台風などの風水害で停電がありそうなときに、電力会社の人間は上司からの招集がなくても職場に集まってくる──。こんな話を聞いたのはずいぶん昔の話である。電力事業の現場を訪ねて言葉を交わし、「この人たちは、停電による国民生活への悪影響をなくそうというDNAを先人から引き継いでいる」と実感し続けてきた。おかげで、日本は世界で一番停電の少ない国と評価されてきたのは間違いない。
 2019年9月に関東地方を直撃した台風15号の影響で、千葉県を中心として長期にわたる大規模停電が発生した。これを受けて経済産業省は今後の対策をまとめるため、有識者会議で検討を進めている。10月31日の会合で、

①ドローンを活用した情報収集の迅速化
②他電力会社や自衛隊など関係者間の連携強化
③鉄塔の技術基準引き上げなど電力ネットワークの強靭化
 
 ──を三本柱に掲げる方針を示した。年内に検証結果をまとめ、制度面の見直しにも生かしていくという。

長期停電は自由化の負の影響

 この長期停電について、多くのメディアは「東京電力の見通し甘く、復旧時期が二転三転」などと報じていた。だが、問題の本質は理解されていない。
 首都圏の電力供給は東京電力と一括りにしているが、経産省主導で進められている電力システム改革(自由化)を同業他社に先行して、2015年4月から東京電力ホールディングス(HD)を持ち株会社とし、その下に一般送配電事業が東電パワーグリッド(PG)、燃料・火力発電事業は東電フュエル&パワー(FP)、小売電気事業は東電エナジーパートナー(EP)という3社が設立され、1年後には事業承継も行われた。今回の当事者は3事業会社のうちの東電PGというのが正確な表現だ。
 さらに、電力小売り自由化も進展しているため、電気の契約・料金支払いを新規事業者に変更した需要家もかなりいる。ただし、新規事業者も長年にわたって送電網を整備してきた東電PGの設備を利用しているので、設備の維持・管理はPGが担っているのが実情だ。
 ならば、停電の責任はやはり東電グループ全体にあると結論づけるのは性急にすぎる。PGとEPは自由化による別会社化によって、情報遮断が徹底しており一体となって復旧作業に当たれる状況にはない。自治体との窓口はPGになっているものの、発電、送配電、小売りの一貫体制をとっていた時代は、全体で非常事態に対応できるシステムが機能したが、分社化されたこともあり送配電部門もコスト削減の対象に挙げられ、関連・協力会社との連携を確保する余裕さえなくなりつつある。こうした問題は、経産省が取り組むシステム改革の負の影響と多くの専門家が指摘してきたもので、予想された「現場力」の低下が進行している現実を証明したに過ぎない。
 それだけに経産省が、一刻も早い停電からの復旧を東電グループに要請したことはたまたま別件で災害復旧現場を見かけたジャーナリストの話を聞いても容易に推測できる。国民に「システム改革がもたらした大停電」ととらえられたら、メンツは丸つぶれとなるからだ。折しも内閣改造が行われ、世耕弘成・元経産相から菅原一秀・前経産相にバトンタッチされたタイミング。事務方は東電グループにかなりの圧力をかけただろう。世耕氏は「早期の完全復旧に努め、復旧見込みについては、迅速・正確に発信する」との指示を出して、経産省を去った。就任したての菅原氏は「東京電力から当初、2日間で復旧するような話があったが、被害状況が激しく、現在、1万1000人のマンパワーで対応している」と見通しを修正した。
 本を正せば、電力システム改革の制度設計の甘さに帰結する。国民の命と生活を守る基幹インフラを維持し、緊急時の的確な対応にあたるには電力事業者の「現場力」がいかに重要であるかを改めて示したケースと認識すべきだ。机上の議論や監督官庁の指示では「現場力」は保てない。

日本エネルギー会議:代表・柘植綾夫、発起人代表・有馬朗人

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