周庭 (アグネス・チョウ)氏 インタビュー再掲【香港デ...

周庭 (アグネス・チョウ)氏 インタビュー再掲【香港デモの女神】

※記事はインタビュー当時(2019年10月)の状況を反映したものです。

(2019年)6月から始まった香港デモは終わりのない戦いに入っている。10月には高校生が警察の銃弾で胸を撃たれる事態が発生した。雨傘運動(2014年9月28日から79日間続いた民主化要求デモのこと)の女神、民主化運動の女神と言われ、スポークスパーソンとして世界中のメディアから取材を受けている周庭(アグネス・チョウ)氏。香港デモの実態と「1国2制度」の問題、そして習近平政権への思いを語ってもらった。

警察の権力乱用

──お忙しいところお時間をいただき、ありがとうございます。雨傘運動の頃から存じ上げており、その頃から日本語は大変お上手でしたが、さらに上達されましたね。このまま日本語でインタビューしていいですか。

 はい。日本語はアニメやJ-POPを通じての独学です。雨傘運動から日本のメディアが香港に注目してくれて、日本語で取材を受けることで、ずいぶん練習機会を与えてもらいました。

──香港デモは6月9日の103万人デモからいろんなことが起きました。10月1日のデモでは、警察の銃弾で高校生が胸を撃たれる事件が発生するなど激しくなっています。これまでを振り返ってみて、何をお感じになっていますか。

 このデモは、確かに逃亡犯条例改正問題から始まったのですが、6月12日以降、警察の権力乱用について香港政府が何も批判しないことに怒りを覚え、5つの要求(5大訴求)を打ち出すことにしました。もちろん条例改正案撤回は重要ですが、警察の暴力、警察の行為に対して外部調査委員会を設置し、本当の民主主義を実現するために普通選挙を行うことが、より重要だと考えるようになったのです。
 10月1日は中国にとって国慶節ですが、私たちはお祝いする気持ちにはなれませんでした。香港人を含めてたくさんの人が中国に苦しめられていることも知っているからです。中国は報道統制があり、中国の人たちにはわからないかもしれませんが、中国国内でも、ウイグルやチベットの人たち、信仰を持つ人たちが弾圧されています。
 ですから、10月1日デモの目標は、5大訴求だけではなく、中国政府の政治的弾圧、暴力的弾圧に反対するという気持ちをもって、たくさんの市民が参加しました。この日のデモで、18歳の男子高校生が左胸を警察の銃弾で撃たれました。警察が実弾を使ったのは初めてではありませんが、デモの参加者の心臓を狙って実弾で撃ったのは初めてでした。警察発表はウソばかりです。
 記者会見で「左肩を撃った」「正当防衛だ」などと発表していますが、明らかに心臓を狙っているので、殺すつもりで撃ったのだと思います。警察がどんどんコントロールできない状況になっています。警察の権力乱用は今回だけでなく、過去数カ月間、たくさんありました。たとえば逮捕された人が警察に虐待されたり、セクハラされたり、殴られたり、そういう証言もたくさんあります。やりたい放題です。
 10月1日の話だけでなく、警察側はデモ隊を殺すつもりで暴力を振るっていると思います。実弾だけではなく、催涙弾や放水車でも人を殺せます。そういう武器を持っている法的権力がある警察が、これほどコントロールできていないことが、香港人にとって恐怖なのです。
 もともと警察は市民の安全と命を守る責任がありますが、今、香港警察はまったくそのような責任を負っていません。警察は市民の税金から給与をもらっているのに、市民を傷つける側になったのです。

香港人権・民主主義法案

──国慶節の日に警察の実弾発砲のような大事件が起きることは予測していましたか。

 警察の暴力がエスカレートするだろうとは予測していました。ですが、今の香港では予測できないことが多い。警察、政府だけでなく、親北京派のマフィアが結託して、無差別に市民を攻撃したり、黒い服を着ている人たちを攻撃することもよくあります。明日がどうなるのか、わからない状況になってしまいました。

──1日のデモでは、周庭さんはどこにおられましたか。危険な目にあっていませんか。

 私は沙田(香港・新界にある住宅・商業地区)のデモに参加しました。今の香港は、デモに参加すればどこでも危険です。この100日余り、私だけでなく香港人はみんなずっと恐怖の中にいます。

