感染者と共に、感染の疑いがある人も入れられてしまう。だから、感染者以外の人間もそこで死亡しています。

竹内 もはや収容所と変わりませんね。

石平 3月10日、習近平は武漢を訪問していますが、武漢政府は2月末までに臨時病院をすべて閉鎖した。

竹内 終息したかのように装ったんですね。

石平 じゃあ、患者はどうなったのか──ハッキリ言って行方知れずです。表向きは回復して、退院したと。でも、おかしな話です。政府が決めた期限に、すべての患者が治りますか。

竹内 これもすさまじい情報戦の一環なんですね。強引に終息したようにして体面を取り繕い、習近平を武漢に迎えた。

石平 それに加えて、新規感染者数はゼロだと言い始めました。しかも、各地方一斉に。

竹内 あり得ませんね(笑)。

石平 熱やセキで病院に来た患者に対しては、武漢ウイルスと診断しない。「ただの肺炎である」とカルテに書く。

竹内 でも、隠しきれない部分が出てきませんか。

石平 今は新規感染者がある程度の人数に達したら、報じるというやり方です。そのやり方に不満を感じているのか、李克強は3月23日、対策本部の会議で「現在、中国の大半の地域で感染者数ゼロの報告が数日続いている。だが、感染の統計データは速やかかつ偽りがなく正確でなければならず、感染者数ゼロを報告するための隠蔽や報告漏れは決してあってはならない」と述べています。ところが、人民日報はこの李首相の発言を一切無視。ですが、国務院がHPでこの発言を掲載したため、公になった。習近平政権の落ち度だったと言えます。

火事場泥棒

竹内 中国は武漢ウイルス感染拡大を逆手に取って、むしろ世界制覇の足掛かりにしようとしています。象徴的なのがマスク不足にあえぐフランスに対して、中国はマスクを10億枚供給するから、5G(第5世代移動通信システム)設備を購入せよ、と取引を持ち掛けたこと。ほかにも医療品の輸出を制限したり、南シナ海で新しい行政区を設置し、尖閣諸島の領海侵犯を繰り返している。

石平 火事場泥棒以外の何ものでもありません。いや、自ら放火したようなものですから、もっとタチが悪い。覇権主義的戦略を進める際、アメリカが大きな存在として立ちはだかっていました。中国共産党にとって力がすべてであるから、弱い者には横暴だけど、強い者には神経を使ってその顔色を窺う。そして今はアメリカが武漢ウイルスで弱まったと思えば、中国は遠慮なく暴走し始めているのです。

竹内 世界、特に日本は中国共産党政権の本性を認識するべきです。中国は欧米諸国に対して、新たな宣伝活動を展開しています。欧米がコロナで疲弊しているため、相対的に中国は高圧的な態度に出ている。石平さんも産経新聞で「戦狼(好戦的)外交」と指摘されていました(4月30日付)。その上で、宣伝戦を抜かりなく展開している。

石平 4月以降の中国国内の新聞やテレビニュースを見ると、武漢市内の現状はまったく報じていません。一方で、鬼の首を取ったように連日、アメリカやイタリアの悲惨な現状を克明に伝えていた。なぜかと言えば、中国国民に対して中国共産党政権の対策を誇示するため。自由民主主義社会はコロナ感染を防ぐことはできない。共産党指導体制のほうが優れている──そう言いたいわけです。

竹内 ただ欧米諸国は中国の感染拡大の責任を追及し、賠償訴訟を起こすまでになっている。

石平 そこで中国は「何を言っているんだ。感染源はアメリカだ」と。要するに「責任転嫁」です。実は中国国内で習近平政権に対する責任追及の機運が高まったことがありました。ところが、4月になってニューヨークの悲惨な状況が連日報じられているのを見て、国民の気持ちが様変わりしたのです。
「ニューヨークに比べて、我々の生活は安全だ。我々国民を守ってくれるのは習近平主席以外にない」
と。今や習近平は、自らを中国を救った英雄、のみならず世界の救世主だと喧伝している。

竹内 信じられないような展開ですが、中国国民は今までずっと宣伝工作に曝されてきました。そろそろ、そのやり口に気づいてもよさそうですが……。

石平 一部の知識人はそういった情報戦に対して免疫力がついています。でも、大半の中国国民は騙されるし、気づいたとしても、また同じやり方で騙される。

竹内 日本人も似たような面があります。たとえば民主党政権時代、「政権交代」の言葉に騙され、多くの人が民主党に投票した。フタを開けたら、あまりにひどい政権運営で、日本の国力が削がれる結果に。ところが、再び民主党政権時代を懐かしむ声が出ている。反アベもここに極まった感があります。

石平 喉元過ぎれば熱さを忘れると言いますが、それと同じ。

竹内 悲惨な境遇にあるとき、楽になる方法は、自分よりももっと悲惨な人を見て優越感を覚えることです。中国の情報戦は、そういう人間心理を巧みにくすぐっていませんか。

石平 毛沢東は文革時代、地主や知識支配階級の人権を奪い、社会の底辺に落とし込みました。その頃の地主の子供たちは大学に行けず、もちろんまともな就職もできません。なぜ、そんなことをしたかと言えば、被支配層の農民たちを満足させるため。農民たちは苦しい生活をしていても、自分たちよりさらに苦しい立場にある地主たちの惨状を見ると、ある程度の満足感を味わえるのです。

