収束モードなのに緊急事態宣言を延長
「国民の皆さんには、こうした制約をまた引き続いてお願いすることに対して、大変申し訳ない思いでありますけれども、このコロナをようやく、宣言をしてから数字が、感染者の方が日々下がっていますので、ここにおいて、このコロナを収束させたい。そういう強い思いの中で判断させていただきました。」
菅総理は会見でこう述べ、緊急事態宣言継続で国民に苦痛を強いる事について何度も何度も謝罪した。
しかし前回投稿で示したように、第3波は1月上旬にピークを迎え、その後の毎日の陽性者は右肩下がりに下がり続け、完全に収束モードに入っている。
具体的には、1/8日の7882人を最高値としてその後は順調に下がり、2月に入ってからはピーク値の3分の1以下の数値が続いている。1週間の平均値を取っても、1/10日のピーク以降は急減している。これを収束と言わずして何が収束なのか。
菅首相は謝る必要など全くない。しっかりと感染者数を予測し、国民からの批判を覚悟で緊急事態宣言を出し、「結果として」感染拡大を抑え込んだのだ。
最大の問題は、感染拡大が明らかに収束しているのに、なぜ緊急事態宣言を延長したかだ。
解除目安=「6指標」の妥当性
これを裏付けるのが、1/7日に緊急事態宣言を発出する事を宣言した際の菅首相の発言だ。
「1か月後には必ず事態を改善させる」
大風呂敷を広げるタイプでない菅首相がここまでハッキリとした発言をするのは極めて珍しい。「1月中旬までに感染者数は反転減少する」と予測していたからこそ、1/7日に1ヶ月と期間を切って緊急事態宣言を出せたのだ。
そしてその予測は、ほとんど完璧に当たった。宣言発出のわずか2日後の1/9日以降、陽性者数は急速に減り始め、1月下旬には「国民の努力でコロナを抑え込めた」と言える状況となった。総理大臣としては、ほぼパーフェクトゲームだったのだ。
それなのになぜ菅首相は何度も謝罪した上で、緊急事態宣言の延長を余儀なくされたのか。
決定打となったのは政府の分科会が策定した「6指標」だ。
宣言解除の目安とされたのは
▽「病床の逼迫具合」
▽「療養者数」
▽「PCR検査の陽性率」
▽「新規感染者数」
▽「前週の感染者数との比較」
▽「感染経路が不明な人の割合」
という6項目だ。
この内、一部の指標で解除の目安となる基準値が極めて高い数値に設定されたため、緊急事態宣言の期限である2/7日に全ての指標をクリアする事は事実上不可能だった。要するに、「6指標」が発表した段階で緊急事態宣言の延長は折り込み済みとなってしまっていたのだ。
この6指標は、大きく分けると2つのファクターから構成されている。≪感染拡大状況≫と≪医療リソースの現況≫だ。
医療リソースに直接関わる「病床の逼迫具合」という指標は、コロナ対応病床がどれだけ埋まっているかというデータだ。
これは、コロナ対応病床を増やせば一気に余裕が生まれる。要するに、自治体と医師会が感染拡大を想定して必要十分なコロナ対応病床数を算出し、協力して増床していれば、今こんなに慌てる必要はなかったのだ。そのために政府は累次にわたって補正予算を組み10兆円もの予算を用意していた。
※参考記事 コロナ禍をあおる執拗な「PCRテロ」と医師会
十分に資金と時間を与えられていたのに1年も放置し、挙句に「病床が逼迫している」と叫んで上目線で国民に自粛を求める自治体と一部医師会には呆れてものも言えないが、今からでも拡充は十分に可能だ。
国民の危機感を煽る手法
たとえば、新規感染者数は、ステージ3が10万人当たり15人、ステージ4は25人を目安としている。しかし、10万人に25人という新規感染者数は、緊急事態宣言を継続しなければならないほど、日本社会にとって重荷なのだろうか。
アメリカでは毎日13万人程度の新規感染者が出ており、10万人当たりに換算すると40人程度の高水準が長く続いている計算になるが、それでも医療崩壊には至っていない。アメリカよりはるかに医療リソースが充実している日本で、10万人に25人という宣言解除基準は厳しすぎるという意見は少なくない。
