その内容は、今年6月に閉幕したウイグル人権問題に関する対中批難決議が採択されなかったのは、背後で様々な公明党の妨害行為があったからだと暴露するものだった。
この寄稿の後、この選挙区の世論調査で不思議な事が起きた。それまでは対抗馬である維新の新人候補を相手に健闘していた長尾氏の支持率が、ガクンと低下したのだ。
長尾氏は、特に公明党と敵対するような主張を繰り返しているわけではない。ただ、日本の国益を守るという観点と、抑圧されているウイグル人など少数民族の人権の観点から、「中国にNOと言える日本」になるべきであるという点については、他の議員よりもはっきりとした発信と行動を展開してきた。
中国「国防7校問題」を初めて指摘した長尾氏
菅前首相の遺した功績の一つに、日本学術会議という団体の異常性にスポットライトを当てた事が挙げられる。学術会議側が指名した6人の学者の委員任命を拒否する事によって、学術会議という組織が多くの親中派と共産主義者によって深刻に汚染されている事を白日の元に晒したのだ。
日本学術会議は、日本の軍事技術向上に資する研究を徹底的に拒絶している。これに対して、実は日本の多くの大学が中国の人民解放軍の軍事力増強に直接的な協力をしているという衝撃的な事実を、絶妙なタイミングで暴いたのが長尾氏だった。
・北京航空航天大学、
・北京理工大学、
・哈爾濱(ハルピン)工業大学、
・哈爾濱工程大学、
・南京航空航天大学、
・南京理工大学、
・西北工業大学で、
これらの大学は中国政府の国務省傘下で防衛政策を統括する「国家国防科技工業局」の管轄下にある。
長尾氏は以下のように指摘している。
「国防七大学は教育機関というよりも、中国政府および中国軍と完全に一体化した研究機関なのです。たとえば哈爾濱工業大学の国防関連の研究費は年間4億6900万豪ドル(約390億円)、これはオーストラリアの防衛省の科学技術予算に匹敵する額です。一大学でそれほど莫大な費用をかけて国防関連の研究をしている点は看過できません。
七大学の卒業生の30%弱の1万人以上が、中国の防衛研究部門に就職。それ以外でも軍艦、軍備、軍用電子機器を専門とする複合企業、つまりファーウェイやZTEといった企業に就職しているようです。
当然、人民解放軍の装備開発にもかかわっていて、そのうち北京航空航天大学と哈爾濱工業大学、西北工業大学の3校は大量破壊兵器開発に技術を転用される虞れがあるとして、経済産業省の『外国ユーザーリスト』に掲載されています。ちなみに、中国ではその他に65機関がリスト入りしています。」
中国は日本の国土をターゲットとした1300基もの核ミサイルを実戦配備している国だ。
長尾氏が指摘したのは、端的に言えば「日本人を殺戮する兵器や戦術の開発に、日本の大学が加担している」という、恐るべき事実だった。
"票になりづらい" ウイグル人権法案や対中非難決議も推進
長尾氏が戦ったのは、公明党ばかりではない。二階俊博前幹事長ら自民党内の親中派と目される議員からも様々な抵抗と妨害にあった。
しかし、中国国内のウイグル、チベット、モンゴル等の少数民族の問題は、欧米各国の立法府では「今そこにある虐殺と虐待」という極めて緊急性の高い人権問題として非常に深刻に受け止められ、様々な非難決議が採択され、経済制裁も実施されている。
来年に迫った北京オリンピックのボイコットなど、自由主義陣営の政治家にとっては避けて通ることのできない喫緊の課題だ。
長尾氏のように、中国側の圧力を恐れずに問題提起する国会議員がいなければ、結局誰も国会で扱わず、日本は国際社会から「人権問題に鈍感な国」「中国の圧力に屈した国」の烙印を押される。
日本が国際社会での発言力を維持強化していくためにも、立法府で「自由・資本主義・法の支配」を守っていく意思を示す事は欠かせない。
公明党の「対中」スタンスは?
