"コロナ勝利宣言"をしたのに…
2020年7月、ロシアから南京への飛行機内を清掃した従業員に新型コロナウィルス感染が見つかり、南京市当局が全市民を対象にPCR検査を実施したものの、時既に遅し、封じ込めに失敗して、8月上旬には、15省にまで感染が拡大した。
この頃の中国は感染拡大だけなく、台風の被害のほか、干ばつ、雹(ひょう)、地震、森林火災などの災害が立て続けに起こっていて、まさに「呪われた状態」だった。中国系メディアのCGTNによると、約3400万人が被災して、432人が死亡か行方不明になった。経済的損失は直接的なものだけで約2兆5千億万円にも達している。
ただ、その後、感染は終息を見せた。北京五輪を意地でも成功させたい一心の習指導部があらゆる犠牲を払って封じ込めて、デルタ株に「完全勝利」を果たす。
そして2020年9月8日には、習近平指導部が、新型コロナウィルスの防疫や治療に貢献した医療関係者などを表彰してたたえる式典を催した。この式典で習近平主席は、「中国が責任ある行動をとり、新型コロナウィルス封じ込めの戦いに勝利したのだ」と、コロナに対する勝利宣言をおこなったのである。
習指導部は徹底した行動制限とPCR検査で封じ込める「ゼロコロナ政策」に自信を深めて、コロナ勝利宣言をきっかけに行動の自由を解禁して、経済回復・経済成長に一気に舵を切った。
この頃の中国は感染拡大だけなく、台風の被害のほか、干ばつ、雹(ひょう)、地震、森林火災などの災害が立て続けに起こっていて、まさに「呪われた状態」だった。中国系メディアのCGTNによると、約3400万人が被災して、432人が死亡か行方不明になった。経済的損失は直接的なものだけで約2兆5千億万円にも達している。
ただ、その後、感染は終息を見せた。北京五輪を意地でも成功させたい一心の習指導部があらゆる犠牲を払って封じ込めて、デルタ株に「完全勝利」を果たす。
そして2020年9月8日には、習近平指導部が、新型コロナウィルスの防疫や治療に貢献した医療関係者などを表彰してたたえる式典を催した。この式典で習近平主席は、「中国が責任ある行動をとり、新型コロナウィルス封じ込めの戦いに勝利したのだ」と、コロナに対する勝利宣言をおこなったのである。
習指導部は徹底した行動制限とPCR検査で封じ込める「ゼロコロナ政策」に自信を深めて、コロナ勝利宣言をきっかけに行動の自由を解禁して、経済回復・経済成長に一気に舵を切った。
「思わぬ伏兵」オミクロン株
しかし、2021年12月、かつて「長安」と呼ばれた歴史都市・西安でデルタ株が猛威を振るい始める。
中国当局は西安市の約1400万人という莫大な人口に対して、徹底した行動制限とPCR検査を実施して封じ込めをはかった。ところが、感染は収まることなく、長期にわたる行動制限で食糧不足まで起こり、市民から不満が漏れるようになっていく。
西安についてはさらに困ったことが起こる。それがドブネズミやセスジネズミなどを媒介とするハンタウィルスが原因となる「流行性出血熱」の拡大である。
このダブルの感染によって西安の病院は忙殺されて、一部で病院閉鎖が起こっているという情報まで伝わっている。
さらに、思わぬ伏兵が現れた。新型コロナウィルスの新たな変異株であるオミクロン株だ。
オミクロン株はデルタ株より毒性が低く、重症化は少ないことが明らかになっている。ただ、症状が軽いぶん感染拡大の勢いがすさまじい。アメリカやイギリスがオミクロン株の拡大で行動制限はしないという「ウィズコロナ政策」に入ったのとは対照的に、中国はゼロコロナ政策を維持することにした。
ウィズコロナ政策の維持については中国国内でも異論があったと伝えられている。だが、冒頭で述べたように習主席にとっては式典までやって新型コロナウィルスへの「勝利宣言」までやってしまったことが、ここに来て大きな足かせとなった。
考えてみると、症状が軽いのであれば、「ゼロ」にこだわる必然性が低いのは明らかだ。たしかに感染者が多ければそれだけ重症化する人数は増えるだろうが、他国のデータを見る限り、急速な広がりを見せたあと比較的早くピークアウトしている。
医療崩壊しない程度に感染者を抑えられれば、デルタ株ほど怖い変異株ではないと考えられるのだ。
中国当局は西安市の約1400万人という莫大な人口に対して、徹底した行動制限とPCR検査を実施して封じ込めをはかった。ところが、感染は収まることなく、長期にわたる行動制限で食糧不足まで起こり、市民から不満が漏れるようになっていく。
西安についてはさらに困ったことが起こる。それがドブネズミやセスジネズミなどを媒介とするハンタウィルスが原因となる「流行性出血熱」の拡大である。
