【山口敬之】ワクチン接種:欧米への「右へならえ」は不要

【山口敬之】ワクチン接種:欧米への「右へならえ」は不要

日本のワクチン接種は「特例承認」

「特例承認」で始まった日本のワクチン接種

 いよいよ日本でも、特例承認されたファイザー社のワクチン接種が始まった。

 「特例承認」とは、健康被害の拡大を防ぐために、日本国内未承認の新薬を簡略化された手続きで承認し使用を認める制度だ。

 本来であれば、ワクチンの開発と承認には下記の手続きが必要となる。

 ①基礎研究(不活化・弱毒化など)
 ②動物による非臨床試験
 ③臨床試験(3段階)

 ワクチン開発がこうした慎重なプロセスを経て進められるのは、多くの人に一斉に接種した際の安全性を確保するためである。ある人には有効で無害であっても、別の人には無効で有害な場合も十分あり得るからだ。

 「有害性」はいくつかに分類される。まず接種直後に強い副反応が出るケースだ。ワクチン接種による、アナフィラキシーショックなどによって、多くの人に重大な副反応が出たり死亡したりしないよう、科学的な検証と万全の体制は必要不可欠だ。

 もう一つ、接種直後は問題なくても、中・長期的に人体に悪影響を与える可能性にも配慮する必要がある。

 一部の専門家は、ファイザーのワクチンが免疫系に働きかけることで、一定の条件下で症状を激化させるリスクがあると警鐘を鳴らしている。

 その一つは、抗体依存性増強(ADE)という体内現象と関係している。白血球の一種であるマクロファージが、不完全な抗体と結合したウイルスに感染すると爆発的な勢いでウイルスが増殖する、いわゆるADEの状態に陥ることがわかっている。ウイルスを撃退するはずの抗体が、まるでトロイの木馬のように症状を一気に重症化させる現象だ。

 この恐ろしい現象と、ファイザーのワクチンの相関関係は、全く検証されていないのだ。

 そもそも、今回のファイザー製ワクチンがメッセンジャーRNA(mRNA)を利用した、これまでのワクチンとは全く違うメカニズムで作用するだけに、本来であれば長期的な検証は不可欠なのだ。

 mRNAは、人類のみならず生きとし生けるもの全てが保有していて、DNAから情報をコピーして必要なタンパク質をつくる。これは「セントラルドグマ」と呼ばれる、全ての生命体の根源的活動である。

 ファイザー社のワクチンは、身体の外から特定のmRNAを薬物として注入することによって、ウイルスを撃退する抗体を生成するのに必要なタンパク質を体内で人工的につくらせる。

 生命活動の根幹に関わる作用を利用しているワクチンが、長期的に人体にどういう影響を与えるか、現段階では全く不明だ。今回のワクチン投与が世界規模の社会的人体実験と呼ばれるゆえんだ。

欧米ではワクチン接種が「不可避」であった

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米国・大規模ワクチン接種会場
 アメリカ政府は12月11日、ファイザー社のワクチンBNT162b2に「緊急使用許可」を出した。欧州各国も同様の措置を取った。

 本来であれば長期的な治験を経て安全性を担保すべき、全く新しいワクチンが急遽認可されたのは、欧米各国で新型コロナウイルスによる感染者、重症者、死者が急増したためである。

 アメリカの緊急使用許可は、政府が「公衆衛生上の緊急事態」と判断した場合に、通常の手続きを一定程度省略して特定の医薬品に対して認可を与えられるようにする制度だ。

 この段階でアメリカでは累積感染者2,600万人、死者29万2000人を数え、1日あたりの死者数が初めて3,000人を超えるなど、正に緊急事態だった。

 緊急事態を収束させるためにやむなくワクチンの人体への長期的影響の検証や、その他の安全性を担保するための手続きをすっ飛ばしたアメリカが、ワクチン接種で目指すゴールはどのようなものなのだろうか。

 アメリカ人に万遍なくワクチンが接種された場合のことを考えてみよう。

 約4万人が参加したファイザーの臨床試験では、ワクチンを接種したグループは、接種していないグループと比較して発症者数が95%減ったという。

 アメリカの累積感染者数は約2,780万人だから、人口1万人当たりでは847人が感染したことになる。

 この状態で有効率95%のワクチンを仮に国民全員が接種すると、これまで感染していたはずの人のうち804人が感染を免れる計算になる。すなわち、人口1万人当たりの感染者が43人に下がることになる。

