自民「資金源」を狙い撃ち

 自民党の資金源を断つのが狙いではないのか──。そう疑念を抱かざるを得ないのが、「企業・団体献金の禁止」をめぐる国会論戦である。
 民主国家における政治では、対立する意見の落としどころを探るための与野党相手の根回しや、選挙区のある地元支持者らとの調整、採決に向けた煩雑な立法上の手続きが欠かせない。
政党政治はそもそも金や時間がかかるものなのだ。こうした事情を置き去りにしたまま、企業・団体献金まで禁止しようという動きは、政治活動の一部をこれらの献金に頼ってきた民主政治の否定につながりかねない。企業の政治参加を認めた憲法違反の疑いすらある。

 リクルート事件をきっかけとした政治不信の高まりを受け、1994年、非自民連立政権の細川護熙(もりひろ)首相は野党自民党の河野洋平総裁とのトップ会談で、企業・団体献金の制限に道筋をつける「平成の政治改革」に乗り出した。30年前のことだ。
 衆院に小選挙区制を導入し、政党に公費助成する政党交付金制度を設ける代わりに、政治家個人への企業・団体献金を禁止するとともに、5年後に政党への献金を禁止することを与野党が確認した。

 それが日の目を見なかったのはなぜか。与野党の怠慢もあるだろう。だがそれ以上に、企業・団体献金の全面禁止がもたらす民主政治への弊害を指摘した最高裁判決や、企業や団体の政治参加の自由を認めた憲法上の要請があったからではないだろうか。
 にもかかわらず、各党が企業・団体の献金禁止に固執するのは、企業献金に頼る自民党を選挙によらずして弱体化させたいという政治的思惑が働いているように思えてならない。選挙で勝つことがKOパンチなら、資金源を絞る動きはボディーブローである。

 断っておくが、筆者は自民党員でもなければ、党関係者でもない。政治資金不記載事件のような違法行為は非難されて当然だ。しかし、政治とカネをめぐる国会論戦をみていると、公平を欠くように思えてならない。
 後述するが、労組の組織票頼みの立憲民主党などは、憲法で保障されている労働組合員の政治活動を侵害しかねないチェック・オフ(天引き)制度や組合員の政治活動への疑問が残ったままだからだ。
法解釈上、論争の余地のある企業・団体献金の禁止を主張するのは自由だが、野党はその前に、自らも襟(えり)を正した上で政治とカネの問題を語るべきである。

世論迎合の自民「魔の3回生」

 驚くのは、企業・団体献金をめぐる自民党支持層の動向である。JNNの最近の世論調査によると、政治資金規正法の再改正について、企業団体献金の禁止を法案に「盛り込むべき」と考えている人が56%に上り、「盛り込む必要はない」が34%だった。
失言や不祥事が相次いだ「魔の3回生」と呼ばれた自民党の当選3~4回の議員の中にも、「企業・団体献金の禁止を盛り込むべきと考える向きがかなりいる」(党関係者)というのだから、驚いてしまう。

 先の総選挙での大惨敗に怯(おび)えて、企業・団体献金の禁止を求める一部世論に迎合しているのか。政党助成金だけで活動しようというのではあるまいが、後援会もつくれず安倍晋三政権下の〝風頼み〟で当選した足腰の弱い自民党議員には、事の重大性がまったくわかっていないようだ。現状は非自民連立政権の誕生で下野した当時の自民党と酷似(こくじ)している。

 政党や政治団体は、国に隷従することなく国民のための政治を行うため、国などからの政治活動の自由を憲法上、認められている。政党助成金という国からの公的補助の割合を増やせばそれだけ、国家に対して政治活動の自由が制約されることになる。政治資金は自前で集めるからこそ、政治活動の自由が守られるのである。
 ここで留意すべきは、政治資金に関する政治資金規正法と政党助成法の関係だ。民間から政治に流れる資金は、贈収賄や民間と政治の関係で癒着の温床となりかねない。だからこそ、政治資金規正法は金の出入りについて厳しく透明性を求めている。

