ビットコインも第三波!?暗号通貨(仮想通貨)からマネー...

ビットコインも第三波!?暗号通貨(仮想通貨)からマネーの本質を探る

マウントゴックス事件の意味

 異説日本史という切り口でマネーを穿ってきた連載も今月で一旦区切りとなります。恒例となった、”いきなり”シリーズで今回も幕開けです。

 いきなりですが、これは何のチャートでしょうか?
 (4046)

 「第一波」「第二波」「第三波」を四角で囲っておりますが、新型コロナウィルス感染症の新規患者数の推移ではありません。2013年以来のビットコイン、つまり代表的で最も歴史の古いブロックチェーン(暗号通貨※1)の価格推移です。ただし、留意をしていただきたいのは縦軸には米ドルを採っていて、しかもログスケール(対数表示=目盛が割合に応じた幅で動く表示方法。広い範囲の表示が可能なので、地震のマグニチュードや新型コロナウイルス感染者数の増加傾向の分析などに用いられる)です。

 対ドルの数値でないと2013年までさかのぼれなかったのです。対数を採った(取った)のは、2014年初めに最初の極大値を経験するまでの値上がりも、当時としては、驚異的だった「第一波」を認知、目視してもらいたかったからです。逆に言うと、その後の「第二波」「第三波」(=現在)が凄すぎて、対数表示をしないことには「第一波」の凄さを思い起こせないほどなのです。
 この原稿を書いているのは12月18日(金)夜です。ちょうど前日にビットコインが20000㌦の大台をぶっちぎったというニュースで盛り上がっていたところです。本稿配信時には、ここからさらに暴騰するか反落するかまったく予断を許さないボラタイルな(大きな乱高下が予想される)市況です。記録的なタイミングで本稿の締め切りを迎えていたというのは、マネーを深掘りするなかで、やはり、ブロックチェーンで締めくくりつつ、貴金属通貨や(貴金属本位でなくなった)法定通貨と対比させることを求められている宿命を感じました。
 ビットコイン相場の「第一波」の主役は、当時、日本国・東京・渋谷に拠点があった取引所運営会社マウントゴックス社です。フランス人の社長は逮捕され刑事事件の判決はまだ確定しておらず(※2)、いっぽう会社は倒産しましたが、民事再生→破産→民事再生という珍しく複雑な経緯をたどりました(※3)。

 この間、日本に拠点のある取引所が世界のビットコイン取引高の過半数を占めていたのです。日本は、失われた30年のあいだ、金融敗戦、半導体敗戦、IT敗戦と続いていたことから、フィンテックでは日本がまた主導権に握れるのではと期待する意見もありました。同社破綻までの話です。

 刑事・民事で争われているわけですから、このマウントゴックスという主人公が悪役だったかどうかを断ずることはまだ出来ないと思います。少なくとも、ビットコインとは何か?貨幣なのか商品なのか?暗号通貨とは何か?暗号技術とは何か?という問題意識をより多くの人たちが持つようになったことについては本事件の意味は非常に大きかったと言えます。

超概説!暗号の歴史

 さて、そもそも「暗号」が通貨になるのか?を知るためにも、まずは「暗号」の歴史について簡単に見ていきます。

 暗号には実は2千年以上の歴史があり、紀元前の時代にユリウス・カエサルが戦争で用いたとされるころから、第二次世界大戦でナチスドイツが用いたエニグマ暗号に至るまで、暗号化⇔平文化の手続きがどんどんややこしくなってきただけで、コードブック(共通鍵)が盗まれたらおしまいという点では、この間の質的な進展はなかったと言い切れます。ただしカエサル暗号の程度の暗号だとコードブック(共通鍵)を盗まなくても解読可能です。

 第二次大戦後、上記とは異なる非連続的な技術革新が暗号の世界にもたらされます。公開鍵暗号+秘密鍵暗号(※4)です。メール受信者が送信者にあらかじめ渡している公開鍵でメールの内容を暗号化したものを受信者が受け取った後それと対応する秘密鍵で平文化すればメールの傍受が防げますし、逆に(さらに)送信者が受信者に公開鍵を渡しておいてそれと対応する秘密鍵で暗号化したメールを送れば送信者が真正でありなりすましでないことをはっきりさせることができます(※電子署名)。今日メールをやり取りする場合や、オンラインショッピングなどを行う場合に頻繁に使われています。

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ビットコインも第3波!? 暗号通貨(仮想通貨)からマネ...

