白川司:半導体戦略に完敗した習近平指導部

白川司:半導体戦略に完敗した習近平指導部

もうダメ?

またデフォルト

 2020年12月10日、中国企業である清華紫光集団が、同社の社債「18紫光04」の償還ができない「デフォルト」を発表した。

 清華紫光集団の「清華」とは清華大学のことだ。習近平主席の出身大学で、文系の北京大学、理系の清華大学などと言われ、中国ナンバーワンの名声を分け合う名門大学である。

 その清華大学が経営する半導体関連企業グループが清華紫光集団で、清華大学科技開発総公司が母体となり、1993年に設立されている。

 清華紫光集団は「持ち株会社」で、傘下にはITサービス、半導体設計、フラッシュ・メモリなど複数の大企業を抱える半導体複合企業だ。すべてを買収によって傘下に収めており、習近平指導部の重要政策である半導体内製化の重責を担わされていた。

 だが、清華紫光集団が半導体の巨大投資についていけなくなり、ついに社債を返還できなったというのが、このデフォルトの原因である。

 理由は言うまでもなく、アメリカのトランプ前大統領による苛烈な半導体制裁によって、先端半導体生産に必要な製造機などが入ってこなくなり、開発競争どころではなくなったためだ。

 また、トランプ制裁では、ファーウェイ傘下の半導体ファウンドリ企業SMICがアメリカ政府の輸出規制をかけられて、中国の半導体は国際市場から「つまはじき」の状態になっている。

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失敗を重ねる中国の半導体開発

 そこで、中国政府は急速に内製化(すべてを中国国内で製造する体制)を進めている。中国政府は単独で技術革新と国産化を同時に進めるという大きな課題を背負ってしまったかっこうだ。

 中国中央政府と地方政府も同様の基金を立ち上げ、たくさんの企業が手を上げて事業登録をおこなったが、ふたを開けると半導体製造の技術があるところはごくわずかで、ほとんど機能することがなかった。まさに「無駄金」である。

 1月10日の『ウォール・ストリート・ジャーナル電子版』によると、中国でこの3年で少なくとも6つの半導体製造計画に失敗したと報じている。習近平指導部からすれば、アメリカの代表的経済紙に半導体内製化の「失敗宣告」を受けたようなものだろう。

 2015年に習近平指導部がかかげた産業政策の見取り図である「中国製造2025」では、半導体自給率を2020年に40%、2025年に70%にする計画だったが、2019年は15.7%にとどまっており、2025年の70%はおろか、2020年の目標だった40%を達成も遠く及ばす、20%にも届いていない。
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トランプの制裁が功を奏した
中国政府の見通しが甘かったとも言えるが、同時に、トランプ政権の半導体に関わる経済安全保障政策が予想以上に苛烈で、抜け道が探せなかったとも言える。特に中国ITの雄とも言えるファーウェイに対する制裁は苛烈を極め、先端半導体が入手できなくなった同社は5Gスマホの生産を断念せざるをえなくなった。

 一部のフラッシュ・メモリ(128層の3次元フラッシュ・メモリ)の量産品では世界トップレベルに追いついている。ただ、DRAMや5G向け半導体やICチップなどでは日米欧にかなり水を空けられている。

 中国製造2025が発表された2015年から、清華紫光集団はアメリカのマイクロンテクノロジーやウエスタンデジタル、韓国のSKハイニックス(SKはSouth Koreaのこと)など名だたる半導体企業への買収を仕掛けたが、トランプ政権にことごとく阻止されてしまう。

 また、フラッシュ・メモリの最重要拠点となったの武漢が、新型コロナウイルス感染拡大から日本人技術者がいっせいに帰国して、フラッシュ・メモリ製造計画は大幅に遅れるなどの事情も重なった。

文字通り「敗北」

白川司:半導体戦略に完敗した習近平指導部

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「喉から手が出るほど」欲しい技術だが…
 一方、DRAMはフラッシュ・メモリよりも作るのが難しいと言われており、DRAM量産化に乗り出した中国2社が2018年にアメリカ商務省は「エンティティ・リスト」(安全保障上場のブラックリスト)入りさせられて、外国メーカーの支援が受けられなくなった。そのため、開発が頓挫しかけていると言われている。

 世界一の微細化技術を持つ台湾TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏は「中国の半導体製造技術はTSMCに比べて5年以上遅れている」と述べているが、実際はそれ以上の開きがあるだろう。

 現在は社債デフォルトを起こした清華紫光集団については、政府系ベンチャーキャピタルが中心となっているコンソーシアムが投資を担当することになり立て直しを図っている。

 中国のファウンドリ企業HSMCはTSMCの元最高幹部をCEOに招き、もう1つのQXICもTSMCの技術者を高額報酬で数多く採用している。ところが、HSMCは最先端半導体の製造に必要な資金がなく、また技術者がいても企業としてのノウハウ自体は学べないのでほとんど意味がなかった。

 中国の半導体産業はファウンドリとして商業化すら難しい状態である。土台となる基本技術がないところから一気に台湾TSMCや韓国サムスンやインテルなどに追いつこうとしているのだから、もともとが無理のある話だった。やはり「技術盗用」ありきの計画だったのではないだろうか。

 文字どおり「敗北」と言っていい惨憺たる結果である。
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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