まずは「一部改正」を
令和3年10月31日に執行された第49回衆議院議員総選挙は、定数465議席のうち自民党が単独過半数の261議席、公明党が32議席を占めた。野党第一党の立憲民主党が前回の衆院選で希望の党からの合流者を得て肥大化した分を落選させ、96議席と選挙前から大きく勢力を減らした。
多くのメディアの予想に反して与党が「快勝」した今こそ、自由民主党の1955年結党以来の目的である憲法改正を果たすべき時局である。
しかし、一口に憲法改正といっても全面改正なのか一部改正なのか議論は幅広くある。むろん、保守本来の立場からすれば、現行憲法は敗戦後の主権喪失下で成立した歴史的背景があり、いわば≪銃口によって脅迫されて成立した≫という視点もあるため、改正ではなく破棄が望ましいとの考えもある。とはいえ、破棄は現実的に困難であり、不本意ながらも追認を含む改正をまずは行うべきであろう。
多くのメディアの予想に反して与党が「快勝」した今こそ、自由民主党の1955年結党以来の目的である憲法改正を果たすべき時局である。
しかし、一口に憲法改正といっても全面改正なのか一部改正なのか議論は幅広くある。むろん、保守本来の立場からすれば、現行憲法は敗戦後の主権喪失下で成立した歴史的背景があり、いわば≪銃口によって脅迫されて成立した≫という視点もあるため、改正ではなく破棄が望ましいとの考えもある。とはいえ、破棄は現実的に困難であり、不本意ながらも追認を含む改正をまずは行うべきであろう。
自民党改憲案は全面改正を前提に起草されている(※平成24年4月決定)。しかし、憲法第9条に自衛隊を明記するという一部改正案があるのも事実だ。
そこで注目したいのは日本維新の会の動きである。11月2日、日本維新の会代表の松井一郎氏は大阪市役所内において記者団に対し「来年の参院選までに改正案を固めて国民投票を実施すべきだ」と憲法改正への前向きな姿勢と与党への協力を表明した。
衆院選と参院選の改憲勢力は日本維新の会を加えれば、改正に必要な2/3を十分に確保できるため、憲法改正の方向性自体はもはや動かし難いものになっているといってよいだろう。ただ、前述した「全面改正」か「一部改正」かという点で言えば、日本維新の会は皇室の在り方で女系天皇を支持するなど、国家観が自民党とは全く違うため、既存の全面改正案に賛成が得られる期待は低く、また、緊急事態条項を含む全面改正案に対する公明党の消極性も危惧される。
まずは「一部改正」を達成することで成功例としての「前例」をつくることが重要であり、憲法改正のプロセスが正常に機能することを示すため、国家観が異なる立場であったとしても、改正の同意が得られやすい「憲法第9条への自衛隊明記」を優先すべきであろう。
そこで注目したいのは日本維新の会の動きである。11月2日、日本維新の会代表の松井一郎氏は大阪市役所内において記者団に対し「来年の参院選までに改正案を固めて国民投票を実施すべきだ」と憲法改正への前向きな姿勢と与党への協力を表明した。
衆院選と参院選の改憲勢力は日本維新の会を加えれば、改正に必要な2/3を十分に確保できるため、憲法改正の方向性自体はもはや動かし難いものになっているといってよいだろう。ただ、前述した「全面改正」か「一部改正」かという点で言えば、日本維新の会は皇室の在り方で女系天皇を支持するなど、国家観が自民党とは全く違うため、既存の全面改正案に賛成が得られる期待は低く、また、緊急事態条項を含む全面改正案に対する公明党の消極性も危惧される。
まずは「一部改正」を達成することで成功例としての「前例」をつくることが重要であり、憲法改正のプロセスが正常に機能することを示すため、国家観が異なる立場であったとしても、改正の同意が得られやすい「憲法第9条への自衛隊明記」を優先すべきであろう。
柔軟な米国の「修正条項」方式
それでは、憲法改正に関して諸外国はどのような様相を示しているのだろうかという視点である。日本国憲法はアメリカ憲法を模倣して起草されていることから、アメリカ合衆国の憲法改正について紹介したい。
アメリカ憲法は、今も機能している中では世界最古の成文憲法である。それまで憲法とはイギリス憲法のように、複数の重要な法律と判例を複合的に組み合わせた「体系」を国家的経験則として人民が共有することで構成されていた。しかし、アメリカ合衆国にはその建国時に国家的経験則が存在しなかった。そこで、イギリスやフランスで採用されていた国家機能にかかわる経験則を抽出して成文化することで、「憲法」としたのである。現代の感覚からすると、憲法と言えば成文化されているのが普通だと思う方もいるかもしれないが、憲法という概念の起源であるイギリスが現在も不文憲法であるように、憲法とは「成文化」を条件とするものではない。