ビットコインも第3波!? 暗号通貨(仮想通貨)からマネーの本質を探る

 ビットコインを元祖とするブロックチェーン技術にはもうひとつの野望がありました。その野望達成のために追加された暗号ロジックは「ハッシュ関数」です。何故、公開鍵暗号だけでは不十分なのか?ビットコインは何をしたかったのか?これらについて、「ハッシュ関数」の概略のまえに、これまで見てきた貨幣の歴史を一気呵成に振り返ってみましょう。キーワードは、「集中型」VS「分散型」と、「貴金属などの現物」Vs「権利義務の記録・預かり証」・・・です。

 金・銀・銅(特に国家権力が貨幣単位を刻印していないもの)やそれら貴金属が手に入らない社会における貝殻や紙巻きタバコなどが、意外と役に立たないものなのに、貨幣として採用されてきた長い歴史がある、という事実があります。それらが輝いていて神々しい(貴金属)だとか、形や色が美しい(貝)とか、嗜好性の物である(※6)とかは個々人の主観の問題に過ぎません。

 さらには使用価値がほとんどなく、それらを発掘・採取するには費用が掛かっていて(※7)、偽造・複製目的を含めて再調達するにも同様の費用が掛かります。それにもかかわらず、本物のそれを持っている人が財産の権利者で、その移転も適度に安全、適度に便利であるということから、社会内または社会間のコンセンサス=ジョーカー性)により、財産と購買力をあらわす「トークン」として採用されたのでした。
 このように、時代や社会の技術的制約に基づいて採用されたモノには貴重ではないのに「希少」な性質があり、そのジョーカー性ゆえに、トークンの座をその時々で占めていたことになります。このようなトークンには国家権力が重量や個数とは異なる単位を規制することもしばしばあり、それは貨幣発行権(益)と結びつきます。貨幣発行権(益)は必ずしも国家権力だけが独占する性質のものではありませんが、商人・銀行や宗教権威が貸し借りの記録やその権利を表象する偽造の難しい紙や電磁的記録を発行管理する場合には、国家権力同様、中央集権的な権威やユーザーとの信頼関係が暗黙の了解として必要です。

 したがって、貨幣の歴史からは、ユーザーが分散して占有または移転できるジョーカー性の強いトークン的なものから、中央集権的な処理組織によって統制される貸借記録的なもの(※8)まで、共時的かつ共存的に存在したと言えます。

 しかし、価値や貸借の記録には中央集権的処理組織が必要で、逆に分散型を許すトークンにはジョーカー性というコンセンサスが必要でした。価値や貸借の記録を電磁的にかつ分散型で完結する貨幣の仕組みは存在しなかったのです。

 元祖ブロックチェーンであるビットコインの発案者サトシ・ナカモトの天才は、この貨幣史上超えられるはずがないと思われたチャレンジを乗り越えた点にあります。

 ビットコインは、第二次世界大戦後、公開鍵暗号+秘密鍵暗号と並ぶ暗号革命と呼んでよい「ハッシュ関数」(※9)というもうひとつの一方向性関数を導入したことで、貨幣の歴史上、つまり人類の歴史上、はじめて、中央集権的な権威に頼らず、分散型の処理組織で、かつ物理的なトークンを用いず電磁的に記録される貸借台帳という貨幣システムを可能にしたのです。
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ビットコインも第3波!? 暗号通貨(仮想通貨)からマネーの本質を探る

決済確認に約10分も掛かるビットコイン VS なんちゃってビットコイン

 中央集権的権威に頼らない分散型システム(これをピア・ツー・ピア(P2P)と呼んだりします)を採用する対価として、末尾注に示した「ハッシュ関数」を解く難易度の問題があり、これが難しくなければ改竄リスクが高まるのですが、難しいゆえに決済の承認に、われわれが馴染んできた現金決済やクレジットカードやPayPayなど他の電子決済システムと比べると著しく時間が掛かるという問題点があります。

