今こそ「尖閣基金」14億円を使うべきだ

今こそ「尖閣基金」14億円を使うべきだ

石原慎太郎氏

国家なる幻影

 最も影響を受けた論客の一人が、石原慎太郎さんです。政治や社会、ひいては国家というものを考えるうえで、石原さんの著作から指針を得ています。
わが人生の時の時』(新潮文庫)をはじめ小説も大好きですが、何より回顧録が面白い。25年間の国会議員生活(その後、4期にわたり都知事を務めたのち国政に復帰)を振り返った『国家なる幻影――我が政治への反回想』(文藝春秋)は、今でも事あるごとに読み直す一冊です。

 ベトナム戦争の取材中、日本という国家が「国家」でなくなってしまう不安に駆られ、政治家を志すエピソード。田中角栄の金権政治に反旗を翻し「青嵐会」を結成するドタバタ劇。個人的に最も好きなのが、環境庁長官時代に水俣病患者と対話を重ねたエピソード。世間が想像する“らしい”ものから“らしくない”ものまで、石原さんの政治家人生が美しい筆致で綴られています。

 3年ほど前、ビートたけしが司会を務める番組に安倍首相が出演し、「嫉妬する人は誰か?」と質問されていました。安倍首相の答えは「石原慎太郎」。石原さんが登庁すると、女性職員が一斉に色めきだったそうで、「男が憧れるものをすべて持っている」と。続けて、「永田町にも霞が関にも、時には世論にすら挑戦的な姿勢に憧れる」とも。

 世論におもねる政治家(与野党ともに大多数)、もしくは強引に世論を味方につけて自らのパフォーマンスにいそしむ政治家(小池百合子)ばかりが目立つ昨今、世論を敵に回しても自身の哲学を突き通す石原さんのような政治家が必要ではないでしょうか。

安倍首相が憧れた男

 先日、その石原さんが半年ぶりにツイッターを更新しました。

「腰抜けの日本政府はこの国を守るためのイージス・アショアの配置をなぜ日本の固有領土の尖閣列島におこなわないのか。あの島々を侵犯しようとしている中国への遠慮としたら情けない話だ」(6月17日)

 石原さんと盟友・亀井静香さんの対談は『WiLL』の人気コーナーとなっていますが、6月26日(金)発売の8月号でも尖閣問題に話が及びました。40年以上前、石原さんが初めて尖閣に灯台を建てたエピソードや領土・防衛問題で外務省と闘ってきた話などを聞くにつけ、我が国が直面する問題は何も変わっていないのだと痛感します。

 石原さんは都知事時代、尖閣購入のため寄付を募り14億円を集めました。しかし、民主党政権の国有化という横ヤリが入り、寄付金は宙ぶらりん状態になってしまった。あの14億円、実は都議会で「尖閣以外の使途は認めない」と条例で定められ、手つかずのままプールされています。

 人民解放軍の管轄下に置かれる中国船「海警」が尖閣周辺に侵入し、日本漁船を追い回す事態となった今こそ、都庁に眠る尖閣基金を開錠すべきではないでしょうか。石原さんは日本青年社を支援し、魚釣島の西端に灯台を建てました。今度こそは、四方どこからでも見える島の頂上に灯台を建ててほしいと思います。
 ちなみに僕は学生時代、一級船舶免許を取得しました。いざとなれば尖閣に上陸できるように、という理由にほかなりません。必要があれば、いつでも馳せ参じる所存です。

共同幻想に浸らせて

「国家なる幻影」というタイトルを聞いて、吉本隆明の「共同幻想論」を想起する方も多いのではないでしょうか。実際、僕の解釈では通じるものがあると思っています。近年、吉本隆明が再評価されているように、民族存亡を懸けて米国と対峙した大東亜戦争という国家的体験を経験した世代も減る今もなお、いや今だからこそ、石原さんの思想・哲学も眩いほどの光を放っている。

 僕は平成生まれで、昭和という時代すら知りません。君が代や日の丸を忌まわしいものとして扱う教育を受け、日本外交は近隣諸国に頭を下げるばかり。国家としての威信も誇りもない戦後日本では、国家を愛すること自体が困難になっている。そんななか、せめて共同幻想だとしても国家を大切にしたい。いや、共同幻想でこそ国家というものを意識したい。

 石原さんの皇室観や米国観は保守派のメインストリームからは一線を画しています。しかし、「国家的体験」を欠いた現代にこそ、「国家なる幻影」は響くものがある。ともあれ、石原さんの著作を読んでいただきたい。社会契約説や唯物史観より有機的で、漠として脆い。しかし、何よりも国家と国民の関係について的を射たのが石原さんの日本論なのです。

 共同幻想を取り戻すためには、民族の物語としての歴史を知る必要がある。百田尚樹さんの『日本国紀』のベストセラーをはじめ、巷で巻き起こる日本史ブームは、国家なき時代を生きる者たちの反動ではないか。そう思わざるを得ません。
 (1530)

山根 真(ヤマネ マコト)
1990年、鳥取県生まれ。中学時代から『WiLL』を読んで育つ。
慶應義塾大学法学部卒業。ロンドン大学(LSE)大学院修了。銀行勤務を経て、現在『WiLL』編集部。
好きなものは広島カープと年上の優しい女性。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く