不自由に耐えられるか

小林 今日のテーマは、皇位継承問題。『WiLL』は〝絶対男系主義〟の雑誌だから、読者が反発するよ(笑)。

ケント 私の周りは、ほとんど男系論者。たまには違う立場の意見も聞いてみたい。

小林 じゃあ、遠慮なく(笑)。

ケント 私自身、女系天皇には賛成できません。なぜなら、2600年にわたって続く男系の皇統を断ち切ることに抵抗があるから。伝統を守るために、旧宮家の男子を復活させればいいと思います。

小林 言うのは簡単だけど、実現できるかな。

ケント 近現代史研究家の水間政憲さんによると、戦後GHQに皇籍を剝奪された11宮家のうち、7宮家10家族に100人以上の男系男子がいらっしゃるそうです。

小林 それが本当だとして、公務の負担や今後の皇位継承を考えれば、新たに4つは宮家を増やす必要がある。つまり、4人の男系男子を皇室に招き入れなければなりません。極めて難しいでしょう。すでに全員に打診して、ことごとく断られた可能性すらある。

ケント すべて秘密裏に行われるでしょうから、憶測でしか論じることはできないけど、まだ政府は具体的なアクションを取っていないと思います。

小林 先日、二階俊博と甘利明が女系容認に前向きな発言をした。男系男子を4人連れてくるのは難しいとわかっているから、自民党は観測気球を飛ばして世論を窺っているんでしょう。男系派は追い込まれていますよ。

ケント いや、諦めるのはまだ早い。自民党の若手グループ「日本の尊厳と国益を護る会」に期待しています。彼らは、旧宮家系から男系男子を皇室に迎えるための具体策を検討し始めました。どのような形でお願いするのかも重要です。

小林 ウーン、今まで享受してきた自由を捨ててまで皇族になろうと思う人がいると思いますか。皇族は、憲法に規定されている人権がほとんど制限されています。職業選択の自由も、居住の自由も、言論の自由もありません。ヨーロッパの王室なら自転車でスターバックスに立ち寄れるだろうけど、日本の皇室はムリ。娯楽といっても、吉永小百合が出ている〝文部科学省推薦〟みたいな映画しか観られないでしょうね(笑)。

ケント 明治天皇の玄孫・竹田恒泰さんも、「自分には耐えられない」とおっしゃっていました。でも、日本のために立ち上がる方がおられると信じています。

知らないまま「賛成」

小林 前向きに考えてくれる男系男子がいたとしても、越えるべきハードルはある。それは、既存の皇族が彼らを受け入れるかどうか。

ケント それって、必須の条件なんでしょうか。

小林 一緒に公務を分担する以上、仲間として認めてもらわないと。

ケント 皇族のお気持ちは考慮すべきですが、最終的には国会で決めるべきことでしょう。

小林 さらに、国民感情の壁も厚い。顔も知らない人たちが、いきなり皇族として現れる。戸惑う国民の姿が目に浮かびます。彼らを皇族として敬うことに少しでも違和感を覚えれば、皇室と国民の紐帯は薄く弱くなってしまう。

ケント 時間をかけて国民に受け入れてもらうんです。新たに皇族となった方々が、すぐに天皇に即位されるわけではありません。現在の皇族の方々をサポートしながら、徐々に皇室の空気に慣れていただけばいいと思います。

小林 民間人として自由に暮らしていたわけだから、例えば「文春砲」で過去の不倫関係が暴露される可能性もゼロではない。そんなことがあれば、あっという間に皇室の権威は崩壊しますよ。世論調査では、7割以上の国民が女系天皇に賛成している。男系にこだわっているのは一部の保守派だけ。彼らは声だけ大きい「ノイジー・マイノリティ」なんです。

ケント 現段階で、世論調査にどれほど意味があるのか。他方で過半数が、「女系天皇の意味を知っていますか?」という質問に「知らない」と回答しています。いまだに多くの国民が女性天皇と女系天皇を区別できていない状況で、焦って女系天皇を容認すべきではない。

