橋本琴絵:ユネスコ「推薦」か「脱退」か――岸田政権では...

橋本琴絵:ユネスコ「推薦」か「脱退」か――岸田政権では国家の名誉は守れない

「聞く力」だけではなく、「主張する力」も!

韓国への配慮ナシ――岸田・林答弁は場当たり的?

 文化審議会が世界文化遺産に推薦した「佐渡島の金山」に対して、韓国外務省が「強制連行・労働の被害現場は世界遺産に相応しくない。戦時中に佐渡金山で朝鮮人が強制連行された」などと主張して即刻撤回を求めたことにより、政府は今年度の国連教育科学文化機関(ユネスコ)への推薦(2月1日期限)を見送る方針であることが大きく報道された(1月20日)。

 これに対して、自民党の高市早苗衆議院議員は次のように衆議院予算委員会(1月24日)で質問をした。

日本国政府は江戸時代の貴重な産業遺産を誇りをもってユネスコに申請し、来年6月の決定までの期間を活用し、ユネスコ委員国に対して"江戸時代の伝統的手工業については韓国は当事者ではあり得ない"と積極的に説明するべき。それもできないと諦めているのであれば国家の名誉に関わる事態でございます
橋本琴絵:ユネスコ「推薦」か「脱退」か――岸田政権では...

橋本琴絵:ユネスコ「推薦」か「脱退」か――岸田政権では国家の名誉は守れない

まさに正論を述べた高市氏
 これに対して、林芳正外相は「佐渡島の金山の世界文化遺産推薦に関し韓国への外交的配慮を行うことはまったくない。韓国側の独自の主張は受け入れられず、強く申し入れを行った」と述べ、岸田文雄首相も「いわれなき中傷には毅然と対応していく」と述べたものの、その「毅然」とはどのような対応であったのか具体的な方向性を示すことはなかった。

 自民党最大派閥「清和会」の安倍晋三会長も、「世界に対して日本には後ろめたいことがあると間違った印象を与えかねない。論戦を避けるかたちで登録を申請しないのは間違っている。しっかりとファクトベースで反論していくことが最も大事だ」と同会の会合で述べるなどして、政府の方針に苦言を呈した。

 この問題は、次の二つの問題を内包している。第一に「客観的事実に基づく歴史認識」が政府内で共有されていない可能性、第二に「ユネスコが日本の国益になるのか」という疑問だ。
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韓国への外交的配慮は皆無と主張する林外相。ホント!?

歪曲された「朝鮮人の徴用」

 第一の歴史認識であるが、佐渡金山とは1601年に金鉱が発見され、以後徳川家の直轄領に編入、江戸時代を通じて小判の鋳造に必要な金塊を得るための重要産業を担った場所だ。金採掘は佐渡奉行所の直轄で、天領(徳川家支配地)で罪を犯した囚人などに採掘労働をさせた歴史を持つ。つまり、朝鮮人とは何の関わり合いもない。にもかかわらず、韓国外務省が声を大きく叫んだだけで日本政府が及び腰になった背景には、「朝鮮人強制連行とは何か」という問題が政府内で正しく認識されていなかった可能性が高い。

 そもそも、「朝鮮人強制連行」とは何か。それは、小磯国昭内閣(1944年7月22日~1945年4月7日)が、1944年8月8日に閣議決定した「半島人労務者の移入に関する件」で、「移入労務者に付き新規徴用を実施すること並びに新規被徴用者につき援護の徹底を期すること」という発令によって始まったものだ。要するに、戦争の終盤に差し掛かった頃から朝鮮人の徴用が始まり、しかも「援護」つまり徴用された朝鮮人の福利厚生を徹底しろという命令である。

 この閣議決定は翌月9月から実施されたが、翌年(1945年)4月初旬には戦艦大和を含めた連合艦隊の艦艇の多くがアメリカ軍との戦闘(菊水作戦)で撃沈され、日本海軍は制海権を喪失した。以後、輸送船を海に出しても米軍が敷設した機雷によって沈められるため、朝鮮半島と日本本土をつなぐ釜山航路が遮断され、朝鮮半島から日本本土への海路移動は不可能になった。つまり、この小磯内閣の閣議決定から日本海軍の制海権喪失までの約7カ月の間の出来事を「朝鮮人強制労働」だと韓国側は主張しているのである。

