検疫施設は収容所ソックリ

  ウイグルの人権弾圧を漫画で描かれている清水さん。中国共産党の残虐さを伝える漫画家同士、今日はよろしくお願いします。

清水  こちらこそ、よろしくお願いします。

 中国政府の新型コロナウイルス(新型肺炎)に対する対応を見ていると、ウイグルでやっていることにそっくりだと感じます。香港に数千人の感染者を収容できるプレハブの検疫施設を建設したんですが、これが刑務所と瓜二つ。部屋には食事をわたす小さな扉があり、施設の入り口は鉄格子で有刺鉄線まである。こんな施設に入れられたら、肺炎が完治しても心の病になってしまいます。

清水  香港人に聞いたんですが、新しくつくられた検疫施設には、隔離された人が脱走しないように見張る塔まであって、外観がウイグルの強制収容所にそっくりだったようです。ひと目見ただけで、中国政府の狙いがわかると。

 デモの参加者を〝疑似患者〟として逮捕し、ぶち込もうというんでしょう。ウイグル人と同じ〝反乱分子〟として。恐怖を覚えた香港人は、建設中の検疫施設に放火しました。

清水  親中派だった人たちまでが、抗議にまわったようですね。全体主義のやり口は、民主主義が根付いた香港では受け入れられません。

 ネットには感染者捜索のため、銃を持った防護服姿の捜査員が住宅に立ち入る映像も出回っていました。患者を見つけるために銃を携帯するなんて、普通じゃありません。中国各地では「武漢人狩り」が多発しています。武漢と接する河南省や江西省では、バリケードをつくったり、土砂や石を堆積して省境を封鎖し、武漢人を見つけたら警察が殺しかねないような勢いで追い払う。湖北省のナンバープレートを付けた車があれば、ハンマーで壊されることもあるんです。河南省のある地域では、武漢から帰ってきた人がいる家を見つけると、赤い腕章をつけた役人が網板をドアに貼り付け、一家が出られないようにしています。じゃあ食事はどうするかというと、窓からザルであげるんです。

清水 四川省では密告されたことに逆上し、密告者を殺害した武漢人もいるようですね。

 感染者のなかには、街で倒れてしまう人もいます。病院に運ばれてもベッドが足りないので、放置されて死んでしまう。亡くなったあとは、身元を確認せずに火葬しているようです。海外では「死亡人数は公式発表の10倍」と推定するメディアもありましたが、それを大きく上回る可能性もありますよ。それだけでなく、この状況を利用して共産党が誰かを殺害することだってできてしまう。

清水  何でも新型肺炎のせいにしてしまえ、というわけですか……。火葬すれば死因を特定することもできませんからね。

 中国政府は患者数と死者数を隠蔽しているでしょうが、隠蔽体質の根幹は「内部参考」(内参)という制度です。真実が書かれた内参は、共産党の役人しか見ることができません。今回でいえば、医師が状況を正確に書いた報告書がそれにあたります。これを地方官僚が一般公開用に改竄(かいざん)し、各メディアが伝えていく。中国政府は建国以来、ずっとこの体制でやってきました。

清水  伝統的な公文書改竄ですか。昨年11月、ウイグルの強制収容所に関する内参が流出しましたよね。ポンペオ国務長官は「中国共産党が人権を踏みにじっている証拠だ」と断じ、イギリス政府も国連監視団の受け入れを求めていました。

あるウイグル人女性の証言

 それにしても、清水さんの漫画はインターネット上で大きな反響を呼んでいました。

清水  昨年5月、中国共産党によって自由が奪われていく過程を『その國の名を誰も言わない』という漫画にまとめて公開したところ、在日ウイグル人を中心に評判になりました。そのあと、7月に行われたウイグル人の証言集会に参加して、3回も強制収容所に収容された在米ウイグル人、ミフリグル・トゥルスンさんの証言を聞いたんです。彼女の経験を1人でも多くの人に伝えなければと思い、『私の身に起きたこと ~とあるウイグル人女性の証言~』を描きました。

