再生可能エネルギーの供給安定性を確保し、国民負担を引き下げる「主力電源化」の実現は経済産業省の責務である。固定価格買取制度(FIT)の見直しを検討する経産省の専門家委員会は2月4日、2020年度の買い取り価格引き下げなどを含む意見案をまとめた。同案を受けて、事業用太陽光発電の買い取り価格を現在の1キロワット時(kWh)14円から同12円に引き下げる方向だ。
 FITは、福島事故直後に旧民主党政権の菅直人・元首相が「日本中の建物の屋根に太陽光パネルを設置すれば、原子力発電所はいらなくなる」などと主張、2012年7月からスタートした。ところが、開始時点から問題点は明らかだった。事業用太陽光発電の買い取り価格が1kWh当たり40円という、世界平均を大幅に上回る水準に決められた。さらに、事業認定を受けてしまえば、その価格が20年間もの長期にわたって保証されるという制度になっていたからだ。

太陽光バブルで儲けたのは誰だ

 制度が始まると同時に、「絶対儲かる太陽光投資」といった宣伝がインターネットなどに氾濫(はんらん)、太陽光発電事業は「魅力的な投資商品」に変貌。太陽光バブルといわれる現象が日本中を包み込んだ。このコラムで何度か指摘してきた「FITでいったい誰が、どれだけの利益を得てきたのか。再エネ事業者の収支実態を開示するべきだ」という問いかけへの回答が示されているとは感じられない。
 実は、日本における太陽光発電の歴史は古い。第1次石油ショック(1973~1974年)で石油に頼るエネルギー構造を見直し、中東依存度を下げ、かつエネルギー自給率を高める「脱石油政策」の重要性が叫ばれた。国全体としての省エネルギー対策推進はもちろんだが、原発の新増設、LNG(液化天然ガス)利用、石炭火力発電所の高効率化も進められ、太陽光、風力、地熱などの再エネへの挑戦も本格的に始まった。そこには大手電力会社も参画、かなりの研究投資を行ってきた。
 ただし、日本で再エネを有効利用するには多額のコストがかかるため、一般住宅の屋根に太陽光パネルを取り付けて自家利用する方法以外は事業化が難しかった。同時に、再エネは日照、風向きなどの自然条件によって発電量が変動するため、安定電源に育てるには蓄電技術の飛躍的な向上が欠かせない。蓄電技術の中で最も具体的な成果だったのは、余裕電力を使って水を高位置にあるダムに汲み上げ、必要時にその水を使う揚水発電だった。
 こうした研究の歴史や専門家の提言を無視して、「再エネを急いで、大量に導入せよ」という政治的意図で始まったのが日本版FITだ。制度設計したのは経産省。結果が、太陽光発電事業の「金融商品化」による太陽光バブルであり、それに伴う「再エネ賦課金」という名の国民負担である。「こんな制度を導入したら、賦課金は雪だるま式に増え続ける」という専門家の指摘があったのに、政治と行政は突き進んだ。
 バブル現象の影響で、賦課金だけでも年間2.4兆円(2018年度)に達してしまい、電気料金支出の一割をすでに超えている。「カネ儲け制度」との批判が高まり、経産省も制度の見直しに本腰を入れ、買い取り価格の段階的な引き下げを実施。一定規模以上の設備は「入札制」にするなどの見直しを進めている。
 「いずれ、賦課金総額は減少していく」と解説するのであろうが、「20年間の定額買い取り保証」を考えると鵜呑みにするわけにはいかない。電力中央研究所の試算によると、年間の賦課金総額は2030年には3.6兆円まで膨らみ、FIT導入から2050年までの累積賦課金総額は約69兆円にのぼるという。これだけの国民負担金がどのように使われ、誰が利益を得たのかを詳細に公表しなければ、納得が得られるはずがない。

日本エネルギー会議:代表・柘植綾夫、発起人代表・有馬朗人

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