歴史的大事件

藤井 チャイナ発祥の新型コロナウイルス(新型肺炎)問題、当初はSARSやMERS程度だと思われていましたが、まったく違う様相を呈しています。何よりも感染者と死亡者数の規模が違う。

石平 いずれ教科書に掲載されるほどの歴史的な大事件ではありませんか。人的被害は最小限にとどまってほしいですが、被害は拡大する一方。

藤井 ハッキリ言って、政治的・経済的、そして国際関係的に大変インパクトのある事件です。新型肺炎の原因となるウイルスの正体は、その発生が謎に包まれています。

石平 コウモリなど野生動物関連の食品からとか、武漢の海鮮市場近くにある生物化学研究所から漏れたという話もある。

藤井 核兵器や化学兵器は使用した跡が残ります。ところが、生物兵器は自然発生と判別しにくい。ウイルスの感染症は伝播力が高いので、国防レベルの問題として対処しなければなりません。チャイナが開発したウイルス兵器が漏洩したという疑惑は、依然濃厚です。

石平 今回、ここまで広がってしまった原因は、取りも直さず中国共産党の独裁体制にあります。新型肺炎が発見されたのは去年の12月。

藤井 武漢の眼科医、李文亮氏がインターネットを使って告発していました。

石平 ところが、地元武漢のメディアや中国中央電視台(CCTV)が「デマの流布者」と報じ、警察は李氏を訓戒処分した。つまり、公共の電波が公安の処分を鵜呑みにして市民にウソの情報を流し、隠蔽工作に手を貸したと言っても過言ではありません。

藤井 中国共産党の墓穴です。結局、李氏は33歳という若さで死亡してしまった。

石平 問題が拡大してから、中国共産党中央政府は李氏の死に哀悼の意を表明しました。李氏の名誉回復を示唆することで国民の憤懣を和らげ、事態の沈静化を図る狙いがあるんでしょう。香港大学医学院の梁卓偉院長によると、新型肺炎の蔓延は4月~5月がピークを迎え、6月ごろには収束を迎えるという予測を示しています。

藤井 台湾人医師、林建良氏は、「チャイナでは、感染者の死亡率は10人に1人の可能性がある」という見解を示しています(2月15日時点)。武漢から日本に帰国した日本人の感染率は1.42%でした。チャイナの衛生状況を考えると、チャイナではその倍の3%ほどと考えられます。これらの数字を勘案して、チャイナ国内には1000万人近くの感染者がいると推定できる。1%の死亡率だと、100万人が亡くなる計算です。

石平 でも、中国共産党は正確な数字を発表することはないでしょう。

藤井 共産党の本質からして、彼らは必ず情報を隠蔽します。スペイン風邪と同じ状況になると仮定したら、現在、世界人口は70億人ですから、1億8000万人が死ぬ計算です。100年前、第1次世界大戦末期、スペイン風邪が大流行しました。世界で5000万人も死んでいます。

石平 信じられない数です。

藤井 当時の世界人口は19億人ですから。なぜ、ここまで被害が拡大したかというと、戦争中だったため、戦意喪失を怖れて各国が箝口令(かんこうれい)を敷き、正確な情報を伝えなかったためです。今回も似たような構図です。

見捨てられた武漢

石平  武漢市は1月の時点で、人から人へ伝染することはないとウソの見解を伝えました。この情報を聞いて、武漢市民は安心しきってしまった。春節前だったため、「万家宴」が開かれたのです。これは各自の家から一品料理を持ち寄って、市内の大ホールで数万人が参加する大宴会のことです。

藤井  ウイルスに絶好の伝染の場を与えてしまいました。

石平  武漢市は実体を把握していながらも、宴会を中止させなかった。その一方、武漢市政府が中央政府に事態を報告して対応策を仰いだが、中央政府によって握りつぶされた。政権は全く機能していないことは明らかです。そして、人命を軽視した政権であることも判明しました。90%以上の患者は検査を受けていません。その理由は、感染者が多すぎて、病院がパンク状態になっていることが一つ。もう一つ、中央政府の命令で武漢市内の公共交通機関がすべてストップした。自家用車も使えません。