 もちろんアメリカでもワクチン接種は義務ではない。このためアメリカ政府でワクチン開発主任を務めるモンセフ・スラウイ博士は、

 「国民の70%がワクチン接種すれば、集団免疫が完成する」

 との見解を発表した。この場合、847人いた発症者の7割592人の95%、すなわち562人が感染を免れる。するとアメリカの1万人当たりの感染者は285人となる。

日本の現在状況は、米国の目標地点

 翻って日本を見てみよう。日本の累積感染者数は2月中旬で42万人だから、1万人当たり33人だ。

 もう一度アメリカの数字を見直して欲しい。多くの感染者/死者を出しているアメリカが、安全性を差し置いてもワクチンに緊急使用許可を出したのは、人口1万人あたりの感染者数を300人未満程度に下げたいからだ。

 そして、非現実的な仮説ではあるが、全アメリカ国民が接種すれば、1万人当たりの感染者が、43人に下がる。

 要するに、アメリカは、日本の現状である1万人当たり33人を最高の理想とし、それには遠く及ばないと知りながら、12月以降せっせとワクチンを打っているのだ。

 バイデン大統領は2月12日、CDC(疾病管理予防センター)やFDA(食品医薬品局)の試算を前提に、こう述べた。

「次のクリスマスまでには、かなり違う状況になっていると思う」
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「次のクリスマスまでには、かなり違う状況になっていると思う」と述べたバイデン大統領
 ホワイトハウスの関係者は、

 「大統領の発言は、クリスマスまでにはワクチンのお陰でロックダウンや行動制限が不要になり、人々の生活が元に戻り、アメリカ国内の経済活動が完全復活するという意味だ」

 と解説を加えた。

 感染者を今の4分の1、すなわち人口1万人当たり250~300人程度にまで低下させれば、自粛を解除し、経済をフル回転できるというのだ。

 日本は現状でも1万人あたり33人。アメリカが経済をフル回転させる目標値の8分の1しか感染者がいないのに、緊急事態宣言を発し、国民に行動自粛を強要し、多くの飲食店が廃業し、多くの企業が倒産している。

 コロナ禍を煽るメディアとエセ専門家によって、また医療体制の拡充を放棄してきた自治体によって、緊急事態宣言が出され、延長された。

 そして、感染実態の観点で見れば世界的に見ても突出した優等生であるはずの日本の経済・社会は、「つくられたコロナ危機」によって、無駄に窒息死させられている。

【山口敬之】小池百合子が「国民の命」をもてあそぶ【WiLL増刊号#427】

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山口 敬之(やまぐち のりゆき)
1966年、東京都生まれ。フリージャーナリスト。
1990年、慶應義塾大学経済学部卒後、TBS入社。以来25年間報道局に所属する。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部所属。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月、TBSを退職。
著書に『総理』『暗闘』(ともに幻冬舎)がある。

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この記事へのコメント

マリステル 2021/2/23 22:02

いつも重要な問題提起ありがとうございます。

欧米諸国と比べて、日本はPCR陽性者数も死者も少なく、余裕があると思いきや、恐怖心を煽る報道ばかりで、国民の平穏は奪われています。

ワクチンはもともと、健康体に接種してこそ効果を発揮するものなので、日本はむしろ今ワクチンをすべき絶好のタイミングだと思っています。

山口さんが指摘している通り、中長期的なワクチンの副作用は検証できていませんが、短期的な安全性は先行接種を始めた諸外国を見ても安心できるレベルだと考えています。

ADEは不安に思って調べていましたが、これはワクチンによってのみ起こるものではなく、自然に感染してもADEを起こすリスクを抱えることを考えると、やはりワクチンは接種する方が安全だと思います。いま色々な変異が報告されていますが、国境をまたいだ移動の制限をしているために、いきなり強毒化したウイルスに感染したら対応できないと思います。

私は私なりに、落ち着いてワクチンの普及に尽力しようと思っています。

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