行き過ぎたLGBTとポリティカル・コレクトネス ~SA...

行き過ぎたLGBTとポリティカル・コレクトネス ~SAVE JAMES 問題から考える~【兵頭新児】

切り取りされた足立区議の発言

 9月25日、足立区の区議が「LGBTばかりになると足立区が滅ぶ」と発言し、問題になったことは記憶に新しいかと思います。確かにうかつな発言だったとは思うものの、これはあくまで少子化対策をしようとすると「女性差別だ」などPC(ポリティカル・コレクトネス)を振りかざす人々に発言を阻まれてしまう、という文脈でなされたものだったのです。にもかかわらず発言が恣意的に切り取られ、ヒステリックに攻撃されたというのは、ある意味でこの区議の懸念がそのまま現実化したようなものです。

 BLM同様、LGBTの主張する偏狭なPCにはいい加減、多くの人が辟易としているのではないでしょうか。

 しかし今回ご紹介するのは、「辟易」とも言っておれない、そうした歪んだイデオロギーによって、罪もない幼い少年が去勢されつつあるのかもしれない……といった話題です。

SAVE JAMES

 目下、フェイスブック上に「SAVE JAMES」というページが開設されています。
 これはテキサス州に住む9歳の少年、ジェイムズ・ヤンガーを救うことを目的としたもの。

 というのも、ジェイムズ君の母親である小児科医、アン・ジョージーラスが、彼の性転換を行おうとしているからなのです。 「LIFE SITE NEWS」2019年10月15日の記事によると、ジョージーラス氏の息子は3歳の時点で性別違和の兆候を見せたと主張しています。彼女は息子の5歳の誕生日パーティーの一環として「カミングアウト」パーティーを開き、ドレスを着た息子のお披露目をしました。ジェイムズ君は学校にも「ルナ」という名前の少女として通い、また女の子の服を着て、女子トイレを使用していると伝えられています。

 しかし一方、父親のジェフ・ヤンガー氏(ジョージ―ラス氏とは離婚)によれば、息子は彼と一緒にいる時には男の子の格好をし、ジェイムズという名前で呼ばれ、男の子として振る舞ってるというのです。
「CBN NEWS」の2019年10月2日の記事によれば、ヤンガー氏はジェイムズ君がレスリング、剣の戦い、ビデオゲームのプレイ、虫採りを楽しんでいると主張しています。
 また、ジェイムズ君は彼を女の子だとするカウンセラーに「ルナ」と「ジェイムズ」のどちらの名前にしたいかを尋ねられ、「ジェイムズ」の方を選んだそうです。

 しかし、ジョージーラス氏はこの元夫を、息子を少女として扱わなかったとして、児童虐待の罪で告発したのです。
 裁判は繰り返され、一時、父親が勝訴していた時期もあったのですが、本年8月15日、「CBN NEWS」は以下のようなタイトルの記事を掲載しました。

 テキサス州裁判官は「SAVE JAMES」の決定を覆し、少年に「性転換」を望む母親に全ての権利を与えた。

 今やジョージーラス氏はジェイムズ君を「ルナ」として学校に通学させ、トランスジェンダーの医療処置を受けさせる権限を持っているのです。それはつまり、彼女がすでに息子を(専門家が危険だと警告する)性ホルモン療法により、化学的に去勢する権利を得てしまったことを意味しています。

 いえ、そればかりでなく、2019年10月28日の「PJ MEDIA」では、彼女が息子の性器切除を検討しているとの情報も伝えられています。

 ここで一万歩ほど譲って、ジェイムズ君が本当にトランスだと仮定しても、まだ9歳という少年の肉体に手を加え、将来子どもをつくれない身体に変えてしまうことが、正しいといえるのでしょうか? ヤンガー氏によればジェイムズ君は将来、パパになることを望んでいるというのですが……。