藤井 まさに〝陸の孤島〟で、「死城」とも言われています。中央政府は武漢を見捨てたのではないですか。

石平 武漢市は大都市です。感染した高齢者で、特に貧困層は政府が指定した大病院に行く手段が絶たれている。中央政府にしてみれば、そういった人たちは感染者から排除されます。さらに死亡しても、死亡者数に数え上げられない。

藤井 新型肺炎で亡くなったと見なされないわけですね。元警視庁の坂東忠信氏によれば、武漢周辺にはカラスが空で群れをなしている光景がよく見られるとか。つまり、武漢市内の路上で死体がそのまま放置されている可能性があります。
 チャイナのように共産主義的で、開かれていない情報統制社会だからこそ、初期対応を誤ったと言えます。ソ連時代におけるチェルノブイリ原発事故も似たようなものです。その前にもソ連の原子力潜水艦が沈没する事故も発生していたのですが、情報を隠蔽し、事故原因などの情報共有がなされていなかった。そのため、体制を崩壊に導く最後の破滅が発生したのです。

石平 教訓を生かし切れていない。

藤井 テレビのコメンテーターがSARSの教訓が生かされないのはなぜかと不思議がっていましたが、答えは簡単です。それは共産党だから。情報公開や情報共有などするわけがありません。習近平はむしろ情報統制をますます強めるでしょう。

石平 中国国民の間ですら、さすがに今回の件で情報や言論の自由を求める声が高まっています。中国共産党の隠蔽体制によって、ウイルス拡大の情報が国民に伝わらずに感染の拡大を招いた。中国共産党体制の危険性を再認識すべきです。そうでなければ、たとえ新型肺炎が収まったとしても、またいずれ同じような状況になる可能性が高い。

藤井 ウイルス性の感染症はたとえ一度制圧できても、ウイルス自体が進化しますから、再び爆発的に蔓延する可能性を秘めています。現在のところ、蔓延を防ぐ方法は1つ、隔離しかありません。武漢で1000人単位で収容できる病院をつくりましたが、これは隔離施設です。治療施設ではありません。

石平 治すつもりはない。軍が運営・管理している時点で推して知るべしです。中国共産党体制の矛盾が噴き出しています。私は習近平体制を批判し続け、それが中国をいつ潰すかと待ち焦がれていました。おそらくこの新型肺炎が、習近平政権転落のきっかけになるんじゃありませんか。

終わりの始まり

藤井 中国共産党の終わりの始まりでしょう。これほど深刻な疫病にもかかわらず、日本政府の初期対応は甘すぎると言わざるを得ません。台湾の場合は1月24日に会議を開き、なんと翌日25日午前零時からチャイナへの団体旅行を禁止しました。27日にはチャイナから台湾への観光ビザの発給停止を決定しています。台湾を旅行中のチャイニーズ観光客、308団体、5499人を、台湾政府は31日までに強制出国させました。

石平 迅速な対応です。

藤井 台湾の反応が早かったのは、独立路線の蔡英文が再選したことが大きかった。台湾の人口は2300万人、片やチャイナは14億人います。台湾でもし100万人死んだら、国家的大損失です。つまり、台湾としては国防問題として対処するほどのインパクトがあったし、アメリカから正確な情報が入っていたのでしょう。

石平 同盟国である日本にも同様な情報を与えているはずなのに、実に生ぬるい対応だった。断固とした措置を取らない安倍政権に対して、半ば絶望したほどです。

藤井 フィリピンでも、武漢から来たチャイニーズ旅行客が約500人いたそうですが、チャーター便を利用して、早速、強制送還しています。そう考えると、日本の対応は甘すぎます。アメリカの対応は早い。武漢だけでなく、チャイナ全土から入ってくる人間を入国拒否しています。1月31日のことです。もちろんチャイナへの渡航も禁止です。英国も同様の措置を取りました。

石平 人的交流がストップしました。断固とした措置ですね。

藤井 ところが、日本の企業の中には、新型肺炎が蔓延している中、チャイナに出張しろと言っているところもあります。

石平 それこそブラック企業ではありませんか(笑)。

藤井 防疫上、感染の疑いがある人を入国させない措置をとるのは仕方がない。

石平 実際に始まっています。

藤井 日本企業がチャイナに送った社員は、アメリカと商取引することができなくなります。将来的な希望もあって、チャイナ市場に期待をかけて進出していますが、チャイナはそんなに甘くない。チャイナ国内で得た利益は外に持ち出すこともできません。チャイナ幻想を払拭しなければ、日本企業は致命的です。会社から出張を命じられても、社員は仮病を装ってでも拒否すべきです。それと大分市や水戸市が武漢市にマスクを大量発送しましたが、そんなことはやめたほうがいい。結局、一般市民の手許に届かず、役人が横流しをして私服を肥やすに決まっていますから。