 ツイッターでは8万8000リツイート(拡散)されていましたが、かなりの数字です。1万リツイートで10万人は目にすると言われていますから。

清水  現在、おかげさまで有志の方の手によって10カ国語に翻訳されて世界に広がり、ワシントンポストやガーディアン、アメリカ国務省の公報ページにも掲載されています。どのような内容かというと、エジプトで結婚したトゥルスンさんはウイグルに帰省したときに拘束され、拷問を受け、引き離されていた子どもの亡骸を渡されます。ほかの子どももクビに手術の跡があり、ご自身も投薬や注射によって妊娠できない体にされてしまいました。辛うじてアメリカに保護されたものの、夫と親族26人は拘束されたまま……。漫画は私のツイッターや作品投稿サイトnoteで無料公開しているので、ぜひご覧になってください。

 男性にも注射を打って〝化学去勢〟が施されています。そもそも、なぜウイグルの漫画を描こうと思ったんですか。

清水  保守系雑誌や「虎ノ門ニュース」でウイグルの現状を知り、衝撃を受けたんです。でもまわりの友人など、政治に関心のない人たちはウイグルのことを全然知らない。何とかしてそのミゾを埋められないかと思い、描くことにしました。多くのウイグル人から「もっと描いてください」と言われたんですが、ウイグルに行ったこともない私には無理だと思っていました。そんなとき参加したのが、トゥルスンさんの証言集会だったんです。
 ウイグルの方が、「今日ここで話された内容を1人でも多くの人に、どんな方法でもいいので伝えてください」と言っていて、その言葉が2作目を描く決め手になりました。1人でも多くの人に伝わるように、子どもでもわかるようなタッチで描き、ツイッターに流したんです。

民族浄化(ジェノサイド)のリアル

その作戦は大成功でしたね。難しい内容を理解するのに、漫画は活字よりも手っ取り早い。すごい勢いで拡散されていきました。ウイグルの人権弾圧に関する記事は何度も執筆しましたが、いくら書いても書き足りません。トゥルスンさんの証言のほかに、印象的だったものはありますか。

清水  NASA(アメリカ航空宇宙局)に勤めているウイグル人博士の話で、忘れられないのがあります。当局が夜中、孤児院から顔立ちのいい子どもたちをバスに乗せ強制収容所近くの火葬場に連れて行き、牛乳のような白い液体を飲ませた。子どもたちは液体を飲むと、すぐに死んでしまったそうです。そしてすぐ遺体を火葬した。子どもたちの親世代は収容所に入れられているので、孤児の数が増え続けて手に追えないからだそうです。ほかにも子どもたちは、漢民族が住む省に連れて行かれ、性産業に従事させられているとのことです。

 衛星写真でも、収容所のすぐ近くに火葬場があることはわかります。冒頭にお話しした新型肺炎の対応のように、収容所で人が死んだらどんどん火葬してしまう。民族浄化(ジェノサイド)を地で行っています。

清水  ある在日ウイグル人の知人女性も行方不明になっていたんですが、4日後、家に警察が来て、両親を「騒いだらお前を捕まえるぞ」と恫喝して病院に連れて行くと、そこには娘さんの遺体があったそうです。やはり、すぐに遺体を焼却させた。もう1つ、許せない話がありました。まず、若い女性の収容者を強姦し、妊娠させる。何人かは子どもを産むことを許されるそうですが、子どもはすぐ連れ去られます。そして母親には無理やり母乳を出させ、それを商品として漢民族の省で売っているんだそうです。

 年明け、アメリカのRFA(ラジオ・フリー・アジア)が取材したディナ・ヌドバイさんの話からも、女性に対する拷問のヒドさはわかります。20代で洋服専門店を経営する彼女は3年前、海外のスマートフォンアプリを使用した罪で12日間収容され、そのときの経験を語りました。収容所に入ってまず感じたのは、強烈な悪臭。狭い監獄に十数人が押し入れられ、排泄もその部屋のなかで行うからです。食事は具のない饅頭と白菜のみ。
 共産党や習近平を讃える歌を歌うことが毎日の日課で、警棒で後頭部を殴られることもあったそうです。そして女性たちは女性警官から「服を脱げ!」と命令され、全裸で様々な格好になり〝身体検査〟をさせられた。その様子を多くの男性警察官が〝鑑賞〟する……。これは不定期に行われる「精神的な侮辱」という拷問です。