 読者の皆さんの中には、投資目的とは限らず、ビットコインを保有したり使ったりしたことがある方がいらっしゃるかも知れません。

「わたしは、何処其処の家電量販店で、ビットコイン決済で買い物をしたことがあるよ。クレジットカード感覚で、ほぼ瞬時に支払いが出来たけど、『著しく時間が掛かる』ってどういうことですか???」
と訝られることでしょう。

 ここでようやくビットコインバブル「第二波」の話に入るお膳立てが出来たことになります。

 ビットコインの仕組みはこのように簡単ではないのですが、理解すればするほど天才的で感動的なものですから、世界中でじわじわと多くの電算オタクの心を鷲掴みにしてきました。物事が普及するときというのは、何であれ、だんだんと、あまりわけがわかっていない大衆が参入してくるものです。ビットコインの場合も、理屈はわからないが何か持っていれば値上がりするのだとか、リーマンショック後の法定通貨の未曽有の金融緩和もあって、これからはもう既存の法定通貨ではなくて暗号通貨のほうが資産価値や利便性が高まっていくのではないかという漠然とした憶測があったと思われます。
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ビットコインも第3波!? 暗号通貨(仮想通貨)からマネーの本質を探る

 この憶測を生んだ要因はふたつに整理できると思っています。ひとつは、流通の利便性。さきほどの「家電量販店でも即時決済に使えた」などです。実は、ビットコインの移転は即時には承認されません。しかしビットコインを代わりに預かってあげる銀行的な組織があり、ビットコイン独自の仕組みとは無関係に別管理された預金帳簿のようなもので権利移転が行い、それをその銀行もどきとユーザーたち(消費者と家電量販店)が「それで良い。便利だし」と思えば即時決済は出来るということになります。

 「それで良い。便利だし」ということで、暗号処理が不完全な権利移転行為をこの銀行風の組織(いわゆる暗号通貨取引所)が行っていれば、いつかは盗難事件が発生してもおかしくありません(※9)

 ビットコインバブル「第二波」を醸成したひとつの要因が、大衆化、その利便性追求の影に押しやられた暗号あったればこその取引安全の犠牲でしたが、バブル崩壊の号砲となったのがコインチェック事件(580億円相当のNEM盗難)です。

 さて、「ビットコイン」とは別に突然出てきた、「NEM(※10)」とは一体何でしょうか。ビットコインバブル「第二波」の特徴は、「ビットコインに続け」とばかりに、新種のブロックチェーンが出てきたことです。これらの乱立を揶揄して時価総額が低いブロックチェーンのことを「草コイン」と呼んだりもしました。NEMはこの「草コイン」の一つで、コインチェックは草コインの取り扱いが豊富だった会社として知られていたのです。

「ステーブルコイン」という名のコロンブスの卵

 しかし、これらの草コインのなかで、断トツに世間の注目を集めていた新種がありました。その名をテザー(Tether)と言います。

 Wi-Fiが使えない場所でパソコンをインターネットに繋ぐときに、スマホなどの電話回線をテザリングして使うことがあります。このテザリング(Tethering)からきたネーミングです。

 本連載の第3回日宋貿易を独占した総合商社のドン、平清盛の実像 ~中世史から考える「MMT批判」で、以下の逸話を紹介いたしました。

①ジンバブエがハイパーインフレに陥り、紙切れになったジンバブエドルという自国通貨を放棄し、米ドルを法定通貨にした。
② しかし、米ドルが不足していたためにジンバブエ中央銀行は「ボンドノート」と呼ばれる米ドルとの引換券を発行した。
③ 本物の米ドルと米ドル引換券との交換比率は1:1からは程遠く、その結果ジンバブエ国民のほとんどは「ジンバブエ中央銀行は米ドル引換券片手に銀行に払い戻し請求をしても応じてくれないだろう」と理解した。

 この場合の米ドル引換券を強制的に通用させようという貨幣制度を、言ってみれば、ドル本位制ともドルペッグ制ともわずかに異なる「テザリング制度」と呼ばせてもらおうと提案しました。
テザーという暗号通貨の仕組みは、このジンバブエの米ドル引換券の逸話と大変よく似ております。すなわち、ビットコイン(など)の市況が、米ドルなどの対法定通貨で日々刻々と変化する(乱高下すると言ってもよい)のに対し、「いつでも1テザー=1米ドルで交換します」と、当時最大級の暗号通貨取引所だった香港本拠のBitFinex社が宣言・約束したものだったのです。