──こういう混乱の香港を放っておいて、10月1日にキャリー・ラム(林鄭月娥)行政長官ら香港政府の幹部たち240人が北京に行ったことについては、どう思いますか。

 この時期に北京に行ったことは、彼女は香港のための行政長官ではなく、北京政府のための行政長官であることを改めて示したということです。これは香港に民主主義がないせいだと思いました。

──ラム行政長官は5大訴求のうちの1つ、条例改正案を完全撤回すると発表しました。これは部分的とはいえデモの勝利ではないでしょうか。

 勝利だとはまったく思いません。6月、100万人や200万人のデモが起きたとき、この撤回が発表されたのなら、香港は今、こういう状況になってはいなかったでしょう。この100日余り、自殺した仲間たち、ケガをした仲間たち、警察に逮捕され虐待された人たちがたくさん出て、今さら何もなかったふりをして、条例改正案を撤回するといっても遅すぎるし、まったく納得できません。
 ラムは五大訴求のほかの4つの要求に応えねばなりません。特に警察の暴力に対して、外部調査を行うことが必要だと思います。

──警察監督会は役に立ちませんか。

 あの組織の役割は、確かに警察を監督・監察することですが、あの組織には法的な権力はまったくありません。権力がないので影響力がない。私たちが望んでいるのは、法的権力を与えられた本当に警察に対して監督・監察ができる外部組織の設置です。

──9月中旬、周庭さんはドイツ、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)さんは米国に行かれて、国際社会に香港への支援を訴えられましたね。米国は香港人権・民主主義法案を可決しようとしています。米国のこの法律によって、国際社会が香港を支援すれば、あなた方の5大訴求が認められると思いますか。

 まずは国際社会から香港政府にプレッシャーをかけることはとても大事だと思っています。香港は国際金融都市なので、さまざまな国の人や企業、資金が集まっています。米国で審議されている「香港人権・民主主義法案」も、本当にこの法案が施行されたら、香港の人権を弾圧する人たちの米国入国禁止や資産凍結も行われます。これは確実なプレッシャーになると思います。

人権や人の命を尊重できる国

──中国がそれでも香港に対して人権弾圧や「1国2制度」を破壊するような行動をし続けると、香港に対する経済的優遇、たとえば関税優遇やビザ優遇も取り消され、事実上、香港が経済制裁を受ける格好になります。そうなると、香港の繁栄が失われるのではありませんか。

 私にとって強い国、繁栄した国というのは、経済力があるだけでなく、人権や人の命を尊重できる国です。中国は世界の経済大国と言われていますが、自治を求めるだけで弾圧されます。不可解な死に方をした人たちもたくさんいます。こういう国のどこが経済大国なのか。
 この運動が始まる前の香港は、おそらく外部から経済的には繁栄しているように見えていたかもしれません。ですが、実はこの20年間、香港人はさまざまな苦しみを経験してきました。政治的な問題だけではなく、社会、生活の問題もあります。今の政府に対する運動は、これまでの怒り、不満が一挙に出てきた感があります。政治的な問題を根本的に解決することが、香港の本当の繁栄のために必要だと思います。
 もともと香港は、中国に返還される前から国際金融都市でした。香港がなぜ経済的に繁栄したのか、今まで国際金融都市であり続けたのか、これは中国のおかげというより1国2制度のおかげです。香港経済の繁栄は、公平な制度や法律に裏打ちされたシステム、政治と経済の自由があるからこそ守られるのだと思います。ですが、今、中国政府はこの1国2制度を破壊しにきている。
 今、私たちが直面しているのは、政治問題を解決することと、 香港経済の繁栄を守ることの二者択一ではなく、この政治問題を解決し、1国2制度をしっかり機能させないと香港の繁栄もなくなる、という現実です。

──デモが暴力的になっていることについてどう思いますか。

 この3カ月間、何度となく日本メディアからそういう質問を受けました。デモのことを、あまり軽々しく暴力的とか暴徒化というのはフェアではないと思います。
 私たち香港人は民主主義のために、この20年間、さまざまな手段を使ってきました。今回の運動の中でも、デモやストライキ、授業ボイコットなど、穏健に平和的手段で訴えてきたのです。でも、こういう手段を使っても香港政府はまったく民意に向き合ってこなかった。私はもともと非暴力を主張してきましたが、日本のみなさんにはまず、香港人の怒りを理解していただきたい。
 普通の平和的デモには政府も慣れてしまい、全く動かない。今のような激しいデモになって、経済にも影響が出始め、予測できない事態が起こり得るようになって、政府へのプレッシャーが強くなった。条例改正案撤回を発表したのも、デモが過激化してからです。平和的手段と急進的な手段、両方とも必要だと今は思うようになりました。