アメリカ憲法は、今も機能している中では世界最古の成文憲法である。それまで憲法とはイギリス憲法のように、複数の重要な法律と判例を複合的に組み合わせた「体系」を国家的経験則として人民が共有することで構成されていた。しかし、アメリカ合衆国にはその建国時に国家的経験則が存在しなかった。そこで、イギリスやフランスで採用されていた国家機能にかかわる経験則を抽出して成文化することで、「憲法」としたのである。現代の感覚からすると、憲法と言えば成文化されているのが普通だと思う方もいるかもしれないが、憲法という概念の起源であるイギリスが現在も不文憲法であるように、憲法とは「成文化」を条件とするものではない。
むしろ「成文」憲法の起草は、目に見えない数多の慣習や経験則を人間が「成文化」するということなので、そこには当然誤謬もある。そして、国家を運営していく過程でその誤謬が明らかとなったとき、「誤った経験則で国家運営を規制する」ということをしていては甚大な損害が発生し得る。ここにきて、改めて「憲法改正」が必要になってくるのである。
アメリカ憲法の立法者の精神によれば、国家の運営と成長には、建国当初人間の能力では全く予想できないようなことも当然起きうると予想していた。よって、時代の変遷に対応して憲法はかわっていくべきであると「憲法制定」の時点で理解していた。その一方で、簡単に憲法を改正できるようにしては急進的な思想が憲法に盛り込まれる危険性もあるため、憲法改正には慎重であるべきだとも考えていた。
そこで、「改正しなければならない事態」と「急進的な思想の排除」という対立する二つの概念に整合性をつけるため、「修正条項」(※)という概念を作り出した。「すべての人が憲法改正に同意しなければ改正できない」というシステムでは、一部の凝り固まった人々の思想によって国民全体の要望を圧殺してしまう恐れがあったためである。
※)修正条項:元からあった憲法条文を削除するのではなく、新しく「修正」した条文を追加する方式。
アメリカ憲法の立法者の精神によれば、国家の運営と成長には、建国当初人間の能力では全く予想できないようなことも当然起きうると予想していた。よって、時代の変遷に対応して憲法はかわっていくべきであると「憲法制定」の時点で理解していた。その一方で、簡単に憲法を改正できるようにしては急進的な思想が憲法に盛り込まれる危険性もあるため、憲法改正には慎重であるべきだとも考えていた。
そこで、「改正しなければならない事態」と「急進的な思想の排除」という対立する二つの概念に整合性をつけるため、「修正条項」(※)という概念を作り出した。「すべての人が憲法改正に同意しなければ改正できない」というシステムでは、一部の凝り固まった人々の思想によって国民全体の要望を圧殺してしまう恐れがあったためである。
※)修正条項:元からあった憲法条文を削除するのではなく、新しく「修正」した条文を追加する方式。
これは、人間の経験則と同じ方式だ。人は、経験したことをコンピューターのように消去することはできない。しかし、似たような経験を新しく得て記憶を追加することが出来る。アメリカ憲法は人間の認知機能と同じように、もともとあった条文を削除するのではなく「追加」していく方式を採用している。
アメリカ合衆国は建国以来、現在まで18回の憲法改正を経験している(第二次世界大戦後は6回改正)。その中では1919年憲法改正の「禁酒改正」(アメリカ合衆国内で酒類の製造販売、輸入を禁止する)と、この禁酒改正を廃止する改正(1933年)が唯一の例外(条文そのものを削除した例)に、改正は言論の自由や銃器保有の自由など、国家が国民の権利を規制してはならない項目を個別具体的に「追加」して定めている。
アメリカ合衆国は建国以来、現在まで18回の憲法改正を経験している(第二次世界大戦後は6回改正)。その中では1919年憲法改正の「禁酒改正」(アメリカ合衆国内で酒類の製造販売、輸入を禁止する)と、この禁酒改正を廃止する改正(1933年)が唯一の例外(条文そのものを削除した例)に、改正は言論の自由や銃器保有の自由など、国家が国民の権利を規制してはならない項目を個別具体的に「追加」して定めている。
一見すると日本人にはなじみのない「禁酒」というワン・イシューであっても、アメリカでは憲法改正を発議している。ここから、憲法改正の「特性」を見出せる。
日本国憲法はアメリカ憲法の政体を模倣して起草されているという特性に鑑み、改正もアメリカ式にしていくべきではないだろうか。
日本国憲法はアメリカ憲法の政体を模倣して起草されているという特性に鑑み、改正もアメリカ式にしていくべきではないだろうか。
ワン・イシューの「修正」でも意味ある一歩だ
日本国憲法は、確かに「日米同盟」という安全保障条約があることで第二次世界大戦後の一定期間に限り機能した。このとき、中華人民共和国や北朝鮮の脅威も今ほど存在しなかったため、防衛予算を経済発展に投入することが出来、日本は豊かな国になった。
