朝香 豊:新型コロナ「人工説」拡大の裏に中国高官の亡命?

朝香 豊:新型コロナ「人工説」拡大の裏に中国高官の亡命?

 アメリカでは新型コロナウイルスの発生に関して、自然起源説が急速に後退し、武漢ウイルス研究所でつくられた人工的なものではないかとの説が台頭してきた。主流の見方が自然起源説から研究所起源説へと急激な展開をしたことについては、この経緯を詳しく解説した雑誌Vanity Fairの記事によると、ニューヨーク・タイムズの元サイエンスライターであるニコラス・ウェイド氏が「ミディアム」誌上にこの件に関する論文を発表したことが大きいとのことだ。ノーベル賞受賞学者で分子生物学のパイオニアでもあるデビッド・ボルティモア博士の言葉を引用してウェイド氏は研究所起源説を唱え、これが大きな役割を果たしたというのである。

 だが研究所起源説は、エイズウイルスの発見者でノーベル賞受賞のウイルス学者リュック・モンタニエ博士によって昨年の4月段階ですでに唱えられてきたし、その1カ月後の2020年年5月には、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所の研究者も同様の見解を示していた。ボルティモア博士の言葉が決定打になったとは考えにくい。しかも研究所起源説の理解は、科学的に決して難しいものではない。素人でも、その概要を理解することは十分にできる。

「人工説」の科学的根拠は昨年から主張されていたが…

 今回の武漢ウイルスは「RaTG13」というコウモリのコロナウイルスと96%の類似性があり、とても近縁な立場にある。一般に知られているコロナウイルスにおいては、これより近いものはないとされる(香港大学の研究者でアメリカに亡命した閻麗夢博士はもっと近縁なウイルスがあることを主張しているが、今回はこの件は扱わないことにする)。

 人間の細胞が持つ「ACE2」受容体には、コロナウイルスと結びつけるポイントが5カ所あることがわかっているが、RaTG13にはこの5カ所のうち1カ所しか結合できるポイントはない。ところが、武漢ウイルスには5カ所すべてと結びつける性質がある。1カ所だったのが2カ所になったくらいであれば、自然進化の可能性もあるだろうが、一気に5カ所に増えるというのは、とてもではないが考えにくい。ちなみに5カ所すべてと結び付けられるコロナウイルスは、センザンコウからしか見つかっていない。

 また、武漢ウイルスには「フーリン配列」と呼ばれるゲノム配列がある。「フーリン」というのは人体内に広く存在する酵素で、この酵素とウイルスのスパイクタンパク質(ウイルス表面の突起部分)が接触すると、突起部分の形状が人間の細胞と結びつきやすい形に変化する(フーリン断裂部位)。この「フーリン配列」はRaTG13などのACE2受容体と結びつくウイルスには一般に存在しない。存在するのは「DPP4」受容体という別の受容体に結合する「MERS」などだが、MERSにしかないようなこの「フーリン配列」が、系統が全く違うACE2受容体と結びつく武漢ウイルスに突如現れているというのも、自然進化では説明できないところだ。
朝香 豊:新型コロナ「人工説」拡大の裏に中国高官の亡命?

朝香 豊:新型コロナ「人工説」拡大の裏に中国高官の亡命?

「人工」であることは科学的にも説明されてきたが…
 上記のような科学的な説明を前から知っていたという人は、ほとんどいないのではないだろうか。こうした情報は拡散されないように徹底的に抑え込まれてきたから、知らない人ばかりなのは当然である。そのような中で研究所起源説は広がってこなかったのであり、研究所起源説についてのわかりやすい説明がウェイド氏以前になかったからではない。

コロナ起源:見方の転換の裏に中国高官の亡命が?

 見方が大きく変わった背景には、中国に対する見方もまた大きく変わるようなことが何か起こったからとしか考えられない。そして、そのことと董経緯と思われる中国高官のアメリカ亡命が大きく関わっている可能性は高いのではないか、と私は推測している。