──でも、火炎瓶を投げたり地下鉄を破壊したりするのを日本人が見ると、やりすぎではないか、と思ってしまいます。

 まず事実を知ってほしい。警察がデモの参加者に成りすましていることも多いのです。8月中旬から警官がデモ隊に成りすまして火炎瓶を投げていたことはニュースにもなりました。デモの参加者に成りすまして何をするのか。
 次にデモの参加者の気持ちも考えてほしい。私たちはすでに平和的な手段を使って何度も訴えてきました。外国であれば100万人のデモ隊が街に出てきたら、政権が交代しますよね。
 香港人は今、5大訴求だけのために戦っているのではありません。死んだ仲間や虐待された仲間、銃で撃たれた仲間、セクハラされた仲間がたくさんいます。
 現場では警察の暴力がエスカレートしています。10月1日も、警察官が銃を構えながら、デモの参加者を追いかける場面がたくさんありました。デモの最前線は、反撃をしないと殺されるかもしれない、という緊迫した状況があります。
 そもそも、権力を持ちいくつもの武器を携えた警察の暴力とデモ隊の暴力を比較すること自体、フェアではありません。

民主主義がない

──中国のメディアでは、デモの背後に米国がいて、CIAが操り、工作費や工作員が来ていると言われています。それについてはどう思いますか。

 笑ってしまいますね。中国人は独裁体制の中で、命令に従うことに慣れてしまって、自分の判断で行動することができないから、そう思うんでしょう。

──5大訴求の最後に「普通選挙の実施」がありますが、普通選挙が実現すれば香港は変化すると思いますか。

 普通選挙があれば社会問題が全部解決されるわけではありませんが、民主主義を実現することができる。民主主義がないことが、香港の政治問題の根本的な部分なのです。

──周庭さんは今度の区議会選挙に出馬されるつもりはありませんか。黄之鋒さんは出馬されますね。黄之鋒さんたちが当選すれば、香港の現状は変わると思いますか。

 私は出馬しません。黄之鋒は出馬すると言っていますが、出馬できるかどうか、まだわかりません。資格が取り消される可能性もあります。あと、親北京派が区議会選挙を延期させようとしているという噂があります。今回の運動を通して、民主派の支持率が上昇し、親北京派の支持率が急落しています。
 区議会選挙は小さい選挙ですが、香港の選挙の中では最も民主的なので、予定通り実施されれば、親北京派が惨敗すると思います。中国政府は、この選挙で負けることをとても怖れていると言われています。資格が取り消される前に、区議会選挙が実施されるかどうかもわかりません。

香港デモの行方

──香港デモは今後、どうなると思いますか。5大訴求を叶えることはできると思いますか。

 それはキャリー・ラムに聞いた方がいいんじゃないかな。

──では、要求が通るまで運動は続くと思いますか。

 なぜ、みんなの怒りが続いているかというと、5大訴求の問題だけでなく警察や政府からの弾圧がどんどん強くなっている点が大きい。武器の使用も増えました。ケガをする人も増えました。この弾圧が続くかぎり、運動も続くと思います。弾圧をやめないと、終わらない。

──あなたは雨傘運動以来、雨傘運動の女神、民主化運動の女神と、シンボルになってしまいましたが、そのことについてはどう思っていますか。

 今回の運動はリーダーのない運動、水のように変化する運動です。それに、私はもともとリーダーでもありません。普通の参加者の1人です。日本語ができるから、日本メディアに香港の状況を説明したりするだけ。女神と呼ばれるのは、好きじゃないですね。

1国2制度の終焉

──社会活動に身を投じずに、普通の人生を歩む方がよかったかな、と思うことはありますか。運動に参加したために、8月30日に逮捕され、起訴されましたね。後悔はありませんか。

