チャイナのデータを信じる愚

藤井 中国は3月下旬に武漢肺炎の「終息宣言」を出すべく、プロパガンダを行っています。3月10日には、習近平が初めて武漢を訪問。このとき、マンション1棟につき警察官2人が、住民を外出させないように隔離しました。さらに警察官は一般市民に変装し、ベランダから習近平に手を振るなど〝ウイルスなき武漢〟を喧伝(けんでん)しました。

髙橋 映像は、やらせっぽい印象でしたね。

藤井 武漢肺炎が武漢で終息しても、1月23日の封鎖前に多くの人が脱走しています。だから中国のほかの地方で、大量発生(アウトブレイク)していることは間違いありません。中国は武漢がある湖北省以外の新規感染者数が激減したと公表しましたが、政治的な数字で実態ではありません。武漢肺炎で死んでも、ほかの死因にされているだけでしょう。終息宣言は「新規の感染者が最後に確認されてから4週間後」とWHO(世界保健機関)で決められているので、3月下旬は不可能。宣言しても、偽りの終息宣言です。

髙橋 横軸に日にち、縦軸に新規感染者数をとったエピカーブ(流行曲線)で考えれば、すぐにわかります。新規感染者数は指数関数的に増えていき、ピークを迎えたら「徐々に」減っていきます。武漢から日本のチャーター機の乗客をベースにした私の推計では、中国のピークは2月中旬~下旬、新規感染者がゼロに近くなるのは4月に入ってからと想定していました。
 ところが2月下旬、エピカーブが急に縦に落ちました。つまり、いきなり感染者がゼロに近くなった。こんな動きは、疫学調査ではあり得ません。しかも基準を変えて、2月に統計を3回変えている。統計方法を変更したら新旧のデータを2つ出す必要がありますが、それもしていない。数字を都合よく捏造している証拠で、データとして一切信用できません。

藤井 しかし、「真実の隠蔽」「情報の捏造」という共産党の本質を理解していない人が多すぎると感じます。国会に参考人として呼ばれた上昌広医師は「中国はかなり徹底的にデータを出している。(中略)私は信頼しています」と言っていましたが、話になりません。

髙橋 某ネット番組に出たときには「中国の感染者数はかなり減っているから、入国制限はしなくていい」と言う人もいました。中国を信じて政策を決めたら、国益を害する。こんな当たり前のことが、なぜわからないのでしょうか。NHKでも中国の対策を褒め、コメンテーターが「日本は大丈夫か」「見習うべきだ」と言っていました。中国が12月にWHOに報告し、初動を誤らなければ風土病で終わった話なのにも関わらずです。中国は国際社会の一員として、役割を果たしていません。

藤井 「人類を裏切った」と言っていいですよね。中国が情報を隠蔽し、対応が後手にまわったから世界が大迷惑している。一体、生命を奪い、経済を奪い、健康を奪った犯人は誰か、ということです。元凶は中国共産党だという事実から目を逸らしてはいけません。そこから目を逸らしては、中国の思うツボです。
 ヒドいのは、自民党の二階俊博幹事長に代表される親中派です。二階氏にいたっては、来日した中国外交トップ(楊潔篪)に「新型コロナウイルスが終息したときには、お礼の訪中をしたい」と言っています。習近平には、「お前のせいで世界が大迷惑した。反省しろ」と言うべきでしょう。この間、安倍首相も二階氏を切らず、「ポスト安倍」と称される政治家からも「習近平の国賓来日を延期すべき」という声は聞かれませんでした。国民の健康より、習近平のメンツが大事──チャイナに依存する財界と変わらない、自民党の腐った体質に失望しました。

チャイナ×WHOに騙されるな

藤井 中国は加害者から被害者へ、最後は問題解決の〝英雄〟になるべく情報操作しています。対策チームのトップ、鍾南山は2月27日、「(新型肺炎は)人類の疾病であり、一国の疾病ではない」と発言。世界に感染を拡大させた責任を、国際社会に転嫁させたのです。

髙橋 中国では、「ウイルスの感染は中国から始まっていない可能性がある」という声もあります。それに対し、アメリカのオブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)が「ウイルスは武漢市が発生源だ」と反発していましたが、どんどん言った方がいいです。