「公明党は、<生命・生活・生存>を最大に尊重する人間主義を貫き、人間・人類の幸福追求を目的とする、開かれた国民政党です」
そして、今回の総選挙に向けて発表した政策集で、下記のように明記した。
「現在、中国における人権や基本的自由の尊重について、国際社会から具体的な懸念が示されており、公明党としてもその懸念を共有しているところです。人権や基本的自由は、いかなる政治体制においても尊重されるべきものです。中国は透明性をもって説明し、国際社会に対する責任を果たすべきであると考えます」
今年3月の段階では、公明党の山口那津男代表は、中国のウイグル人に対する人権侵害をめぐり、記者団から対中制裁に踏み切る欧米諸国と日本が足並みをそろえるべきかどうか聞かれた際、
「わが国が制裁措置を発動するとすれば、人権侵害を根拠を持って認定できるという基礎がなければ、いたずらに外交問題を招きかねない」と、世界が認めた人権問題の存在にすら疑問を差し挟んだ。
そして海外での深刻な人権侵害行為に制裁を科すための法律「日本版マグニツキー法」に対しても、「日本にとってはいかがなものか。慎重に検討すべきと考える」と述べ、まるで中国政府の代弁者であるかのような発言を繰り返した。
山口代表は、公明党の中でも対中宥和姿勢が鮮明で、党内や創価学会の中からも反発の声が出ていた。
だから今回の選挙公約で、中国に人権問題が存在する事を事実上認め、懸念を表明したのは公明党としては大きな方針転換と言えよう。
長尾氏だけ推薦しない謎
ところが公明党は、今回の総選挙で、大阪の自民党候補者全員を推薦しているが、唯一の例外が長尾氏である。要するに、大阪では長尾氏にだけ、推薦を出していないのだ。
繰り返すが、他の政策分野で長尾氏が公明党と殊更に対立している事実はない。対中姿勢についてのみ、これまでの対中宥和的な公明党とは、噛み合わなかったのである。
公明党が選挙のための方便ではなく、本当に中国の人権問題に対して懸念を持つに至ったのであれば、長尾氏に推薦を出して、選挙でも共闘するはずだ。
ところが、これとは全く正反対の情報が出回っている。何と公明党と創価学会は今回、長尾氏の対抗馬である維新の候補を水面下で支援しているというのだ。最新号の週刊新潮では、こんな記事が出た。
もし、自民党と連立を組む公明党が、自民党公認である長尾氏ではなく、野党候補を密かに支援するのであれば、自公の選挙協力合意に明白に違反する利敵行為である。
それよりも深刻なのは、結果として「中国の引き起こしている人権問題に、日本が率先して対応すべき」と主張し具体的な行動を起こしている議員が、公明党の裏工作によって落選させられかねないという事態である。
説得力を増すCSISの主張
-アメリカが遂に日本政界の媚中派を名指し批判――二階氏や今井氏など(遠藤誉)
報告書の中でCSISは、
「中国との結びつきや思想的背景から、日本の仏教団体である創価学会と公明党が、彼らの提唱する平和主義的な思想から中国に同調的である」
「日中関係の回復と改善に向けて、公明党の竹入善勝党首は1971年6月に訪中した。公表された記録によれば、竹入氏は周恩来首相との会談で、中国共産党側の意向を汲み取り、日中国交正常化の共同声明に反映させた。」
とまとめている。
要するに公明党と創価学会は、歴史的経緯から中国共産党の代弁者として行動し、日本の政治に影響力を行使しているというのである。
CSISの指摘が事実なら、中国に対して毅然とした姿勢を貫いている長尾氏に公明党が推薦を出さないとしても、さらに密かに対抗馬を支援したとしても、驚くには当たらない。
これは大阪14区だけの問題ではない。例えばウイグル人権法案を積極的に推進した議員の選挙区で、おかしな事が起きていないか。そこに公明党が関与していないか。有権者としてしっかりと監視する必要ごある。
そして、万が一長尾氏をはじめとする国益のために勇気を持って行動する議員が公明党の不透明な行動により次々と落選するような事があれば、公明党と創価学会が、中国と中国共産党の日本侵略の尖兵として機能しているというCSISの主張が、選挙結果という動かぬ証拠を持って、はっきりと証明される事になる。
1966年、東京都生まれ。フリージャーナリスト。
1990年、慶應義塾大学経済学部卒後、TBS入社。以来25年間報道局に所属する。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部所属。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月、TBSを退職。
著書に『総理』『暗闘』(ともに幻冬舎)、新著に『中国に侵略されたアメリカ』(ワック)。