 私は普通の人生を歩んでいると思っていますよ。普通ってなんだろう? 
 香港人としては、この時代に生きているからには、自分の街を守る責任がある。これが今の私たちの普通です。たくさんの香港人が街でデモをしています。みんな一般市民で普通です。一般市民だからこそ、権力がない普通の私たちだからこそ、何かする必要があると思います。
 特に私たち若者は、これから何十年も、香港に住みたいと思っています。私たちのためだけでなく、私たちの次の世代の人たちのためにも戦わないといけない。
 1国2制度は2047年で終わる、という言い方がありますが、実はもう1国2制度はほぼ終わっているんですね。「1国1.1制度」くらいに壊されています。だから、私は2047年の未来のために、というわけではなく、明日の香港のために戦っているんです。明日の香港がどうなるかもわからない状況ですから。
 あと、私が逮捕された理由は6月21日の警察本部前のデモに参加し、デモを煽動したという容疑です。なぜ逮捕されたかというと、純粋な司法判断ではなく、8月31日に大きなデモをする予定がありましたから、知名度のある人たちを逮捕して恐怖を与えて、デモに参加させないようにしようという政治的な判断だったと思います。私だけでなく黄之鋒や3人の民主派の立法会議員もほぼ同時に逮捕されました。

香港人全体のために

──香港市民の中には、デモに反対している人たちが多くはないとしても存在しています。デモは市民を分断していると言う人もいますが、それについてはどう思いますか。

 もちろん、デモに反対する人たちはいます。でも、分断というのは、この運動によって分断されたのではなく、もともと香港市民の中に、さまざまな政治的なスタンスを持っている人がいる。どの社会でも異なる意見、異なる政治スタンスの人たちが共存しているのです。日本でも、そうでしょう?
 私たちが戦っているのは民主主義のため、そして警察の権力乱用を止めるためです。民主主義とは異なる意見を持つ人の権利を守るための制度です。デモの参加者は自分のためだけでなく、異なる意見を持つ人を含めて香港人全体のために戦っていると思います。

──台湾の総統選が来年(2020年)1月に予定されており、香港の運動に世論が影響を受けているようです。香港と台湾の連携についてどう思いますか。

 香港の状況は台湾の選挙結果に大きな影響があると思います。台湾には親中派政党もありますし、中国政府は台湾でこれから1国2制度をやろうと言っていますね。香港を見れば、1国2制度の真実がわかると思います。

習近平政権に対して

──習近平政権に対して、どのような意見を持っていますか。

 習近平が国家主席になってから、香港に対する政策が強硬になったことは、みんなが感じていることです。本当の政府とは、市民から選ばれる存在だと思います。ですが、香港も中国もそうではなく、独裁体制で市民の意見など聞かなくていい、反対意見を持っている市民は殺せばいい、という国です。そういう国は普通ではありません。私たち香港人は、中国から様々な弾圧や暴力、恐怖を受けています。ですが、決してあきらめず、この独裁国家に抵抗し続けたいと思います。

──日本のメディア、日本に対して求めることはありますか。

 軽々しく、香港のデモを暴力的、暴徒化しているなどと言ってほしくはありません。日本政府にも香港の状況に注目して、香港の人権問題、中国の人権問題に関して積極的に意見を表明してほしいと思います。
 あと、選挙に行く権利を大事にしてください。民主主義は日本人にとって当たり前のことかもしれません。でも、私たち香港人はそんな当たり前の権利すらなく、その当たり前の権利を獲得するために懸命に戦い、犠牲になっている人もいるのです。民主主義があるのに、自分の持っている権利を大切にしない日本人を見ると、実は悔しい気持ちでいっぱいになります。せっかく持っている選挙の権利や言論の自由、民主主義をなぜ大切にしないんですか、と複雑な気持ちになります。
周 庭(アグネス・チョウ)
1996年、香港生まれ。香港の社会活動家。大学に通いながら香港衆志(デモシスト)常務委員を務める。小学生時代から日本のアニメとポップカルチャーが好きで独学で日本語をマスター。2012年、学民思潮のメンバーとして、黄之鋒とともに反国民教育運動に参加。2014年の雨傘運動に学民思潮のスポークスパーソンとして参加し、その清純な容姿も手伝って「雨傘運動の女神」と呼ばれた。香港の自決権を求める政党・デモシスト創設時(2016年)のメンバー。今年の逃亡犯条例改正反対デモでは、6月21日の警察本部包囲デモに関与した疑いで8月30日に逮捕、起訴されたが、夜間外出禁止などの条件をのんで保釈された。
2020年8月10日、国家安全維持法(国安法)違反の容疑で逮捕された。

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