竹内 石平さんのご両親も知識人として文革の犠牲となられましたよね。しかし、ここまであくどいことを考える動物は自然界広しと言えどもさすがにいませんよ(一同爆笑)。動物の世界にも序列はありますが、それは無駄な争いを避けるため。確かに高い順位にいれば、いいエサにありつける確率は高くなりますが、順位がなくなれば、毎回争いごとが起こって、皆がへとへとになるだけです。実際に犯罪に相当する行為は、オスたちに順位がきちんとしていない場合に起きやすい。ですが、順位がきちんとしていると起きにくくなります。順位は、無駄な争いを防ぐだけでなく、犯罪の抑止力となる。
 もう一つ面白いのですが、鳥類の中には〝ノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)〟と似たような行動をとるのがいます。アラビアヤブチメドリがそうで、トップと2位の位置にあるオスは、常に仲間に食べ物を分け与える。さらに夜になると、みな枝に一列につかまって寝るんですが、両端が一番敵に襲われやすい場所なので、トップと2位が両端を陣取って仲間を守ります。ただ、さすがに繁殖行為だけはまわりに譲りませんけれど。

非人間的な共産主義

石平 鳥の世界のほうが、中国共産党政権より何十倍も〝人間的〟(笑)。毛沢東時代、農民たちの土地はすべて奪われ、人民公社の管理下に置かれます。だから、収穫物は自分たちのものにならず、最低限の食料だけが配分される。そういう管理下に置かれると、国民たちは徐々に政府に依存し始め、配給のときは感謝の意を示します。

竹内 マインド・コントロールされるのですね。一方で、毛沢東は贅沢三昧だったとか。

石平 それこそ酒池肉林です。毛沢東のために1週間の献立をつくる食事チームがあって、ある日は西洋料理のフルコース、別の日は満漢全席と日替わりです。そうやって贅沢する一方で、毛沢東は国民に向けて「むやみに食べる必要はない。繁忙期によく食べ、閑散期はお粥で凌げ」と言っている。しかも、毛沢東は食欲だけではなく、性欲すら統制しました。毛沢東時代、中国国民は実に禁欲的な生活を強いられていました。
 でも、国民が幸せを感じる瞬間が1年に1回あった。それが建国記念日(10月1日)です。なぜかと言えば、その前日、1世帯につき500グラムの豚肉が配給された。さらに、それと同時に30名の犯罪人の公開処刑を実施したのです。

竹内 ええ!?

石平 罪名は問いません。友人の父親は公安局に勤めていましたが、建国記念日の1週間前になるとにわかに忙しくなる。30名の銃殺者を揃えるために奔走するからです。処刑当日、1人ずつトラックに乗せられ、数時間にわたって市中を引き回します。残酷な話ですが、公開処刑を見たくて子供たちはワクワクしっぱなし。まるでサーカスが街にやってきたような感じです。

竹内 豚肉と一緒でプレゼントなんだ。でも、自分たちもいつか同じ目にあうとは思わないのですか。

石平 いや、むしろ「共産党には絶対に反抗しない」という気持ちのほうが強まる。

竹内 そういう話を聞くと共産主義の恐ろしさを実感します。共産主義は自然発生的なものではなく、マルクスという一個人の頭の中で観念的に生み出された思想です。共産主義の考える理想の社会を実現するためには、どうしても非人間的にならざるを得なくなり、歪んだ感情を引き起こしてしまうのではありませんか。

石平 おっしゃる通り。人間的な生き方を無視して無理矢理な支配装置をつくり上げてしまう。先ほど話した人民公社がまさにそう。かつての中国の農村は、その中で一つの共同体をつくり、相互扶助していた。ところが、人民公社によって、そういった伝統的な社会はすべて収奪・破壊されました。人民公社にいじめ抜かれた農民たちは、どんどん残酷になっていき、怒りの矛先は地主階級に向かっていく。

竹内 都市部も変わりませんか。

石平 知識人階級も地主と同じ目にあいました。しかも農村社会に追われ、農民たちよりも下の立場に追いやられたのです。農民たちはそういった知識人もイジメの対象にしました。文革が始まると、次の対象者は共産党幹部です。

竹内 際限がありません。共産主義者は「貧富のない社会」「平等」を口にします。でも、その「平等」の本質は一体何かと言えば、異性にモテない男子に平等に女を回せ、という意味ではないかと私は思うんです。中国共産党政権の歴代最高指導者の顔を見ても、どう考えてもモテるタイプが少ない。むしろ、そういうタイプだからこそ、共産主義に惹かれたのではないかと。