そもそも「新規感染者数」は、実態は「PCR検査の新規陽性反応者」であり、検査数が増えれば陽性者も比例して増えることから、感染状況を実態以上に悪く判断しかねない危険な指標と言える。
一方「PCR検査の陽性率」は検査数の増減に左右されない、信頼できる指標だ。分科会は陽性率が10%を下回れば合格としているが、現在緊急事態宣言が出されている全ての地域で10%を下回っており、緊急事態宣言を解除しても構わないレベルで安定している。
感染拡大の度合いを測定するなら本来「陽性率」で一本化すればよいものを、なぜか統計的な意味の希薄な「新規感染者数」が「6指標」に組み込まれた。
本来感染しているとは断定できない陽性反応者を「感染者」と呼び、上振れしやすい指標を宣言解除の条件とした所を見ても、厚生省と分科会の「国民に危機感を植え付ける」という底意が透けて見える。
しかし、専門家会議や分科会の出してくる指標に、首相の立場でNOを突きつけるのは難しい。
しかも「諸外国のようなロックダウンなど強制措置が取れない以上、国民に危機感を持ってもらう必要がある」という意見が官邸内にも根強くある。
結局、菅首相からすれば、感染拡大が明らかに収束しつつあるのに、必要以上に厳しく設定された「6指標」によって、宣言解除という選択肢が取れないよう、予め外堀を埋められてしまっていたのだ。
状況が明らかに改善した場合でも、「朗報を報じれば『国民が緩む』」という、いわば性悪説の論理が、この国のコロナ対策を著しく歪めていると言わざるを得ない。
スケープゴートにされたGoToトラベル
昨年7/22日に始まったGoToトラベルは、「感染拡大の原因」との疑いをかけられて、昨年秋以降中止を求める声が繰り返し出ていた。
しかし、全国の感染状況を見ると、GoToトラベルで多くの観光客が訪れた地域で感染爆発が起きたケースは一ヶ所もなく、「感染拡大要因」として統計的に有意なデータも全くなかった。
菅首相としては、疲弊した地方経済と旅行業・公共交通網を支える意義は大きいとして、反対論を抑え込んで何とか継続してきたが、昨年12月の感染拡大を受け、やむなく一斉停止を決断せざるを得なくなったのだ。
それでは、GoToトラベルの停止で、実際に感染拡大に歯止めがかかったのか。
国民の行動変容の効果は、2週間後に陽性者数の変化として表れるというのが、政府の統一見解である。
GoTo トラベルが一斉停止されたのは12/14日だから、12/28日以降の陽性者数の変化を見れば、GoToトラベルと感染拡大の関係がわかる。
12/28日に2398人だった感染者はその後増え続け、12/31日には4513人を記録した。そして年明け以降グラフは急峻な崖を駆け上がるように急増し、1/8日の7882人まで一本調子で上がり続けた。
GoToトラベルが感染拡大の原因だったのなら、12/14に全国で一斉に止めた以上、12/28の前後で感染者数は減少するか、少なくとも増加率が鈍化するはずだ。ところが、陽性者は減るどころか急増したのである。
これで結論は出た。GoTo トラベルは、感染拡大とは無関係だったのだ。
実際、家族や近親者が、ガラガラの新幹線や飛行機で移動し、感染対策の行き届いたホテルや旅館に泊まって、各自が感染対策を取りながら観光地を巡ったとしても、それが感染拡大につながるはずがないというのが、一般的な感覚だろう。
そして、このごく当たり前の推測が、年末年始の陽性者数のデータによって客観的に示されたのだ。
今回GoToトラベルが感染拡大と無関係であると「証明」された事実は重い。
日本人の節度を信頼せよ
多くの日本人は、一年の学習期間を経て、感染を拡大させない外出の仕方や、旅行の作法を既に身につけているのではないだろうか?
しかし、菅首相がいみじくも強調しているように、感染拡大を抑え込みながらも経済を回していくということが、今年の日本の最大の課題だ。
「国民に恐怖感を植え付けて行動自粛に導く」という性悪説に基づいた対策から脱却し、日本人の国民性や衛生感覚を信じ、エビデンスのない自粛論から脱皮していく事こそが、菅首相に求められる本当の「政治主導」だ。