小林 そんなこと言ったら、2015年の安保法制も同じ。ほとんどの国民は、いまだに「集団的自衛権」の意味を知らないでしょう。

ケント 防衛・安全保障と天皇・皇室を同じ土俵で論じるのは危険ですよ。集団的自衛権を認めたのが間違いだったら、野党が言っているように安保法制を廃止すればいい。でも、一度でも女系天皇を認めてしまったら、2600年の歴史が途切れてしまう。後戻りできないんですよ。

「承詔必謹(しょうしょうひっきん)」の精神

ケント 戦後、マッカーサーは昭和天皇を「戦犯」として裁ける立場にいました。GHQによって皇室が解体されてもおかしくない状況でしたが、ギリギリで危機を免れて今日に至ったわけです。この奇跡を、早計な女系論で終わらせるのはどうか。いま一度、立ち止まってじっくり考えるべきです。

小林 GHQ云々ではなく、どちらにせよ宮家は削減される運命だったと思います。大勢の皇族を抱えたままでは、莫大な税金がかかりますから。秋篠宮も、皇族の数はなるべく少ない方がいいと言っている。

ケント 秋篠宮といえば、「政教分離」を理由に、大嘗祭への公費支出にも疑問を呈されていました。皇室の根拠は神話に求められる以上、西洋の近代的価値観を持ち込むこと自体がナンセンスですよ。

小林 確かに、政教分離はどうかと思います。ただ秋篠宮は、先日の誕生日会見でも、公費ではなく内廷費で賄うべきだという考えは変わっていないことを示された。ここまでくれば信念です。上皇や天皇の意思も含まれているような気がする。なるべく国民の負担を減らしたいと願っているんです。

ケント 天皇は常に民の生活を第一に考えてきました。皇室らしいと言えばその通りですね。

小林 わしは天皇の常識やバランス感覚を信じているから、「承詔必謹」で天皇の気持ちを忖度したい。いっそのこと、天皇と総理大臣が男系・女系論争について議論してもいいと思っていますよ。

「愛子天皇」でいいか

ケント 歴史上、女性天皇は8人10代いました。女系ではなく女性天皇なら認めてもいいと思います。

小林 わしも「愛子天皇」は大歓迎。理由の一つは、愛子さまが皇太子になれば、天皇から祭祀の継承ができる。祭祀というのは天皇から皇太子への一子相伝だから、皇嗣の秋篠宮には継げない。「祈る」という行為は天皇にとって絶対に必要で、祭祀をやめてしまったら天皇の存在意義が失われてしまう。イギリス王室に祭祀はないけど、日本の天皇は宮中三殿で五穀豊穣と世界平和を祈らなければならない。

ケント 秋篠宮が天皇に即位すれば、祭祀を執り行うことになりますね。なぜ自らを、「皇太弟」ではなく「皇嗣」の地位に置いたんでしょうか。

小林 愛子さまが次の天皇にふさわしいと思っているからです。上皇と天皇と秋篠宮で三者会談を重ねる中で、合意ができているんじゃないか。

ケント 秋篠宮を飛び越して、天皇陛下が悠仁さまに祭祀を継承すればいいんじゃないですか。皇室典範を改正する必要はあるでしょうけど。愛子さまが皇太子になると、皇位継承順位が変わってしまう。それは悠仁さまの廃嫡につながる、という意見もあります。

小林 女性天皇すら認めたくない一部の保守派は、「廃嫡」という言葉を使うね。これは〝脅し〟にほかなりません。「廃嫡」は旧民法に記された表現で、皇位継承とは全く関係ない。秋篠宮の「皇嗣」というのは、皇位継承の第1位という意味に過ぎません。愛子さまが「皇太子」になると、秋篠宮と悠仁さまの継承順位が下がるだけです。「皇嗣」は確定された皇位継承者ではないのに、わざわざ「立皇嗣の礼」(令和2年4月)なんてやって、あたかも確定された皇位継承者のように錯覚させている。