このダブルの感染によって西安の病院は忙殺されて、一部で病院閉鎖が起こっているという情報まで伝わっている。
さらに、思わぬ伏兵が現れた。新型コロナウィルスの新たな変異株であるオミクロン株だ。
オミクロン株はデルタ株より毒性が低く、重症化は少ないことが明らかになっている。ただ、症状が軽いぶん感染拡大の勢いがすさまじい。アメリカやイギリスがオミクロン株の拡大で行動制限はしないという「ウィズコロナ政策」に入ったのとは対照的に、中国はゼロコロナ政策を維持することにした。
ウィズコロナ政策の維持については中国国内でも異論があったと伝えられている。だが、冒頭で述べたように習主席にとっては式典までやって新型コロナウィルスへの「勝利宣言」までやってしまったことが、ここに来て大きな足かせとなった。
考えてみると、症状が軽いのであれば、「ゼロ」にこだわる必然性が低いのは明らかだ。たしかに感染者が多ければそれだけ重症化する人数は増えるだろうが、他国のデータを見る限り、急速な広がりを見せたあと比較的早くピークアウトしている。
医療崩壊しない程度に感染者を抑えられれば、デルタ株ほど怖い変異株ではないと考えられるのだ。
メンツ>国益の愚
西安の感染封じ込めに手をこまぬいている間に、オミクロン株感染が天津や深圳などの大都市や産業都市にも広がり始める。
これらの都市でも徹底した行動制限が課せられたことで、都市内や近郊にある工場が生産縮小や生産停止に追い込まれ、港湾都市である天津では流通が目詰まりを起こして、世界のサプライチェーンにまでダメージが拡がり始めている。それは国内企業だけでなく、サムスンの半導体、フォルクス・ワーゲンやトヨタなどの自動車、ナイキやアディダスなどの繊維製品にまで広く及んでいる。
習近平指導部には「ゼロコロナ政策」から転換するチャンスが何度かあった。とくにオミクロン株の出現時、その性質が明らかになった時点で転換すれば、ここまでの混乱は起きなかったはずだ。
ところが、習指導部は「勝利宣言」の呪縛を解くことができない。北京五輪が近づいていることもあって、新型コロナウィルス封じ込めのために強烈な行動制限を続けるしか手がなくなっている。
これらの都市でも徹底した行動制限が課せられたことで、都市内や近郊にある工場が生産縮小や生産停止に追い込まれ、港湾都市である天津では流通が目詰まりを起こして、世界のサプライチェーンにまでダメージが拡がり始めている。それは国内企業だけでなく、サムスンの半導体、フォルクス・ワーゲンやトヨタなどの自動車、ナイキやアディダスなどの繊維製品にまで広く及んでいる。
習近平指導部には「ゼロコロナ政策」から転換するチャンスが何度かあった。とくにオミクロン株の出現時、その性質が明らかになった時点で転換すれば、ここまでの混乱は起きなかったはずだ。
ところが、習指導部は「勝利宣言」の呪縛を解くことができない。北京五輪が近づいていることもあって、新型コロナウィルス封じ込めのために強烈な行動制限を続けるしか手がなくなっている。
都市封鎖が続いている西安には韓国サムスンやアメリカのマイクロンの半導体工場があり、半導体不足がまたぶり返す可能性もある。ゼロコロナ政策の反作用は中国の経済成長にとってももちろんマイナスで、世界経済に与える影響も小さくない。
それにもかかわらず、習主席はメンツを守るためだけに、中国人民を追い込み、中国経済にダメージを与え続けている。考えてみると、武漢の新型コロナウィルスがパンデミックにまで拡がったのも、習主席が自分たちのメンツを守るためだけに、WHOのテドロス事務局長と組んで正しい情報を隠蔽し続けたからだという面がある。
自分の威信のためだけに雪の降らない北京で冬季五輪をやり、メンツのためにパンデミックを起こし、メンツのために人民を苦しめると国家主席こそ、習近平という人物である。
一人のトップがメンツにこだわることで判断ミスをおかし、そのことが国益を破壊する。独裁国家の真の恐怖はここにある。
それにもかかわらず、習主席はメンツを守るためだけに、中国人民を追い込み、中国経済にダメージを与え続けている。考えてみると、武漢の新型コロナウィルスがパンデミックにまで拡がったのも、習主席が自分たちのメンツを守るためだけに、WHOのテドロス事務局長と組んで正しい情報を隠蔽し続けたからだという面がある。
自分の威信のためだけに雪の降らない北京で冬季五輪をやり、メンツのためにパンデミックを起こし、メンツのために人民を苦しめると国家主席こそ、習近平という人物である。
一人のトップがメンツにこだわることで判断ミスをおかし、そのことが国益を破壊する。独裁国家の真の恐怖はここにある。
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。