【山口敬之】「PCR至上主義」が招く日本の危機

【山口敬之】「PCR至上主義」が招く日本の危機

ダンマリの「K防疫」礼賛派

 12月に入ってから、日本のみならずアメリカや欧州でも武漢ウイルスの感染拡大が続いている。韓国では1日当たりの新規感染者が千人前後で高止まりし、累計感染者数は5万人に迫っている。文大統領は12日、非常に深刻な状況に陥ったと認め、「面目ない」と謝罪を余儀なくされた。

 このニュースを聞いて違和感を感じた方は、記憶力のいい人だ。今年2月以降、日本ではPCR検査の拡大を主張する勢力が引きも切らないが、彼らが常に模範例として示していたのが韓国だった。

 彼らの論理はこうだ。

・韓国ではPCR検査の体制が全土に行き渡っているために、武漢ウイルス患者の発生を早期に検知できる。
・ひとたびPCR検査で感染者検知すると、クレジットカード情報や携帯電話の記録を強制的に収集して感染前後の行動を把握できるので、感染拡大を未然に防ぐことができる。

 すなわち、PCR検査の大規模実施など防疫体制が整っている韓国は「制御不能なパンデミックに陥ることはない」と主張したのだ。

 2月中旬に始まった韓国での第1波が5月に収束すると、文在寅政権も組織的な武漢ウイルス抑え込みの成功を内外にアピールし、「K-POP」になぞらえて「K防疫」と名付け、世界に胸を張った。

「防疫当局と医療陣の献身と国民の協力が力になった。『K防疫』が世界標準になる」
「新たな市場開拓と国家地位向上のため、K防疫を経済協力を深める資産として活用する」

 車に乗ったまま受けられるドライブスルーPCR検査などの韓国式防疫体制を国際標準化機構(ISO)に認証申請をしたほか、韓国式を世界で導入させるため、発展途上国への4億ドル(約430億円)の支援を発表するなど、鼻高々だった。こうした韓国の発信をそのままオウム返しにしたのが、日本の「PCR至上主義者」だ。「韓国はPCR検査の大規模実施を軸とした防疫体制が確立されている」「システムで対応しているから、日本のような感染拡大には決して至らない」と声高に主張した。

 ところが今韓国が直面しているのは、親韓派PCR至上主義者の論理に従えば決して起きるはずのなかったパンデミックだ。特に深刻なのが感染者の75%が集中しているソウル首都圏だ。隔離病棟が払底し始めていて、隣接地域への救急搬送など「越境移送」が頻発する事態に陥っている。

「PCR至上主義者」の頰被り

 日本と韓国の対策の決定的な違いは、PCR検査の規模と実施対象だ。日本は医師が必要と判断した者、すなわち症状が出ている人を優先した。これに対して韓国は、1000カ所近い対応病院に加え、全国にあまねく配置したPCR検査センターや臨時のドライブスルー検査場を使って、症状のない人も含めて大規模なPCR検査を実施した。

 日本の新聞やテレビのワイドショーでは、「症状のない者にも検査を実施する韓国式にしてこそ、パンデミックを未然に防げる」と述べ、日本の抑制的な運用は「感染者隠し」と酷評した。

 ところが、感染拡大が起きないはずの韓国で、深刻なパンデミックが起きた。少なくとも、PCR検査の大規模実施が「パンデミック予防の決め手とはならない事」がはっきりと証明された。

 しかし、この期に及んでPCR検査の拡大を主張するものが絶えない。立憲民主党の小沢一郎は12月8日、ツイッターにこう投稿した。

「人口当たりのPCR検査数、日本は世界で151位。絶望的。」

 日本は人口当たりの感染者数が欧米の100分の1程度なのだから、感染が疑われる人を中心にPCR検査を実施した日本の検査数が他国より少なくなるのは当たり前だ。

 日本の死者は12月中旬で2700人余り。人口10万人当たりの死者は2.1人だ。30万人を超す死者を数えているアメリカは91.4人。世界最悪のベルギーは158.0人を数える。最も重視されるべき死者の比率で、日本は欧米の数十分の1という極めて低い数字に抑えることに成功している。

 コロナ対策は、PCRの検査数コンテストではない。WHO(世界保健機構)の複数の専門家も、抑制的なPCR検査とクラスター追跡を組み合わせた日本の武漢ウイルス対策を高く評価している。それでは、小沢は何に絶望しているのか。ツイートの続きに答えがあった。

