条例案では投票権を得る外国人に永住者のみならず留学生や技能実習生らも含まれる事から、「国政に関わる問題が住民投票で問われる事になれば、外国勢力の不当な介入を招きかねない」という懸念が広がっている。
そんな中、物議を醸す条例案を市議会に提出した張本人である松下玲子市長が12/4、ツイッターに不思議な投稿をした。
現職の市長が、中央省庁のホームページの文言を単純にコピペしてツイッターで発信するという行為に、一体どういう意味があるのだろうか。
市長が謎のツイートをした翌日の日曜日、賛成派と反対派が街宣活動を行うというので、私は吉祥寺駅に足を運んだ。
午後2時から始まった条例案反対派の街頭活動は、駅前ロータリーの一角で、粛々と行われていた。自民党の武蔵野市議や地元選出の長島昭久衆議院議員が、ビールケースのお立ち台の上に立って、演説をしている。
姑息な提案手続き
(1) 外国人への無条件資格付与は不要かつ乱暴
(2) 憲法上の論点整理
(3) 市政運営上の問題
(4) 策定プロセスが性急過ぎる
特に聴衆の反応が鋭かったのは、(4)だった。集会後に尋ねてみると、その多くは、松下市長が一体どのような条例を成立させようとしているのか、その実態が全くわからないという人々だった。
松下市長は今年10月の市長選で再選されたばかりである。ところが、市長選の際に配った政策ビラには、外国人を無条件で参加させる住民投票条例案についての言及は全くない。
そして、松下市長は改選後の二期目に入ってからこの条例案の制定を目指したわけではなく、一期目の昨年末から外国人への住民投票への参加を検討していた事も明らかにされている。
市長選の2ヶ月前に市が作成した「住民投票制度の確立に向けた検討を進めています」と題したチラシの中で、極めて小さい字で「投票資格者は武蔵野市に3ヶ月以上住所を有する18才以上の方(外国籍の方を含む)」と書かれていたのである。
市長として、堂々と市民に信を問う気があれば、こんな姑息な手を使うはずがない。
パブリックコメントの欺瞞
その結果として、条例案の市議会審議の前提となるパブリックコメントなど、骨子案について寄せられた市民の声はわずか31名にすぎなかった。しかもこの内半数近い14名は、武蔵野市の職員だというのである。人口14万8000人の武蔵野市で、事前に市長に意見を届けられた一般市民はたった17人。人口のたった0.01%なのだ。
これでは、松下市長が掲げる「市民の声に耳を傾ける市政」どころか、市民をツンボ桟敷に置いたまま重大な条例を通してしまおうと画策していたと見られてもやむを得まい。
突然大音量のヤジ
この街頭演説は、動員されたと見られる自民党関係者も、賛成派と見られる人も、条例案の内容すら知らない人も、みな真剣な眼差しで静かに演説を聞いていた。
ところが、応援演説の弁士とした駆けつけた自民党の和田政宗参議院議員がビールケースの上に上がって演説を始めると、突然拡声器から大音量でヤジが飛んだ。
「ファシスト和田なんかに喋らせるな」
「よそ者のファシスト和田に武蔵野市の条例を語る資格などない」
ヤジを飛ばす拡声器のボリュームがあまりに大きかったので、和田の声は全く聞こえなくなった。完全な演説の妨害行為である。辺りは騒然とした空気に包また。
ほどなく警察官と私服警官と見られるマスク姿の男数人が男を取り囲み排除したので、ようやく和田の声が聞こえるようになった。
「私はお隣の小金井市に住んでいた事があるんです。武蔵野市にも知人がいます。だから今回の武蔵野市の条例については、武蔵野地域に縁がある人間として、強く懸念しています。」
「大切なのは、納得するまで議論する事だと思います。」
しばらくは静かに和田の演説を聞く事ができたが、数分後にまた野太いダミ声が浴びせられた。
「和田なんて野郎はとんでもないレイシスト」
「レイシスト、ファシストは武蔵野を去れ」
「帰れ、帰れ、帰れ」
一旦排除された男が舞い戻って拡声器を使って口汚い演説妨害を再開したのである。
その男は「Against Racism」云々と書いた黒いTシャツを着ていた。「ヘイトスピーチを許さない」という建前で、保守派の街頭演説に登場しては妨害行為を繰り返す集団の一員だという。