 董経緯は中国国家安全部の副部長を務めていた。中国国家安全部は中国共産党中央調査部を起源とする情報機関で、中国共産党統一戦線部、国防科学技術工業委員会、国務院公安部政治保衛局の関係部署を統合して設立された。中国の情報・スパイ部門の中枢的な組織だと言ってもよい。そのナンバー2だったのが董経緯である。習近平に厚く信頼され、引き立てられたとも伝えられる。ちなみにネット上で中国国家安全部のページを見ると、部長の陳文清の名前と写真はあるが、副部長の欄は空白で、董経緯の名前も写真すでに消されている。このことからしても、董経緯がアメリカに亡命したのは、ほぼ確実ではないかと私は見ている。
 アメリカの保守系メディア「Red State」の報道によると、この董経緯と思われる人物はウイルスの起源に関する情報のみを持ってアメリカにやってきたのではない。武漢ウイルスの初期の病原性についての中国側の研究内容、アメリカや世界でのウイルスの拡散と被害についての、中国側が開発した予測モデル、武漢ウイルスをはじめとする中国の生物兵器研究に資金提供した組織・政府機関の正式名称と財務記録、中国に情報提供している米国市民の名前、アメリカで働いていたり大学に通っている中国スパイの名前、中国政府から資金を受け取ったアメリカのビジネスマンや公務員がわかる財務記録、アメリカ政府当局者が中国のスパイやロシアのSVRのメンバーと行った会議の詳細(ただし、そのようなものだとわかって参加したとは限らない)、中国政府がどのようにしてCIA通信システムにアクセスできるようになり、CIAに協力していた数十人の中国人を抹殺するに至ったかの記録、ステルス技術を持つ「Henniges Automotive」の中国軍事企業である「AVIC Auto」への販売が許可された経緯、ハンター・バイデンのノートパソコンに内蔵されていたハードドライブの内容のコピー(ハンターのポルノ問題と中国企業との取引について、中国政府が保持している情報)など、とんでもない情報をアメリカに持ち込んだとされる。その情報量は、数テラバイトにものぼるという。

トップシークレットだった亡命

朝香 豊:新型コロナ「人工説」拡大の裏に中国高官の亡命?

朝香 豊:新型コロナ「人工説」拡大の裏に中国高官の亡命?

中国高官の事実はCIAもFBIも気づいていなかったとされる―
 董経緯と思われる人物はアメリカ国防情報局(DIA)の庇護下にあり、彼の亡命はCIAもFBIも気づいていなかったとされる。3月にアラスカで開かれた米中外交トップレベル会談では、楊潔篪がブリンケンに董経緯を返せと要求したが、ブリンケンは董経緯の亡命を把握しておらず、彼はアメリカにいないと返答したとも伝えられている。にわかには信じがたい話だが、これが本当だとすれば、DIAは董経緯と事前に打ち合わせを行い、完全に保護できる条件を提示して米国への亡命を行わせたのかもしれない。董経緯はカウンターインテリジェンス(防諜)の最高責任者であり、この中でDIAの高位の担当者と連絡を取ることも多かったことは容易に推察できる。

 それはともかく、董経緯と思われる人物はバイデン政権中枢の邪魔を受けることなくDIAに情報提供することができ、DIAは提供された情報の真偽についてさまざまな裏とり調査を行った。その結果として、問題のウイルスが武漢ウイルス研究所に起源があることもまたDIAは確認したということだろう。
 董経緯と思われる人物のもたらした情報の正確さから、DIAはこの人物への信頼を高め、さらに政府関係部局にこうした情報の確認を行わせていったものと思われる。あくまでも私の憶測を超えるものではないが、この情報の中にはいかにアメリカや西側を屈服させるという中国共産党の計画も入っていたのではないか。その中には、先の大統領選挙における中国共産党の工作に関する情報とか、アンティファやBLMを中国が支援・利用している実態なども含まれていたのかもしれない。もしそうだとすれば、中国共産党が描いている通りに世界が動いていることにDIAは気がつき、イデオロギーを超えて全米が一致団結して対応しなければならないと確信した可能性は大いにある。そして、その観点からDIAは政府関係部局に対する説得工作を開始した――この結果がウイルスの研究所起源説への急激な転換なのではないか。

 私の憶測が正しいかどうかはわからないが、もしそうだとすれば、対中政策転換はウイルスの起源にとどまらずに広がることが予想される。その一端は、国家安全保障局(NSA)の動きに見ることができるかもしれない。
 FBIが行っている1万6000人のアメリカ国民に対する違法なスパイ行為に関する記録を、情報公開法によって公開することを求めるクリーベンジャー弁護士の請求にNSAが同意したことが発表された(6月17日)。FBIは捜査上必要があれば、NSAのデータベースにアクセスできることになっているが、この権限を利用して本来の趣旨を超えたアクセスを行い、不当にアメリカ国民を監視していたのではないかというのが、クリーベンジャー弁護士の問題意識だ。今年の3月5日に、NSAはこの請求を一旦却下していたのだが、クリーベンジャー弁護士の不服申立てに対して今回は同意したのである。NSAは今回どうして態度を変更させたのか。NSAはDIAと同じ国防総省の傘下にあり、董経緯情報が影響した可能性は決して低くはないだろう。

 バイデン政権中枢は未だに親中姿勢を崩してはいないと思われるが、こうした情報の地殻変動が政権中枢をも追い詰めていくことになるのではないだろうか。アメリカの主流派メディアに突如として現れたウイルスの研究所起源説への急激な転換は、アメリカの政治のあり方の根本的な転換の予兆として見るべきかもしれない。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。新著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。

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