ケント なるほど。しかし、悠仁さまがお生まれになった時、日本中がホッとし、祝福ムードに包まれたでしょう。愛子さまが悠仁さまの上に立つとなれば、保守派の反発は必至。壬申の乱や南北朝の動乱のような時代が再来し、日本国民が分断される……といった事態には陥りませんか。

小林 それは煽りすぎ(笑)。男系絶対主義者は主張が極端なんです。女系天皇=皇統断絶と解釈している人たちがいるけど、もし女系天皇が誕生すれば、彼らは「皇統が断絶した世界」で生きていくことになる。自分で自分の首を絞めることに気づいていない。

男子を産む重責

小林 愛子天皇は認めないけど、女性宮家を創設して悠仁さまの公務を支える──そんな折衷案も政府の選択肢に入っているでしょうね。そうすると、皇位継承順位は変わらず、かつ公務の負担を軽減できる。ただ、悠仁さまが男子に恵まれない限り、皇統が女系に移ることは避けられない。時間の問題です。それなら、最初から愛子さまを皇太子にした方がいい。祭祀もスムーズに継承できるし。いずれにせよ、女性宮家が認められれば、眞子さまや佳子さまが結婚されても皇室から出ていく必要はない。

ケント 聞こえはいいけれど、女性宮家創設も慎重に議論すべきです。眞子さまが小室圭さんと結婚し、例えば「市谷宮」を創設したとする。その場合、小室さんが宮家に入って、「市谷宮殿下」もしくは「圭さま」と呼ばれるわけですよね。で、一般参賀でガラス越しに手を振る。強烈な違和感を覚えます(笑)。

小林 実際問題、女性宮家を創設しなければ公務がままならないんですよ。女性皇族が嫁いで臣籍降下すると、皇室には天皇と秋篠宮、悠仁さまの3人しか残らない。何十年後かには、男系男子が悠仁さま1人になってしまう可能性がある。そもそも、悠仁さまに嫁ぐ女性がいるかどうかもわからない。

ケント 悠仁さまは端正な顔立ちをされています。お妃探しには困らないでしょう(笑)。

小林 将来の天皇となれば、限定された範囲で女性を選ばなければならない。つくづく、皇族には自由がないんです。

ケント とはいえ、普通の学校に通っていたら出会いはあるはず。

小林 そんな簡単なことじゃないんですよ。雅子さまは、男子が生まれないことを宮内庁に攻められ、あることないこと週刊誌に書かれ、体調を崩してしまった。悠仁さまと結婚して、もし男子が生まれなかったら、また右派や週刊誌に叩かれます。そんな重圧を喜んで引き受ける女性を見つけるのは難しい。

ケント 私の妻は、雅子さまの大ファン。ご成婚のときは、洗足まで小和田家を見に行ったくらいです。宮内庁が雅子さまをイジメていると書いてある本を読み、宮内庁が大嫌いになってしまった。

小林 奥さん、わしと話が合うかもね(笑)。皇室の好感度が高まるような記事をいくら載せても、週刊誌は全然売れない。下衆な一般読者は、スキャンダルが大好きなんです。雅子さまだけでなく、美智子さまも週刊誌のせいで失声症になったことがある。雅子さまが皇后になったら、右派も週刊誌も手のひらを返して絶賛し出した。笑っちゃいますよ。

ケント 雅子さまは、皇后になって花が開いたかのように素敵になりましたね。トランプ大統領夫妻と通訳を介さず会話していたとき、輝いて見えました。

伝統とは何か

小林 伝統を一切変えてはならないというのは、原理主義的な考えです。日本は一神教ではなく八百万(やおよろず)の神だから、原理主義は根付かなかったし、柔軟性が日本の強みだった。ところが、絶対男系主義が一種の原理主義になっている。わしも戦後の進歩主義は好きじゃないけど、変化を一切受け入れない原理主義も好きじゃない。何事もバランス感覚が大切なんですよ。男系男子というのも、男尊女卑の儒教的発想でしょう。呪縛に陥(おちい)ると、李氏朝鮮のように衰退と退廃に向かう。