 いわゆる暗号通貨は、値上がり期待の投資需要、乱高下というスリルを期待する「投機」需要ゆえに大衆的な広がりを見せました。その一方で、通貨としての利便性という面からは、安定した購買力、購買単価への潜在需要もあったはずです。米ドルに交換価値がリンクしたテザー通貨はその需要に合致し、人気が急上昇しました。

 ところが、問題は、そのような需要者が「テザーを発行するBitFinexは同額の米ドルを預かってくれているからこそ、オンデマンドで米ドルへの払い戻しができる」と了解をしていたところ、どうやらそうではないらしいという会計疑惑につながっていくのです。疑惑の真相は完全には明らかでないものの、業界関係者の多くは、テザーの発行代金のほとんどはビットコインの購入、それも買い上がり(≒相場を吊り上げることを目的とした買い方)に充てられていたと証言しており、これはテザーの発行総額とビットコイン相場の上昇の相関関係を裏付けるものとなっていました。
テザーの対米ドル相場(1米ドル=1テザーに収束する(筈...

テザーの対米ドル相場(1米ドル=1テザーに収束する(筈))と時価総額のチャート

 黄色で囲った2017年は、冒頭のビットコインの相場とも見事に対応していて、テザーの発行会社(BitFinex)が、テザー購入者から預かっている(筈の)米ドルで、ビットコインをせっせと買い上がっていた疑惑の支援材料にはなります。2017年12月には、会計疑惑が結局のところ晴らされず、米国事業撤退、米ドル払い戻し停止というハードランディングを迎えました。

 翌2018年は、コインチェック事件が1月に発生し、こうしてビットコインバブルの第二波は幕を閉じてゆきます。

 テザーに限らず、その後も乱立した新しいブロックチェーンで、米ドルなど特定の法定通貨との交換(払い戻し)を約束したものを安定した貨幣という意味を込めて「ステーブルコイン」と呼びます。

 しかし、現在の日本の金融ルールを定める金融商品取引法と資金決済法においては、ステーブルコインは、法定通貨でもなければ暗号通貨でもない、つまり通貨ではないと扱われます。

 法定通貨の100円玉や10,000円札と同じような実体で日々の決済や蓄財をしたいけれども、お札や硬貨、銀行預金やクレジットカード、PayPayやSUICA/PASMOとは異なる代替的な決済手段が欲しいという需要が潜在的に大きいことは、このテザー自身も、コロナ禍(ビットコイン「第三波」)で一層その時価総額を増やしていることからもわかります。

 暗号資産について以上の仕組みに懐疑的な人も多くいらっしゃるでしょうが、我々が日常使用している民間銀行預金も、言ってみれば日本銀行券での「オンデマンド払戻」が約束されている円にテザリングした投資手段です。、日常の購買や決済行動は、その払い戻し請求権という権利の移転であるというふうに、預金通貨の実態を理解することも出来るでしょう。
ビットコインも第3波!? 暗号通貨(仮想通貨)からマネ...

ビットコインも第3波!? 暗号通貨(仮想通貨)からマネーの本質を探る

共存し競争すべき法定通貨と暗号通貨

 テザーの生い立ちに深刻な問題があったことは否定できません。ビットコインが日本で注目されはじめた2013年頃(「第一波」)、「ビットコインって「円天」みたいな偽の通貨とどこが違うの?」と良く訊かれたものです。このような胡散臭さと共存し相克しながら、通貨というのは国家権力が強制することから発生するのではなく、ジョーカー性という共同幻想によって選ばれることを目指して、複数の手段が共存しつつ競争するものです。

 決済の利便性と安定性、蓄財手段としての安定性と投資対象としての魅力
(※ここでは本連載第3回日宋貿易を独占した総合商社のドン、平清盛の実像 ~中世史から考える「MMT批判」でご説明した「反グレシャムの法則」が重要です)などの観点から、法定通貨、法定通貨にテザリングした預金通貨、法定通貨とテザリングした暗号通貨、法定通貨とテザリングしない暗号通貨、貴金属に限らずあらゆる通貨候補としての財・物・それらの預かり証は競争しながら共存しても良いはずなのです。

