専門家の正体は活動家

 にわかに信じがたい事件が起きた。日本赤十字社医療センターの医師(現在、除籍)だった作田学氏が、約25年の喫煙歴のある人物について、診察もせずに「受動喫煙症」と診断書を作成。25年の喫煙歴という重い事実がありながら、その診断書をもとに、同じマンションに住む人物に対して4500万円の賠償請求を行ったのだ。

 裁判を通して、日赤病院の医師という高いステータスを持った人物が、この世の悪であるタバコを叩くという「正義の行い」がすべてデタラメだったことが明らかになった。本稿では、高額の賠償請求をされた被告の妻である藤井敦子氏の証言、この裁判を詳細に扱った書籍『禁煙ファシズム』(黒薮哲哉著)、そして、ジャーナリスト須田慎一郎氏のユーチューブチャンネル「ニューソク通信」での取材をもとに、事件の全貌に迫ってみたい。

 まず、筆者のタバコへの立場を簡単に明らかにしておこう。タバコは健康に害を与えるものだと認識している。しかし、人に迷惑をかけないなら、成人は自由に喫煙するかしないかを選べるべきだ。そして、飲酒についても適量というものはなく、一滴でも飲めば健康に害を与えるものだと認識している。そして、飲酒はしばしば人格が暴力的になり、タバコよりもひどい社会的な損失を生んでいる。よって、タバコとお酒は同等の規制をかけるべきだが、現状はタバコの規制が非常に厳しい。そこで、タバコのように厳しい規制をお酒にもかけるか、お酒のような軽い規制にタバコもするかという選択になるが、私はタバコもお酒程度の規制で十分だという認識だ。自分の生き方を国家にあれこれ指図される世の中は、とても危険だと思う。

 さて、話を戻そう。作田氏は、日本禁煙学会理事長として、日本における禁煙運動で指導者的な役割を果たしてきた。「学会」「医師」などとアカデミックな看板がメディアを惑わせたようで、タバコ関係で問題が起きると、コメンテーターとして起用されるケースが目立つ。ただし、その実態は活動家(アクティビスト)であり、「煙がなくても症状が出るケースも少なくない」(禁煙学会)とする『受動喫煙症』という奇妙な病気を「策定」し、一方的に喫煙者を断罪してきた。徐々に世の中に知れ渡ってきたと思われる部分もあるが、メディア・医療・行政関係者には、お酒やクルマ・工場の排ガスなどの害は無視して、タバコの煙害にのみ焦点を当てる人が一定数存在している。そういった人たちに重宝されてきたということだ。
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禁煙が奨励されているが……(画像はイメージ)

暴走する禁煙ファシズム

 そして、平成29年、日赤の医師だった作田氏は、25年の喫煙歴のある人物に対し、直接診察もせずに、以下のような診断書を作成した。ちなみに、この行為は医師法第20条違反である。

診断書 
病名 受動喫煙レベルⅣ、化学物質過敏症
 団地の一階からのタバコ煙にさらされ、1年ほど前からタバコ煙に接するたびに喉頭炎、呼吸困難を生じていた。昨年の暮れからは化学物質過敏症が増悪し、洗剤、寝具や衣類の化学繊維まであらゆる化学物質に反応し、口内炎、喉頭炎などを生じ、呼吸困難になる。このため、体重が10 kg以上減少した。微量の化学物質にも激しく反応し、外出が困難になっている。
 治療法は、原因となる物質のない環境にいることだけである。
 上記の通り、診断いたします。
平成29年4月19日
日本赤十字社医療センター
医師 作田学

「受動喫煙レベル」とは、日本禁煙学会が独自に定める判断基準で、Ⅰ~Ⅴの五段階がある。レベルⅣとは、最悪の一歩手前という基準だ。25年の喫煙歴があっての損害賠償請求という時点で、すでにおかしなことになってはいるが、おかしなことはもっとある。まず、同じマンションに住んでいるとはいえ、居室は隣同士ではなく、階も違い、直線距離で約8・2メートルも離れている。また訴えられた側は、シーリングの施された二重窓の音楽室の中でタバコを吸っていて、副流煙が外へ漏れることは極めて少ない。さらに、訴えた原告側も、副流煙の侵入を防ぐために、自宅の排気口を塞いだり、窓をビニールで覆うなどの対策を取っていた。気象庁のデータによれば、風向きも、被告の宅から原告の宅に吹くことはない地域だ。