破壊的な変化

石平 これから4カ月間、同じ状況が続くようであれば、中国経済は果たしてどうなるか。

藤井 潰れるしかありません。

石平 都市機能、製造・生産・消費活動が完全に麻痺します。武漢だけでなく900万人の大都市である温州も外出禁止令が出されている。さらんに北京、上海、重慶、天津の直轄4市も同様の措置がとられています。

藤井 破壊的な変化が生じるに違いありません。

石平 大手の外資系企業は中国の安い労働賃金目当てで、大工場を大都市に建設しています。経済はボーダーレス化し、国境を越えてグローバル化を目指すことが当たり前でした。国家の体制などどうでも良かったのです。

藤井 独裁であろうが、人権無視であろうが、稼げれば何でも良かった。

石平 ですが、トランプ政権になってから、中国と経済戦争を始め、高関税を課すようになった。無論、大企業は反対の声を上げます。中国経済の力がなければ、世界経済は立ち行かなくなると。日本企業もおおむね同じ声を上げています。ですが、今回の新型肺炎によって、これまで資本主義社会がつくり上げてきた経済循環システムが一瞬にして壊滅する。

藤井 チャイナ国内で部品を調達、製造し、流通させる─こんなやり方はもう限界に来ています。

石平 中国とともに道連れになるか、それとも中国から脱出し、新しいサプライチェーン(供給網)を再構築するか。この二者択一になるでしょう。

藤井 そもそもアメリカ企業はチャイナに渡航すら禁じられていますから、商取引などできません。米中経済戦争が始まって以来、アメリカとしては世界からチャイナを孤立させる方策を進めていました。

石平 「デカップリング」(分離)です。

藤井 相互依存を逆転させる意図ですが、今回の件で否応なくその方向に進んでいくでしょう。チャイナは、ボーダーレス経済を上手に利用して経済発展してきたのです。でも、新型肺炎問題によって、この流れが完全に逆転する。以前、『国境ある経済の復活』(徳間書店)というタイトルの本を出しましたが、「国境ある」経済を打ち建てられない国家は、これから発展できないという意味を込めています。

石平 まさにそういう時代です。

藤井 主権・独立を再構築できる国家だけが繁栄と安全を確保することができるのです。裏を返せば、チャイナの経済規模は縮小していかざるを得ません。

石平 新型ウイルスが収束過程に入っても、相当な経済的ダメージを被っています。

藤井 GDPは30%ほど落ちるのではありませんか。グローバリズムからアンチグローバリズムへの流れは、トランプ大統領の誕生やブレグジットなどで始まっていたのですが、新型肺炎によって加速していくのは間違いありません。各国は国境を守り、人や物の出入りを管理する。アメリカにとって非常に有利な風が吹いています。

石平 アメリカはハイテク技術が中国に流出することに必死で食い止めようとしている。

藤井 チャイナは「1000人計画」を進めています。これは海外のハイレベル人材をリクルートするプログラムで、チャイナの技術発展に貢献してもらう意図があります。そんな中、チャイナ系米国籍物理学者で、スタンフォード大学の張首晟教授が急死しました。彼は「千人計画」の一人に選ばれており、投資会社ダンファー・キャピタルの創業者でもあり、大変優秀な人材でした。一方でファーウェイと距離が近い人物であり、自殺とみられていますが、さまざまな疑惑が取りざたされています。さらにハーバード大学化学・化学生物学部の学部長で、ナノテクノロジー研究の第一人者、チャールズ・リーバーも逮捕されています。「1000人計画」への関与を聞かれたとき、米国防総省の調査官に対し虚偽の回答をしたためです。