清水  「人間が同じ人間にここまでできるのか」と思うようなエピソードばかりですね。

 「ロボトミー」という、前頭葉白質の切除手術を受け、感情表現をできなくなった人、インフルエンザの予防接種という名目で筋力が落ちる注射を刺され、立つことさえままならなくなった人……新薬開発のための人体実験も日常茶飯事です。

清水  でも中国人のなかにはウイグル人を良く思っていない人も多く、惨状を伝えても反応がよくないこともあるようですね。「収容所に入るのは当然」と思っている人もいるとか。これは中国人の本心なのか、それとも表立って政府を批判できないだけなのか、どっちなんでしょう。

 本心から思っていますが、それは共産党の戦略的勝利です。弾圧が激しくなる前まで、中国当局は「すり」や「ひったくり」など軽犯罪を犯したウイグル人を罪に問わず、逮捕してもすぐ釈放する優遇措置を取ってきました。常習犯は味を占め、同じことを繰り返します。すると一般の中国人は、「ウイグル人=犯罪者」というイメージを抱くようになり、弾圧にも理解を示すようになったんです。
 かつての一人っ子政策も、ウイグルは例外的に複数の子どもを産んでも良いことになっていました。漢民族とウイグル人の間に民族的な対立をつくり上げる分断戦略──ウイグルは共産党の長期的戦略によって、まんまとやられてしまったんです。

中国をめぐる〝常識〟

清水  私たちに何ができるのか……。

 アメリカは昨年末、下院でウイグルの人権侵害に関わった当局者に制裁の発動を求める「人権法案」が通過しましたが、日本だってアメリカの同盟国、そして自由主義国の一員として行動を起こさなければなりません。たとえば、すぐできることに新疆綿の取締があります。新疆綿はウイグルの強制労働によってつくられた綿で、手作業でつくられるから品質はいい。でも幼稚園児くらいの子どもたちが、ワケもわからず仕事をさせられています。アメリカでは人権弾圧を理由に新疆綿を輸入禁止にしていますが、ユニクロや無印良品の商品に新疆綿が含まれています。無印良品にいたっては、「新疆綿は高級」とホームページで宣伝しているほどです。

清水 強制労働によってつくられていることはあまり知られていないですよね。安くて品質がいいとなれば、使いたくなります。

 知らずに使っていたとしても、中国の人権弾圧に加担していることになります。日本の法律でも、新疆綿の輸入を取り締まることはできる。ユニクロと無印良品は、世界に店舗を持つグローバル企業です。もし新疆綿を使った商品をアメリカに輸出したとき、輸入停止させられたら何と恥ずかしいことか。

清水  周知して心掛けたいですね。アメリカのように大胆な貿易制裁でなくても、日本がやれることはあるはずです。もちろん、アメリカと足並みを合わせ人権法案をつくってほしいですが、中国を名指ししなくとも国際社会に向けて「日本は人種差別、人権弾圧を絶対に許さない国である」という声明を出したらどうでしょうか。同時に、日本は1919年、国際社会で初めて国際連盟で人種差別撤廃を提案した国だという史実に触れたらいい。自虐史観の払拭にもなります。

 それはイイですね! 人権派も反対できないでしょう。

清水  中国が隣国である事実は変わらず、今後も付き合い続けなければなりません。でも付き合うなら、相手の本質を理解する必要があります。そうしないで付き合うのは危険すぎます。つまり、「中国は中国共産党に支配されてしまった国であり、大国になったものの、本質は人権を蹂躙する倫理観なき独裁国家」という〝常識〟を共有しなければなりません。にもかかわらず、日本人は心のどこかに中国への幻想があるように思います。長い歴史を持ち、経済成長著しいIT先進国。これからは中国の時代──というように、良い部分だけが浸透してしまっているんです。特に中国を〝お得意様〟にしてきた経済界は、幻想から抜け切れていません。

 中国人のマナーを嫌う日本人は多いですが、やはり『三国志』や中華料理、ITの発展など、根底には幻想があるように思います。日本でも夜のニュース番組で中国特集をやっていますが、本質を伝えているものはほとんどありません。親中姿勢には、自虐史観による贖罪(しょくざい)意識もあるんでしょう。