しかし、対外危機が高まる中、「平和憲法」の理想的な観念だけが先行して現実の問題に対応する能力を失い、竹島や尖閣諸島という領土への侵犯、拉致問題という基本的人権の侵害まで起こることとなった。つまり、現行憲法制定時には少なかった「国家の危機」という点に誤謬が発生している状況だ。にもかかわらず、その現状にたいして憲法を変えるハードルがあまりにも高いと言わざるを得ない。まさにアメリカ憲法起草者が懸念した「一部の凝り固まった思想の人々によって国民全体の要望が圧殺されている」という状況が現出しているのだ。
経験は付け足すことはあっても変えることは出来ない。筆者は、「平和憲法」という理想的観念がこの国を毒し続けて国民の基本的人権を侵害し続けた(拉致問題の30年以上の放置)という歴史的事実を後世に伝えるためにも、アメリカ式の「修正条項」という概念を日本国でも採用すべきであると強く主張する。
しかし、対外危機が高まる中、「平和憲法」の理想的な観念だけが先行して現実の問題に対応する能力を失い、竹島や尖閣諸島という領土への侵犯、拉致問題という基本的人権の侵害まで起こることとなった。つまり、現行憲法制定時には少なかった「国家の危機」という点に誤謬が発生している状況だ。にもかかわらず、その現状にたいして憲法を変えるハードルがあまりにも高いと言わざるを得ない。まさにアメリカ憲法起草者が懸念した「一部の凝り固まった思想の人々によって国民全体の要望が圧殺されている」という状況が現出しているのだ。
経験は付け足すことはあっても変えることは出来ない。筆者は、「平和憲法」という理想的観念がこの国を毒し続けて国民の基本的人権を侵害し続けた(拉致問題の30年以上の放置)という歴史的事実を後世に伝えるためにも、アメリカ式の「修正条項」という概念を日本国でも採用すべきであると強く主張する。
具体的には、まずワン・イシューをテーマにした合意を維新・公明から取り付け、東日本大震災の人命救助活動によっても国民に厚く信頼されている自衛隊の存在を「修正第9条」に明記することである。そうして、「憲法改正は問題なくできる」という既成事実を国民に示す必要がある。
もちろん、緊急事態条項、一票の格差、領土侵犯や環境問題など、現在の日本を取り巻く解決すべき問題は数多あることは承知している。しかし、これらは保守革新の国家観の違いによって完全な同意を取り付けることが困難だと予想される。そこで、まず国家の存立自体を脅かしている憲法条文を修正し、自衛隊の明記と国家存立の防衛をさまたげる如何なる立法も不作為も認めないことを明記することを優先すべきだ。
「陸海空の戦力を保持しない」ことと「自衛隊の存在」の存在は全く矛盾しない。そのことは、この戦後76年間で私たち自身がよく理解していることだ。
近年のアメリカ憲法改正(修正)は、投票年齢の18才引き下げ(1971年修正)や議員報酬の変更(1992年修正)などいずれもワン・イシューである。日本もこれに習い、憲法「修正」をテーマに取り組むべきである。
現在、自民党261議席、維新41議席、国民11議席で313議席となり必ずしも公明党の賛成が絶対条件ではない情勢ではあるが、「改正」という表現そのものにヒステリックな拒絶反応をおこす国民は少なくない。いま必要なのは「憲法修正」ではないだろうか。
もちろん、緊急事態条項、一票の格差、領土侵犯や環境問題など、現在の日本を取り巻く解決すべき問題は数多あることは承知している。しかし、これらは保守革新の国家観の違いによって完全な同意を取り付けることが困難だと予想される。そこで、まず国家の存立自体を脅かしている憲法条文を修正し、自衛隊の明記と国家存立の防衛をさまたげる如何なる立法も不作為も認めないことを明記することを優先すべきだ。
「陸海空の戦力を保持しない」ことと「自衛隊の存在」の存在は全く矛盾しない。そのことは、この戦後76年間で私たち自身がよく理解していることだ。
近年のアメリカ憲法改正(修正)は、投票年齢の18才引き下げ(1971年修正)や議員報酬の変更(1992年修正)などいずれもワン・イシューである。日本もこれに習い、憲法「修正」をテーマに取り組むべきである。
現在、自民党261議席、維新41議席、国民11議席で313議席となり必ずしも公明党の賛成が絶対条件ではない情勢ではあるが、「改正」という表現そのものにヒステリックな拒絶反応をおこす国民は少なくない。いま必要なのは「憲法修正」ではないだろうか。
橋本 琴絵(はしもと ことえ)
昭和63年(1988)、広島県尾道市生まれ。平成23年(2011)、九州大学卒業。英バッキンガムシャー・ニュー大学修了。広島県呉市竹原市豊田郡(江田島市東広島市三原市尾道市の一部)衆議院議員選出第五区より立候補。日本会議会員。
2021年8月にワックより初めての著書、『暴走するジェンダーフリー』を出版。
昭和63年(1988)、広島県尾道市生まれ。平成23年(2011)、九州大学卒業。英バッキンガムシャー・ニュー大学修了。広島県呉市竹原市豊田郡(江田島市東広島市三原市尾道市の一部)衆議院議員選出第五区より立候補。日本会議会員。
2021年8月にワックより初めての著書、『暴走するジェンダーフリー』を出版。