【山口敬之】8割オジサン理論の崩壊~恐怖を煽る言説と決...

【山口敬之】8割オジサン理論の崩壊~恐怖を煽る言説と決別せよ~

「8割オジサン」こと西浦博・京都大学教授
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 第3波は1月10日にピークアウトした。政府も大手メディアも明言を避けているが、感染者数が1月中旬以降減少基調に転じたことは、政府・各機関・大手メディアが発表した全てのグラフが明確に示している。
 例えば、日本全体の感染者数(添付図棒グラフ)を見ると、1月9日の7785人を最高値として、それ以降はギザギザとした微増微減を繰り返しながら全体としては明らかに下がり続け、1月24日以降は4000人を下回る日がほとんどで、ピーク時の半数程度に収まっている。1週間の平均値のグラフ(実線折れ線グラフ)はより明確に「1月10日ピークアウト」を示している。
日本国内の感染者数推移

日本国内の感染者数推移

via NHKウェブサイト
 一方、1月27日に開かれた参議院の予算委員会で政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、「緊急事態宣言を出した効果が今週末、あるいは来週初めに分かる」と述べた。

「国民の行動変容による感染抑止の効果は2週間から3週間後に出る」という前提での発言だからこそ、1月7日の1都3県への緊急事態宣言と、1月14日の2府5県への対象地域拡大の効果が出てくるのは、この原稿が公開される1月28日以降という計算になる。
 
 要するに「1月10日のピーク以降の感染者の逓減は、緊急事態宣言とは無関係」と政府の対策責任者が明言したことになる。
youtube (4572)

尾身茂 新型コロナウイルス感染症対策分科会会長
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8割オジサン理論の破綻

 一方で、政府が首都圏4都県に緊急事態宣言を出した1月7日、週刊文春は「2月に感染爆発が来る」という記事をトップに据えた。この記事で京都大学大学院の西浦博教授は「このままでは東京都だけで2月末までに1日約3500人、3月末までに1日約7000人の感染者が予測されます」と警告した。

 ところが、日本全体の数字と同様に、東京の感染者数も1月上旬に明らかにピークアウトしている。1月7日の2447人を最高値として、その後は緩やかに下がり続けた。1週間の平均値をとったグラフも、日本全国と東京の推移のグラフはほぼ完全に同じ形を描き、1月10日がピークだったことを明確に示している。
東京都の感染者数推移

東京都の感染者数推移

via NHKウェブサイト
 繰り返すが、行動変容が「感染者数の減少」という目に見える形で表れるのに2~3週間かかるというのが、世界の共通認識だ。ピークの1月10日から逆算すると3週間前が12月20日。ここから1週間の間に、日本国民に行動変容を強制する措置が実施されたり、全国的に自粛を促すような事象が発生したりした事実は全くない。逆に、緊急事態宣言が出されないまま学校や企業が冬休みに入ったことで、年末の買い出しや初詣、帰省なども、各位の判断で粛々と行われた。

 要するに、格別の対策が全く打たれなかったのに1月10日に感染拡大が止まった。西浦氏の「『このまま』では感染者数は等比数列的に増加する」という予測は、完全に外れたのである。

 西浦は、2020年春の第1波の時にも「このままでは日本だけで42万人が死ぬ」と「予測」した御仁だ。この時も西浦氏は「実効再生産数」を根拠とした。これは「感染者が何人の人に感染させるか」という数値で、格別の対策をしなければこの指数が2.5となり、1カ月後には東京だけで8万人が感染し、日本全体では42万人が死ぬと明言したのだ。

 ところが、フタを開けてみれば、4月中旬から6月下旬までの日本の死者数は784人で、西浦予測の536分の1以下に留まった。公衆衛生の専門家である疫学者を自称する人物としては屈辱的な「大外し」となった。

西浦理論破綻の証明

「格別の対策を取らなければ感染者は右肩上がりに増え続ける」という「西浦理論」が根本的に誤っていることをはっきりと示している例が、他にも2つある。1つはスウェーデンだ。

 昨年末までスウェーデン政府は、国民の行動を全くと言っていいほど制約しなかった。ロックダウンなどの強制措置が一切取られなかったばかりか、公共の場でのマスク着用を「推奨」したのが12月18日だ。逆に言えば、それまでは対策と言えるような対策を全く取らなかったのだ。

 昨年の初夏、欧米各国がロックダウンに踏み切る中、スウェーデンの首都ストックホルムの繁華街で多くの国民がマスクなしの3密環境で食事やショッピングを楽しむ姿を見て、驚いた人も少なくないだろう。

 西浦理論では「人口の8割が感染するまで感染者の増加は止まらない」と主張する。スウェーデンの人口は1023万人だから、800万人以上が感染するまで毎日の感染者は指数関数的に増え続けるはずである。

 ところが、スウェーデンで5月下旬に始まった感染拡大は、何の対策も取られなかったのに、6月上旬に1日1500人程度の感染者を出したのをピークに、その後急激に下がり始め、6月末には1日の感染者数は300人程度に落ち着き、夏の時点では感染拡大は完全に収束した。

