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中村逸郎氏(筑波大学名誉教授)
1956年生まれ。ロシア研究の第一人者。学習院大学大学院政治学研究科博士課程単位取得退学。筑波大学人文社会系教授を経て現職。2017年、『シベリア最深紀行』で、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。『東京発モスクワ秘密文書』『ロシア市民』『ろくでなしのロシア』などの著作がある。

家族と乾杯

 ロシア外務省は日本への報復措置として、岸田文雄首相を含む日本人63人のロシアへの入国を無期限に禁止すると発表しました。その中には私も含まれていた。
 その事実は、モスクワに住んでいる日本人ジャーナリストからの連絡で知りました。その時、家族で食事をしていたのですが、「リストに入ってよかったな」と、思わず乾杯しましたよ(笑)。

 今までプーチン政権について「本当のこと」を言い続けてきました。軍事作戦の批判のみならず、ドーピング問題や連邦議会選挙での不法投票……など。そのようなロシアにとって都合の悪い真実をメディアに流したために、プーチン大統領の逆鱗に触れたのでしょう。もちろん私以外にも日本国内でプーチン政権に厳しい意見を言っている人もいますが、リストには掲載されていません。ロシア側の判断基準は不明ですが、私の場合は見せしめの意味もある。
 岸田首相や林芳正外相の名を挙げていることにも注目に値します。つまり、ロシアは日本との国交を実質的に断絶させようという意思表示ととらえることができる。日露の外交交渉が止まる可能性もあります。一方、経済関係者はほとんど掲載されていません。ロシアから撤退した企業は数多くありますが、日本経済とのパイプは残しておきたいという意図がうかがえます。

 今回のリスト掲載でひと際うれしかったのは、ロシアの友人から励ましのメールが届いたことです。件名は「あなたのことを誇りに思う」。
「今回、名簿に名前が載ったことで、あなたのことを誇りに思っている。名簿に名前が載っているのも蚊に刺された程度。この戦争はもうすぐ終わるだろう、そうしたら残された人生の中でもう百回、会いましょう」
 ロシアの監視当局が彼の送るメールアアドレスを調べれば、私宛であることはすぐにわかります。ところが、私のもとに無事届き、送った友人にも何ら危害が加えられていません。ロシア国内で何が起こっているのか。(続きは本誌にて!)
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門田隆将・宮嶋茂樹:惨殺・強姦・略奪 ウクライナ激戦地の凄惨(せいさん) /岡部俊哉(元陸上幕僚長)・村川豊(元海上幕僚長)・福江広明(元航空総隊司令官):ロシア軍〝負け戦(いくさ)〟―これだけの理由/グレンコ・アンドリー:戦わなければ殺されるだけ/阿比留瑠比:「ロシア敗北」で動揺する習近平と金正恩/矢板明夫・西岡力:青ざめる独裁者たち 習近平 金正恩/髙山正之・朝香豊:米国頼み―核の傘は〝破れ傘〟

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