藤井 WHOによる「世界的大流行(パンデミック)」宣言(3月11日)も、中国の思惑に合致しています。この日は、パンデミックの中心がヨーロッパに移り、習近平が武漢を訪問した翌日です。「日米欧は大変だが、中国はもう問題を解決しました」というプロパガンダです。WHOが中国の下部組織に成り下がっていることが、実によくわかります。

髙橋 その後、日本はWHOに1億5500万ドル(約166億円)を拠出しました。するとテドロス事務局長は、「安倍首相の主導の下での政府挙げての対策が、感染の抑制に決定的な役割を果たしている」と日本の対応を賞賛しています。国際情報戦は結局、カネがものを言う。病名だって、カネを出したうえで「武漢ウイルス」と言えば文句は来ないですよね。

藤井 そんななか、共産党内では反習近平の動きも見られます。2月26日、中央宣伝部が『大国戦疫』という本を出しました。内容は「武漢ウイルスに対応した習近平の卓越した指導力と共産党体制の優越を宣伝する」というもの。日本や欧米の民主国家とは違い、上意下達の独裁体制だからこそ制圧できたという屁理屈です。ところが、この本が3月2日に販売中止になりました。国民の反発で販売中止になることはあり得ませんので共産党内が揺れている証左でしょう。

髙橋 死者数次第では、さらに反習近平の勢いが増すでしょう。1万人を超えれば、国民も黙っちゃいないはずです。

藤井 実際はもう死者数は1万人を優に超えているでしょう。中国が一刻も早く終息宣言を出したいのは、経済活動を回復させなければ共産党体制が維持できないからです。いま、アメリカは中国をハイテク産業のサプライチェーン(供給網)から外そうとしています。だから中国は終息宣言を出し、外国企業を囲い込んでおきたいのです。
 トヨタやホンダなど、無理やり操業させられている日本企業もあります。操業しているかどうかは電気の使用量でチェックするので、ただ機械だけ空回りさせている企業もあるとか。つまり中国は国民の生命より共産党の支配体制の維持が大事で、「経済活動が行われている」という事実がほしいのです。

東京2020の行方(※)

※インタビュー内容は取材当時(2020年3月中旬)の状況に基づいております。

髙橋 経済予測も、エピカーブをベースに考えればいい。日本の場合、ピークはおそらく、3月中旬(ただし、幅を持って考えるべきもの)。政府の休校要請や北海道の外出抑制要請はこのタイミングだったから、一定の効果があったはずです。

藤井 となると、終息宣言は1カ月後の5月下旬頃でしょうか。

髙橋 5月下旬に終息宣言を出せなければ、オリンピック開催はムリ。オリンピックの開幕は7月24日。国際イベントは2カ月前に実施の有無を決める必要があります。つまり、2カ月前の5月24日には終息宣言を出す必要があり、そのためには1カ月前の4月下旬に感染者がゼロにならないといけない。非常に微妙なラインです。ところが、欧米は日本よりピークが遅く、3月中にピークが来ていればいいというレベル。感染者数が大幅に減少するのは5月に入ってからなので、欧米でオリンピック開幕2カ月前に終息宣言を出すのは不可能に近いと思われます。

藤井 今後は欧米だけでなく、アフリカにも広がっていくでしょう。多くの外国選手団が来日できなければ、オリンピックになりません。

髙橋 残念ですが、オリンピックが中止になる可能性は否定できません。トランプ大統領が「1年延期すべきだ」と言いましたが、こういう根拠があるんです。もっとも、オリンピックの主催者はIOC(国際オリンピック委員会)。1年延期はオリンピック憲章に規定がないので、日本は相当タフな交渉が必要になります。小池百合子東京都知事や森喜朗組織委員会長が「予定通り開催する」と言ったところで、感染者が減るわけでもありません。

藤井 昨年10月の消費増税、後手にまわった武漢肺炎対策、ここにオリンピックの中止・延期が重なれば、トリプル・ショックの日本経済は大打撃を受ける。安倍政権の退陣も現実味を帯びてきます。安倍首相や政権幹部に、どれほどの危機感があるのでしょうか。

トランプ最大の敵とは

髙橋 今年のオリンピック開催がなくなれば、経済の落ち込みは〝ハンパない〟。オリンピック関係の経済活動がパーになると、GDP(国民総生産)で3兆円程度、全体の0.6%の損失になる。GDPは数%下落すれば大不況。しかも、消費増税で5%程度、武漢肺炎で2~3%落ち込んでいる。かなり厳しい数字です。
「オリンピック後に景気悪化」といわれていましたが、それはオリンピックが2020年に開催できた場合の話。それ以上の落ち込みになるのは、間違いありません。