 本連載第1回金融の現場から見た「MMT(現代貨幣理論)」で述べた古代メソポタミアにおいて、地域内経済は、(将来収穫され販売される)農産物を持ち込み担保とした借用書(の台帳)が貨幣の役割を果たしているいっぽうで、地域間の経済は銀が決済手段として用いられていたという話を、米国の”売国奴”経済学者(褒めてます)マイケル・ハドソン教授の最新著作から引用して説明しました。
マイケル・ハドソン氏

マイケル・ハドソン氏

via youtube
 似た現象は中国でも、しかも随分最近の20世紀初頭(清朝末期~中華民国)で観察されたようです。一貫して銅(貨)が使われてきた中国で、、銀が導入され、特に中東やヨーロッパとの貿易では銀で決済した話は第4回で述べました。しかし、その後も、農村地域では銅貨は根強く使い続けられるのです。
 
 銅貨が少額決済に向いていて、銀貨が高額決済に向いているから、と言ってしまえばそれでおしまいなのですが、そうは言っても、銀貨と銅貨の間には市況または公定相場が成立している筈だから、1円玉と10,000円札の関係みたいなものだろうと思われるかもしれません。しかし、実際には、イギリスの商人が農村で銀貨を使おうとするとまったく使えず、たとえ地域住民に受け入れてもらったとしても、大都会の両替商の交換レートよりも銀払いの商人にとっては著しく不利なレートでしか受け入れてもらえなかったという逸話もあります(※11)。

 本連載第5回金と銀はいつも通貨の"ジョーカー"であったでお話した日本の幕末の例も然り。金貨、銀貨(特に金貨が秤量貨幣でなく幕府が歪(いびつ)に管理した計数通貨であったことが重要)、藩札、山田羽書(やまだはがき)など、貨幣の発行体が異なる複数の種類が共存・競合していたわけです。

 現代の日本で、預金通貨が「民間銀行が日本銀行券とテザリングした預かり証、言い換えれば強力な信用によって即時換金性を備えた特殊な投資信託である」などと表現をするのは、わたくしのようなへそ曲がりだけであって、預金保険然り、国家権力による規制監督を背景に、日本銀行券と預金通貨はあたかも同じものと考えるのが主流の金融論でしょう。そうだとして、この既存システムと、仮に会計監査などを経て信用を備えた日本円ステーブルコインのシステムとの優劣をどう比較すればよいでしょうか?
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ビットコインも第3波!? 暗号通貨(仮想通貨)からマネーの本質を探る

 背後にある暗号技術は、どこで安全性と利便性とを妥協しているかなどを検証する必要がありますが、これまでのところこれは容易ではありません。

決済システムに掛かっている費用も問題となります。

 ビットコインバブル「第一波」「第二波」のころには、様々な便乗本が出版され、ビットコインの優位性のひとつに決済手数料が無料であることだとあちこちで書かれていました。

 分析すべきは、見えるコストと見えないコストの総和でなくてはいけません。多くのクレジットカードは利用者にとって決済手数料が無料でしかもポイントまで付いてくるかも知れませんが、加盟店手数料は何らかの形で販売価格に反映しているはずです。ビットコインの決済費用はまさにプルーフ・オブ・ワーク(PoW ※8と※9を参照)の報酬となるマイニングコストであって、マイニングのたびにマイナー(PoWの担い手=ビットコインの「採掘」者)に新しく発行されたビットコインが無償で贈与されるためでマイニングはビットコインをインフレート、すなわちビットコインの価値を下落させているのです。

 これと、民間銀行などの振込手数料とを比較したいところですが、これまた正確ではありません。2019年あたりから、一部メガバンク間のATMネットワークの共用のニュースが出てきています。それによると、日本の民間銀行全体で、ATMの維持管理費用というのは年間2兆円にも及ぶそうです(※12)。代替通貨システムとしての銀行預金の維持費用はこれに留まらないことでしょう。ATM以外のシステム経費の何割か、人件費の何割かも加算されるべきでしょう。また、、日本銀行の直近の損益計算書によると、日本銀行券の発行・新札交換費用は年間約500億円だそうです。ちなみに、日本銀行の人件費もちょうどそれくらいのようです。

