中国のミサイルと酷似している!?

 日本の総裁選投票日の前日の9月28日、北朝鮮は新型ミサイルの発射実験を行った。
 9月11、12日には巡航ミサイルを、9月15日に弾道ミサイルの発射実験を行っており、総裁選の最中に北朝鮮は立て続けに4回も新型ミサイルを発射した事になる。

 9月28日のミサイルについては、韓国軍が「飛翔距離200キロ弱、高度約30キロ、飛翔速度およそマッハ3」と発表した。
 そして北朝鮮メディアである労働新聞や朝鮮中央通信は9月29日、このミサイルについて驚くべき発表を行った。

・9月28日に極超音速ミサイル「火星-8号」の発射実験を行った
・この飛翔実験では、分離された「極超音速滑空体(HGV)」の誘導機動性と滑空飛行の特性をはじめとする技術的データを確認した
・極超音速滑空体の燃料系統とエンジンの安定性を確認した

「極超音速滑空体(HGV)」とは、マッハ5以上の極超音速で変則的な軌道を描いて飛翔する弾道ミサイルや巡航ミサイルの総称で、日米欧のミサイル防衛システムでの迎撃を困難にする、厄介な最新型の兵器だ。

 9月29日の発表に際して北朝鮮は、1枚の写真を発表している。
北朝鮮が発表した1枚の写真

北朝鮮が発表した1枚の写真

 軍事ブロガーJSF氏は、この弾道部分の明度を上げた写真をブログ内で公開している。
軍事ブロガーJSF氏による写真解説

軍事ブロガーJSF氏による写真解説

 この写真では、ミサイルの弾頭部分に小さな角翼がついているように見える。HGVはこうした翼を制御して、変則的に飛翔する事から、北朝鮮の「HGVの発射実験」という発表に一定の信憑性(しんぴょうせい)を与えた。
 実際この角翼は、中国が開発しているDF-17という弾道ミサイルを改良したHGVの角翼の形状に酷似していた。
中国が開発している弾道ミサイル「DF-17」①

中国が開発している弾道ミサイル「DF-17」①

中国が開発している弾道ミサイル「DF-17」②

中国が開発している弾道ミサイル「DF-17」②

 また、金正恩委員長は今年1月「極超音速滑空飛行前頭部の開発、導入をする」と宣言していた。
 これを受け、日本の各メディアは、

「北朝鮮がHGVの開発に成功」
「日米のミサイル防衛システムを無力化する技術」

 などと、あたかも北朝鮮がHGVの発射実験を行い、これに成功したかのような報道を繰り返した。

◆ロイター
北朝鮮、28日に新型極超音速ミサイルの発射実験実施
https://jp.reuters.com/article/north-korea-kcna-idJPKBN2GO2F5

◆フジテレビ
日本の防衛で迎撃困難か」極超音速ミサイル発射報道 従来の弾道ミサイルとの違いは?
https://www.fnn.jp/articles/-/245915

中朝を利するだけの報道

 ところが、少しでもHGVのことを知っている人間からすれば、「北朝鮮がHGVの発射実験に成功していない」のはすぐにわかる。

 まず、HGVは「マッハ5以上の極超音速で飛翔する」ミサイルである。ところが、韓国軍の発表では、9月28日のミサイルはマッハ3しか出ていない。
 さらに、このミサイルは射程6000キロの火星12や10000キロ超の火星14など、北朝鮮がこれまでに発射してきた大型のミサイルに形状や大きさがよく似ている。

 火星12は2017年5月から9月にかけて3回連射され、このうち8月と9月には北海道上空を飛び越えて襟裳岬の東沖の海上に落下した事から、Jアラート(全国瞬時警報システム)が作動するなど大騒ぎになった。
 火星14は同じ2017年7月4日に発射実験を行った北朝鮮初の大陸間弾道ミサイルであり、推定の射程は10000キロに達する。
 ところが、9月28日のミサイルの飛行距離はわずかに300キロ。その図体やロケットエンジンの出力に比べて飛んだ距離が短すぎることから、