藤井 いまや日本だけでなく、世界中の経済活動が停滞しています。テレワークができる仕事はいいですが、サービス業や建設業など、現場に足を運ばなければならない人だって大勢いる。株価の下落は投資家の心理的な影響が大きく、半年もすれば元に戻るでしょう。しかし、実体経済の停滞は尾を引きます。
 アメリカに目を移せば、FRB(連邦準備制度理事会)が緊急の大幅利下げを実行しましたが、トランプ政権は下院を民主党に押さえられています。大統領権限でやれることはあっても、下院が景気対策に賛成するかどうかはわからない。景気が回復すれば、11月の大統領選でトランプ再選を後押しするからです。とはいえ、反対すれば「国民の生命より党利党略か」という反発もある。攻防に注目しています。

髙橋 トランプにしてみれば再選に向け、思わぬ敵が現れたと。

藤井 今やトランプ最大の敵はバイデンでもサンダースでもなく、武漢ウィルスです。トランプに武漢ウィルス流行の責任はありませんが、有権者は時の経済状況は大統領の責任になるという印象を持つ。対立候補(おそらく、バイデン)は「政権の対応が悪い」と無責任に言い続けるでしょう。トランプは大規模集会を行い、大衆の支持を得て当選した大統領です。選挙が近づいた時、武漢ウィルスの影響で大規模集会が開けなければ、大きなマイナスになる。
 うがった見方をすれば、チャイナは感染拡大に歯止めが利かないと気づいた1月に、意図的にパンデミック化させることを決めたのかもしれません。アメリカの景気を悪化させれば、超親中のバイデンが当選できるかもしれないと。これは何の証拠もありませんが、チャイナですからやりかねません。
 一方、バイデンには集会を開いても大人数を集める魅力はない。彼の味方は、リベラルなメディア。ほとんどのメディアから支持を受けている。国民が外に出られず、家でテレビばかり見ている状況はバイデンにとってプラス。最大の味方は武漢ウィルスというわけです。

髙橋 半年後、大統領選直前の9~10月頃には、集会を開ける状況になっているでしょう。経済については、6月までに、世界の経済活動が元に戻れば上出来という感じ。WHOの終息宣言は、年内に出せるかどうか。

「令和恐慌」を防ぐ策

藤井 ぜひ、髙橋さんにこの緊急時の経済対策をお聞きしたいです。

髙橋 国際社会が協調してやるしかありません。G7(主要7カ国)が一斉に財政出動や金融政策を行う可能性が高いでしょう。「民間と同じように、G7もテレワークで」と安倍首相に入れ知恵しておきましたが、3月16日の夜、G7首脳が緊急のテレビ電話会議を行い、連携を確認しました。アメリカと違い、日本は衆参ともに与党が多数でさらに安倍首相は欧州にも顔が広い。G7でも、国内対策を打ちやすい日本が主導してやるべきです。お疲れのように見えますが、何とか頑張ってほしい。

藤井 安倍首相は3月14日の記者会見で、「一気呵成に思い切った措置を講じる」と述べました。本当に思い切った経済振興策を打ち出してほしい。

髙橋 先月号の上念司さんとの対談では「4兆円規模のコロナ補正」を提案しましたが、補正予算を審議するには4月まで待たなければならない。しかし経済状況を見ると、一刻も早く経済対策を打ったほうがいい。最も即効性があるのは、「予算修正」という手です。2020度の予算を審議している3月の予算委員会で、本予算の修正を行う。この手を使えば4月まで待たなくて済み、G7の経済対策も後押しすることができます。
 とはいえ、財務省にとって自分たちがつくった予算を修正されるのは屈辱的なことです。吉田茂内閣や鳩山一郎内閣のときに前例がありますが、財務省の黒歴史になっています。麻生太郎財務大臣と財務省は、頑なに「4月に入ってからの補正予算」を主張するでしょう。本誌が発売される頃には結果が出ていますが、腹を決めたなら躊躇せずにやるべきです。

藤井 前例のない危機には、前例のない対策を実行するチャンス。実行すれば、内閣支持率だって上昇するはずです。

髙橋 予算修正、補正予算、どちらにせよ、100兆円程度の基金をつくっておけば臨機応変に対応することができる。自民党の若手議員が30兆円規模の補正予算、国民民主党の玉木雄一郎代表も15兆円規模の経済対策を提案しましたが、基金のなかでやり繰りすればいいでしょう。5%への消費減税、一人10万円の給付金(これで25兆円の財政出動)を打ち出すべきです。

日銀、モタモタするな!