ジョン・マネーと「双子の症例」

 ――ここで、「双子の症例」を思い出した方もいらっしゃるかもしれません。 これは今から50年ほど前に、ジョン・マネーの「人体実験」が引き起こした悲劇です。

 マネーはジョンズ・ホプキンス大学医学心理学科の教授や、同大学病院の心理ホルモン研究部門の部長を務めた性科学者。人間の性自認(コア・ジェンダーアイデンティティー)、すなわち「ぼくは男だ/わたしは女だ」という自分の性別についての根本的な認識は先天的なものではなく後天的なものであり、人生のごく初期に「学習」されるものだとの説を唱えていました。

 彼は事故によりペニスを損傷した生後8か月の男児、デイヴィッド・ライマーに性転換手術を行い、ホルモン治療や教育によって女性へと育て上げることに成功した、とされました。
 このデイヴィッドにはブライアンという一卵性双生児の弟がおり、この、天然のクローンともいうべき弟は男の子として育っているのに、兄は生後女の子となったことが、マネーの自説を立証したものだと思われたのです。すなわち、生後の学習や教育によって、人は性別を変更し得るのだと――。

 マネーはフェミニストたちのカリスマとなり、神のごとく崇められました。この実験が「ジェンダーとは社会の生み出したものであり、なくしてしまうべきものなのだ」との、ジェンダーフリーの理念の正しさを根拠づけるものだとして、盛んに言及されたのです。
 こうしたフェミニズムの理念が、近年のLGBTの運動の根本になっていることは疑い得ません。これは少子化対策をしようとすると、「女性差別だ」「LGBT差別だ」との声が飛んでくるという、先の区議の話題からもおわかりいただけましょう。

 ともあれ、これをきっかけに、デイヴィッド少年と同じ処置は世界中で、年間千件は行われるようになったといいます。
 ところが、このデイヴィッドは実のところずっと自分の性別に違和を持ち(つまり、女の子としての生活、女の子向けのおもちゃなどを押しつけられたにもかかわらず、それを受け容れることができず)、結局、男として生きることを選択しました。しかし近年、若くして自殺を遂げています。

 マネーは実験の失敗を隠蔽し、また周囲の人物も彼の権威を恐れ、沈黙を強いられていましたが、BBCのドキュメンタリーがとうとう真相を暴いてしまいました。ジェンダーの全てが後天的に学習される社会的構築物であるとの、フェミニズムの主要な論理の根拠は、ここで失われたのです。

 もう一つ、マネーはジェンダーフリーのみならず、フリーセックスにものめり込んでおり、デイヴィッドにポルノを見せたり、ブライアンと二人で性器を押しつけあったり、交尾の真似をしたりさせ、それを写真に撮影したといいます。

 マネーの失墜後、フェミニストたちは大慌てでマネーを切り捨て、「私たちは関係ない」と言い逃れを続けていますが、残念なことにこの点についてフェミニストたちがマネーを批判したところを、ぼくは今まで見たことがありません。

ジョージーラス氏の正体

 ――さて、それではこのジェイムズ君の母親、ジョージーラス氏は一体いかなる人物なのでしょうか。実のところ、思想的背景について調べてみたのですが今ひとつ判然としませんでした。小児科医としてのサイトも覗いてみたのですが、そこにも自身のイデオロギーについてなどは書かれていませんでした。

 ただ、「LIFE SITE NEWS」2019年10月15日の記事によると、ジョージーラス氏は元夫に「トランスジェンダー主義【transgenderism】の講習を受けるように要求し」たといいます。具体的な内実についてはわからないけれども、「ism」という以上、イデオロギー色の強い講義なのでしょう。
 また同サイトの本年8月12日の記事によると、ジョージーラス氏はジェイムズ君をLGBTQパレードに連れて行くことに、たいへん肯定的であるとされています。

 彼女が急進的なジェンダーフリーに憑りつかれた人物である可能性は、極めて高いのではないでしょうか。
 それともう一つ、ジェイムズ君は体外受精児であり、ジョージーラス氏は彼の遺伝上の母親ではありません。卵子の提供を受けて、ジェイムズとジュードという双子の母親になった、ということです。

 そう、ジェイムズ君には双子の兄弟がいるのです。
 何か、思い出さないでしょうか?
 