執拗に和田議員に絡む
これに対して和田は、あくまで冷静に「要請要望があれば書面でお寄せください」と丁寧に呼びかけていた。
ところがここで毎日新聞の後藤由耶と名乗る記者が、和田に追い討ちを掛けた。大判の撮影機材を和田の眼前に掲げながら執拗に追いかけ回したのだ。あやうく撮影機材に激突しそうになる顛末は、和田本人がツイッターに短い動画を投稿している。
妨害集団と連携する新聞社
「おい、何で俺を撮影しているんだよ」
剣呑な形相でにじり寄ってきたカメラの男は、
「さっきから何で俺を撮ってるんだよ」
「動画を撮っているのはわかってるんだ」
「お前のやっている事は犯罪だぞ」
「携帯をよこせ」
その口調や態度はまるで街のチンピラである。そして、自身も首からぶら下げたカメラで現場の様子を撮影していたにもかかわらず、現場の様子を撮影していた私を犯罪者呼ばわりして恫喝した。
この男は、仲間の拡声器による妨害行為については「表現の自由だよ」と言って警察官を牽制していた一方、和田議員の表現の自由は認めず、演説を妨害する人物と連携して和田議員の表現の自由をあからさまに侵害していた。一体どういう人間なんだと呆れていたら、自分からこう名乗った。
「犯罪だというなら、警察に訴えて下さい。あなたと同様、私も集会の様子を写真に収める権利があります。そもそも私はあなたの動画など撮っていません。」
「お前のしている事はヘイトだ。絶対に許されない」
石橋と名乗るこの男は、一般市民に絡んで恫喝する事には慣れっこなのだろう。いつまでもヤクザまがいに因縁を付け続けるので、やむなく私は現場を離れた。
一部始終を目撃した者として断言するが、連中の行動は、正当に行われていた政治家の街頭演説を拡声器と罵声によって露骨に妨害する行為であり、憲法21条で保障された集会の自由を奪い取る行為だった。
そして最も驚くべき事は、「カウンターレイシズム」「CRAC」云々を名乗る妨害集団と、神奈川新聞の石橋学や毎日新聞の後藤由耶など、新聞社の記者を名乗る人間が連携して政治家や聴衆を恫喝したり集会を威力を持って妨害しているという、衝撃的な事実である。
松下玲子市長に掛かる疑惑
松下市長の謎のツイートは、12/4土曜日の12:28に投稿されている。そして「ヘイトスピーチを許さない」という妨害集団が反対派の集会を蹂躙したのは翌日日曜日の午後2時からだ。
チンピラまがいの連中は、事あるごとに「ヘイトスピーチだ」という言葉を連発した。無言で現場取材していた私に対しても、神奈川新聞の石橋学と名乗る人物は「ヘイトだ」と頓珍漢な恫喝を仕掛けてきた。
そもそも保守政治家の街頭演説に執拗にまとわりついて政治活動を妨害する「カウンターレイシズム」の団体は、立憲民主党の有田芳生参議院議員との深い関係が指摘されている。例えばインターネットの百科事典「ウィキペディア」では、関連団体である「CRAC」の支持者として有田芳生の名前が明記されている。
さらに、有田芳生は吉祥寺での反対派の市民団体の関連活動をリツイートして拡散するなど、武蔵野市の条例問題に一定の関与をしている事を隠していない。
物議を醸す条例案を十分な議論がないまま押し通そうとするだけでなく、反対派の集会を威力をもって押し潰そうとしていたのであれば、市長として超えてはならない一線を大きく踏み越えていると言わざるを得まい。
そしてこうした騒動にはいつも、記者を名乗る活動家や、人権活動家を名乗る民主主義の破壊者が登場する。
まさか現役の武蔵野市長が、こうしたグループと陰で手を結んだ「市長の殻を被った工作員」でない事を切に祈るばかりである。
1966年、東京都生まれ。フリージャーナリスト。
1990年、慶應義塾大学経済学部卒後、TBS入社。以来25年間報道局に所属する。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部所属。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月、TBSを退職。
著書に『総理』『暗闘』(ともに幻冬舎)、新著に『中国に侵略されたアメリカ』(ワック)。