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歴史は繰り返す

石平 言い得て妙とはこのこと! 毛沢東がまさにそう。青年時代、大知識人になることを夢見ていました。さまざまな伝手を利用して、北京大学に潜り込みます。ですが、毛沢東の当時の学力では北京大学入学は夢のまた夢。そこで大学の図書館館長、李大釗が、同じ共産主義者の誼もあり、毛沢東を司書補に引き立てます。ですが、北京大学の学生たちは地位の低い毛沢東に目もくれません。女子学生も名家の出が多く、田舎出身の毛沢東など歯牙にもかけない。

竹内 非モテ男子だったのは間違いない。

石平 こういった屈辱的な経験を経て、毛沢東の思想の基礎ができ上がったと言っても過言ではありません。「いつか出世して、お前たちを支配下に置く」と。1921年、上海で中国共産党大会が開催されたとき、毛沢東は参加、共産党に深くかかわるようになり、頭角を現していきます。
 結果的に中国の最高指導者の立場になると、歴代の皇帝と同じようなことをします。まずは手当たり次第、女性を自分のものにする。そして、もう一つ、知識人を徹底的に弾圧したのです。

竹内 毛沢東革命は、いわば彼の個人的なルサンチマン(怨念)を晴らすためにあった。高邁な理想の実現に燃える革命精神なんて、どこにも見当たりませんね。

石平 毛沢東の良き相棒として周恩来がいます。政治的女房役として死ぬまで毛沢東に尽くしました。文句を一切言わず、イジメられても逃げ出さない。毛沢東からすると、これほど都合のいい僕はいません。その証拠に毛沢東は劉少奇や林彪、鄧小平らを政治的に迫害弾圧しましたが、周恩来にだけは一度も手を出していない。

竹内 いわば宦官のような存在だったんですね。歴代皇帝の世界と何ら変わりません。

石平 そのように見ると、歴史は繰り返しているとも言えます。『石平の裏読み三国志』(PHP研究所)を上梓しましたが、今の世界の指導者を三国志の英雄になぞらえると理解しやすい。たとえば、曹操はトランプ大統領だと思います。曹操は宦官の家系に生まれ、大きなコンプレックスを持っていた。そのため、漢の時代で国教となっていた儒教の考えに反抗し、勢力を広げていく。トランプもいわば革命児。アメリカの既成概念をひっくり返して、世界を驚嘆させている。そういう意味で曹操の生き方に近いな、と。

竹内 習近平は誰ですか。

石平 袁紹(えんしょう)です。袁紹は名門出身ですが、優柔不断と先見性のなさで、最後は曹操に敗れます。

竹内 確かに習近平と似ていますね。共産党の高級幹部出身ですし、政治的な決断力は弱い。

石平 わかりやすいでしょう。

竹内 生き物は智慧を絞って生き抜いています。たとえば、セアカゴケグモのメスは交尾の最中、オスを食べてしまうことがある。だから「後家」なんですが、クモは大人になるまで何回も脱皮を繰り返します。そこでオスはメスが最終脱皮する直前を狙うのです。なぜなら、その段階だとメスの体は柔らかいうえに、まだ凶暴ではありません。オスは精子を触肢にのせ、メスの体を突き破って送り込みます。そういうやり方と普通の交尾との二段構えで繁殖します。

石平 人間の場合は、生存本能よりも自分のコンプレックスを優先させて、多くの人間を殺し、苦しめることがある。

竹内 権力者の立場になると、そういう〝悪〟を平然とできてしまう。

石平 ヒトラーがそうでしょう。美術家になっていたら、のちのナチスドイツは存在しなかったかもしれません。毛沢東も北京大学に合格していたら、中国人民は塗炭の苦しみを味わうことはなかった。私は北京大学出身なので、大学の籍を毛沢東に譲りたい気分です(笑)。

竹内 でも、別の毛沢東が生まれていたのではないでしょうか。

石平 共産主義革命は平等を目指していますが、結果的に生まれたのは不平等社会でした。90%の人々が貧しく、9%の人間が特権を握り、残りの1%が権力を濫用する。本当に不自由な社会なのです。

竹内 そんな中国共産党の実態を、多くの日本人が認識すべきです。コロナ禍における情報戦に負けないためにも、石平さんにはますます精力的に発信し続けてほしいと思います。
石 平 (せき へい)
1962年、中国四川省成都生まれ。北京大学哲学部卒業。四川大学哲学部講師を経て、88年に来日。95年、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関に勤務の後、評論家活動へ。2007年、日本に帰化。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』で、第23回山本七平賞受賞。『米中「冷戦」から「熱戦」へ』(藤井厳喜氏との共著、ワック)等、著書多数。2017年より自身のツイッターで本格的に写真作品を発表し好評を得ている。
竹内 久美子(たけうち くみこ)
1956年、愛知県生まれ。1979年、京都大学理学部卒。同大学大学院博士課程にて動物行動学を専攻する。1992年、『そんなバカな! 遺伝子と神について』(文春文庫)で第8回講談社出版文化賞「科学出版賞」受賞。ほかに、『フレディ・マーキュリーの恋』など多数。共著に『「浮気」を「不倫」と呼ぶな』(川村二郎氏との共著/ワック)がある。

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