清水  自民党の二階俊博幹事長は、「親戚の人が病になったと、こういう思いで日本人はみんな思っております。中国の皆さんが1日も早く奮起をして、元気になってもらいたいと思っています」と語り、民間からも100万枚のマスクが中国に送られたようですね。入国禁止してからならまだしも、日本国内では医療機関でさえマスクが不足しているというのに……。

〝毅然とした日本〟であれ

 アメリカはかつて、経済成長すれば民主化するだろうという幻想のもと、中国を育ててきましたが、むしろ経済成長とともに独裁体制は強化されました。そしてアメリカは幻想から目を覚ましたんです。だからこそ、トランプ政権では党派を超えて対中強硬姿勢になっている。地理的に中国に近い日本は、アメリカ以上に危機感を持たなければならないんですが。

清水  日本人がそういう〝常識〟を持たないと、香港人や台湾人もいたたまれません。ある香港の学生は、「日本の学生に香港の苦しみを話しても、なかなか理解してもらえない」と言っていました。でも中国の脅威を体感している韓国やベトナムの学生には、よく理解してもらえるんだそうです。「中国共産党」という〝宗教〟を押し付けられ、自由を奪われる恐怖──空気のように自由と平和を享受している日本人には想像がつかないのかもしれません。

 新型肺炎が流行してから、デンマークの新聞社は中国の国旗(五星紅旗)の五星をウイルスに見立てた画像を掲載しました。私がツイッターで拡散すると、保守系の日本人からも「他国の国旗を侮辱するのはよくない」「日本人の感覚がない」「お前の本は買わない」と非難されました。そもそも、五星の一番大きい星は中国共産党を、残りの星は奴隷たる人民を指します。中国の民主派は五星紅旗が大嫌いで、海外で燃やすことだってある。
 平和な民主主義国と違って、中国人の多くは中国共産党という〝宗教国家〟が大嫌いです。まともな国の国旗を侮辱するのとは意味が違うんです。日本人は表面的なことではなく、中国の本質を見てほしい。

清水 そこにも日本人の無知があるのでしょうか。ウイグル弾圧を知らない人が私の漫画を見ると、「同じ地球にこんなに可哀想な人がいるなんて……」という感情になると思います。でも、これは決して遠い国の話ではありません。 このまま放っておいて、将来の日本がウイグルのようにならないとも言い切れない。実際、ウイグル人がそのことを心配しています。
 ウイグルを知れば香港が理解できる。さらに香港を理解すれば台湾が、台湾の理解は日本の危機を理解することにつながる。日本人にとって、ウイグルの理解は大切なんです。

 アジアの人々は、日本人が目を覚ますことを期待していますよ。そんななか、習近平を国賓で招待し天皇陛下に謁見させることは、中国共産党の悪行を覆い隠し、日本外交の黒歴史として永久に残ることになります。

清水  世界から〝毅然とした日本〟を期待されてますよね。いまは残念ながら期待に応えられておらず、国賓招待も世界に誤解を与えるでしょう。日本は成熟した民主主義国なので、国民の大反対があれば中止できるはずです。そのためにも、今後もウイグル人の方々の証言を漫画に描き続けたいと思います。

孫 向文(そん こうぶん)
1983年、中華人民共和国浙江省杭州市出身。2013年の来日以来、雑誌やインターネットを中心に漫画やコラムを執筆。主な著書に『中国のヤバい正体』(大洋図書)、『中国人の僕は日本のアニメに救われた!』(ワック)、『国籍を捨てた男が語る中国のヤバすぎる話』(竹書房)など。

清水 ともみ(しみず ともみ)
神奈川県生まれ。信用金庫勤務を経て1996年、漫画家デビュー。代表作は『極上LOVEホスト』(講談社)。出産、子育てに専念した後、イラスト・MVアニメ制作に携わる。2019年、中国共産党によるウイグルでの人権弾圧を描いた『その國の名を誰も言わない』『私の身に起きたこと ~とあるウイグル人女性の証言~』をツイッターで発表し、好評を博す。

【孫向文さんトーク動画】中国に忖度する日本のメディア

河添恵子さん(作家)とのトーク動画です。

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