 ここまでの事実があるにもかかわらず、どうして「診断書」をでっちあげたのか。作田医師が禁煙学会に所属していたことに動機があげられよう。黒薮哲哉氏は『禁煙ファシズム』の中で、〈取引先の会社と分煙についての交渉ができるよう〉〈作田医師は誰に対しても、「受動喫煙症」と診断しているのではないかと疑った〉と指摘している。

伝染する精神病

 また、この裁判では面白い指摘がなされている。25年の喫煙歴のある人物が、どうして「タバコ害に悩まされた」と症状を訴えたのかという点だ。被告側は「感応性精神病」の可能性を(上川路睦博医師が)指摘したのだ。「看護学雑誌 67巻6号」によれば、感応性精神病について、このような説明がある。

〈伝染する精神病、というものがあることを知っていますか? 妄想を持った人物Aと、親密な結びつきのある健常者Bが、あまり外界から影響を受けずにいっしょに暮らしている場合、AからBへと妄想が感染し、妄想を共有することがあるのです。これを感応精神病。またはフォリアドゥ(folie & agrave; deux)といいます。フォリアドゥとは、フランス語で「2人の精神病」という意味です〉

 また、同病の具体例として、あわの診療所(京都市四条烏丸)のブログにはこう記されている。

〈「自分を陥れるために上司が噓をついている。自分を監視するためにアパートにまで会社が盗聴器を仕掛けている」のような、少し考えれば現実にはあり得ないことでも、身近な家族から繰り返し訴えられた場合、家族や親しい周囲のものまでが、それを本当のこととして信じ込んでしまう。ここに至ると、治療の場に患者を連れていくことは困難となり、しばらく手をこまねいて傍観せざるを得ない〉

 この医師は原告を直接診察した上で意見を述べたものではないが、同書は〈(原告の)不可解な言動は他に説明のしようがなかった。横浜副流煙事件を考える時に欠くことのできない意見だった〉としている。筆者の家族にも、タバコのニオイ(実際にはタバコではないケースも)を嗅ぐだけで、咳(せ)き込んだり、頭が痛いと訴える人物がいる。客観的にみてわざとらしいことこの上ないが、「私は苦しんでいるのだ」と被害を訴えられると、対処せざるを得ないものだ。

 クレーマーの存在が、行政の暴走を起こしてしまうことはこれに限らないということだろう。ましてや、そんな一方的な主張に対して、診察もせずに、診断書を書く医師、煽る弁護士が存在していれば、世間に歪んだ認知を起こさせることは簡単だろう。遡(さかのぼ)れば、東日本大震災で、(ごくごく微量の放射性物質を含む)安全ながれきの処理をしたときも、遠く離れた地で苦しみを訴える人が見受けられた。処理水の海洋放出でも同じことが起きているようだ。心の病であるなら、治療をおすすめしたい。

 果たして、裁判は、被告の全面的な勝利で終わった。日赤は内部調査の結果、作田医師を除籍した。
 裁判はめでたしめでたしとなったが、原告側についた弁護士は、香害・化学物質過敏症について社会問題化を狙っているようだ。この戦いに終わりは来るのだろうか。
おぐら けんいち
1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社に入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長に就任(2020年1月)。21年7年に独立。現在に至る。

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この記事へのコメント

パンダ 2023/11/2 14:11

迷惑なアル中患者のほとんどは喫煙者みたいですよ。

「アルコール依存症 喫煙率」とか「犯罪者 喫煙率」で検索するとタバコが国際条約で規制対象なのが理解できました。

サザエさん 2023/11/2 14:11

つまり大元は元喫煙者の自己中なウソ主張だった訳ですね。

タバコって公衆衛生問題として国際条約に規制対象で日本も締結しているから国家権力がどうとかいうより世界的な健康問題として認識するべきでは?

日本はタバコの所管が財務省利権だから世界的に価格が安いし、他者加害である受動喫煙させてもポイ捨てして火災になっても警察に捕まる訳でもないザル法ですよね?
むしろ国は国民の健康や安全のために何にもやっていないに等しくないですか。

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