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ロシアのミサイルがポーランドに着弾したが……
 ロシアのミサイルがポーランドに着弾、2人死亡。11月16日早朝、世界を駆けめぐったニュースに「ああ、これでロシアが終わる」と思った向きも少なくなかっただろう。
 ポーランドはいうまでもなくNATO(北大西洋条約機構)加盟国。本当にロシアのミサイルがポーランドに着弾したなら「NATOへの攻撃」となり、NATO30カ国は共同防衛条項を発動し、ロシアとの全面戦争に入る。ウクライナ一国に押し戻されている今のロシアがNATOと戦争になればひとたまりもない。2月24日以来のロシアの暴挙に、やっとピリオドが打たれると多くの人が考えたのである。

 だが、時間が経つにつれ、これはロシアの巡航ミサイルではなく、それを迎撃しようとしたウクライナの地対空ミサイルが誤ってポーランド国内に落下したものとわかってきたのである。しかし、緊急会見でNATOのストルテンベルク事務総長はこう語った。

「まだ調査結果は出ていない。だが紛争の犯人がロシアであることは誰もが認めている。彼らがいなければ、今回の事態は起こらなかったのだ」

 仮にウクライナの迎撃ミサイルであったとしても、〝真の犯人はロシア〟と痛烈にロシアを非難したのだ。

 これは、そのまま国際社会全体の意見を表している。この日、インドネシアのバリで開かれていたG20でも、ロシアへの姿勢は厳しかった。52項目に及ぶ「G20バリ首脳宣言」は、こう表明している。

「平和と安定を守る国際法と多国間システムを堅持することは不可欠である。これには、国際連合憲章に謳(うた)われている全ての目的及び原則を擁護し、武力紛争における市民及びインフラの保護を含む国際人道法を遵守することが含まれる。核兵器の使用又はその威嚇(いかく)は許されない。紛争の平和的解決、危機に対処する取り組み、外交・対話が極めて重要である。今日の時代は戦争の時代であってはならない」

 ロシアはBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の一角だ。日頃、誼(よしみ)を通じるこれらの国々も宣言に参加したことは、プーチンにとって大きな衝撃だった。もはや戦争の勝敗は「国際的には決している」のである。しかし、第3次世界大戦勃発(ぼっぱつ)の発火点は、欧州ではなく「台湾海峡」であろうことは世界の専門家の共通認識だ。
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台湾侵略の態勢を固めた習近平
 第20回中国共産党大会でクーデターともいうべき手法を用いて李克強首相、汪洋(おうよう)政治協商会議主席、胡春華(こしゅんか)副首相ら共青団派を一掃した習近平国家主席は、福建省に本拠を置き、台湾と対峙する人民解放軍第31集団軍の幹部を中国共産党中央軍事委員会の要職に抜擢(ばってき)し、台湾侵略の態勢を固めた。

 注目すべきは、共産党大会開会中の10月17日、ブリンケン米国務長官が、「中国はより早期の台湾統一を決意し〝台湾の現状維持政策をもはや容認できない〟との方針を固めた」と暴露したことである。台湾の現状維持政策は中国との統一に反対する民進党政権でも長く堅持されてきたものであり、習近平がこれをも容認しないというのは、要するに「いつでも台湾を侵略する」との宣言にほかならない。1971年10月まで国連安保理の五つの常任理事国の一角だった台湾(中華民国)。かつて一度も台湾を統治も支配もしたことがない中国が自由主義台湾へ「侵略」意思を示しても誰も拒めないことは恐ろしい。11月14日に行われた米中首脳会談で習近平氏はバイデン大統領に、

「台湾問題は中国の〝核心的利益中の核心〟であり、米中関係の基礎中の基礎であり、越えてはならない一番のレッドラインだ」

 と語ったそうである。3時間に及んだ会談の中身はヴェールに閉ざされており、唯一、バイデン氏本人の会見で、「アメリカの〝一つの中国政策〟に変更はないが、一方的な現状変更への試みには反対する。新たな冷戦は全く必要ない。アメリカは台湾海峡の問題が平和的に解決されることを望む」と語ったことが明らかにされたのみだ。すでにバイデン氏は台湾有事への軍事介入を明言しており、台湾海峡で戦端が開かれれば、第3次世界大戦勃発の契機になる可能性が高い。

 だが法的対応も含め、この議論から逃避する日本の国会。くる日もくる日も、統一教会問題と閣僚の舌禍事件に終始し、世界の現状から逃げ続けている。
 中国への牽制・抑止を狙った2022年最大規模の日米軍事演習に対し、沖縄では「中国を挑発するな」とのデモが行われ、言論界でも「訓練は挑発になる」との意見が飛び交う日本。〝ああ、滅ぶ国とはこんなものか〟と嘆くのは私だけだろうか。
門田 隆将(かどた りゅうしょう)
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)、『疫病2020』(産経新聞出版)、『新・階級闘争論 ―暴走するメディア・SNS―』(ワック)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第19回山本七平賞を受賞。最新刊は『日中友好侵略史』(産経新聞出版)。

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