ケント 漸進主義が保守の在り方ですね。時代の流れの中で変えるべきものと、それでも変えてはいけないもの──見極めが大切です。

小林 いくら理想を唱えても、現実を見ながら変えざるを得ない部分はある。男系にこだわりすぎて皇室自体がなくなった、なんて本末転倒でしょう。最近、歌舞伎が漫画『ワンピース』や映画『スター・ウォーズ』を題材にしています。伝統芸能とサブカルチャーを融合させ、若い世代のファンを増やそうとしている。結構なことですが、演目が増えると基礎を稽古する時間がなくなって、基本となる型が崩れてしまう。要はバランスです。

ケント 小林さんは保守の立場から、皇室を守るためにこそ女系天皇を容認すべきだと主張されています。ただ、皇室の破壊を企む左翼勢力に利用されないよう気をつけてほしい。女系容認で皇室の伝統を切り崩し、その先に皇室自体を解体する目的を持った連中がいることは間違いない。事実、共産党や社民党は女性宮家創設に賛成しています。
 女系容認が、「ミートゥー」みたいなフェミニストの流行の一部になっているような気がする。女性の権利云々と叫んでいる人たちが静かになるまで、判断を先送りにしてもいいんじゃないか。

小林 ならば、わしも男系論者に言いたい。戦後、宮澤俊義などは「天皇はめくら判を押すだけのロボット的存在」と主張していた。彼らは、天皇を意思のないロボットにしてしまおうと考えたわけです。今の憲法学者も、「ロボット天皇論」を引き継いでしまっている。
 では、右派はどうか。上皇が退位を望むビデオメッセージを流したとき、憲法違反と批判していた。「天皇は祈っていればいい」なんて主張する者もいましたね。皇統をつなぐ「血の器」でありさえすればいい、という考えです。しかし、それでは天皇の意思を認めない左翼と同じになってしまう。

ケント なるほど。今日の対談で、女系容認派の論理は理解できました。でも、やっぱり2600年も続いたものを変えることへの抵抗は拭えません。

小林 違う意見を知るだけで収穫じゃないですか。昔の保守論壇は、多様な意見をぶつけ合っていました。でも今は、絶対男系主義や安倍政権支持が保守であることの踏み絵になっている。女系容認論を唱えただけで、わしを「左翼」呼ばわりですよ(笑)。その結果、みんな金太郎飴みたいに同じことしか言わない。論壇がつまらなくなったね。

ケント じゃあ保守同士、異なる主張をぶつけ合う〝対論〟を重ねていきましょう。

小林 もちろん、望むところです。


小林 よしのり(こばやし よしのり)
1953年、福岡県生まれ。漫画家。1976年、大学在学中に描いた『東大一直線』でデビュー。以降、『おぼっちゃまくん』などの作品でギャグ漫画に旋風を巻き起こした。1992年、社会問題に斬り込む「ゴーマニズム宣言」を連載開始。すぐさま日本の思想状況を一変する大ヒットとなる。1998年、「ゴーマニズム宣言」のスペシャル本として発表した『戦争論』(幻冬舎)は、言論界に衝撃を与え、大ベストセラーとなった。

ケント ギルバート
1952年、米国アイダホ州生まれ。70年にブリガムヤング大学に入学し、七一年にモルモン宣教師として初来日。80年、同大学大学院を修了し、法務博士号・経営学修士号を取得。その後、国際法律事務所に就職し、法律コンサルタントとして再び来日。タレントとして『世界まるごとHOWマッチ』などの番組に出演する。『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社)など著書多数。

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