「PCR検査を国民全員に行うべき。症状のある陽性者は入院、無症状者は隔離、陰性者は日常活動。これを原則とすべき」
twitter (3917)

小沢一郎氏 12/7日のツィート
via twitter
 国民全員にPCR検査を実施することは、全く意味がないだけでなく、社会を壊滅させる危険性すらある。これは名だたる国際的な学者・専門家が出した結論であり、最早世界の常識である。現在全国民への検査実施を主張しているまともな学者がいるなら、教えてほしい。

 なぜ全国民に検査をすべきでないのか。それは、「ニセ感染者」「ニセ陰性者」が大量発生するからに他ならない。症状のない人に検査をすればするほど、PCR検査の誤差が大きくなるのだ。

 小沢の言う通り全ての日本人=1億2481万人にPCR検査を実施すれば、次のような結果が出る。

 〇本来の感染者数が、現在の比率(18万7725人/1億2481万人=0.15%)として――

 ▶︎国民全員にPCR検査を実施すると、
 →PCR検査の感度は70%
 →18.8万人の感染者のうち5.6万人は感染しているのに「陰性」となる(偽陰性)

 ▶︎一方で、感染していない1億2481万人の1%が陽性と判断される(偽陽性)
 →約125万人が「ニセ感染者」となる

 簡単に言えば、本来の感染者は18.8万人なのに、全員検査では偽陽性の人が加わり、138万1000人あまりが「陽性」と判定されることになる。

 12月9日時点の現在のコロナ感染者用の病床確保数は日本全国で2万8000床足らず。軽症者・無症候者用の宿泊施設確保数は約2万4000室だから、合わせて5万2000人しか対応できない。そこに138万人の「PCR検査陽性反応者」が出現すれば、即「日本全国同時医療崩壊」が起きる。
 
 そして、小沢の言う通り「陰性者は日常生活」とするならば、検査で陰性という免罪符をもらった5.6万人の感染者(偽陰性の人)は、街を跋扈(ばっこ)して日本中にウイルスをまき散す。

「PCR至上主義者」が金科玉条としてきた韓国の「ウイルス制圧神話」は、この冬完全に崩壊した。ましてや「国民全員検査」など、日本を破壊するテロと断定するほかない。

 それでも、今なおPCR検査の大規模実施を執拗に主張する勢力があとを絶たない。国民の多くがウイルスに関する基礎知識を蓄えている中で、少し考えれば暴論とわかる主張を繰り返すのであれば、相当な覚悟をもって言っているのだろう。そこには、武漢ウイルス対策とは全く違う次元の、秘めたる悪意があるのではないかと疑わざるを得ない。
 (3918)

山口 敬之(やまぐち のりゆき)
1966年、東京都生まれ。フリージャーナリスト。
1990年、慶應義塾大学経済学部卒後、TBS入社。以来25年間報道局に所属する。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部所属。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月、TBSを退職。
著書に『総理』『暗闘』(ともに幻冬舎)がある。

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この記事へのコメント

ひまわりエッグ 2021/1/19 17:01

医療というのは、症状が出て、病院で医師に診断・治療してもらうもの。
それをPCR検査が万能のような扱いをして、医師を無視すること自体がナンセンス!
PCR検査は、RNAウイルスにもともと使用するものでないし、発明者は『感染症の診断に使用してはいけない』と明言していました。
なんとなく、医療を単なる金儲けの手段にしてるようで、嫌な気分です。

酷いね 2021/1/15 23:01

韓国 コロナで検索すれば
12月に一日900人台まで感染がひろまったのが
1月には500人台まで沈静化してんのにね。
編集部もチェックしないのかね。

酷いね 2021/1/15 23:01

韓国 コロナで検索すれば
12月に一日900人台まで感染がひろまったのが
1月には500人台まで沈静化してんのにね。
編集部もチェックしないのかね。

酷いね 2021/1/15 18:01

簡単な算数の問題で
「18.8万人の感染者のうち5.6万人は感染しているのに「陰性」となる。」
これは18.8万人は3割がスルーした後の数字、もしくは、濃厚接触から数日経って
正確に結果を出しやすい状態で検査した数字である。
また、擬陽性については、陽性と把握してのち無症状であれば複数回検査するであろうから
これに当たらない。

ホントに大学入学できたのであろうか?

タケチャン 2021/1/14 13:01

山口敬之氏は強姦事件の容疑者。
記事を書く前に事件に向き合うべきだ。

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