英国の電気事業に中国企業が深く浸透してしまった。彼らは中国共産党と表裏一体である。習近平は、いつでも大停電を起こし、ロンドンの政治中枢、シティーの金融、英国中の病院など、主要な社会維持機能を麻痺させることが出来るようになってしまった。

 こう警告するのはクライブ・ハミルトンである。

 ハミルトンは、母国豪州が中国共産党の工作で危機に瀕しているといち早く悟り、著書『目に見えぬ侵略―中国のオーストラリア支配計画』でその実態を暴き警告を発した。これはベストセラーとなり、豪州の世論を動かし、今の対中強硬姿勢を招来した。

 さらにこの続編として、この工作が世界全体に及んでいることを『見えない手―中国共産党は世界をどう作り変えるか』に著している。 

 何れも綿密な取材と実名による告発が満載の衝撃的著作である。
【杉山大志】日本に迫る「中国エネルギー戦略」の魔の手~...

【杉山大志】日本に迫る「中国エネルギー戦略」の魔の手~英国の危機に学べ~

中国国営企業に抑えられる英国のエネルギー網

 以下では、英国への警告のポイントを紹介しよう。

 中国の国有企業は共産党と密接な関係にあるが、近年になってこれがますます強化されている。習近平は2016年に「党のリーダーシップは国有企業の根源であり、党の決定を実行するための重要な力になるべきである」と宣言した。

 中国企業内には共産党組織があり、その書記は取締役会の意思決定を却下できる。習近平は2016年、党書記と代表取締役は同一人物にすべきだと布告した。

 さらに心配なことに、同年、中国議会は、海外在住の全ての中国国民に、北京の要請に応じて中国諜報機関を支援するよう義務付ける法律を可決した 。

 これは例えば、北京がスパイをするように命じた場合、ファーウェイ英国支社社長はそれに従う義務がある、ということだ。

 心配なのは、以上のことが、国営の中国広核集団(CGN)に当てはまることだ。同社は、英国で建設中のヒンクリーポイント原子力発電所の3分の1を所有しているのみならず、エセックス原発とブラッドウェルの原発にも関与を望んでいる。このCGNの会長は共産党の幹部である。北京がCGNに「何か」を命令すれば、英国に災いをもたらすかもしれない。

 CGNには前科がある。2017年、米国ではCGNの技術者が軍事用核技術の移転に関与した容疑で投獄された。これを受けて米国はCGNをブラックリストに載せた。

 中国企業の浸透は原子力発電所だけに留まらない。英国の太陽光発電や風力発電にも多額の投資があった。CGN自体も、英国に2つの風力発電所を所有している。

 更には、中国の国営企業である中国華能集団が、いまウィルトシャーにヨーロッパ最大のバッテリーによる電力貯蔵施設を建設している。英国が再生可能エネルギーに移行するにつれ、システム全体の安定性のためにはバッテリーが増えてゆく。この中国華能集団の会長も中国共産党幹部である。 
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工事中のヒンクリーポイント発電所
 発電所よりもいっそう深刻なのは、発電所と変電所を繋ぐ送電網と、変電所からオフィスや家庭までをつなぐ配電網かもしれない。

 英国では1990年以降、電気事業が民営化され、多くの事業が売買された。転売を繰り返した結果として、香港のCKグループが、イングランド南部と南東部のみならず、ロンドンの配電までも管理するようになった。

 CKグループの経営者も、中国共産党の組織である中国人民政治協商会議の執行委員に任命されている。中国が香港を同化していることで、今後、共産党の影響はますます強くなるだろう。

 いまやこのCKグループが、ロンドンを機能させるあらゆるものに電力を供給している。道路交通網、鉄道網、オフィスビル、ATM、銀行などだ。 

 北京からの命令によってCKグループが動くと、この全てが突然停止するかもしれない。

 並行して民営化されたガス事業も、同じ運命をたどっている。CKグループは、北イングランド、ウェールズ、およびイングランド南東部のガス供給を独占するようになった。

英国と同様の危機にさらされる日本

 ハミルトンは著書『見えない手』で、日本の読者に語り掛ける。「もし中国を止められず、その思想が世界に広まり、力でアメリカを凌駕すれば、恐ろしい世界が到来する。私は中国共産党が指導する中国に支配された世界で生きたくない。私たちがいま当たり前に享受している全ての自由や権利が奪われる。自由なライフスタイルを、子供や孫の世代も享受してほしい。しかし中国が支配する世界では不可能だ。」

 日本の電力やガスは大丈夫だろうか。すでに太陽光発電事業には中国企業が参入して、発電所を所有し売電で利益を得ている。昨年末には脱税事件まであった。中国企業は太陽光発電名目で多くの土地購入もしている。日本の送電網・配電網には、太陽光発電パネルなど、多くの中国製品が接続されている。

 英国の危機的状況を教訓として、ただちに日本も実効性ある対策を講じるべきではなかろうか。

 いま政府は「2050年CO2ゼロ」を目指すとしている。これによって太陽光発電事業などの形で中国からの参入が更に増えるとすれば、日本の電力網も英国と同様の危険に晒されるおそれがある(※)。
※参考記事 CO2ゼロで高まる日本の中国依存とサイバー攻撃の脅威

 注意深いエネルギー政策が必要だ。
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杉山 大志(すぎやま たいし/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。
国連気候変動政府間パネル(IPCC)、産業構造審議会、省エネ基準部会等の委員を歴任。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書「地球温暖化のファクトフルネス」を発売中。電子版99円、書籍版2228円。

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