 一方、政党助成金は国から政党を経由して議員に流れるため、民間の入る余地がない。このため、規制もほとんどなく、非常に緩い立て付けになっている。実際、政党助成法(第四条)は「国は、政党の政治活動の自由を尊重し、政党交付金の交付に当たっては、条件を付し、又はその使途について制限してはならない」としている。
 元東京地検特捜部の検事で、弁護士の高井康行氏は「政治資金規正法の立法精神が性悪説なら、政党助成法は性善説に拠って立つ」と明快に語っているが、もっともである。

 ただ、立法精神が性善説だからといって、政党助成金が法の趣旨に沿った政治活動に使われているとは限らない。政党助成金を原資とする公的資金の使途こそ、厳しく透明化を図るべきではないか。

最高裁判決は企業献金OK

 企業・団体献金の是非をめぐる判例がある。1970年6月24日の最高裁判決だ。

 判決は、「憲法第3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものであるから、会社は、公共の福祉に反しないかぎり、政治的行為の自由の一環として、政党に対する政治資金の寄付の自由を有する」とし、企業による献金が会社定款に違反すると主張した原告(株主)の主張を棄却した。いわゆる「八幡製鉄事件」だ。
 同時に判決は、献金が政治腐敗につながるとの原告の主張を念頭に、この弊害に対処するには立法措置をまつべきことだとの留保をつけている。

 企業・団体献金の禁止を主張する人々の立論は、「献金を認めれば政策が歪(ゆが)められる」などというものだ。だが、金銭で議員など公務員の職務が歪められるのは、企業や団体に限ったことではなく、個人の献金によっても起こり得ることである。企業・団体献金を禁止するのなら、個人の献金も禁止しなければ道理が合わない。

 石破茂首相が12月2日の衆院本会議で、企業・団体献金に関し、「自民党として不適切だとは考えていない。政党として避けなければならないのは献金によって政策がゆがめられることだ。個人献金も企業・団体献金も違いはない」と述べたが、これは正しい。
 企業・団体献金が「事実上のわいろ性を持っている」(日本共産党)という理由だけで献金を禁止することは、政治活動の自由を不当に制約することになりはしないか。

共産党は「遺贈」で捻出

 世間の耳目が企業・団体献金のあり方に集まる中、日本共産党の土地売却が急増していることが判明した。
 2023年の1年間に土地売却で得た収入が、前年比の約77倍の約17億2500万円に上ったのだ。産経新聞によると、この中には2004年に死去した作家、森村桂さんが住み夫が所有していた東京都杉並区西荻北の住居敷地跡(約560㎡)などが含まれていた(12月3日付電子版)。夫は2021年に死去し、土地は遺言による寄付である「遺贈」によって同党に渡っていた。同党はこれらの土地を23年、計7億7800円で都内の不動産会社に売却していた。

 また、同党は渋谷区千駄ヶ谷の施設の敷地を8億円で東急不動産に売却し、千葉県柏市の土地も約4700万円で手放したほか、遺贈された東京都杉並区高円寺南の土地を1億1000万円で売却していた。
 筆者の取材に対し、共産党広報部は12月7日、土地売却が増えた理由と遺贈の割合について、「政治活動で使うもの以外の不動産を保有することは基本的にありません。政治資金としていただいた遺贈は、遺贈者の思いをいかし、政治活動にいかせるものはありがたく活用させていただき、活用できない不動産は売却することになります」と回答した。

 遺贈については、「『遺言書』にもとづき偶発的に出会うものです。2023年に売却額が増えたのは、党が所有している不動産に対して、たまたま買い手がついた結果です。売却したもののうち、2023年分についての『遺贈の割合』は、長く党が保有してきた不動産は55%、遺贈による不動産は45%です」とした。
仮に企業・団体が自民党に対して遺贈による寄付を行った場合、共産党が主張するような「政治を歪める」ことにならないのか。国会は遺贈による寄付についても禁止を視野に見直しを進めるべきであろう。