 もう1つの例が、アメリカのサウスダコタ州だ。アメリカ中西部のこの州は、市民に行動変容をほとんど求めていないことで知られている。
 マスク着用、移動規制、レストランやバーの営業など、18部門における各州の感染予防対策をコロナ分析サイトがデータ化した結果、サウスダコタ州は規制が全米一緩いと認定された。
 さらに、昨年8月にはハーレー・ダビッドソンなど大型バイクのイベントに50万人が集まるなど、サウスダコタ州は「コロナ禍」を煽る大手メディアに抗うかのように「ノーガード戦法」を貫いた。

 しかし、全く対策が取られなかったこの州で昨年秋に始まった感染拡大は、11月上旬の160人をピークとする綺麗な放物線を描き、12月中旬には1日平均40人程度という数値に落ち着いた。
 感染拡大期に全く対応策が施されず、行動変容や活動自粛の呼びかけも全く行われなかったのに、感染拡大は自然に収束したのである。
サウスダコタ州の感染者推移

サウスダコタ州の感染者推移

via 著者提供

周回遅れの「学者」

 全く対策を取らずに感染拡大が収束したスウェーデンやサウスダコタ州は、「格別の対策を取らなければ人口の相当数が感染するまで感染者は爆発的に増え続ける」という西浦理論が根本的に間違っていることを明確に示した。

 しかし、もう決着がついたはずの議論を周回遅れで支持する「学者」もいる。筑波大学准教授の掛谷英紀氏はツイッターでこう主張した。

「実効再生産数が1を超えているので、対策しなければ感染は指数関数的に増える。高校の数学をやり直すべき」
「西浦予想は『何も対策しなければ40万人死亡』。色々感染対策をしたのだから予想が外れたとは言わない」
「同じ飛沫感染で広がるインフルエンザは例年の200分の1。感染リスクを200分の1にして新型コロナの死者は2000人をはるかに超えているから、西浦モデルはいい線をいっていたと言える」
twitter (4566)

掛谷英紀氏のツイート
via twitter
 1つのウイルスが流行すると、他のウイルスは流行しにくくなる現象を「ウイルス干渉」と呼ぶ。これはウイルス学のイロハのイだ。例えば、風邪に似た症状が出るRSウイルスは、例年インフルエンザの流行とともに収束する。これもウイルス干渉によるものと言われている。

 世界各地で、昨年来のインフルエンザ患者が例年の数百分の1に抑えられているのも、武漢ウイルスの流行と関係があると見られている。
 そして、このウイルス干渉の仕組みを解明することが、武漢ウイルスの真実に迫る貴重な入り口として、多くの学者・専門家が注目している。

 それなのに、日本のデータだけを見て「感染リスクを下げたからだ」と主張する掛谷氏は「ウイルス干渉」という概念すら知らなかったのだろう。 

 また、「日本が行動抑制によって感染リスクを200分の1にしたから感染者が2000人余り」とツイートしたが、それならば感染リスクを下げる政策を一切打たなかったスウェーデンやサウスダコタ州で、感染拡大が3週間で完全収束したのか、全く説明がつかない。
 
 間違った理論が、間違っているとわかった後も、間違った理論に基づいて行動変容を強要する勢力の言説は、無駄に経済を壊死させる行為であり、黙殺するに限る。

ピークアウトの真相解明こそ急務

 国民の行動変容の有無にかかわらず、感染拡大が一定期間で必ず収束することは、世界中のデータが明確に示している。

 一般財団高度情報科学技術研究機構の仁井田浩二理学博士は、アメリカ、スウェーデン、日本など世界各国の感染者数増減データを解析した。その結果世界の感染曲線は、対策の如何にかかわらず、例外なく美しい放物線を描いた。

 しかも、いずれのケースでもピークの半値幅が4~5週間程度に収まっていることがわかってきたのだ。半値幅とは、感染のピークを境に、感染拡大から収束までの日数を、ピークの半値で測った数値のことだ。

【参考】言論プラットフォームアゴラ・仁井田博士関連記事

 要するに、どのような対策を取ろうとも、全く対策を取らなくても、感染拡大が始まってからピークの半値までに収束する期間が、1カ月程度だというのである。これこそ、西浦理論にトドメを刺す、客観的事実である。

恐怖を煽る暴論と訣別を

 日本ではロックダウンといった強制力を伴う対策がほとんど取れない。昨年段階で「このままでは42万人が死ぬ」と予言して大外しした「8割オジサン」の感染爆発予測がいまだにメディアで扱われる背景には、国民の恐怖を煽ることによって行動を萎縮させようという意図も透けて見える。

 しかし「行動変容しなければ感染爆発は収束しない」という、ファクトから大きく乖離(かいり)した暴論には、ハッキリとNOを突きつけるべきだ。
 逆に、対策の如何にかかわらず感染が収束していく仕組みの解明こそ、新しいウイルスの真相に迫る入口となる。

