杉山大志:電気自動車は本当に「未来の本命技術」なのか≪前編≫

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電気自動車(EV)普及の現状

 まずEV普及の現状についてみてみよう。

 欧州を初めとして先進諸国は2030年から2040年ごろにかけてガソリンおよびディーゼル自動車などの内燃機関自動車(ICE)の禁止や、電動化xEV(電気自動車EV、ハイブリッド自動車HV、プラグインハイブリッド自動車PHEV)の普及を進めると宣言している。

 欧州ではEVのシェアがここ1、2年で急速に増してきた。新車販売に占める台数はノルウェーの50%超を筆頭に、ドイツでは10%程度、英仏では7%程度になってきた(下記表:EVsmart記事より)。
欧州でのEVシェア

欧州でのEVシェア

 シェアが増加した背景には手厚い政府の補助がある。すなわち、欧州諸国では軒並み50万円から100万円以上の補助金が出されている。充電も無料であったり極めて安価になったりしている。バス専用レーンの利用や、駐車場の優先利用が認められている。ICEが払っている諸々の税金を免除されていることも大きい。ノルウェーではガソリンは高額の課税のため1リットルで300円もするという。

 次にEVの「用途」について。果たして現状の乗用車と同様に使われているのだろうか。

 EVで売れているのは市場の両極端であり、テスラのような500万円から1000万円以上の超高級車が一方にあり、他方ではミニカーのような車がある。ミニカーのような車は、2台目の車として、近所の買い物に使われたりするものだ(PRESIDENT Online掲載:山崎 明氏記事)。

 すなわち、今のところEVは普通の乗用車を代替するには至っていないようだ。これは値段が高いこと、充電が不便な事などによる。

性能面の検証=今後向上するのか

 EVの性能面が向上するか否かは、バッテリーの性能が向上するかどうか次第だ。今後、バッテリーの性能が格段に向上し、安価で、充電容量が大きくて、急速充電が可能で、しかも安全になれば、ICEやHVに勝つ日が来る可能性はある。

 過去を振り返ると、良い技術が出来れば古い技術は駆逐されてきた。帆船は蒸気船に駆逐され、蒸気船はディーゼル汽船に取って変わられた。性能が格段に違ったからだ。
 だが、実はいつもこうなるとは限らないのだ。

 かつて飛行機の未来は超音速機であると誰もが信じていた。各国は技術開発に凌ぎを削り、やがて英仏共同開発の超音速旅客機コンコルドが就航した。

 しかし、超音速機の価格はいつまでも下がらなかった。やがて、墜落事故を契機に、コンコルドは就航を止めてしまった。

 勝ち残ったのはボーイング747だ。これは50年も前の1970年に就航したが、未だに現役である。10時間や12時間も座り続けて移動するという骨の折れることを、毎年何百万人もの人が続けている。この停滞ぶりを予言した人はまずいなかった。

 結局、音速の壁を超えることは技術的に難しいままだったのだ。
杉山大志:電気自動車は本当に「未来の本命技術」なのか≪前編≫

杉山大志:電気自動車は本当に「未来の本命技術」なのか≪前編≫

現在は退役してしまったコンコルド
via wikipedia
 その例に倣うと、バッテリーがICEの壁を超えるのも難しいかもしれない。

 なぜなら、期待がかかる全固体電池などの新しいバッテリー技術がどこまで成功するかは今のところ何とも言えないからだ。過度の楽観に対しては厳しい意見もある (参考:EV Smart Blog 雨堤 徹氏記事)。

 いま先進国と中国ではEV導入のために莫大な政府支援がなされている。だがEVのシェアが増してくれば、いつまでもこれを続けてゆく訳にはいかない。政府が支援を止めたとき、EVはICEと互角に戦えるのだろうか。予断は出来ない。


~後編ではEVが本当に環境に優しいかなどについて検証してゆきます~
杉山 大志(すぎやま たいし/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『地球温暖化のファクトフルネス』(アマゾン他)等。

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通りすがり 2022/4/16 09:04

しつこくて申し訳ありませんが、上の補足です。

ICEを内燃機関「車」としてしまうことの不都合は、ハイブリッド車について語る時に生じます。
ICE(内燃機関)はハイブリッド車のパワーユニットの一部なので、ハイブリッド車に搭載されている内燃機関、いわゆるエンジンについて語る時、話がややこしくならないでしょうか?

https://portf.co/word/power-unit

つまり狭義ではハイブリッド車も内燃機関車の一種ということです。

100パーセント内燃機関を動力とする車については「ICE車」と表記し、単にICEと言う時は内燃機関単体を指すようにした方が分かりやすくないでしょうか?

通りすがり 2022/4/16 08:04

最近ちょっと疑問に思っていることがあるのですが、一部のモータージャーナリズム(はっきり言うとEV問題についての評論)では、ICEを「内燃機関自動車」とか「内燃機関車」と訳していますが、これは正確ではないのではないでしょうか?

モータースポーツ関連の記事では、ICEは単に「内燃エンジン」と訳されていて、「車」は付きません。

wikipediaでも、

Internal Combustion Engine - 内燃機関。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ICE_(%E6%9B%96%E6%98%A7%E3%81%95%E5%9B%9E%E9%81%BF)

となっています。

EVはElectric Vehicleなので「電気自動車」で良いでしょうが、ICEを「内燃機関自動車」と訳すのは誤訳ではないでしょうか?

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