 海に米潜水艦が跋扈して輸送自体が困難であったわずか7カ月間の出来事であるから、当然その人数も少ない。現在も多くの在日韓国人・朝鮮人が居住しているが、外務省が日本居住の経緯を聞き取りした調査では次の通り結果を発表している。

現在登録されている在日朝鮮人の総数は約61万人であるが、最近、関係者の当局において、外国人登録票について、いちいち渡航の事情を調査した結果、右のうち戦時中に徴用労働者としてきた者は245人にすぎないことが明らかになった
(『在日朝鮮人の渡来および引揚げに関する経緯とくに戦時中の徴用労務者について』昭和34年7月11日/外務省発表集/昭和35年2月第10号および公表資料集第8号)

 「強制連行」とは、何も考えないまま字面だけみると、怖い軍人が刀を振りかざして無実の人々を連れ去ったように思えるが、そうではない。朴春琴などの朝鮮人衆議院議員を含めた国民の代表に選出された衆議院によって可決された国家総動員法(昭和13年法律第55号)第4条の委任に基づく国民徴用令(昭和14年勅令第451号)を根拠法として、戦争の遂行を合理的に行うため、資材・船舶や労働者を適切な場所・会社・工場に割り振る権能を政府に与えたものである。これを「徴用」という (現在も、日本政府が道路拡張などをするときに、正当な対価を支払うことで国民の財産を公益のため接収する) 。

 しかし、「朝鮮人の徴用」は上記法令に存在しなかった。なぜならば、日本国内だけの労働力で足りており、むしろ余っていたので「満蒙開拓義勇団」などが組織され、大陸に日本人労働者を送り出していたほどだからだ。わざわざ高額の海上輸送費を払って日本本土に朝鮮人を移送すべき理由がなかった。
佐渡島の北沢浮遊鉱場跡

佐渡島の北沢浮遊鉱場跡

自ら徴用を願い出た朝鮮人たち

 ところが、これに納得できなかったのは朝鮮人である。「なぜ、朝鮮人だけ徴用しないのか。差別ではないのか」という世論が半島で巻き起こり、当時の新聞を読むと「血判状の提出によって朝鮮人徴用を願い出でたる人々」が記事になっている。なぜならば、徴用されると当然給料が支払われるため、産業が日本本土ほど発達していなかった朝鮮半島在住者にとって日本本土での徴用は、まさに「経済的豊かさ」の象徴であったからだ。

 当時の徴用者に支給されていた給料を見ても、日本人警察官の初任給の2倍から3倍ほど支払われており、医療保険制度も充実し、「出稼ぎ手当」も支給されていた。この「出稼ぎ手当」の支給明細書は、当の韓国人側が「強制連行の客観的証拠」として採用しているなど、どうも根本的に齟齬があるのか漢字が読めないのかわからないが、いずれにしろ被徴用者に「給与支払い」があったのは客観的事実であり、そこに争いはない。

 以上の歴史的事実から、前任の菅義偉内閣は「強制連行」について次の通り閣議決定している。

朝鮮半島から内地に移入した人々の移入の経緯は様々であり、これらの人々について、「強制連行された」若しくは「強制的に連行された」又は「連行された」と一括りに表現することは適切ではない

強制労働ニ関スル条約(昭和7年条約第10号)第2条において「徴用」による労務については、いずれも同条約上の「強制労働」には該当しないものと考えており、これらを「強制労働」と表現することは、適切ではない
(いずれも内閣衆質204第98号令和3年4月27日閣議決定)

 そもそも、これらの徴用者が佐渡金山で戦時中に働いていたという根拠さえない。

 岸田政権が、韓国側の荒唐無稽な主張に対して何ら反論をせず、佐渡金山の世界遺産推薦を取り下げようとしている背景には、前記までの「歴史認識」を正確に共有できていなかったからではないかという疑いが強く残る。

ユネスコの存在価値はあるのか

 第二の問題点として「ユネスコが日本の国益になるのか」という疑問がある。

 もともと、ユネスコとは「世界の諸人民に対して人種、性、言語又は宗教の差別なく確認している正義、法の支配、人権及び基本的自由に対する普遍的な尊重を助長するため」という存在目的を掲げているが、ウイグル人ジェノサイドで強く非難を受けている中国が参加している時点で、その目的はすでに形骸化していると言えよう。