・発射実験が失敗したか
・北朝鮮の発表した写真がニセモノか

 のどちらかと推定される。
 
 だから、アメリカの国防省報道官は、「米軍や同盟国に対する差し迫った脅威ではない」と表明。
 韓国軍も「開発の初期段階で、実戦配備には相当な期間が必要とみられる」との分析結果を公表。現時点では「探知と迎撃が可能」としている。
 もし、北朝鮮がHGVの発射実験に成功したのであれば、日米韓のミサイル防衛システムでは迎撃は不可能で、日米韓の軍事当局に重大なインパクトを与える。米韓の軍当局が平静を保っていることからも、9月28日の実験が失敗だったのは明らかである。

「敵基地攻撃能力」は昭和の概念?

 北朝鮮がミサイル実験を繰り返す最中、自民党総裁選への出馬を表明した河野太郎は17日の記者会見で、驚くべき発言を行った。
 弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する敵基地攻撃能力について「おそらく昭和の時代の概念だ」と述べた。

 かつての弾道ミサイルは、ノドンやテポドンのように、露天の発射台に据え付けられてから発射まで何日もかかっていたので、「敵基地攻撃能力」を持っていれば発射される前に破壊することは極めて容易だった。
 その後「TEL車輌」という移動式の発射台が主流となり、テポドン型の発射台という意味での「ミサイル基地」という言い回しが陳腐化したのは事実である。
 だからこそ、米欧と中露は、早期警戒衛星の赤外線センサーによってミサイル発射の端緒を出来るだけ早くキャッチするなど、新しいミサイルの迎撃確率向上に鎬(しのぎ)を削ってきた。
 さらに、その後のミサイル技術の革新的進歩で、ミサイル防衛は新たな段階を迎えている。日米のイージスシステムによる迎撃能力を掻い潜るように、変則軌道で飛翔するミサイルが次々と開発されているのだ。

 世界に衝撃を与えたのが、ロシアが2018年に発射実験を行ったHGV「アヴァンギャルド」である。マッハ20~27という極超音速で、上空100キロの大気圏の外と内の空気密度の違いを利用して、バウンドするように滑空を繰り返し、地球のどの地点から発射しても任意の地点まで変則軌道で到達し、標的の近くで再び大気圏内に突入し、目標を攻撃する。

 HGVでなくとも、変則軌道によって迎撃が難しくなっている弾道ミサイルがある。
 北朝鮮が今年3月25日に発射した2発の弾道ミサイルについて岸防衛大臣は、
「これまでに発射されたことがない新型の弾道ミサイル」
 と述べた。

 変則的な軌道を描くロシアの弾道ミサイル「イスカンデル」の改良版と見られている。このミサイルのように、低空で飛行し変則的な軌道を描くミサイルは、ひとたび発射されてしまえば、その後の迎撃は極めて難しい。
  だからこそ、現代のミサイルは発射されて変則軌道に入る前に、ミサイル本体かミサイルの発射システムを破壊しなければ、日本の国土を守ることはできないのだ。安倍晋三元首相が2020年の退任間際に、「敵基地攻撃能力の開発の必要性」を強調したのもこのためだ。
 ここでいう「敵基地」とは、もちろんテポドンの発射台のようなものに限定されない。移動式発射台が主流になって以降の攻撃対象としての「敵基地」は、大きく分けて3つある。

①敵国の政治、経済の中枢
②発射司令施設、通信施設
③発射準備中のミサイル本体

 この意味で、最近は軍事関係者の間では「敵基地攻撃能力」ではなく、「ミサイル抑止力」という言葉が使われることも増えてきた。
 もはや、発射直後のミサイルか、さもなれば敵国のミサイル発射能力そのものを破壊するかしか、日本の国土は守れないのだ。

 こうした状況の中で、外務大臣と防衛大臣を歴任した河野太郎が「敵基地攻撃能力は昭和の概念」と言い放った。
 これでは、日本の総理大臣候補が、「敵基地」という言葉のレトリックを悪用して、「自力で国土と国民を守る意思を放棄した」と取られても仕方あるまい。
河野太郎議員の安全保障観とは一体――!?

