朝香豊:"アフターコロナ"で顕在化する新興国リスクとは

朝香豊:"アフターコロナ"で顕在化する新興国リスクとは

先進国以下の成長率しか見込めない新興国

 IMFは2021年の先進国の経済成長率を0.5%上方修正しながら、他方で新興国の経済成長率を0.4%ほど引き下げた。2022年については先進国についても新興国についても経済成長率を上方修正しているが、先進国は0.8%にもなるのに対して、新興国は0.2%ほどにとどまっている。

 さらに言えば、新興国の0.2%の「上方修正」は、実際には上方修正などではない。今年の経済成長率を0.4%ほど引き下げているわけだから、実際には0.2%程度の下方修正になっていると見るべきなのである。

 このようにコロナ禍からの経済回復について先進国と新興国の間で大きな落差が出てくることになるとIMFは予測しているのである。
 コロナの世界的感染が起こる前と後で一人当たり所得は、先進国では年率2.8%の減少であったのに対して、新興国では6.3%も減少した。

 この原因は2つある。1つは、先進国では有効性の高いワクチン接種によって被害が相対的に抑えられているのに対して、新興国では有効性の高いワクチン接種が進まず、経済活動に大きな制約を課さざるをえないことだ。特に最近は感染力の強いデルタ株の広がりによって、新興国での経済活動には大きなブレーキをかけざるをえない状態になっている。

 このことはグローバルサプライチェーンにも悪影響を及ぼしている。一部の部品の生産や流通が滞ることになれば、完成品の生産も止まらざるをえないからだ。これが価格上昇につながっているところにも目を向けておかなければならない。
朝香豊:"アフターコロナ"で顕在化する新興国リスクとは

朝香豊:"アフターコロナ"で顕在化する新興国リスクとは

コロナ禍は世界中のサプライチェーンにも影響を及ぼした

財政出動の余力が尽きる

 もう1つは先進国では追加的に大規模な財政出動が可能であるのに対して、新興国はその余力がなくなっていることである。

 新興国の通貨は弱いので、大量に発行するとそれはそのままインフレを加速することになる。その中でも昨年はかなり思い切った財政出動を行なった国が多かったが、今年はそのツケが回ってきて、積極的な財政ができなくなっている。それどころか物価上昇圧力をかわすために政策金利を引き上げる動きも広がっている。
 そしてアメリカではテーパリング(金融の量的緩和の縮小)の議論が進んでいるように、来年以降に利上げに踏み切る可能性は高い。米ドル金利が上昇すれば、新興国通貨を売って米ドルへと資金が動くことは当然予想され、これを防ぐためには新興国はさらなる政策金利の引き上げを求められるような流れになってきた。

 新興国はコロナ禍で経済が傷ついているのに、インフレ抑制と自国通貨防衛のために利上げをせざるをえず、その結果としてさらに経済環境が痛む事態に陥る可能性は高い。昨年の財政拡大の尻拭いとインフレ懸念の台頭から、増税を考える新興国もあるが、こういった環境下での増税は、不況をさらに加速させる結果となるであろう。


 すなわち、新型コロナウイルス感染症の広がりは、世界経済の特に弱い部分に強い打撃を与える結果となっている。しかし、このことは単純に新興国が「負け組」、先進国が「勝ち組」となることは意味せず、先に述べたようなグローバルサプライチェーンへの悪影響などから、いずれ世界中にダメージが広がることが十分に予想される。
朝香豊:"アフターコロナ"で顕在化する新興国リスクとは

朝香豊:"アフターコロナ"で顕在化する新興国リスクとは

先進国が単に「勝ち組」となるわけではない―

「中国リスク」が加速させる危機

 ここに中国経済の変調が一気に顕在化するようなことになれば、新興国が受ける打撃はさらに巨大なものとなる。危機の時代には資金は安全な方に逃避しがちで、新興国の通貨はさらに売られやすくなるからだ。

 中国経済は恒大集団の破綻が間近に迫っていると見られているように、先行きは非常に厳しい。大きすぎるゆえに恒大集団を中国政府が救済するのではないかと見る向きもあるが、それはないだろう。というのは、問題のある企業は恒大集団ばかりではないからだ。こうした企業を全て救済することは中国政府にはできない。

 近年は未曾有の金融緩和が世界的に行われてきたことによって、全世界的に資産価格がバブル傾向で膨らんできた。この段階で大きな経済ショックが加わるようなことになった時に世界経済が受ける影響は甚大である。

 日本でも「アフターコロナ」が議論されるようになり、注目の自民党総裁選においても濃淡はあれど、当面の積極財政を候補者は主張している。しかし、ここまで述べてきたような世界経済のリスクを踏まえたうえでの議論でなければ、せっかくの対策も水泡に帰す可能性すらある。コロナ後の日本経済の力強い復活を遂げるためにも、米国や中国といった「大どころ」だけでなく、あらゆる方面に目を配った経済対策を期待する。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く