 そして何と言っても、全銀データシステムや日銀ネットという基幹システムの維持管理費用。これらこそが、最大級の見えない費用です。

 民間銀行というものを、預金と振込にしか使っていないひとがいたとすると、確かに見える費用はほとんど払っていないことになります。住宅ローンや事業ローンを借りてもいるというひとは、前者のフリーライダーが負担すべき見えない費用を余計に払わされていることになっています。

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まとめ~通貨への興味は尽きない

そして最後に、本連載第5回の宿題、金・銀・銅を通貨として利用する場合のコストはどうなのか述べたいと思います。

 第5回まで読んでくださってきた読者のみなさまは、もはや、「金・銀・銅は、紙切れと違ってそれ自体本源的な価値があるものだから、決済費用はほとんどない(厳密に言うと、持ち運びする費用。盗まれないように気を付ける費用)」などという誤答はされないことでしょう。見た目が綺麗で輝いているかどうはどうでもよく、金・銀・銅を採掘し、製錬し、精錬するときに費やされたサンクコストこそが金・銀・銅の価値であり、ほぼほぼそれは決済費用なのです。

 では、約束通り、銀のダイナミズムについて。銀は、大航海時代以降、中国(明朝後半~清朝前半)とインドは、戦国時代のヨーロッパと日本に比べると平和だったことや、両地域の消費の嗜好もこれありで、世界の貿易黒字を集中させており、これが銀の蓄蔵となりました。

 これらは、中国ではアヘン戦争、インドではプラッシーの戦いなどで、強奪的に清算させられるのです。蓄蔵した中国、インドも、強奪し奪還したイギリスも、この間、銀は、国際貿易に参加するかなりの国で通用する資産価値を表象するものだという認識に立っていたと断じてよいでしょう。しかし、これは当然のことではなく、未来永劫続くものでもありません。

 今回の連載では深掘りできなかった中央銀行のルーツと歴史を紐解くと、金本位制下で、金の価格を維持安定させるために、中央銀行がどれだけ苦労してきたかがわかります。ついでに、最初から国営だった日本銀行はやや特殊な例で、イングランド銀行や連邦準備制度は民間企業であり(後者はいまでもそう)、戦費調達のための錬金術を担っていたことがわかります。
【脚注】

※1 日本国内の法律用語としては、2017年に資金決済法が改正されたときに「仮想通貨」、さらに2020年に資金改正法と金融商品取引法が改正されたときに「暗号資産」へと呼び名が変わってきました。そこには法律の起草者の「暗号と呼びたい/呼びたくない」「通貨と呼びたい/呼びたくない」という思いが見え隠れします。ブロックチェーン/プルーフ・オブ・ワークを開発した当事者の思いとしては、暗号であり通貨であるという思いが核心をなしていると考えられるので、本稿ではこのあとも「暗号通貨」を使用します。

※2 横領罪については無罪が確定

※3 民事再生の手続きが再開し「再建」しながらの弁済が可能と判断された背景としては、ビットコイン相場の回復(「第二派」)により、倒産だが資産超過、つまり倒産した会社への債権が焦げ付いていたにもかかわらず100%弁済が可能になっているという珍しい現象が起きたことがあげられます。

※4 「平文(→公開鍵→)暗号文(→秘密鍵→)平文」という操作ができるような対応関係にある公開鍵と秘密鍵の組み合わせなんて出来るのでしょうか?これを可能にするには、「秘密鍵から公開鍵は簡単に生成できるが、公開鍵から秘密鍵を生成するのは極端に難しい」という関数を発見する必要があります。このような性質の関数のことを「一方向性関数」と呼び、ビットコインでは「楕円曲線暗号」が採用されています。

※5 ただしその公開鍵は熟知した相手(送信者)のものであることがわかっている場合に限られる。一見さん同士のやりとりでなりすましを回避するにはもうひとつ仕掛けが必要となります。

※6 紙巻きタバコ。この点、公序良俗の面からもアンチマネーロンダリングの面からも絶対にNGですが、麻薬や覚せい剤の類のものは貴金属に代替する貨幣候補であることは否定できない事実です。

