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岸田首相、「LGBT理解増進法案」は本当に必要なんですか

由々しき事態

 総理秘書官のLGBTに関するオフレコ発言を毎日新聞が暴露してから、急にLGBT理解増進法案なるものが焦点となり、今国会で特定野党のみならず、自民党まで成立に向けて走り始めた。

 岸田文雄首相は2月6日、このLGBTへの理解増進を図る法案の国会提出に向けた準備を茂木敏充・自民党幹事長に指示し、翌々日の8日には国会で、

「岸田政権は持続可能で多様性を認め合う包摂的な社会を目指している。性的指向、性自認を理由とする不当な差別、偏見はあってはならない」

 と表明。自民党も親中派やリベラル勢力がおよそ8割を占めるだけに、「法案成立が有力」という由々しき事態に陥っているのだ。

 では、なぜLGBT理解増進法がいけないのか、簡単に説明してみたい。ポイントは〝性同一性〟と〝性自認〟の問題に尽きる。性同一性障害とは、「心の性」と「身体の性」が違う場合に医師が心の性と身体の性を確定し、ホルモン療法や手術療法などの治療をおこなうもので、医学的にも「性同一性障害」と呼ぶものだ。差別なき対応が求められる正式な病気であり、社会の理解と協力が不可欠だ。

 一方で「性自認」とは、自分の性を「どのように認識しているか」ということである。これはあくまでも内心にかかわるものであり、自分は「女である」と主張すれば、女として認められなければならず、それへの差別は「許されない」というものだ。

 後者は決定的に前者と異なる。簡単にいえば、「私は女」と主張する男が女湯に入ろうとすることを阻止すれば「差別だ」と開き直られ、告発される危険性が出てくる。実際に欧米ではそんな事件が生まれている。
 また懸念される例としてこんなものがある。例えば女性しか入団が許されない宝塚歌劇団に同じように「私は女」と主張する男が受験し、試験に落ちた場合に「差別を受けた」と訴訟を起こしたらどうなるのか。性自認とは前述のように自らが「自認」しているだけなので、外形的には男であっても、女であることを主張すれば、これを「理解し、差別してはならない」のが法の主旨とすれば、宝塚はどう対処すればいいのか。やがて「性自認への理解」という強要はスポーツの世界にも広がり、それまでの女性記録は悉(ことごと)く性自認たる男によって塗り替えられていくだろう。

 つまり、保護される対象である女性たちが「大きな被害を受ける可能性が高い」のである。私は女性の権利を守るためのMeToo運動や、日本の国会でも白い服を着て女性の権利擁護を叫んでいた女性議員たちが、なぜ「女性の権利侵害」につながるこの法案への反対運動をおこなわないのか不思議でならない。
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「性自認」の問題を解決しない限り、安心して温泉にも入れない(画像はイメージ)
 私が女性たちに取材すると「これが成立したら、もう怖くて温泉にも行けない」という声が聞こえてくる。
 だが、2月13日、山梨県議会では、国会での議論に先立ち、〝何人も人種、信条、性別、性的指向、性自認、社会的身分、門地、職業、年齢、障害又は疾病の有無等を理由に差別的取扱いをしてはならない〟との条例の素案をまとめた。性自認も差別してはいけないので「私は女」と主張する人は女湯に入れるのだろう。

 山梨では石和温泉が有名だが、この条例やLGBT法の成立で、多くの温泉が悲鳴を上げるに違いない。「私は女」と主張する人間が女湯や女性トイレに入ろうとするのを咎めれば「差別だ!」「法律違反だ」などと糾弾され、対応を誤れば、前述のように訴訟になる恐れさえある。過去に同性愛を禁じていたキリスト教、いま現在も禁止しているイスラム教などに比べて、性の多様性に寛容だった日本で、これを法律で縛り、人々の内面に踏み込み、保護されるべき女性を危険に晒(さら)すことが許されるのが私には理解できない。

 LGBT法の次に予定されるのは「夫婦別姓」である。日本では「家族」が社会の最小構成単位である。父と母、そして子供たちで構成される家族は戸籍に記載され、世界でほかに類例を見ない戸籍制度でこの最小の構成単位は守られている。しかし、夫婦別姓となれば、夫婦や兄弟姉妹がそれぞれ別の姓になり、家族の中で違う苗字の人間が〝共同生活〟をおこなうことになる。目指しているのは、世界に冠たる日本の「戸籍制度の破壊」なのだろう。

 安倍元首相の死去以来、日本が大嫌いな〝反日亡国〟勢力の攻勢が凄まじい。彼らの究極の目的である「日本破壊」に気づかず、自分はいいことをしていると陶酔している国民には、自分が何に騙され、何に引きずられているのか、一度、立ち止まって振り返ることをお勧めする。愛する「日本を守る」ために。
かどた りゅうしょう
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『新・階級闘争論』(ワック)、『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)、『疫病2020』(産経新聞出版)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第19回山本七平賞を受賞。共著に『リーダー 3つの条件』(河野克俊氏/ワック)。

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