 第二次世界大戦後、日本が国際社会に復帰する足掛かりとしてユネスコに係る期待は大きかった。日本の経済成長に伴い分担拠出金も増額され、昨年度はユネスコ全予算の11%以上を日本が負担している。しかし、当のユネスコ側にこれまで何ら問題が無かったとはいえず、1984年には旧共産圏の国々が加盟したことに対応して、記者を受け入れて自由な取材と報道をさせることには一定の制限がかけられるべきだという「言論の自由を制限する方針」をユネスコが採用したため、アメリカが脱退し、翌1985年にはイギリスも脱退している。

 21世紀に入り、多くの共産国が自由化されたことを受けてアメリカは2003年にユネスコに再加入したが、今度はユネスコがパレスチナ自治政府を加盟させ、反ユダヤ主義という「政治色」に基づく基準を世界遺産の選考基準に取り入れたという事実(ヘブライ語表記を認めない決定)によって、2018年にアメリカは再度脱退し、イスラエルもこれに続いて脱退した。

 今回の佐渡金山世界遺産推薦についても、江戸時代の産業に対して「第二次世界大戦中に朝鮮人が強制労働させられた」などという荒唐無稽な選考基準が適用されるならば、それはもう「反日主義」をユネスコが選考基準に採用したといえる。それならば、アメリカやイスラエルが反ユダヤ主義を理由にユネスコを脱退したことに日本が倣ったとしても、何も不合理ではない。特定の民族や国家に対するアンチテーゼは人種差別そのものであるからだ。

 2015年に中国が「南京大虐殺文書」を世界記憶遺産に申請した際、日本政府は反発した。日本政府の抗議を受けて、ユネスコは関係国の異議申し立てを可能にする制度を導入したが、日本外交の努力むなしく結果的に「南京大虐殺」が世界記憶遺産に登録された。

 この一件をもってしてもユネスコはすでに「政治利用」をされており、文化的な存在意義は後退していると考えられる。にもかかわらず「南京大虐殺の世界遺産申請時に日本政府が抗議したから、今回の佐渡金山も韓国の抗議を受け入れるべきである」という岸田政権の発想は理解に苦しむ。すでに反日活動に利用されているユネスコへ、これ以上日本が巨額の拠出金を払い続ける意義は果たしてどこにあるのだろうか。
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ユネスコは韓国人の意見を鵜呑みにし、軍艦島(端島)の朝鮮人強制徴用の歴史を重んじるよう言及。さらに青森の「ねぶた祭り」をパクった韓国の「燃灯会」を無形文化遺産に登録している。国連同様、もはや国際機関としての存在価値も危ういだろう
 2019年には仁徳天皇陵が「世界遺産」に登録され、発掘調査を受けるという事態にもなっているが、「南京大虐殺資料」などというものと「仁徳天皇陵」(そもそも現在も継続する皇朝の墓所を遺産というべきなのか)が同列に論じられているが、このようなことが本当に日本の国益に適うのだろうか。筆者には到底そう思えない。

 半島と大陸について「亜細亜東方の悪友を謝絶するものなり」という日本外交の在り方について重要な提言を残した福沢諭吉は、明治以降に近代化した日本人の姿をこのように批判している。

譬えば今、日本にて平民に苗字・乗馬を許し、裁判所の風も改まりて、表向きはまず士族と同等のようなれども、その習慣にわかに変ぜず、平民の根性は依然として旧の平民に異ならず、言語も賤しく応接も賤しく、目上の人に逢えば一言半句の理屈を述ぶること能わず、立てと言えば立ち、舞えと言えば舞い、その柔順なること家に飼いたる瘦せ犬のごとし
 (『学問のすゝめ』より)

 なぜ、岸田政権は、不当な誹謗中傷に対して「一言半句の理屈」さえ述べることなく取り下げようとするのか。それは、日本側にしてみれば配慮でも国際社会からみれば「相手方の主張を認めたこと」になる。しかし、そのような姿勢は日本国内閣総理大臣として果たして本当に相応しいのだろうか。一切反論しない「痩せ犬外交」はもう沢山だ。

 岸田政権は、論戦を恐れずに佐渡金山世界遺産推薦を直ちに提出するか、それでも登録棄却をされたならばユネスコ脱退を決断すべきである。
橋本 琴絵(はしもと ことえ)
昭和63年(1988)、広島県尾道市生まれ。平成23年(2011)、九州大学卒業。英バッキンガムシャー・ニュー大学修了。広島県呉市竹原市豊田郡(江田島市東広島市三原市尾道市の一部)衆議院議員選出第五区より立候補。令和3(2021)年8月にワックより初めての著書、『暴走するジェンダーフリー』を出版。

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