石平 中国と癒着している人間は、その最後に悲劇が待っている。

まさに〝神風〟

藤井 トランプ政権の商務長官、ウィルバー・ロスが、興味深いコメントを残しています。彼はテレビ番組「FOXビジネス」(1月30日放送)に出演したのですが、「中国を襲った非常に不運な災難から、利益を得るような話をするつもりはないが、実際問題として、この事態が経済活動に別の要素をもたらすことになる。感染拡大により、北米に雇用が戻ってくる効果が期待できる。メキシコもその恩恵を受けるかもしれない」と。これが、トランプ政権の本音ではありませんか。

石平 まさにその通りでしょう。

藤井 日本と縁が深いロスがこのような見解を述べたわけですから、日本人は彼の意見に耳を傾けるべきです。アメリカは意図的に今の状況を利用して、チャイナを世界から分離、相互依存関係を解消する動きに出るに違いありません。

石平 日本も中国を絶ち切る!

藤井 相互依存の関係を早急に見直すべきです。パラダイムシフトをしなければ、新しい繁栄の形から見放されてしまう。日本企業は悲劇的なまでにチャイナ依存です。トヨタ自動車やホンダをはじめ、日本を代表する大企業がチャイナでの研究開発費を増やし、設備投資を拡大しようと言っているほどですから。一番危険なのはパナソニックです。中心的な家電部門をチャイナに移管すると言っています。そんなことをしたら、日本の国益を蝕む企業となり果ててしまう。

石平 でも、今回の一件でそんな計画も水の泡ですよ。

藤井 まさに〝神風〟が吹いたと言ってもいい。工場も再開のメドが立っていないのですから、今こそ移転も含めて脱中国すべきです。チャイナを孤立させることが、今とるべき最善の方途です。〝逆万里の長城〟ではありませんが、外側からチャイナを封じ込めるための壁をつくる。そして、習近平の国賓待遇招待も無期延期にするべきです。

石平 事前の準備会合の日程すら決まっていません。全人代ですら延期の方向で調整しています。訪日するような余裕は中国にないでしょう。

藤井 夏の東京五輪は小規模にならざるを得ません。チャイナは大規模な応援団はもちろん、選手団すら送り込むことが難しいでしょう。旅行客も減少するでしょうが、観光立国云々などと言っていられません。

石平 命の危険に曝されているわけですから。

藤井 小規模になろうが、清潔で安全な東京五輪を志向すべきです。

石平 それが本来の五輪の精神に則っていると思います。世界が手を携えて協力すべきです。そうせざるを得ない。拡散が収まるまで、冷静に考える時です。中国と離れたからといって日本経済が潰れることはない。十分対応できます。歴史的な面も含めて、今一度、中国との関係を見直す。

藤井 ピンチはチャンスと言うように、今回の新型肺炎は、チャイナを再び封じ込めるチャンスです。後々、振り返ってみると、日本にとって大きな飛躍のきっかけだったと評価されるでしょう。

石平 中国人民にも問いたい。このまま中国共産党体制でいいのかと。中国共産党体制こそ最悪の〝ウイルス〟であることに、中国人民も気付いたのではありませんか。この蔓延から世界は一致団結して自由と民主を守らなければなりません。

藤井 チャイナが民主的国家を形成するのであれば、いつでもお付き合いします。その体制が誕生してはじめて日中友好の関係が築ける。今回の新型肺炎が歴史の分水嶺になるでしょう。

石 平(せきへい)
1962年、中国四川省成都生まれ。北京大学哲学部卒業。四川大学哲学部講師を経て、88年に来日。95年、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関に勤務の後、評論家活動へ。2007年、日本に帰化。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』で、第23回山本七平賞受賞。『米中「冷戦」から「熱戦」へ』(藤井厳喜氏との共著、ワック)等、著書多数。2017年より自身のツイッターで本格的に写真作品を発表し好評を得ている。

藤井 厳喜(ふじい げんき)
1952年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。77~85年、アメリカ留学。クレアモント大学院政治学部(修士)を経て、ハーバード大学政治学部大学院助手、同大学国際問題研究所研究員。82年から近未来予測の「ケンブリッジ・フォーキャスト・レポート」発行。株式会社ケンブリッジ・フォーキャスト・グループ・オブ・ジャパン代表取締役。古田博司氏との共著『韓国・北朝鮮の悲劇 米中は全面対決へ』、石平氏との共著『米中「冷戦」から「熱戦」へ』(ともにワック)など著書多数。

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