【朝香 豊】ひそかに迫る電力危機:政府は国益第一の判断を

【朝香 豊】ひそかに迫る電力危機:政府は国益第一の判断を

確かに寒波は電力不足の一因だが―

深刻化する「電力不足」

 昨年末から全国的に急激に電力不足が深刻化してきた。九州電力エリアの「でんき予報」では、100%という数字が掲示される事態にもなった。電気の供給能力を文字通り100%稼働させないと対応できないという予報である。電力会社各社は相互の融通によって最悪の事態を防いでいるが、中には1日に6社の電力会社から融通されて何とかもたせたという四国電力の事例も出ている。

 日本卸電力取引所(JEPX)の取引価格は、1kWhあたり7円程度というのが普通であったのに、1月13日には1kWhあたり154.6円となった。この金額は瞬間的にこの金額になったのではなく、1日の平均金額である。瞬間的には251.0円という取引金額になった時もある。なお電力会社が我々に供給する電気の値段は1kWhあたり26円程度であり、すさまじい逆ざやが生じていることになる。

 この原因としては寒波の襲来による電力需要の増大とLNGの輸入の不足が挙げられている。確かにこの1月の電力需要(14日実績まで)は前年度比で15%増えているとされ、需要予測の見込み違いがあったということもあるのだろう。コロナ禍での外出自粛が、家庭での暖房使用量を跳ね上げているとも考えられる。また、海外のLNG生産施設のトラブル、コロナ禍での積み下ろし作業にかかる時間の増大によって船舶の実動が制限され、LNGの供給に影響を与えたというのも要因なのであろう。

拙速だった発送電の分離

 だが、世間的に語られるこれら2つ(寒波による電力需要の増大/LNG輸入の不足)に原因を求める考え方には、重要な視点が欠けていると私は思う。

 まず一つ目は、電力自由化を推進して発送電の分離を拙速に行ってしまったことである。

 市場原理の導入によってコストが下がったり、サービス内容が改善したりということが、多くの分野に当てはまるのは確かに事実だ。だが、これを安定供給が求められる電力に当てはめるのには問題が大きい。というのは市場原理に基づけば、設備稼働率が高くないとコスト的に割に合わず、市場からの退出が求められることになるからだ。電力自由化の環境下では有休設備を持つことは許されないのである。従って突発的な事態が生じることで供給能力が不足するのはやむをないとさえ言える。

 こうしたことに関しては、アメリカやヨーロッパでの先行事例がいろいろとあった。だが、そのあたりの議論を踏まえないで発送電分離を拙速に進めてしまった行政の責任は重い。電力各社がそれぞれの地方の電力供給に責任が持てる体制にし、一定程度の有休設備の確保を義務付け、そのコストを財政的に補填するくらいのことをやらないで、発送電分離を進めるべきではなかったということが、今回はっきりしたのではないか。

原子力発電の再稼働が不可欠

【朝香 豊】ひそかに迫る電力危機:政府は国益第一の判断を

【朝香 豊】ひそかに迫る電力危機:政府は国益第一の判断を

電力危機には原子力発電の再稼働が不可欠(写真は伊方発電所)
 もう一つは、原子力発電の再稼働が遅々として進まないことである。2018年9月に北海道で胆振東部地震が起こり、北海道全域が完全な停電(ブラックアウト)となった。この時には概ね復旧したと言えるまで丸2日かかった。まだ暖かい季節であったので、ブラックアウトでも凍死者が出るような事態にはならなかったが、この冬の時期にブラックアウトが襲うようなことがあったら、どんな事態になるのだろうか。ことは国民の命に直結する話だ。

 現在国内で稼働している原子力発電はわずかに2基であり、原子力発電であれば電源としての余力がある。国民の命を守るという視点からも、原子力発電所の再稼働を早急に進めるべきであろう。

 現在の電力の状態は、ここに何か1つ「想定外」の事態が起こったら、完全にアウトになるところまで逼迫している。LNGの調達は発注から2カ月先になるとされ、当面はLNG不足の中でLNG火力発電所のフル稼働は望めない状態が続く。

 さらに言えば、世界的に進んでいるガソリン車から電気自動車への流れは、もはやどうにも止めようがないだろう。この場合に発電施設の増強は不可避である。二酸化炭素削減に取り組むパリ協定からの離脱をしないとなれば、火力発電所を増やすという対応はできない。菅総理は2050年までに温暖化ガス放出をゼロにする「ゼロエミッション」を達成すると大見得を切ったが、ならばなおさら原子力発電への舵取りを進めていかないと、どうにもならないだろう。

 一部の国民から激しく非難されるような政策であっても、敢えてそこを推し進めるリーダーシップが、菅総理には求められていると考える。
 (4535)

朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」( https://nippon-saikou.com )の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く