 企業・団体献金の禁止が憲法違反になる疑いについて共産党広報部は、「企業・団体が政治に関して発言することは認められますが、発言することと献金をすることを同列に論じることはできません。政治献金は投票権など参政権と結びついたものであり、参政権は国民固有の権利です。(中略)重大なことは、企業・団体献金によるばく大な献金によって、政治・政策が大きな影響を受け、結果として、主権者国民の参政権が侵害されることです。企業・団体献金によって政治がゆがめられるのは、献金が事実上のわいろ性を持っているからです」としている。

 また、「企業・団体献金の禁止が憲法に違反するのではなく、逆に企業・団体献金を温存することこそ憲法の精神、原理原則に反するといわなければなりません。立法措置による企業・団体献金の禁止が憲法違反にならないことは、1970年の八幡製鉄最高裁判決でも認めているところです」などと答えた。

労組系団体に「抜け道」

 企業・団体献金を禁止しても、労組系の政治団体を通じて寄付した場合は、企業・団体献金とはみなされず、政党や政治資金団体以外の後援会などにも寄付できる仕組みが「抜け道」になるとの見方がある。
最近、連合傘下の主要な労働組合や関連政治団体が、立憲民主党、国民民主党の参院議員に対し、2023年に計約2億4000万円を寄付していることが判明した(2024年11月30日付毎日新聞朝刊)。

 日本郵政グループ労組の政治団体「郵政未来研究会」が小沢雅仁氏に5000万円を寄付したほか、鉄鋼や重工などの産業別労組・基幹労連の政治団体「組織内議員を支援し政策実現を推進する会」は村田享子氏に2000万円、NTT労組の政治団体「アピール21」は石橋通宏氏に300万円、私鉄総連の政治団体「私鉄交通政策研究会」は森屋隆氏に100万円をそれぞれ寄付していた(同)。

 企業・団体献金の禁止について、立憲民主党の政務調査会は6日、八幡製鉄事件を引用しつつ、「弊害を是正するための合理的規制であれば、立法政策によって企業・団体献金の質的・量的な制限を行うことは当然認められ、『原則禁止』とすることも憲法上は許容されると考えます」とし、「抜け道」論については、「立憲民主党の企業・団体献金禁止法案は、『抜け道』を作ることを意図したものではありません」などと否定した。

 立民などは、労働組合側と使用者側の労使協定で、組合費が給与から天引きされるチェック・オフ制度を利用している。
 ただ、強制的に天引きされた組合費は、職場の環境改善など純粋な組合活動としてだけではなく、国会や地方議会で野党候補を応援するための経費や献金などに使われている疑いも捨てきれない。立民などはこれらをまず明らかにすべきであろう。組合費が、自分が支持していない特定の候補者の応援に使われれば、憲法が保障する政治活動の自由の侵害となる。組合費は、労働環境の改善など組合員に還元される形で支出されなければならない。

 15年前に起きた北海道教職員組合(北教組)による不正献金事件では、不明朗な会計処理をしている労組や、巨額の組合費を組合員が意図していない政治献金に使われていたことを指摘しておく。
 同制度については、「組合費のチェック・オフ制度は、労働組合活動を支えるうえで重要な制度であると認識しています。個別の労働組合において、チェック・オフ制度によって生じる問題があれば、組合の自治で解決すべきであると考えます。なお立憲民主党の企業・団体献金禁止法案では、労働組合からの寄附も禁止されるため、組合費が組合員が関知しないところで政治活動等に使われることはできなくなります」と回答した。実効性がどこまで担保されるのか議論の余地があろう。

 自民党弱体化の狙いについては、「特定の政党・政治勢力の資金源を断ったり、勢力の弱体化を図ったりするといった意図は全くありません」などと否定した。
 日本維新の会も八幡製鉄の一件に触れ、「判決文は前提として、企業団体献金の弊害を認めた上で、それらには立法措置で対処することを求めており、それに従って立法することに矛盾はないと考えている」などと回答した。