 感染拡大が起きている時、ウイルスのターゲットはもちろん「未感染者」「抗体不保持者」だ。
 もし世界中の「未感染者」が同じ確率で感染するのであれば、感染者はウイルスの感染力に応じて等比数列的に増加し、人口の相当数が感染するまで自然収束しないはずであり、これが西浦理論の「単純計算」でもある。

 実際にはそうならず、「未感染者」にウイルスが行き渡る前に、感染拡大は例外なくピークアウトしている。「未感染者は無差別に感染させられるわけではない」という事実にこそ、人類が新型ウイルスを克服していく重要なカギが潜んでいる。 

 危機を煽る暴論は、国民を無駄に萎縮させる。予測が外れて感染拡大が収束すると「行動変容の効果が少し出た」などと嘯(うそぶ)く。

 もちろん私は「無対策こそ最良の対策」と主張しているわけではない。一定の行動自粛や感染対策は、ピークの絶対値を下方に押し下げる効果があることは間違いない。無対策を貫いていたスウェーデンも、昨年末以降の感染拡大で行動抑制政策に舵を切った。

 しかし、「行動自粛しなければ感染者は爆発的に増え続ける」という主張は、明らかに誤っているのだ。数々のデータが如実に示している。
 オオカミオジサンに何度も騙されるほど、日本国民は愚鈍ではあるまい。暴論を排除し、様々なデータと冷静に向き合い、感染収束のメカニズムを追求してこそ、本当に有効な社会対策が見えてくる。
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山口 敬之(やまぐち のりゆき)
1966年、東京都生まれ。フリージャーナリスト。
1990年、慶應義塾大学経済学部卒後、TBS入社。以来25年間報道局に所属する。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部所属。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月、TBSを退職。
著書に『総理』『暗闘』(ともに幻冬舎)がある

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この記事へのコメント

おうちのテレビを壊そう 2021/2/15 22:02

8割おじさんのようにエビデンスを無視して暴論を垂れ流し続ける「(肩書だけは)専門家」や、そういう人を持ち上げて恐怖を煽り続けるマスコミ。
エビデンスを無視して恐怖を煽り続けている結果、コロナ羽第二のハンセン病になっていると感じ、自分が今生きているこの時代は本当に21世紀なのか?と疑わしく思えてきます。
また恐怖煽り隊と、まんまと洗脳されたコロナ脳の声がやたら大きいので政治家も、出来もしない「ゼロコロナ」とか言い出して国民(主にコロナ脳)のご機嫌を始める始末なので、このままでは正しい研究結果の浸透やそれに基づく正しい対策も永遠には出来ないだろうと暗澹たる気持ちになります。
他の方も仰っていますが、8割おじさん等の煽り屋やマスコミが何故コロナに関してはここまで恐怖煽り一色になるのか、その意図や意識を知りたいです

WiLL Online編集部 2021/2/13 17:02

コロナ脳は速やかに絶滅せよ 様

ご指摘のほど、誠にありがとうございます。
不適切と思われる投稿につきまして、削除させていただきました。
しばらく当該コメントを放置してしまったことをお詫び申し上げます。

これに懲りず、引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。

コロナ脳は速やかに絶滅せよ 2021/2/10 08:02

「内容が不適切であると当社が判断した場合は投稿を削除する場合があります。」って全然機能してないぞ

KM 2021/2/8 02:02

全くおっしゃる通りだと思うのだが、山口さんの経歴を拝見してぜひお願いしたいことがある。コロナ騒動を巡って、私の知る限りでマスコミ(TV、新聞)でこのようなまともな言説を全く見ることがないのは何故なのか、彼らをコロナ煽り一色にしているものは何なのか。ネット上でこういう発信は少ないながらも見る。具体的には池田信夫、永江一石、他に国会議員で青山まさゆき(敬称略)等。でもマスコミはコロナ騒動を鎮静化させるような報道は一切しない。普通のテーマや話題なら反対意見も必ずあるのに、コロナ騒動だけはなぜ一致団結するのか不思議でしょうがない。報道している側の意識を知りたい。

山口敬之 2021/2/3 12:02

「本論はさておき」様へ、

私がこの原稿で指摘したのは「強い対策をしない限り感染は人口の8割が感染するまで等比数列的に拡大する」という理論が間違っているという事であり、その実例の一つとしてスウェーデンを挙げました。

◆コメントの事実認識の間違い

スウェーデンでは、「本論がさておき」さんが指摘している「学校を登校禁止とし、オンライン授業化した」「大人数の集会を禁止した」のは11月下旬です。

昨年初夏の感染拡大時から6月末の感染収束までは、こうした強制措置は一切取られていません。

あたかも私が事実と異なる事を書いているような指摘は、極めて遺憾です。

◆論点の間違い

私は「無対策が最善の対策」などとは主張していません。それは本稿の中でも明記しています。また「対策をしなくても感染拡大が起きない」などとも一切言っていません。

ですから、昨年末にスウェーデンで第二波の感染拡大が起きた事について、私の論考と関連付けるのは筋違いです。

ご意見は大変ありがたいのですが、事実関係を確認し、原稿の論旨を把握した上でご指摘いただけたらと希望します。

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