これを「国難」と呼ばずして何と言おうか。
 歴史上、中国王朝が疫病をきっかけに倒れていった例は少なくないが、まさか疫病のあおりで日本の政権が危うくなっているのは「皮肉」というほかない。
 感染力が極めて強い新型コロナウイルスにもかかわらず、中国への配慮によって諸外国のように中国からの「入国禁止」措置を採れなかった安倍政権。数々の〝泥縄対策〟が国民の不興を買い、支持率急落の憂き目に遭っているのは周知のとおりだ。
 
 だが、本当の国難とは、国会のありさまそのものではないだろうか。昨年11月からスタートした「総理と桜を見る会」への批判は、年が改まり、通常国会が始まっても延々と続いている。
 2月17日、国会で安倍晋三首相が「不規則な発言をしたことをお詫びする。今後、閣僚席からの不規則発言は厳に慎むよう身を処していく」と謝罪したことに目を丸くした向きは少なくないだろう。
 どう考えても「謝罪すべきは逆だろ?」と考えるのが普通の感覚だからだ。12日の審議で政策論もないまま立憲民主党の辻元清美氏が、「鯛は頭から腐る。頭を替えるべきだ」と質問終了時に言い放った。一国のトップに「腐る」という表現を用いたことは、国会の品位を汚すものであることはもちろん、常識ある大人がそもそも口にする言葉ではない。
「ちょっと待ちなさい。国会は罵詈雑言が許される場ではありません。国権の最高機関である。今の言葉を取り消しなさい」

 本来ならここで委員長が割って入ってそう辻元氏を窘(たしな)める場面である。しかし、その動きはない。安倍首相が質問終了後、思わず「意味のない質問だよ」と呟き、マイクがこれを拾った。褒められるものではないが、野党に比べればまだ〝まともな〟発言だっただろう。だが、国会のお粗末な点はそこからだ。
「罵った」側の野党が逆に謝罪を迫ったのである。日本では、この類いを〝居直り強盗〟と呼ぶ。

 しかし、自民党の国会対策委員長は、あの野党の掌で踊る森山裕氏。二階俊博幹事長と共に、野党と気脈を通じ、憲法改正問題をはじめ、安倍政権の足を引っ張り続ける御仁だ。そんな人物をいつまでも国対委員長という重要ポストにつけているのが、安倍氏本人。謝る必要もない案件で、こうして謝罪しなければいけない羽目になる。安倍氏の自業自得とはいえ、二階─森山コンビのお蔭で野党は増長を重ね、無意味な〝桜〟質問を続け、ヤジに関しても聞くに耐えない〝暴言〟をくり返しているのである。

 2月4日の予算委員会もひどかった。黒岩宇洋議員が、安倍首相に耳打ちしようとした秘書官に対し、
「ちょっと、そこ、話さない! そこ! うしろ、うるさい! そこ、関係ないでしょ?」
 そう声を荒らげたのだ。この時も委員長は黒岩氏を制止しなかった。さすがに安倍首相はこう答えた。
「秘書官は様々な機会にアドバイスすることがあります。それに対して、怒鳴るというのは異常な対応ですよ。言葉を荒らげて秘書官に対して怒鳴るというのは、人間としてどうなのか。居丈高に仰るのは、やめた方がいいですよ」
 子供には絶対に見せたくない呆れた場面である。

 すっかり野党のターゲットになった北村誠吾地方創生相への質問やヤジもひどかった。2月7日の予算委員会では、「答えてないじゃん!」「答えて!」「いい加減にしろ!」と、質問者だけでなく、後方から聞くに耐えない怒号が飛んだ。
 まるで公開のイジメだ。そのうえ野党側は、北村大臣の答弁を問題視して委員会を退席し、審議もストップ。そのまま審議終了となった。傍若無人とはまさにこのことである。
 議員である前にまさに「人間としてどうか」というレベルの野党議員たち。そして、その増長を許す自民党執行部。さらには、新型コロナウイルスに対して中国への忖度から無為無策を露呈し、国民の命を危険に晒し続ける安倍政権──絶望の日本の国会とはこんなありさまだ。

 いくら与党に3分の2の議席を与えても、憲法改正の発議さえできない。それどころか野党をさらにのさばらせ、国会を無意味なものにする自民党。確かなのは、コアな安倍政権支持者が愛想を尽かし始めていること。昨年の消費増税、そして新型コロナウイルス問題で、安倍政権は急速に支持者を失いつつある。「その先」の日本に何が待っているのかを考えると、背筋が寒くなる。

門田 隆将
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第19回山本七平賞を受賞。最新刊は、『新聞という病』(産経セレクト)。

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