※7 通貨や貨幣の「貨」という漢字が「貝」の「化けた」ものであることからも、中国で銅(貨)が使われるようになるまえは貝が使われていたことが想像できますが、これは砂浜で貝が幾らでも獲れる海浜地帯から当時の交通事情で輸送コストがとてつもなく掛かる内陸部だからこそその《希少性》と《偽造・複製不可能性》が担保されていたわけです。

※8 現在の国家権力≒中央銀行≒民間銀行のヒエラルキー、古代メソポタミアなどの国家権力や宗教権威を背景にした寺社・宮殿(に持ち込まれる予定の収穫期の農産物を担保とした)借金帳簿の存在などが典型例

※9 公開鍵暗号+秘密鍵暗号に加えて、ハッシュ関数という、答えを出すのは難しいが、いったん答えを誰かが出したらそれが正解かどうか答え合わせをするのは実に簡単という「一方向性関数」をサトシ・ナカモトは導入したのです。誰が真の権利者で、その人が真の売り手であり、売った相手が真の買い手であり、その取引により、売り手の残高が減り、買い手の残高が増えたことを、取引参加者(候補からなる社会)はお互い認め合うことが出来るインフラこそが採用されるべき貨幣システムです。歴史上、ジョーカー性の高いトークンたちはそれを可能にしてきましたが、それが貸借記録の紙切れか電磁的記録となると中央集権的な権威が必要でした。これを暗号でやるには、改竄されないこと、傍受されないこと、偽造(複製)されないことが必要です。改竄と傍受を抑止するのが公開鍵暗号+秘密鍵暗号だとすると、偽造(複製)を許さないのがハッシュ関数です。

参考文献
神永正博「現代暗号入門」(講談社ブルーバックス 2017)
サイモン・シン「暗号解読」(上・下)(新潮文庫 2007)
岩村充「中央銀行が終わる日-ビットコインと通貨の未来」(新潮選書 2016)
著者ブログ「ビットコインも他人事ではない===コインチェック580億円不正送金事件」(2018年1月28日)

※10 NEMも、ビットコイン同様、ブロックチェーンですが、改竄防止のためのPoWに用いられるハッシュ関数は、ビットコイン(ファミリー)のものとは異なります。そのことが、NEMのセキュリティの弱さとか、コインチェック事件の原因だったというわけでは必ずしもないことに留意が必要です。

なお、ブロックチェーン関連の盗難事件のすべてが、ブロックチェーンが採用する暗号ロジック(※9)で説明したハッシュ関数の一方向性を利用した改竄防止の仕組みをプルーフ・オブ・ワーク(PoW)と呼びます)を蔑ろにした権利移転のサブシステム濫用(マルチシグでないホットウォレットを含む)に帰すわけではないようです。PoWが完璧になされていても改竄盗難(ハッキング)の技術的余地はありえるとのことです。

本文中と重複しますが、マウントゴックスにおけるビットコインの盗難、コインチェックにおけるNEMの盗難が、それぞれPoWがなされていても見破られたのか?PoWを取引所運営者が意図的に怠り詐取を防げなかったのか?PoWを詐害的に怠り自ら詐取したのか?まだよくわかっていません(詐害的な詐取の疑惑については(注2)も参照。さらにNEMについてはPoWとは異なる改竄防止アルゴリズムであるPoIが採用されています)。

※11 黒田明伸貨幣システムの世界史 (岩波現代文庫)

※12 銀行ATM、月30万円の維持費が重荷 共通化の時代へ(朝日新聞2019年9月21日)
丹羽 広(にわ ひろし) アヴァトレード・ジャパン株式会社・代表取締役社長
 
三重県生まれ。京都大学経済学部卒。同年、株式会社日本興業銀行へ入社。総合企画部、ロンドン興銀、興銀証券などを経て、2000年モルガンスタンレー証券会社東京支店入社、公社債の引受営業に従事。2002年からはBNPパリバ証券会社東京支店にて株式引受やM&A助言等の業務に携わる。
2005年、BNPパリバ証券時代の取引先であったフェニックス証券の社長に就任。
2013年2月より現職。

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