組合活動を逸脱

 労組の中には、通常の組合費とは別に「特別組合費」を徴収し、「政治団体を経由させずにポスター貼りなどの人件費に充てていたケースがある」(労組関係者)という。国家公務員は国家公務員法(第102条)で、地方公務員は地方公務員法(第36条)で、公職の選挙における投票勧誘運動などの政治的行為が制限されている。

 特別組合費を使った公職選挙におけるポスター貼りへの資金供与を行っている労組があるとすれば、組合活動を逸脱したことになる。組合からの労務の無償提供を厳格化するとともに、政治活動と組合活動の会計を明確に分け、透明化を図るべきだろう。
 この点について、自治労広報は9日、筆者の取材に電子メールで回答し、「自治労として『特別組合費』のような類の徴収を単位組合および組合員に依頼したことはありません。また、自治労としていかなる予算もポスター貼りなどの人件費として支出した事実はありません」と回答した。チェック・オフ制度については、「ご指摘のような事実の有無については承知していません。一般論として、労働組合の会計は、組合員の承認を経て運営されるべきものです」としている。

 自民党内には、友党の公明党に対し、「支持母体の創価学会の施設や労務を政治活動に絡んで無償提供しているケースを耳にするが、政教分離に反しているのではないか。公明党はきれいごとばかり言っている」との恨み節も聞こえてくる。公明党は、「宗教団体が政治活動をすることは、憲法上保障されている権利であり、これらの自由を含む信教の自由を制度の面から支えているのが『政教分離原則』であるとの認識です。したがって、宗教団体の施設や労務の無償提供と『政教分離』は全く論点が異なるものであると考えます」と回答した。他の各党にも同様の取材協力をお願いしたが、回答はなかった。

欧米では容認されている

 欧米各国は、企業・団体が政治活動に資金を拠出することを認めている。例えば、米国では企業や労組が連邦議会選挙に関して寄付を行うことを禁止する一方、企業や労組が基金(PAC)を設置して役員等から寄付、いわゆるソフトマネー(選挙運動などの投票推進、啓蒙活動を名目とした寄付金で、選挙管理委員会の規制を受けない)を集めて寄付をすることは認められており、企業・団体が政治活動に対して資金を提供する方途は存在している。

 フランスでも政党等を除く法人による寄付が禁止されているが、企業や労働組合の党費の支払が可能であり、事実上、企業・団体からの政治資金の提供は可能となっている(国立国会図書館「米英独仏の政治資金制度」より)。英国では1913年の労働組合法により、労組による経常経費からの直接の寄付は禁止されている。労組が政治目的の寄付を行うには、組合員による秘密投票で承認決議を得て、労組とは別の政治基金を設置しなければならない。組合員は、政治基金への寄付を拒否する意向を書面で通知した場合には、寄付の義務を免除される。

 政治活動に金がかかることは、議員本人が一番よく知っているはずだ。1994年時点で与野党が合意した約束を履行できないのは、それが非現実的だからであろう。金のかかる現実を無視して、硬直した発想で企業・団体献金の禁止を急げば、違反者が続出するだけである。
 政治とカネをめぐる論議は、国民の政治不信を払拭(ふっしょく)する上で歓迎すべきことだが、責任のある現実的な論戦が不可欠である。
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佐々木類(ささき るい)
東京都出身 元産経新聞記者。警視庁担当として、企業犯罪、官庁汚職、組織暴力事件を取材後、政治部で首相官邸、自民党、野党、外務省の各キャップを歴任。2010年1月、ワシントン支局長を務めた後、14年7月、九州総局長兼山口支局長。この間、尖閣諸島・魚釣島への上陸、2度の北朝鮮訪問。米紙USA TODAY国際部出向。読売テレビの「そこまで言って委員会」に2度出演し、慰安婦問題などをめぐり、田嶋陽子元参院議員を論破し、注目を集める。23年10月まで産経新聞論説副委員長。24年4月、麗澤大学国際学部教授。

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