河野太郎議員の安全保障観とは一体――!?

「国防放棄政治家」と北朝鮮の連携

 ここで、1つ重大な疑問が提起されねばならない。北朝鮮は9月28日のミサイルについて、なぜ「HGVの発射実験成功」という、すぐにバレるウソをついたのかということである。
 北朝鮮が今年9月に入って発射したのは、超低空を飛行する巡航ミサイルや、移動中の列車から発射するミサイル、そして変則軌道のミサイルなど、日本のミサイル防衛システムを無力化する事を目的とした新型ミサイルばかりだ。

 日本の総裁選が佳境に入る中、北朝鮮としては日本が北朝鮮本土を攻撃する能力を獲得する議論が活発化することは何としても避けたいはずだ。
 そこで北朝鮮が決行したのが、イージスシステムを無力化する新型ミサイルの連射であり、その性能の水増しだ。
 「もうミサイル防衛や敵基地攻撃などは無駄だから諦めなさい」という、明確なメッセージを、総裁選最中の日本に送ってきたのだ。
 北朝鮮が新型ミサイルを連射する中、総裁選候補だった河野太郎は「敵基地攻撃能力は昭和の概念」と述べ、野田聖子は「抑止力の前にあるのが最善の外交だ」と述べた。
 北朝鮮にしてみれば、この2人こそ理想の日本の首相だろう。何しろ、北朝鮮の急速なミサイル技術の向上に対して、現段階で事実上唯一の有効な軍事的手段である、敵基地攻撃能力獲得を、検討すらしないというのだから。

 河野太郎を巡っては、祖父・河野一郎、父・河野洋平から3代続くファミリー企業「日本端子」が、河野太郎外相時代に中国事業を拡大していたことが判明した。
 野田聖子については、夫が日本に帰化した朝鮮人で、10年間にわたって会津小鉄会という指定暴力団の組員だったと、今年4月に裁判所に認定された。
 ところが、総裁選期間を通じて、この2人の決定的とも言えるスキャンダルはほとんど報道されず、今では河野太郎は自民党広報本部長、野田聖子は少子化担当大臣に収まっている。

 敵基地攻撃能力という、日本の国土防衛に避けて通ることのできない喫緊の課題を封印し、日本をターゲットとする数百基もの核ミサイルを配備している北朝鮮や中国を結果として利する政治家。
 そして彼らのスキャンダルを国民に伝えようとしないメディアが、まるで「もう北朝鮮や中国のミサイルを防ぐ手立てはない」かのような報道を繰り返す。
 もはや、日本国の国土と国民を核ミサイルの危機に晒(さら)している主犯は、大手メディアの偏向報道であると断定せざるを得ない。
野田聖子議員にも数々の疑惑が取りざたされているが……

野田聖子議員にも数々の疑惑が取りざたされているが……

山口 敬之(やまぐち のりゆき)
1966年、東京都生まれ。フリージャーナリスト。
1990年、慶應義塾大学経済学部卒後、TBS入社。以来25年間報道局に所属する。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部所属。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月、TBSを退職。
著書に『総理』『暗闘』(ともに幻冬舎)、新著に『中国に侵略されたアメリカ』(ワック)。

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この記事へのコメント

町娘 2021/10/9 11:10

10月9日の東京では放送されていない番組「正義のミカタ」で辺真一が「北朝鮮は北朝鮮国内の捜索をOKしてる。反対してるのは日本の拉致被害者団体」かのような発言をしていました。数カ所のチャンネルがYouTubeに上げているので確認してみてください。

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