 先の「双子の症例」も一卵性双生児の一方が生後に性別を変えた(との嘘を、マネーが流布していた)ことが、人間の性別は後天的に変更し得るとの根拠にされていました。
 そして体外受精ではある程度、一卵性双生児が産まれる確率が高くなるようにコントロールができるのです。もっとも、ジェイムズ君とジュード君は「双子」ではあれ、調べた限り、「一卵性双生児」だとの記述は発見することはできませんでした。

 しかしもし、彼らが「一卵性双生児」であるとしたら。

 そして、もし仮に、ジョージーラス氏が息子の性転換に成功したら。

 もし、ジェイムズ君がこのまま身も心も女性となったら。

 ジョージーラス氏は、新たな「双子の症例」の製造者ということになります。

 むろん、マネーの実験が失敗に終わっている以上、そうなる可能性は極めて低いと考えざるを得ませんが、仮にそうなったとしたら、彼女はマネーの理論を再評価するきっかけを作った人物として、ジェンダー界、フェミニズムのカリスマとして、君臨することができる。本件の裏には、そんな野望が隠れているのではないでしょうか……?

非現実的な「ジェンダーフリー」に注意

本件は幼い少年の肉体が、そして人生が取り返しのつかない破壊の危険に晒されているという、絶対に看過できないものです。
 しかしさらに言うならば、ジェンダーフリーが、そしてそれを提唱したフェミニズムというイデオロギーがいかに非現実的であり、反社会的であり、人権というものを平気で蔑ろにするものであるかをぼくたちに教えてくれる、またとない好例でもあるのです。

 また近年、ことにネット上ではフェミニストたちの評判が悪く、「ターフ(トランスジェンダーを排除するフェミニスト)」などといった用語が作られました。
 しかし先にも述べたようにLGBTの運動とフェミニズムとは姉妹のようなものであり、その争いは姉妹ゲンカに過ぎないことが、ここまでくればおわかりいただけましょう。

 近年の「ターフ」にまつわる言説、即ち「フェミニストという悪者が、トランスというマイノリティを差別しているぞ」といったストーリーは、勘繰りをするのであれば、失墜したマネーをフェミニストたちが切り捨てたのと同様、評判の悪いフェミニストを切り捨てようという、リベラル陣営の尻尾切りなのではないか…と思われます。

 しかし、形ばかりフェミニストの尻尾切りをしても(何しろリベラルの批判するフェミニストは多くの場合、「ツイフェミ」と呼ばれるネット上の、何ら後ろ盾を持たない市井の人々です)、ジェンダーフリーなどその理念が根拠に欠けたものであること、また極めて反社会的であることを批判しない限り、何ら意味がないこともまた、ここまでくればおわかりいただけたのではないでしょうか。

 フェミニズムというと、「何とはなしにいいもの」といったイメージを抱いている人が多いですが、この思想の根底には、最初から男性への、否、そればかりでなく女性や社会全体への深い憎悪、嫌悪があります。

 そもそもジェンダーフリー自体が家族や男女の恋愛というものを根底から否定する思想であり、そこには最初から児童虐待の萌芽が内包されているとしか、言いようがないのです。

 2018年9月19日のCBNニュースの記事によれば、こうした事例は英米では急激に増えており、イギリスでは17年、800人の子供に「思春期抑制薬」が注射されたといいます。
 しかし、先のジェイムズ君の件は日本のみならず、テキサスでも大手メディアから無視され続けています。
 
 このままではまた「双子の症例」の悲劇が繰り返されることにもなりかねません。
 
 ヤンガー氏とテキサス州知事のアボットはネット上で、反対者の署名を募っています。
「Support Dad and Texas Governor's bid to save 8-year-old boy from being turned into girl」の文章で検索すればヒットするかと思いますので、関心を抱いていただけた方は一度ご覧になっていただけますと、幸いです。


(参考)
今回の問題については、youtube動画 「風流間唯人の女災対策的読書・第12回 フェミニストの母親が、息子のペニスを切除…⁉」も是非ご覧ください。  
兵頭 新児(ひょうどう しんじ)
本来はオタク系ライター。
フェミニズム、ジェンダー、非モテ問題について考えるうち、女性ジェンダーが男性にもたらす災いとして「女災」という概念を提唱、2009年に『ぼくたちの女災社会』を上梓。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く