藤井 日銀も、金融緩和を拡大すべきでしょう。

髙橋 ところが、日銀の黒田東彦総裁は武漢肺炎で円高ドル安が進んでも、記者会見を開きませんでした。このままだとリーマン・ショックのとき、各国の金融緩和に対応できなかった白川方明前総裁の二の舞になる可能性があります。G7の電話会談の直前、日銀の金融政策決定会合が前倒しで行われ、年6兆円だったETF(上場投資信託)の購入目標を当面12兆円に倍増する追加の金融緩和が決定しました。しかし、さらにその直前に行われていたFRBの臨時FOMC(連邦公開市場委員会)では、約74兆円の金融緩和が決まっています。
 為替は両国間の通貨量の比で決まります。つまり、円高になるかどうかは二国間の金融政策次第。日銀は2016年9月から長期金利が0%程度で推移するよう長期国債を買い入れるイールドカーブ・コントロールへと政策変更し、国債購入額が20~30兆円に減っています。FRBの金融緩和は読めるから、円高を防ぐため、国債購入額を年80兆円まで戻すべきだと提言していましたので今からでもやるべきです。
 日銀関係者からは「市場に買うべき国債がない」という声も聞かれますが、約1100兆円の国債残高のうち、日銀が保有しているのは半分に満たない約500兆円。残りの約600兆円は民間の市場に残っています。それに100兆円基金で政府が国債を発行すれば、日銀も引き受けざるを得ず、自然的に量的緩和が復活します。

藤井 全面的に賛成です。政府と日銀は協調して「令和恐況」を防ぐべきです。

東京2021をめざせ

髙橋 オリンピックの話に戻りますが、IOCはビジネスライクです。欧州で感染が拡大しなければ、代替開催していたでしょう。中止するくらいなら、延期してでも開催して資金を回収したいという思いがあるからです。政治家の口からは言えませんが、日本としては1年延期なら御の字なので、水面下で準備を進めるのが得策だと思われます。1年間は、景気対策でしのげばいいのですから。

藤井 オリンピックの1年延期は早く決めた方がいいでしょう。いまは、「未来への希望」が見えることが重要です。武漢ウィルス対策の決め手は、特効薬でしょう。特効薬ができれば、来年は「重めのインフルエンザ」くらいで対処できるかもしれません。

髙橋 ソフトバンクグループの孫正義社長が検査キットを100万人分用意すると言っていましたが(のちに撤回)、医療崩壊を起こすだけ。だったら新薬を開発するか、100億円くらい寄付してくれたほうがいいですよね。

藤井 何はともあれ、武漢ウィルス騒動に光明があるとすれば、「チャイナ・リスク」を再認識できたことでしょう。特にアメリカは、一段と中国への不信感を強めた。日本人は、隣に生命を脅かす恐ろしい国があることを強く自覚しなければなりません。ソ連もチェルノブイリ原発事故が遠因となり、建国70年で滅びました。これを中国共産党の〝終わりの始まり〟にしなければなりません。
藤井 厳喜(ふじい げんき)
1952年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。77~85年、アメリカ留学。クレアモント大学院政治学部(修士)を経て、ハーバード大学政治学部大学院助手、同大学国際問題研究所研究員。82年から近未来予測の「ケンブリッジ・フォーキャスト・レポート」発行。株式会社ケンブリッジ・フォーキャスト・グループ・オブ・ジャパン代表取締役。古田博司氏との共著『韓国・北朝鮮の悲劇 米中は全面対決へ』、石平氏との共著『米中「冷戦」から「熱戦」へ』(ともにワック)など著書多数。

高橋 洋一(たかはし よういち)
1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。80年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)等を歴任。現在、株式会社政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授。2008年、『さらば財務省!』(講談社)で第17回山本七平賞受賞。ほかに『「文系バカ」が、日本をダメにする』(ワック)など著書多数。

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