2020年早々に高まった米国とイランの緊迫から、日本は何を学ぶべきか。今回の衝突のきっかけは、1月3日にイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官が殺害された事件だ。イランの隣国、イラクの首都バクダッド近郊の国際空港付近で、司令官らが乗っていた車列に米国軍が発射したロケット弾が命中、ソレイマニ氏は死亡した。イランは1月8日、イラク駐留の米軍基地に弾道ミサイルを発射する報復攻撃に出て、「全面対決」の危機感が世界中を駆け巡った。

 原油価格の急騰、各国に株価の急落をもたらし、日本では石油ショックの再来を危惧する見方が広まった。出方が注目された米国のトランプ大統領は「ミサイル攻撃による死傷者はいない」として軍事的反撃の見送りを表明、世界は安堵した。今年11月に大統領選挙を控えたトランプ氏の戦術が働くと同時に、米国による経済制裁で国民生活が厳しさを増しているイランも「これ以上の犠牲」を避けたかったのであろう。だが、中東をめぐる様々な危機が終息したわけではない。とりわけ、エネルギーの中東依存度が高い日本は、情勢変化を機敏に把握するとともに、いざという事態に備えてエネルギー自給率を高め、中東依存の分散化を実現する具体的な対応に努めなければならない。

高まる原発再稼働の必要性

 中東諸国の動向は、極めて複雑かつ多様なものだ。今回のイランと米国をめぐる対立だけを分析しても安易な先読みは不可能と言っていい。イランのロウハニ大統領は「穏健派」と見られているが、終身最高指導者とされるハメネイ師が大統領を上回る権力を保持している。犠牲となったソレイマニ司令官はハメネイ師の側近で、数々の実績を残してきた「国民的英雄」でもある。葬儀には約100万人とも伝えられる民衆が参加して街を埋め尽くし、ハメネイ師らが棺に頭を垂れて涙ぐみ、「米国への報復」を叫んだ。

 トランプ大統領は、司令官殺害の理由について「彼らが在イラク米国大使館の爆破を画策していたからだ」と言及した。背後に、日本にいては計り知れない事情が働いていることは間違いない。昨年6月、ホルムズ海峡近くで日本の海運会社が運航するタンカーが何者かの攻撃を受けて炎上する事件が発生した。その際に関与が取りざたされたのは、ソレイマニ氏が所属するイラン革命防衛隊。米国は「イランの責任」を強調、イランは「米国の主張を認めない」と反論した。結局、真相は闇の中だが、日本もいつ何時、対立の渦に巻き込まれてもおかしくない。中東地域は、我が国にとって「火薬庫」であり続けている。

 脆弱さの根拠となるのは、我が国のエネルギー自給率。1973年10月に勃発した第4次中東戦争を発端とした第1次石油ショック。大きな打撃を被った日本は、中東依存度の引き下げ・分散化の主要な手立てとして、原子力発電所の増設に取り組んだ。この成果として、福島事故前の2010年における我が国の1次エネルギー自給率は20.3%まで高まった。ところが、福島事故を経て停止した原発の再稼働が遅れ、2014年には6.4%にまで低下。その後、一部の原発の再稼働や多額の賦課金を国民に求めて普及させた太陽光発電など再生可能エネルギーの寄与で、2017年には9.6%まで回復した。それでも、欧米、アジアなどの主要36カ国で組織する経済協力開発機構(OECD)の中では、ルクセンブルグに次いで下から2番目という低水準である。

 中東情勢変化の影響を最も受けやすく、綱渡りのエネルギー供給が続いている。弱点に敏感でない国や組織はいずれ滅びる。最も現実的かつ必要な対策は、安全性を高めた既設原発再稼働の着実な推進。稼働しつつ、さらなる安全向上を目指すことは十分に可能だ。その過程で、再エネの蓄電技術の向上、二酸化炭素(CO2)の貯留・活用、小型モジュール炉(SMR)など新型原子炉の商用化に積極的に取り組んでいくしか選択肢はない。

日本エネルギー会議:代表・柘植綾夫、発起人代表・有馬朗人

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